恐ろしい思いで死んでしまった霊たち。すると
フッ
停電した。肖は霊の気配を感じ取る
「ナル!霊が」
肖が言った瞬間だった。
ドンバンドンバンドンバンドンバンドンバンドンバン
今までで一番すごいラップ音が部屋に響きわたる。しばらくして灯りがついたのだが…
「なんなのよこれ!?」
綾子が叫ぶ。部屋中に壁に
助けて 死にたくない イタイ こわい いたい 助ケテ 死ニタクナイ
と血で書かれたような文字があったのだ。そして所々に浦戸 うらど と鉦幸のサインがあった。なぜ鉦幸じゃなく浦戸なのか。
だんだんと屋敷内が騒がしくなってきた。
「退散しましょ安原君」
また明日、と言い残して二人は窓から出て行った。二人が部屋を出て、滝川が窓とカーテンを閉めたとほぼ同時に大橋が入ってきた。大橋の話だと、屋敷中がこんな感じになってるんだそうだ。なので真砂子に降霊術をお願いしようとしたが
「ナルに自分が殺される気持ちわかる?自分が死んでいく瞬間の気分が想像できる?
どんなに恐いかわかる!?あたし、絶対真砂子に降霊術なんかさせないからね!」
やはり霊の記憶を見た麻衣が真砂子のために怒る。
「………リンさん」
肖と弓弦はリンを見る。ナルも考えたのか
「多少不確実な方法になるが……リン、呼べるか?」
「やってみましょう」
「リンさん!」
「待って麻衣。中国には憑依しない降霊術があるの。だから大丈夫だと思う」
肖は説明する。
「百目鬼さんの言う通りです。ご心配なく。霊を呼んでみるだけです。私は霊媒ではないので霊を憑依させることはできませんから」
リンも肖の言葉に付け加えて説明する。こうして準備を開始した。
「ねえ肖。リンさんどうするんだろ?」
「ひいお祖父ちゃんの蔵書によると「招魂」ていう中国式の方法があるの。だからリンさん。陰陽師じゃなくて中国呪術の道士だね。しかもかなりの実力者」
「実力者?」
肖の「実力者」という言葉に疑問符を浮かべる麻衣。なぜ実力者と言うのかと言うと「招魂」はかなり難しい方法なのだ。なので「招魂」を使えるリンはかなりの実力者なのである。
「つまり真砂子よりリンさんのが優秀ってこと!?」
「悪うございましたわね」
しかし「招魂」は霊の詳しいプロフィールが必要。流石に過去の人を呼ぶことはできないので死んだと仮定した鈴木を呼ぶことにした。
「始めます」
こうしてリンは儀式を始めた。剣を膝に乗せ、口笛をするリン。
(不思議な音……確かにこれなら霊は来る。多分そろそろ)
ふぅ…
誰かのため息。成功したのか鈴木が現れた。ナルは現れた鈴木に聞く。
「この家には、あなたの他にも人がいますね?」
コクリ。
鈴木は答え始める
「ぼくらと五十嵐先生、霊能者の他にも人がいますね?」
コクリ。また頷いた。
「彼らもあなたも既に死んでいます。知っていますか?」
様子を見る限り分かっていないようだ
「自分が何故死んだのかわかりますか?」
フルリ。鈴木が初めて首を横に振った。
「…では、誰かがあなたに酷いことをしませんでしたか?」
コクリ。また頷く
「それは誰です?ぼくら以外の人たちですか」
コクリ。
「……浦戸、という人物を知っていますか」
それを聞いた鈴木は怯えた。
「知っているんですね?」
彼女は何かを肖たちに伝えようと必死だった。指で何かを書く
「ナル、限界です」
鈴木は少しずつその姿を消していった。時間切れだった。電気のスイッチを入れると当然だけど部屋が明るくなった。その瞬間、一同は目を見開く
「な、に…あれ……」
壁には血文字で一言。
『ヴラド』
「ヴラド?…浦戸の元ネタ?」
肖は疑問符を浮かべる。ヴラドとは一体何なのか。その疑問にジョンが答える。
「ヴラドゆうのは…吸血鬼…ドラキュラのことです」
「えっ!?じゃあ鉦幸氏は吸血鬼で、ここの霊は血を吸われて死んだ人達!?」
ナルはドラキュラについて説明する。十九世紀に出版されたブラム・ストーカーという作家が書いた『吸血鬼ドラキュラ』
「このドラキュラには実際にそう呼ばれていた実在したモデルがいる」
「ド…ドラキュラって本当にいたの?」
「そうだ。ただしさっきもいったように吸血鬼じゃない。ヴラド・ツェペシュという男のことだ」
ヴラドとは十五世紀に東欧のワラキア地方を統治した王のこと。
「ヴラドは潔癖にして残忍な性格で、嘘や盗みを働いた国民や自国に侵略してきた敵を容赦なく串刺しにして処刑したことからそう呼ばれたんだ」
性格が鉦幸と被る。
「ヴラドの父親は『ヴラド
『ドラキュラ』とは『ドラクルの子』をさす…つまり『悪魔の子』を意味する。
だからヴラドはドラキュラと呼ばれていた。滝川も納得する。もうひとつ重要なことがある。
「ヴラドとよく混同される人物にエルジェベット・バートリというハンガリーの伯爵夫人がいる。彼女は自分の容色が衰えることを恐れ、若い女性を殺しては搾り取った血を浴槽に満たし…その中に身体を浸した」
そうすることにより己の美貌が保たれると信じていた(他にも連続殺人犯がその国の吸血鬼と呼ばれている。)。鉦幸は体が弱かった。だからエルジェベットの真似をして若者たちの血を集め、血を浴槽に満たしその中に身体を浸した。そしてヴラドの名前を漢字にし、浦戸と名乗るようになったのだ。
さらに当然その方法で助からなかった鉦幸は悪霊・浦戸と化し、この屋敷に来た若者たちを攫っていた。
「…浦戸はいるんだ。この家に、まだここで……生贄を求めてる」