Battle Spirits ~The hero of moon right~   作:クロコッペ

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9core 激突! 龍の覇王vs月光神龍(後編)

 

【第10ターン】

 

[Start&Core&DrawStep]

 

薬師寺アラタ

[Life]1

[Hand]3→4

[Core]Reserve〈3→4→9〉Field〈5〉Trash〈5→0〉

[Spirit]【龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード】

[Nexus]なし

[Burst]なし

 

[MainStep]

 

アラタは引いたカードを見て、にやりと笑みをこぼす。

 

「良いカードを引いたぜ! 【剣馬グラニム】、レベル2で召喚!」

 

[Hand]4→3

[Core]Reserve〈9→4〉Field〈5→7〉Trash〈0→3〉

 

白のシンボルが弾けて現れたのは、その白とはまったく対極に位置する漆黒を連想させる黒。僅かな光も通さないその黒は馬の形をしていた。

 

「【剣馬グラニム】……また厄介なものを」

 

「まだまだ行くぜ! 龍の覇王をレベル4にアップし、バーストをセット!」

 

[Hand]3→2

[Core]Reserve〈4→1〉Field〈7→10〉Trash〈3〉

[Burst]なし→???

 

[AttackStep]

 

「そしてアタックステップ! 【龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード】でアタック! アタック時効果で月光神龍を指定アタックだ!」

 

 

 ◇

 

「わわわ! 今度は龍の覇王の指定アタックかよ! バローネさんの月光神龍は合体《ブレイヴ》しててもBP14000。チャンピオンのヤマトはBP20000これじゃ破壊されちまうよ!」

 

「馬鹿ハチマキ。何でテガマルはさっきユーロチャンプの時の月光神龍よりも今回の方が苦戦すると言ったと思ってるんだ?」

 

騒がしいハジメをたしなめるようにチヒロが呟く。

 

「なんでって……なんでだよ! わっかんねーよ!」

 

「おっす! ハジメは赤ばかりを使ってるからな! 白の月光神龍の真骨頂を知らないってわけか」

 

コブシは物知り顔でハジメに話しかけてくる。

そして月光神龍が合体しているブレイヴの色はなんだ? と尋ねた。

 

「色は……【突機竜アーケランサー】だから……赤だよな。それがどうかしたのか?」

 

まるで無知なハジメに呆れたかのようにテガマルはため息をついて、

 

「月光神龍の効果で最も有名なのが【重装甲:可変】。月光神龍自身が持つ色のカードの効果は受けないというトリッキーな効果だ。要するに今、月光神龍には元々から持つ白と、ブレイヴによって与えられた赤の色がある」

 

「あ! なるほど! つまり月光神龍は【重装甲:赤/白】を持ってるというわけか。だからヤマトの指定アタックも無効ってわけだな!」

 

「そういうことだ。ちなみにユーロチャンプがブレイヴした時は紫の【デスヘイズ】だった。つまりあの時の月光神龍には【重装甲紫/白】しかなく、ヤマトの効果も通ったというわけだ」

 

 ◇

 

 

月光神龍の前方には六角形の赤いバリアが展開し、それが龍の覇王を弾き返す。

 

「【重装甲:赤】発動だ。龍の覇王のアタックは月光神龍ではなくライフで受けさせてもらう」

 

「おっとそうだったそうだった。いやーすっかり装甲のこと忘れてたなーーははは」

 

アラタはいかにもわざとらしい笑い声を上げながら頭を掻いた。

おそらくは月光神龍の効果を知らない子供たちのためのパフォーマンスなのだろう。

 

龍の覇王は体制を立て直し、標的を月光神龍からバローネへと変更する。

そして口からは咆哮とともに巨大な火炎を放った。

 

「グッ……!」

 

月光のバローネ

[Life]2→1

[Core]Reserve〈1→2〉Field〈10〉Trash〈0〉

 

バローネの4つ目のライフが削られた。これで残りライフの数はアラタと同じ1。

そしてバローネの設置したバーストは発動しない。このことからアラタにバースト条件が【相手による自分のライフ減少後】ではないことが見透かされてしまった。

 

「さーて。これにてターンエンド。こんなに手に汗握る戦いはいつぶりかな?」

 

[EndStep]

 

薬師寺アラタ

[Life]1

[Hand]2

[Core]Reserve〈1〉Field〈10〉Trash〈3〉

[Spirit]【龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード】【剣馬グラニム】

[Burst]???

[Nexus]なし

 

 

【第11ターン】

 

[Start&Core&DrawStep]

 

月光のバローネ

[Life]1

[Hand]0→1

[Core]Reserve〈2→3〉Field〈10〉Trash〈0〉

[Spirit]【月光神龍ルナテック・ストライクヴルム(突機竜アーケランサー)】【ザニーガン】

[Nexus]【光の聖剣】

[Burst]???

 

[MainStep]

 

「……」

 

バローネはしばらく沈黙したまま、今の状況と睨めっこをしていた。

今のアタックを躊躇《ためら》わせる存在は【剣馬グラニム】。

 

【剣馬グラニム】の効果は、自分の赤のスピリットにBP6000以下のスピリットと合体スピリットのアタックを疲労状態でブロックできるようにするという効果である。

バローネの手持ちのスピリットはBP3000のザニーガンと合体スピリットの月光神龍。

つまりはどちらも疲労状態の龍の覇王にブロックされてしまうということである。

 

(仕方ない……ここは動かずターンエンドを……)

 

その時。

バローネは何かが引っかかった。自分はなにか大きな穴を見落としてはないか、と。

 

「――――ッ!」

 

そう、【剣馬グラニム】の効果は絶対でははない。BP6000以下と合体スピリットのアタックが龍の覇王にブロックされてしまうというのなら――――

 

「そうか、ここまで思考が鈍るとは……俺の腕も落ちたものだな」

 

バローネは自称気味に笑うと、

 

「月光神龍から……突機竜アーケランサーを外す!」

 

突機竜アーケランサーのカードを月光神龍からずらし、合体解除をした。

 

月光神龍の両手に握られた二本の槍が宙に浮くと、バックパックから切り離された突機竜の本体がそれを回収する。

月光神龍は【重装甲:可変】の効果がまた白のみとなり、体色も白のものへと戻った。

 

「やれやれ、気づかれちゃったか……」

 

アラタはぎくりとしながら手札をうちわ代わりにしてパタパタと仰ぐ。

 

「更に、ネクサス【絶望壁の要塞】をレベル2で配置。不足コストは【光の聖剣】から確保する」

 

ゴゴゴゴゴという地響きとともに、バトルフィールド全体を包み込む巨大な壁が出現した。

その無機質な壁から覗かせる穴が一々不気味で背筋にひんやりとしたものを伝わせる。

 

月光のバローネ

[Hand]1→0

[Core]Reserve〈3→0〉Field〈10→11〉Trash〈0→2〉

 

[AttackStep]

 

「これで決めるぞ……【月光神龍ルナテック・ストライクヴルム】! ラストアタック!!」

 

ギン!! と両手の爪をむき月光神龍はアラタに突進を仕掛ける。

 

「剣馬グラニムの効果で龍の覇王でブロック! ……は、できないか」

 

アラタの焦り気味の声が聞こえてくる。

そう、剣馬グラニムが赤のスピリットに与えられる疲労ブロックの範囲は、BP6000以下と合体スピリットのみ。

ということは、だ。

合体《ブレイヴ》せずにBPを7000以上にすればいいだけの話。

だからバローネは月光神龍からブレイヴを外し、素の状態へと戻した。月光神龍は合体しない状態でもレベル3でBP11000という高火力なのでBP7000以上なんて軽く超えられる。

つまり合体せずにBP11000の月光神龍を、龍の覇王は疲労状態でブロックする事はできなかった。

 

「さあどうする? ライフで受けるか、グラニムでブロックするかのどちらかしか無いぞ?」

 

バローネはアラタを試すように二択を与える。

しかしライフで受ければその時点でアラタのライフは0になり、負けが確定する。

剣馬グラニムでブロックするにしたって、月光神龍に破壊され、連鎖的に龍の覇王も疲労ブロックを失いザニーガンによるアタックを通すことになってしまう。

どちらを選んだってライフが0になる運命からは逃れることはできなかった。

 

「いいや、これで終わりっつーのはまだ寂しいだろ? もう少し楽しもうぜ!」

 

しかし今までの焦燥は演技だったかのように、アラタは手札から1枚のカードを抜き取り、掲げる。

 

「ここで白のマジックカードか……流石にしぶといな」

 

「おうよ! フラッシュタイミングで【ホーリーエリクサー】を使用! コストは全て龍の覇王から確保! よってレベル3にダウン!」

 

薬師寺アラタ

[Life]1

[Hand]2→1

[Core]Reserve〈1〉Field〈10→7〉Trash〈3→6〉

 

尚も月光神龍が近づく中、アラタのライフカウンターが白い輝きを放ち始めた。まるで空洞のライフを埋めるかのごとくその白い光は渦を巻く。

 

「――――!!」

 

そしてあるはずがなかったライフがひとつそこに蘇った。

 

薬師寺アラタ

[Life]1→2

[Core]Reserve〈1→0〉Field〈7〉Trash〈6〉

 

「これで準備は万端! 月光神龍のアタックはライフで受けるぜ!」

 

アラタの眼前に片腕の爪を尖らせ飛翔する月光神龍。

バキバキと関節を鳴らし、アラタの前に展開されたバリアを十字に切り裂いた。

 

 

薬師寺アラタ

[Life]2→1

[Core]Reserve〈0→1〉Field〈7〉Trash〈6〉

 

「くっ……!」

 

「さらに! ライフ減少により俺のバーストが発動するぜ!!」

 

 

 ◇

 

「おおっ!? ここに来てバースト!? しかもライフ減少時の!」

 

興奮のあまり鉢巻を何度も締め直すハジメ。それに釣られて周りにいた子供たちも驚きの歓声を上げる。

 

 

「――――チャンピオンは、こうなることを見越していたな」

 

「ああ、相手がアタックしてくるとわかっていたからこそ、残りライフ1の状態で【ライフ減少後】が条件のバーストをセットした。悔しいが、俺では思いつきそうにない発想だ」

 

テガマルに答えるように、スケッチブックに鉛筆を走らせるチヒロはそんなことを呟いた。

 

 

 ◇

 

 

(ここに来てライフ減少が条件のバーストだと……いったい何だ……?)

 

バローネの渦巻く思考に、あの時の光景が蘇る。

 

(まさか――――!!)

 

雷鳴が響き渡った。

浮き出た暗雲からこぼれ落ちるその音は、何度も空気を反響させ、鼓動すらも早めさせる。

 

「悪いね。また同じパターンであんたの“友”を破壊しちまってさ」

 

どす黒い雲から放たれたのは炎の渦。勢い良く回転し月光神龍へと突き進む。

月光神龍はその強襲をすんでのところで回避した。

 

「ライフ減少によりバースト発動! 古《いにしえ》より蘇れ太古の龍! 草薙の剣にて全てを薙ぎ払え!! 【龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード】を召喚!!」

 

飛来した炎の渦から現れたのは二体目の龍の覇王。そしてバローネの月光神龍は二体目の犠牲。

龍の覇王は月光神龍に跳びかかり炎剣を振るう。凄まじいスピードで振り払われたそれはまるで熱で空気さえ歪めているかのようだ。

 

「我が友よ……!」

 

バローネの顔に悲痛の色が浮かぶ。またしても自分のミスで“友”が破壊されるのを指を加えて見てることしかできないのだから。

 

月光神龍は上空へと飛び、その一撃を何とかかわす。

だが龍の覇王はそれよりも早い反応速度で月光神龍の後ろへと回りこみ、背中のスラスターごと月光神龍の腹部を突き刺した。

 

「これが龍の覇王のバースト効果、BP15000以下のスピリットの破壊だ!」

 

とどめを刺すようにと、拳を前につきだしたアラタ。

命に従うべく、龍の覇王は炎剣の質力を最大に釣り上げる。

 

ゴォォォォォォ!!!

 

月光神龍は内部から焼きつくされ、全身に炎が燃え移る。

腕が、足が、胴体が、頭部が。次々と爆発していった。

 

「許せ……俺の不注意のせいで“お前”を二度も破壊されることとなった……」

 

龍の覇王は月光神龍から剣を引き抜くが、念には念を入れるよう、何度も何度もその燃える残骸を切りつけた。

 

「だが――――」

 

バローネは顔を上に上げ、月光神龍の最後を看取る。

最後に龍の覇王が振り払った一閃により完璧に月光神龍は崩壊し、爆発とともに消えていった。

 

月光のバローネ

[Hand]0

[Core]Reserve〈0→5〉Field〈11→6〉Trash〈2〉

 

「お前の破壊は無駄にはしない――――!!」

 

ブゥンとバローネのバーストゾーンが光り輝き、1枚のカードを弾きだす。

 

「スピリットの破壊によりバースト発動!!」

 

バローネはそれを掴みとり、前に突きつける。

 

「マジック!【クヴェルドウールヴ】!!」

 

クヴェルドウールヴ

【バースト:相手による自分のスピリット破壊後】

自分のトラッシュにあるブレイヴカード1枚を手札に戻す。

その後コストを支払うことで、このカードのフラッシュ効果を発揮する。

フラッシュ:

自分の手札にある赤/緑/白のブレイヴカード1枚を、コストを支払わずに召喚する。

 

「バースト効果でトラッシュにある【コテツ・ティーガー】を手札に加える。そしてフラッシュ効果で【コテツ・ティーガー】をノーコストで召喚!」

 

[Hand]1→0

[Core]Reserve〈5→1〉Field〈6→7〉Trash〈2→5〉

[Burst]???→なし

 

絶望壁の要塞の頂上からほぼ垂直な壁を駆け下ってくる者がいた。黒い艶を持つ甲冑を身にまとい、背中には巨大な日本刀が担がれている。

主《スピリット》を失った今、彼と合体《ブレイヴ》出来るものは誰一人としていない。だが彼は駆ける、最期まで戦い抜く、その意思を強く待って。

タン、とスピリット状態のアーケランサーの横に立ったのは一匹の虎。

そう、紛れも無い【コテツ・ティーガー】だった。

 

「ターン……エンドだ」

 

[EndStep]

 

月光のバローネ

[Life]1

[Hand]0

[Core]Reserve〈1〉Field〈7〉Trash〈5〉

[Spirit]【突機竜アーケランサー】【ザニーガン】【コテツ・ティーガー】

[Nexus]【光の聖剣】【絶望壁の要塞】

[Burst]なし

 

 

【第12ターン】

 

[Start&Core&DrawStep]

 

薬師寺アラタ

[Life]1

[Hand]1→2

[Core]Reserve〈1→2→8〉Field〈7〉Trash〈6→0〉

[Spirit]【龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード】【龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード】【剣馬グラニム】

[Burst]なし

[Nexus]なし

 

[MainStep]

 

「おっ……?」

 

アラタの引いたカード。

それは3枚目の龍の覇王だった。

今回は付いているのか、それとも龍の覇王が自分に出せと呼びかけているのかはわからない。

 

「俺も今回ばっかしは本気で行かせてもらうぜっ! 3体目の【龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード】を召喚する!!」

 

だが引いたカードには全て全力で応えるのがアラタの信念。

 

[Core]Reserve〈8→3〉Field〈7→8〉Trash〈0→4〉

 

二体の龍の覇王の間に最後の龍の覇王が降臨する。

その光景はもはや地獄に近い絶望を与えるには十分すぎた。

 

「龍の覇王二体をレベル2に! もう一体の龍の覇王はレベル3に! 不足コストは剣馬グラニムから使用する! よってグラニムは破壊される!」

 

[Core]Reserve〈3→0〉Field〈8→12〉Trash〈4〉

 

三体の龍の咆哮がフィールドに共鳴した。

ビリビリと空気を震撼させるその相貌《すがた》は、身体を握りつぶし、圧迫するかのよう。

 

「ま、ライフが1の状態じゃうかつには動けないな。あんたらのブレイヴには装甲もついてることだし、BP参照の破壊もできないしね」

 

バローネはその言葉にハッとして、周りに張り巡らされている【絶望壁の要塞】に目をやる。

苦し紛れにレベル2で設置したことがここで功をしたということか。

 

絶望壁の要塞

Lv2

自分のスピリット状態のブレイヴすべてに“【装甲:赤/青】このスピリットは、相手の赤/青のスピリット/ネクサス/マジックの効果を受けない”という効果を与える。

 

これによりバローネのフィールドにいる【コテツ・ティーガー】【突機竜アーケランサー】には装甲赤青がつき、【ザニーガン】は元々が持つ重装甲赤により龍の覇王の効果を防げるというわけである。

 

「ターンエンド。次のターンで決めるぜ?」

 

[EndStep]

 

薬師寺アラタ

[Life]1

[Hand]1

[Core]Reserve〈0〉Field〈11〉Trash〈4〉

[Spirit]【龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード】×3

[Burst]なし

[Nexus]なし

 

【第13ターン】

 

「スタートステップ……」

 

宣言とともに、一度ディスプレイが光る。

コアステップを終えた後はドローステップだが、バローネはこの次に何のカードが来るか予想すら出来なかった。

アラタのように2枚目の“友”を引けるか、それとも引けずに負けるか。

いや……例え2枚目を引いたって、龍の覇王3体というこの状況をひっくり返せるはずがない。

 

「く……」

 

フィールドに目をやると眼前には龍の覇王3体が刃を研ぎ、今か今かと待っていた。そこまでもあいつらは自分のライフの破壊が楽しみなのだろうか。

デッキの上に手を置く。

 

「この1枚で全てが決まるか……面白い」

 

バローネは一枚のカードを素早く抜き取り、確認した。

 

 

 

  ◇

 

「バローネさん、一体何を引いたんだ!?」

 

ハジメは身を乗り出し、食いつくようにモニターのすぐ隣まで近づく。

明らかなバローネの表情の変化。

それはまったく予想外の事態に驚いているのと、逆転の可能性を手に入れ、喜んでいるかのようにも見える。

 

「ここで龍の覇王三体という状況を逆転できるなんてことがあったら、それは大番狂わせだな」

 

腕組みをしたままテガマルがそんなことをつぶやくと、

 

「だが、あのバローネっていう人ならそれも可能な気がするんだ。……どうしてかわかんないけど何か俺はそんな気がする」

 

チヒロはスケッチブックに書き写すのをやめ、顔を上げた。

そこには龍の覇王や月光神龍が描かれている。

 

  ◇

 

 

(何故……“このカード”が俺のデッキに……?)

 

バローネは引き当てたカードをしばらく凝視する。そのカードは先日の構築では入れてなかったはずのカード、白を得意とするバローネには縁のないカードとも言えた。

何故“このカード”が入っているのか、思い当たるとすれば――

 

(そうか……あの時……)

 

 

 

「どうした、動きが固まっちまってるぜバローネ? もうこんなところで勝負を諦めたってわけじゃあないよな。たとえ負けが決まっているような展開でも、最期まで戦い通すのが一流のカードバトラーというもんだろ!」

 

「フッ……随分と大した物言いだな。言っておくがこのバトル、俺は負けるとは思っていない。いや……こう言うべきだな」

 

バローネは大きく息を吸って、アラタへと強い視線を向けた。

 

「俺はこのターンで貴様を倒すッ!!!!」

 

そのギラギラとした眼差しは敵を威圧する孤高の狼のごとく威厳を放つ。

 

「へえ、それは楽しみだ! 守り中心な白が攻めでこの壁をどう崩すか。見させてもらうぜっ!!」

 

 

 

 

バローネの掴む最後のカードが太陽のごとく炎を纏う。

 

「銀河の中心に君臨する最大の星座よ、神々《こうごう》しき弓を持て、炎角なる矢をつがえよ!」

 

それをディスプレイに叩きつけると、バトルフィールドの奥に巌山《がんざん》のごとき地表があらわになった。

そこには射手座の文様が浮かび上がり、朱《あか》き閃光が走る。

 

「【光龍騎神サジット・アポロドラゴン】をレベル3で召喚! 不足コストは【ザニーガン】【絶望壁の要塞】から使用する!!」

 

[Core]Reserve〈7→0〉Field〈7〉Trash〈0→7〉

 

光が集約し、ケンタウルスを模した龍が駆けてくる。

彼はバローネの背後で跳躍し、砂埃を巻き上げながらフィールドに到着した。

ユニコーンの白き四肢と、太陽のごとく燃え上がる龍。その二つを掛け合わした姿は誰が見ても射手座ということがわかる。

 

 

「これは驚いた……。まさか赤のスピリット……しかもXレアをこの局面で引き当てるなんて……」

 

あんぐりと口を開けたままアラタは呆然と立ち尽くす。

今まで、白一辺倒で攻めてきた相手がいきなりまったくベクトルの違う強さを持つカードを出してきたのだからそれもいかしかたない。

 

「行くぞ、光龍騎神に【コテツ・ティーガー】と【突起竜アーケランサー】をダブルブレイヴ!」

 

コテツ・ティーガーが空中でバラバラになり、光龍騎神の白き四本の脚が漆黒の甲冑で覆われた。

尾前にはアーケランサーのバックパックが接続され、背中には鞘に収められた日本刀が背負《しょ》い込まれている。

光龍騎神は手に二本の鈍重な槍を握り、威嚇するかのように龍の覇王達へと突きつけた。

 

[AttackStep]

 

「これで決着を付けるか……! 貫け! ダブル合体《ブレイヴ》スピリット!!」

 

バローネが光龍騎神のカードを傾けると同時に、彼はアラタへ向かって駆けていく。

光龍騎神の咆哮がバトルフィールド全体に響き渡り、それに対抗するかのように三体の龍の覇王も雄叫びを奮わせる。

共鳴した四つの咆哮はバローネやアラタだけでなく観客全員の心を奮い立たせる。

 

ダンッ! ダンッ! ダンッ! という勇ましい足音をたて、光龍騎神は四本の脚でフィールドを駆け抜けていった。

まず彼の前に立ちふさがった者は前方にいた2体の龍の覇王。

片手ずつで1体を相手取るように、光龍騎神は一対の槍(アーケランサー)をそれぞれの龍の覇王目掛けて振り払った。

 

ガギィィィィンッ!!!

 

剣《つるぎ》と槍が二重に交差し、火花を散らす。

左手で振るわれた槍を龍の覇王が、右手で振るわれた槍をもう一体の龍の覇王が食い止めていた。

 

二体一の場合、やはり不利になるの一の方。

龍の覇王達の草薙の剣で光龍騎神は段々と押し返されていく。

 

「アタック時効果発動――――」

 

しかし、そこで終わりではない。

バローネの宣言とと同時に、光龍騎神の内から眩ゆい光が辺りを照らした。

その光はアーケランサーの槍を通して2体の草薙の剣をドンドンと風化させる。

 

バキッ、バキッ、という鈍い音をあげて草薙の剣にはほころびが生じ始める。

龍の覇王はこれ以上光龍騎神の突進を止められない。この圧倒的なまでの力を防ぐことはこれ以上叶わなかった。

 

バギンッ!! 

 

ついに光龍騎神によって2体の龍の覇王の剣が真っ二つに砕かれた。

そしてその勢いを崩さないまま光龍騎神は龍の覇王達を一刀両断にする。

しかし、それは致命傷には成り得ず、龍の覇王はまだ破壊されていなかった。

 

「――――BP10000以下のスピリットを合体《ブレイブ》してる数だけ破壊する。よってBP10000以下のレベル2の龍の覇王を2体破壊だ」

 

【合体時】Lv3『このスピリットの合体アタック時』

このスピリットのブレイヴ1つにつき、BP10000以下の相手のスピリット1体を破壊する。

 

 

だが、バローネが放った言葉。

それが無慈悲な現実を龍の覇王達の胸につきつける。

 

 

 

否《いな》――――

 

 

 

 

貫いていた(・・・・・)

 

 

 

 

 

ザシュウゥゥゥッ!!

 

とどめを刺すかの如く、光龍騎神は2本の槍で、2体の龍の覇王を貫いた。

そしてそのままフィールドの端まで向かって走りだす。

 

ゴ……ゴ……ウゴオォォォ!!!!

 

2体の龍の覇王が同時に悲鳴を上げるが、光龍騎神は突き刺したまま走るのを止めない。

壁までの距離はあと数メートル。

 

そして――――

 

 

ドォォォォォォンッ!!!!!!

 

フィールド全体がグラグラと揺れた。

光龍騎神が突っ込んだ壁はほぼ半壊状態に等しく、粉々になったコンクリから粉がパラパラと舞い上がっていく。

そこには十字架に磔《はりつけ》にされたキリストのごとく、槍で貫かれた2体の龍の覇王が壁に固定され、力なくブランと垂れ下がっていた。

 

「そして、もう一つのアタック時効果。レベル3の【龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード】に指定アタック!!」

 

Lv1・Lv2・Lv3

系統:「光導」/「星魂」を持つ自分のスピリットすべては、

アタックするとき相手のスピリット1体を指定し、そのスピリットにアタックできる

 

 

光龍騎神はギラリと眼光を尖らせ、最後の標的を見据える。

チャキ、と肩に背負っていた鞘から日本刀を抜き取って、最後の戦に備えるべく静かに刃を尖らせた。

 

「来るなら来い! 俺の相棒がブロックするぜ!!」

 

対する最後の龍の覇王も、仲間をやられた怒りを燃やし、復讐の炎へと変える。

 

 

12宮の力を得し射手座の【光龍騎神サジット・アポロドラゴン】。

覇王の力を得し、太古の【龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード】。

 

最後の戦いの幕が切って降ろされれた。

 

ゴォォォ!!

 

龍の覇王が口から直径5メートルにもなる炎の渦を光龍騎神目掛けて放つ。

光龍騎神はそれを日本刀で切り裂きながら突進する。

 

ザンッ!!

 

そしてある程度の距離を詰めると空気を一閃し、刀の先から衝撃波を放った。

その衝撃波は一直線に龍の覇王へと向かっていく。

 

龍の覇王は草薙の剣でそれを受け止め、右にいなす。

すると、そのまま光龍騎神へと向かって剣を振り払う。

刃には炎が宿り、綺麗な放物線を描いて光龍騎神の頭部へと迫っていった。

 

ガギイィィン!! 

 

再び刃が鍔迫り合う。

力と力が真正面からぶつかり合い、火花が散るフィールド全体にその熱気が反響した。

何度も何度も刃が交差し合い、互いに損傷を激しくする。

 

地上では不利だと判断した龍の覇王は、両翼の羽をはためかせ、空中へと舞い上がった。

それを追うようにして、光龍騎神も取り付けられたアーケランサーのバーニアを展開する。

 

日本刀を両手で構え、一気に龍の覇王との距離を詰める光龍騎神。

振り払った斬撃により龍の覇王の左手を切り裂いた。

 

だが――――

 

そこに出来た一瞬の隙を突いて、龍の覇王はコテツ・ティーガーの刀を弾き飛ばした。

遠く離れた地面に、落下した刀が突き刺さる。

丸腰状態の光龍騎神も、龍の覇王に腹部に蹴りを入れられ地面へと落下していった。

 

ズドォォン!!

 

砂煙を立てて墜落した光龍騎神。

その周囲には僅かなクレーターができていた。

 

「油断するな! 上だっ!!」

 

バローネの言葉を聞いて光龍騎神は上空を見上げる。

そこには刃を構え、急降下してこちらに向かってくる龍の覇王の姿があった。

 

もう龍の覇王はすぐそこまできている。

今から刀を取りにいく時間はない。ましてやこのクレーターから抜け出す時間さえも。

 

だから光龍騎神は“最後の武器”を使って迎撃することに決めた。

右手には竜神の弓が、左手には天馬の矢が現れ、それを強く握り締める。

 

ギリ……ギリ……ギリ

 

弓を90度に傾けて、今まさに迫り来る龍の覇王を狙って弦を絞った。矢の先と龍の覇王の間にはもはや数十センチしかない。

龍の覇王が先に斬撃を加えるか、光龍騎神が先に矢を射るか――――

 

 

バシュウゥゥゥン!!

 

 

速度で勝ったのは光龍騎神だった。

 

 

一筋の閃光が天高く登った。

それは光龍騎神が放った光の矢。龍の覇王の腹部を貫いた輝かしき天馬の矢だった。

 

ドオォォォォォォンッ!!

 

龍の覇王が爆発し、大きな爆炎が発生する。

そんな中、光龍騎神は最後の場所へと向かう。弓を剣へと変形させ、向かった先は薬師寺アラタの眼前。

 

「【コテツ・ティーガー】の効果発動。お前の最後のライフをいただくぞ」

 

【合体時】『このスピリットのバトル時』

BPを比べ相手のスピリットだけを破壊したとき、

相手のライフのコア1個を相手のリザーブに置く。

 

 

「ははっ、ここまでのようだな。……いいぜ、ライフで受ける」

 

アラタは今回の結果に少し残念そうな顔をしたが、その後すぐに笑みを作りなおした。

こうして、バローネと出会えたこと。今までにない熱いバトルを繰り広げられたこと。そして、久々の負けを味あわせてくれたこと。

 

これら全てに感謝するように、アラタは笑った。

その表情には一点の曇もない。

 

光龍騎神は天高く剣を掲げ、そのまま斜めに両断する。

赤いバリアが砕け散り、破片とともに暴風を起こす。

 

その勢いで、アラタもまた宙へと投げ出された。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「いやーー負けちった負けちった」

 

バトルフィールドから帰ってきたかアラタは照れ恥ずかしそうに子供たちの前で頭をかいていていた。

世界チャンピオンとして知られてる自分が無名のカードバトラーに負けてしまったことにより、大方面目丸潰れといったところだろうか。

 

「えーーーッ!! まさかチャンピオンが負けるなんて!! チャンピオンを倒すのは俺が一番最初って決めてたのにーー!!」

 

その中でもハジメはとことん悔しいようで、いつも以上に騒がしい。

 

「……俺が勝てたのはマグレだ。たまたま入っていたカードが、たまたまそのときに引けただけの話。本来ならば九分九厘の確率でお前が勝っていたはずだぞ? 薬師寺アラタ」

 

バローネはカードで髪をとかしながら自己の功績を謙遜する。

そう、今回勝てたのは紛れもなく【光龍騎神サジット・アポロドラゴン】のお陰。

自分のキースピリットでもなければ、デッキの構築に寄るものでもない。

ただ単にカード単体のパワーで押し切っただけだ。

 

「そう言うなって、運も実力の内! アンタは普通に俺に勝ったことを誇っていいぜ!」

 

だが、アラタはそれを否定するようにそう言った。

月並みな言葉だが、たしかにそれも悪くない。

 

「では……この事実ありがたく頂戴しておこう」

 

「ああ、それと――――」

 

アラタが言いかけた途端。

 

 

「こちらですかーーー!? あの世界チャンピオンが負けたというショップは!!」

 

バトスピショップの駐車場に【バトスピニュース】と書かれた車が何台も入ってきた。

【バトスピニュース】といったら新弾ブースターの情報から、世界のバトスピ情報など幅広い範囲でバトスピに関する情報をお届けする国民的支持の高いニュース番組。

もちろん、世界チャンピオンが負けたとなればこうして駆けつけてくるのも当然のことだった。

 

「……こうゆう風に色々とインタビュー受けないといけないから、めんどくさいけど我慢してね」

 

「断る」

 

あっさりと断りを入れたバローネ。

こうしてゆったりと過ごすことに慣れてしまったというのに、今さら有名になって面倒事に巻き込まれるはめになるのはゴメンだった。

 

「だな、俺も今日は帰って、いっちょ昼寝したいし……」

 

アラタとバローネは顔を見合わせる。

どうやら迫り来る報道関係者を前にして考えることは同じだった。

 

「「逃げるか」」

 

 

 

 

「あっ、ちょ……待って下さーーい!! 少しでもいいからお話をーー!!」

 

全速力でバトスピショップから飛び出した二人を追うようにして何人もの報道関係者が追いかけてくる。

 

「バローネーー!! ちゃんと閉店前までには帰ってくるのよーー!!  アラタも無茶はしないでねーー!」

 

それを楽しむように傍観するミカの声が聞こえてきた。

 

「やれやれ……面倒な事となった」

 

バローネは走りながらやや呆れ気味に呟く。

 

「ははっ。だけどバローネ、あんた顔では笑ってるぞ」

 

「……」

 

アラタに指摘されてバローネ口元に手を当ててみると、ほんの僅かだが確かに笑みを浮かべていることが確認できた。

なんだかんだで、バローネはこの状況も、この世界も楽しんでるのだ。

 

「まあ……退屈はさせないな」

 

二人の男が昼下がりの街を駆ける。

 

この世界に来てしまった者、この世界で頂点に立つ者。

境遇は違えど、内に秘めるものは同じ。

 

 

それはバトルスピリッツを心から愛するという感情だった。

 

 

 

 

 

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