霊狩中毒   作:WATAHUWA

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夕食後、最近の家族の様子を彰文に聞いた。兄たちは明るく賑やかな性格なのに祖父の葬儀から様子が変なんだそう。一番様子が変わった人は、という質問に対し、陽子を挙げた後に克己と和歌子を挙げた。

 

「何といったらいいのか…。以前はそうでもなかったのに、最近べったりくっついて離れないんです。おまけに二人で始終コソコソ内緒話をして、何を話してるのか聞くと二人で目配せして逃げていくし…」

 

確かに様子がおかしい。

 

「肖、麻衣。カメラの角度がずれている。直しに言ってくれ」

「うん」

「わかった」

 

肖と麻衣は手分けしてカメラの角度を直しに行った。

 

「ナル。角度を直したよ。弓弦も見える?」

 

カメラの角度を直す肖。弓弦は尻尾をふりふりする。

 

《ああ。大丈夫だ。戻って来い》

 

「弓弦帰るよ」

 

弓弦を連れてベースに戻ろうとした時だ。

 

「キャアアア」

「「!?」」

 

悲鳴が聞こえたのだ。方向は母屋。ベースにいる皆も当然聞こえたので母屋へ向かう。

 

「ウガ―――ァァア―――」

 

包丁を持って暴れる栄次郎。それをどうにか止めようとする泰造と和泰。部屋の隅には真っ青な顔をした裕恵と光可が抱き合うようにしてうずくまっており、彰文は彼女たちを守るように前に居た。部屋は栄次郎のせいで傷だらけだ。

 

「リン。」

 

ナルが小声で言うと、リンが無言で栄次郎に歩み寄った。栄次郎がリンを睨み、

威嚇するような声を上げ、包丁を持った右腕を振り上げた。。

 

「リンさんっ!」

「危ない!」

 

麻衣と肖が思わずといった感じで声を上げる。がリンは落ち着いた様子で、突き出された右手をぽんと払って体を入れ換え、前のめりになった栄次郎の首に腕を巻き付けた。栄次郎は首をリンに抱きかかえられた格好でずるずると尻餅をついた。

 

「あららら」

 

あまりの見事な手際に麻衣は固まる。肖はまた暴れては困るので包丁を回収した。

 

「彰文さん。縄と救急箱ありますか?」

 

肖の問いに彰文は「はいこっちに!」と答える。

 

「あ、包丁は持っていきます」

「お願いします」

 

何処へ持っていけば分からないので彰文に渡した。しばらくして…

 

「持ってきました!」

 

縄と救急箱を持った彰文が戻ってきた。リンは縄で栄次郎を縛り、綾子達は皆の手当てをする。ナルはなぜこうなったのかを聞いた。

 

 

「今日食事の時に不機嫌だったので、理由を聞いただけです。なんでもないって言い張るんでこっちもカッとなって、なんでもないんだったらあんな顔をしないで、って言ったらいきなり立ち上がって部屋を出ていってしまったんです。すぐに戻ってきたと思ったら包丁を持ってて……。気が変になったとしか思えないわ。」

 

栄次郎が不機嫌だったことの原因に心当たりはない。外の空気を吸ってくると外に行って戻って来た時はああだったそうだ。

 

「肖。霊はいるか?」

「室内より外の方が気配が多い。栄次郎さんはその外に出た時に憑かれたんだと思う」

 

肖の言葉に憑依霊の可能性が出てきた。なのでジョンと真砂子を呼ぼうと言うことになったが、あまり長いあいだ凶暴な霊に憑依されていることは危険だ。そんな訳で二人の到着を待たずして綾子が霊をおとすことになった。

 

「つつしんで かんじょうたてまつる みやしろなき こうりんちんざしたまえて……」

 

倉庫には綾子の祝詞が粛々と響く。栄次郎の様子が凶暴化してきた。

 

「静かに外へ出ろ。リン、肖。麻衣を連れて行け」

「うん。麻衣こっち」

 

ナルに言われ、肖とリンは麻衣を連れ出そうとする。突然部屋に嗤い声が響いた。哄笑ともいえるその嗤い声。膝をついて立ち上がった栄次郎の口から、まるで別人のようにおぞましい声が上がる。彼から黒い狐が現れた。

 

「なむほんぞんかいまりしてん、らいりんえこうきこうしゅごしたまえ」

 

そう言った時だ。

 

「ナル!やめなさい!」

 

栄次郎から離れた黒い狐の霊がナルに飛びかかり、ナルは応戦しようと構えたが、リンの叫びで一瞬構えを解く。その場にいた全員がなす術もなく霊がナルにぶつかっていくのをただ見ていた。

 

「だいじょうぶか!?ケガは!?」

 

「ほらナル。手を出して」

 

肖は手を差し出すがナルはその手を掴まず「だいじょうぶだ。栄次郎さんは?」と聞く。

 

「あっ……!」

 

急いで栄次郎を見ると

 

「あの……何があったんですか?」

 

元に戻っていた。ナルは縄を解きながら栄次郎に話しかける。

 

「栄次郎さん。あなたは夕食の時、不機嫌でした。その後あなたは包丁を持って暴れたんです。」

「ええ!?」

 

自分が包丁を持って暴れたと聞いて栄次郎は驚いていた。

 

「光可さんが言うには外に出た後から変だったそうですが覚えていますか?」

「それが外に出た後のことはさっぱり…まさかそんなおおごとになっていたとは」

 

やはり覚えていなかった。

 

「栄次郎!」

「義兄さん!」

「栄次郎大丈夫なの!?」

 

吉見家の大人たちが栄次郎の下へ来た。

 

「大丈夫なんだが……外に出た後が全く。皆ごめんよ怪我させて」

「まあ。元に戻ったんなら別に…」

 

皆は栄次郎が元に戻ってくれたことに胸を撫で下ろす。

 

「皆さん栄次郎義兄さんを元に戻してくれてありがとうございます」

 

彰文に「いえいえ(汗)」と言う綾子。だってナルが心配だし、これから映像解析もしないといけないからだ。当然

 

ザ――――……

 

映像が映ってなかった。更にぶつけたところが痛むのかナルは具合が悪そう。

 

「痛むのは背中だけ?ほかには?」

「頭痛とか吐き気とかある?」

 

綾子と肖は部屋に寝かせることにした。

 

「(………もうすぐカメラがある場所。だったら)ねえ」

「?」

「どうしたのよ?」

 

肖は真顔でナルに言う。

 

「そろそろ出て行ってくれない?」

「………ガアアアア!!」

「ナル!?」

 

肖に襲い掛かるナル。その様子に驚く綾子。

 

ガシ

 

「ちょっとナルやめなさいよ!」

 

肖の首を絞めるナルに綾子は慌てる。しかし

 

「出て行きなさい!」

 

バッチ―――ン!

 

肖はナルを平手打ちにする。すると

 

ズズ…

 

「え!?あれって」

 

綾子は驚く。僅かだったが栄次郎に憑いていた狐がナルから出てきたのだ。そして狐はすぐにナルに戻る。

 

「肖まさか!」

「うん。間違いなくナルに憑いている。」

 

肖の手を掴まなかったのはナルに憑いた狐が「この女に祓われる」と気づいたからだ。すると

 

「ナル!肖!綾子!」

 

滝川とリンが走ってきた。

 

「ガアアア…」

「ナル…まさかお前」

「すみません」

 

バキ

 

リンの手刀でナルは気絶した。

 

「とにかく!栄次郎さんみたいに縛っておいたほうがいいんじゃないの?」

 

こんな危ないのはごめんよ、と綾子は布団に眠るナルを睨んだ。リンは小さく呼吸を整えると、居住まいを正した。

 

「…縛ったくらいでナルを止めることはできないと思います。」

「どういうことだ?」

 

よくわからないといった顔で滝川が聞き返す。リンは真実を黙秘しながらも、滔々とナルがいかに危険な人間かを説明し、さらに自分がナルに禁呪を施した後、式に監視させることを提案した。

 

「よし!仕方がないがそれでいこう。ナル坊にうろつかれちゃ厄介だ。危険物だってんならなおさらな。んで、綾子、麻衣、肖、お前たちはどうする?」

滝川が麻衣たちに話を振る。

 

「どうって…」

「つまり、おれたちはナル抜きでやらなきゃならねえってことさ。」

「み、見捨てるなんて出来るわけないじゃない!」

「麻衣と同意見。ねえ弓弦」

 

弓弦もコクコクと頷く。

 

「んじゃ、麻衣と肖と弓弦は残るんだな」

 

綾子はまだ迷っている。自分は失敗ばかり。役に立つことが出来ないじゃないかと思っているようだ。

 

「なんとかなるんじゃねぇの?まあ、ナル坊が使えんのは痛いが、俺たちにはヤツにないもんがあるからな」

 

ナルにないもの、それは……

 

「謙虚な姿勢と親切な性格」

 

これにより吹っ切れた綾子も残ることに決めた。

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