終わりの魔導書   作:peg

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鍋敷き

 とある日の昼下り、食うに困った女が家宝の短剣を売りに来た。

 

 同胞の気配がする。

 大方、炎でも吹き出す道具であろう。

 

 ハゲ店主は妙齢な女と分かると、喜び勇んで飛んで行った。

 

 変態聖女が所属している宗教団体の教えにも、五分の虫でさえ、その存在に一長一短があるというが……。

 

 ハゲ店主は女に弱い。

 そして、酒にも弱く、金にも弱い。

 こいつは、一体何に強いのだろうか。

 

「か、体は強いと思いますよ……? なんか爆発しても死なないし」

 

 それは、ウン某も大概だと思うが。

 

「誰のウン○が爆発するって!?」

 

 違う、そうではない。

 相変わらず、ウン某の沸点はよく分からない。

 ウン某も努力の方向音痴という点では、ハゲ店主と変わらないかもしれない。

 

「ちっ。食うに困った若妻だと思ったら、年増の瘤付きだったぜ。……ま、品は良いな」

「言い過ぎでは……」

 

 木箱を見たハゲ店主は言った。

 大方、振られたのだろう。

 ハゲ店主は口も悪い。

 

 人間は見栄えで年齢を推察することが多いが、ハゲ店主の審美眼も怪しいところだ。

 それに、大体魔力で分かるであろう。年経た大樹のように、泰然自若としたオーラだったではないか。……やはりわからんか。

 

「……後で覚えとけよ、鍋敷き」

「……」

 

 顔の引きつったハゲ店主とウン某が顔を見合わせた。

 

「まぁまぁ。実際に、綺麗な方でしたよ。年は逝ってたみたいでしたが……。他種族とのハーフなのかもしれませんね」

「はんっ! あーあ! やる気なくなっちまったぜ、寝る。あと頼むわ」

「あ、ちょっと……」

 

 鑑定書付きの木箱を棚へ雑に投げると、ハゲ店主は2階に引き上げて行った。

 

 ハゲ店主がやる気がないのは、いつものことだった。

 

「……はぁ。しかし、彼女は何を売ったんですかね?」

 

 そう言って、ウン某がゴソゴソと棚を漁った。

 恐らく、炎にまつわるものではないか?

 

「ええと、炎剣フレイムバゼラードですって。……炎属性の相手は死ぬ(Flame be killed)……。誰だこの中二病みたいなの作ったの。こっちの世界にこの地名ないし、そもそも小剣じゃなくてサバイバルナイフじゃん!?」

 

 偶にウン某は、刀剣類を見て発狂するように早口になるときがある。

 やはり、何処かおかしいのではないだろうか。

 

「はぁ……。はいはい。おかしいのは知ってますよ。アカデミー出たときから知ってますよ」

 

 どこか諦めるように、ウン某は短剣を棚に戻そうと三脚へ登った。

 

 しかし、その時地震が起こった。

 

「あっ」

 

 あ。

 

 三脚から崩れ落ちるウン某。

 空中を飛ぶ木箱の蓋が開き、鈍色の刃が空を駆けた。

 

 ランタンに照らされて、くるくると光る刃が己に飛んできた。

 

「な、鍋敷きィィィィ!!!」

 

 ウン某の悲痛な絶叫が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、炎剣フレイムバゼラードは折れた。

 極限の炎属性のような己と概念殺しの短剣がぶつかりあった結果、己に記載されていた防衛機能が働いたらしい。

 

「……」

「こいつやっぱ、最強の鍋敷きですね……」

 

 見えを張って高値で買っていたハゲ店主は、崩れ落ちた。

 

 

 

 しかし後日、折れた短剣は炎の刀身を発するようになった。

 強い力によって変質したそうだ。

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