これは三丁目のおやっさんが、先代への借金の形にとある道具を置いていった時の話だ。
「ふぃ〜。ヒデェ雨だったぜ」
「……」
「おっサンキュー」
土砂降りの中帰ってきた店主に、ウン某が無言でタオルを渡した。無言なあたり、売り子も慣れてきた様に思われるが、店主に絡まれるのが面倒というのが本音であろう。
「お前、どうやって帰るの?」
「どうしましょう」
店の外を見やったウン某は、困ったように言った。ウン某は傘を持ってきていなかった。この土砂降りの中を帰ると風邪をひいてしまうかも知れない。己は、雨ごときですぐに死んでしまう人間の儚さを偲んだ。
店主は風邪をひかないので人間ではない。
「うーん、あ。良いのがあるぜ」
ここで傘が出てこない辺り、この店主ありと言ったところだが、今回はどうだろうか。
「えぇー……。絶対ヤバいやつですよね」
「そんなことねぇって!」
常にそんな事があるのがこの店主である。
「これだ!」
ハゲの店主が掲げた物は、緑色をした奇妙な動物のオブジェだった。
「これは……。え、ゾウさんジョウロ……?」
長年様々な知識をため込む己であるが、てんで見たことも聞いたこともない生き物だった。この世界の動物を象ってないため、空想上の生物なのだろう。
「これはすげぇんだ。ほら、斜めにしてみ?」
「……斜めにすればいいんですね」
「お、よく使い方がわかったな。そうそう、鼻先を地面にな。と、ほら。雨が止んじまうんだ」
ウン某が、まるで使ったことがあるかのように地面に向かってオブジェの鼻先を斜めにすると、外の雨が弱くなった。
……天候を操る道具は、認められたもの以外は御禁制で無かったか。先日捕まりかけ、国の法令が変わった騒動を忘れたらしい。
「あんたなんでこんなの持ってんだ!?」
「つってもよぉ。借金の形に置いていかれたんなら、もうしょうがねぇじゃねーかよ」
それは……、体よく厄介事を押し付けられたのではなかろうか。
なお、知ってて届け出をしなかったのなら、ウン某も同罪で捕まる。
「しょうがねーよじゃねぇよ。……どうすんだよ。またうん○マンが破壊的な道具持ってきたって、役所でビビられるじゃん……」
案の定、頭を抱えたウン某は地面に崩れ落ちた。うん某は、いらない噂のせいで婚期が遅れがちである。
「なんだぁ……。まぁ、ドンマイ」
「ドンマイじゃねーよ!?」
己はしょうがないので、可哀想なウン某が住まう場所までの上空の水滴を蒸発させた。
「えぇ!? なんで!? 今ご禁制がどうのこうの言ってなかった!?」
「馬鹿だなぁおまえ、火災千封の本体だから平気だよ。へーきへーき!」
偶々雨が濃霧になっただけだろうに……。なぜそんなに慌てているのだろうか。それに、己は店主の言うように火災千封として認められている。フハハハ!
「……。これは届けてないじゃん……」
濃霧に包まれた王都を指さして、うん某が呆れ顔で言った。
「……」
…………。
◆
後で聞いた話だが、このオブジェは
大きな悪事は必ず小さな悪事から始まっている。と、ここまで訳知り顔で語ったが、唯の報復系の道具であった。
例えば、傘を盗もうとしたものには傘が破壊されるくらいの雹が局所的に降る、等だ。
ただし、善良な親切心を持っているものが使った場合、嫌いなやつが箪笥の角で小指をぶつけるらしい。
ハゲ店主は勾留10日後に釈放された。