「おはようございます」
「美晴さんおはよ〜」
2日目が始まった。
2日目は、朝を6:50に出ないと乗りたい列車に乗れないプランのため、かなりシビアだった。
「ごめんね美晴さん。こんな朝早くから出発なんて」
「いいえ、気にしてませんよ。それに、マネージャーさんと一緒にする旅は、わたしがやるものと違って楽しいですから」
美晴さんがそう思ってくれていることに僕は安堵したし、嬉しかった。これからも、美晴さんに喜んでもらえるような旅を計画してあげようと思えるようになる。だからすごく嬉しかった。
「今日はどこに行くのですか?」
美晴さんが楽しそうにしながら僕に聞いてきた。
今日も、その期待を裏切らないようなプランを組んでいた。
「今日はここからまずは東に向かうよ」
「この……芸備線……?を東に行くということですか?」
「そういうこと! そしてこの区間は……なんと1日たったの3本だけ!」
この事実を言うと、美晴さんは驚いた様子だった。
「えっ!3本!?」
「ローカル線とかだとあるあるなんだけど、ほんとうに本数が少ないのよね……この芸備線も6:55を逃すと次が14:20くらいの列車になるから、これに乗りたいのもあるし、それに……」
ここでネタバラシはしてはいけないと思い、ここから先は何も言わなかった。
「それに……?」
「これに乗る理由はもう1つあるんだけど、それは後で言うね」
「えー、マネージャーさんのいじわる〜」
「あはは……」
そんな話をしながら、6:55発の備後落合行きに乗る。
乗車している人数は本当に少ない。
高校生はほとんどおらず、地元の高齢者と旅行客がいるだけ。
そんな列車はとことこと中国山地を縫うように走る。
車窓からの眺めはすごく綺麗で、周りには雄大な山々が連なっていた。
そんな列車は終点の備後落合に到着した。
「ここからはどうするんですか?」
「ここからは、木次線(きすきせん)に乗るよ」
「木次線……」
実は本当ならここから乗りたいのだけど、これは最後かもしれない。だから、最後に思い出を残したい。
その思い出を残す場所へ向かうべく、木次線で北上した。
そして……
「ここで降りよう」
「あれ?1駅しかたってないですよ?」
「いいんだ。ここで」
そう言って、僕と美晴さんは誰もいない駅で降りる。
その駅とは……
「油木駅?」
「そう、油木駅」
降りたのは油木駅。
ホームにいるのは、僕と美晴さんだけ。
そんな秘境駅にただ2人、ポツンと取り残されたようになっている。
「でもマネージャーさん、ここで何をするのですか?」
「ここで撮影するんだ」
「撮影?」
「この路線は無くなるかもしれない。無くなる前に……美晴さんと思い出を残したいから……」
木次線に次いつ乗れるかなんてわからない。
もしかしたらこれが最初で最後かもしれない。
だから、後悔したくない。
そのためにしたこと、それは……
撮影をすることだった。
そして、撮影するのは……
「マネージャーさん、何時くらいに次の列車来ますか?」
「んーと、12時20分だね。それまでは待機かな……」
外は雨が降っていた。だからあまり外に出たくもない。
だから駅舎の中で、2人で静かにその時を待つ。
そして12時をすぎたころ……
「よし、そろそろ行こう」
「はい!」
そして、12:20、時刻通りに列車がやってきた。
その列車は青と白を纏っていた。
その列車は……
「これは、奥出雲おろち号という観光列車で、思い出に残すなら、これが一番いいと思った……だから、今こうして撮影してる」
「なるほど……」
2人で奥出雲おろち号を見送る。外は雨が降っていて、すごく寒かった。
でも、これ以上にないくらい、素敵な列車だった。
「そして、今度はあれに乗る」
「うふふ、楽しみ〜」
実はこの奥出雲おろち号は僕も乗ってみたかった。
実はそれのためだけに……
「美晴さん、切符を見てごらん」
「えっ?切符?」
美晴さんは奥出雲おろち号の特急券を取り出す。
「何かに気がつかない?」
実は今回、この奥出雲おろち号だけ特別にしている。その理由は……
「あれ?右下に株主優待で買った印字がされてない……」
「そう!正解!今回、この奥出雲おろち号に乗りたいがために、この切符だけJR西日本の株主優待券を使わずして切符を先に取っているんだ。奥出雲おろち号の指定券は全区間530円と安いし、かつGWだからもしかしたらすぐ埋まってしまうかもしれない。だからこの切符だけは発売日の1ヶ月前の10時打ちをしているんだ」
「す、すごい……」
美晴さんが驚いていたが驚くのも無理はない。
「そんな奥出雲おろち号だからさ、めいっぱい楽しもうよ!」
「はーい!」
2人で乗車する。
なかなか乗らない観光列車だから、すごく楽しみにしていた。
しかもすぐ隣には僕の大好きな美晴さん。
全てが最高だった。
奥出雲おろち号は油木を発車。
三井野原駅を過ぎると……
「綺麗……」
目の前に広がる雄大なパノラマが。
「向こうに見えているのが奥出雲おろちループと呼ばれるループ線だよ」
「あ、道路が1回転してる!」
奥出雲おろち号最大の絶景ポイント。
それが奥出雲おろちループなんだ。
「マネージャーさん」
「ん?」
「マネージャーさんがこの奥出雲おろち号に乗ろうと思ったのはこの絶景を見たいからですか?」
「せいかーい!それもあるし、木次線はローカル線だし、いつ行けるかわからない。だから満喫しないなって思ったから。それと……」
「それと……?」
「ううん、なんでもない」
また言いかけるところだった。危ない危ない……
この奥出雲おろち号を選んだもう一つの理由、それは、また後で……
そんなことを思いながら、奥出雲おろち号は出雲坂根駅の近くで止まった。
「あれ?マネージャーさん?止まりましたよ?」
「この先列車の進行方向が変わるからね」
「座席はこのままの向きで大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。すぐだから」
実はこの出雲坂根近くでは3段スイッチバックが行われる。3段スイッチバックは2回列車の進行方向が変わることで、この出雲坂根駅では、出雲坂根駅近くで1回、出雲坂根駅で1回スイッチバックをするから、結果的に列車の進行方向は三井野原駅近くでスイッチバックをする前と同じ進行方向を向いて出発するという仕組みになっている。
そして出雲坂根駅では、長時間停車する。
その間に……
「よし、寒いから温かいものを食べよう」
そう言って、僕と美晴さんは駅横のスペースへ。
そこでは、焼き鳥が売られていた。
「何食べるかは、自分で選んでね」
「はーい!」
僕はももと皮を1つずつ、美晴さんは皮2つを買った。
焼き鳥はタレがすごく美味しい。
列車は出雲坂根駅を発車し、とことこと奥出雲を駆け巡る。
「すごい人……」
美晴さんが驚きながら沿線をみる。
「臨時列車だからね〜。撮るのもいいかなと思ったけど、本数が少ないから撮影しにくい……」
「だから乗ろうと?」
「そういうこと!それに、美晴さん気づいついるかわからないけど、奥出雲おろち号、窓がないから車窓がよく見えるようになってるよ」
「あ、本当だ!」
美晴さんも気づいていなかったみたいだったので、言って正解だったのかな?
ただ雨が降ってるのと、外が寒いから室内が多かったかな。
それでもすごく楽しいけど。
そして、出雲三成駅へ到着した。
ここでも長時間停車する。その間にお土産やグッズなどを買うこともできる。
すると……
「あ!マネージャーさん!お酒ありますよ!」
「飲みすぎないようにね?」
「はーい!わかってますよー」
僕はドーナツを買って、美晴さんはお酒を買った。
それぞれの好きなもので、それぞれの楽しみ方をする。
これが一番嬉しいのかな。
そんなことを思いながら、列車は奥出雲おろち号の終点・木次駅へ。
そして、宍道まで北上し、山陰本線で松江へ辿り着いた。
皆さんこんにちは。おみです。
この度は「君と、最高の思い出を…… Op.4」を読んでいただきありがとうございます。
このお話に出てきた内容はほとんど合ってるのですよね(木次線撮影のところだけは違いますけど)
出雲坂根で焼き鳥を食べたのも、出雲三成でドーナツを食べたのも、すごく美味しかったので皆さんもぜひ食べてみてくださいね!(接続めっちゃ悪いけど)
油木駅の撮影は当日の思いつきです!実は当日備後落合駅でお話を聞いて、「いつ行けるかわからないし、気づいたら廃止してるかもしれない」と思って思い出を残すために油木駅で撮影しました。
当日は雨でものすごく寒かったですが、撮影できて良かったです。
さて、物語は山陽から山陰へと移ります!
それでは次話もおたのしみに!