とある地方のウマ娘   作:乾燥海藻類

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第12R ユメノサキヘ

激闘の有記念が終わり、その興奮は年が明けても続いた。

オグリの勢いは依然衰えず、次々とGⅠレースを制覇していった。

しかし決して楽なレースではなかった。

スーパークリークやイナリワン、そしてオグリのクラスメイトであるヤエノムテキも完全に羽化し、何度もオグリと死闘を演じた。

そして3度目の有記念でついに優勝。これをもってオグリは、前年のタマモクロスを追うように"殿堂入り"を果たす。

これによりオグリはトゥインクル・シリーズを卒業し、新たなステージへと進む権利を得た。

強豪ひしめくドリーム・シリーズ。

トゥインクル・シリーズで好成績をおさめ、殿堂入りしたウマ娘たちが一堂に会する夢の祭典。

"皇帝"シンボリルドルフを筆頭に、マルゼンスキーやミスターシービー、そして前年に殿堂入りした"白い稲妻"タマモクロスなどなど。

煌びやかな宝石を敷き詰めたような、並みのウマ娘など寄せ付けない絢爛豪華な強者ばかり。

このメンバーの中ではオグリは久しぶりの挑戦者となる。

"皇帝"に並ぶだとか、"皇帝"を超えたなど、新聞の煽り文句で何度も見かけたが、それが真実かどうかがついに試される。

"皇帝"は今も変わらず"皇帝"だった。肉体のコンディションは絶頂を維持し続けている。

最近は特に入念なトレーニングを行うようになったと聞く。たまに模擬レースをやれば当然のように1着を取る。

彼女の技術を少しでも盗もうと、若いウマ娘たちは躍起になっているようだ。それが"皇帝"のもうひとつの目的だと気付きながら。

それに刺激されたのか、彼女の所属するチームの熱気は相当なものになっている。

オグリも本気の皇帝に触発されたのか、これまで以上に食べるようになった。それだけトレーニングでエネルギーを消耗するのだろう。北原トレーナーはオーバーワークにならないように宥めているそうだ。

サマードリームトロフィー開幕まで後1ヵ月と迫っていた。

 

 

 

 

 

静かな夜だった。トラックを照らしている照明も消灯し、常夜灯と星明りだけの淡い夜。

外周の柵に腰かけ、空を見上げる。夏の大三角がよく見えた。

とそこで、タッタッという軽快な足音が聞こえてきた。

常夜灯の下に姿を現したのは、銀髪の少女だった。いや、もう少女という年齢でもないか。月日が流れるのは早いものだと、改めて実感する。

「こんな時間にどうしたんだ?」

「それはこっちのセリフだ。前夜祭はもう終わったのか?」

枠順抽選会はテレビやネットで中継されていた。その前夜祭でオグリは薄水色のパーティードレスを着ていたのだが、今はいつものトレセン学園指定のジャージ姿だ。

「少し食べ過ぎてしまってな。腹ごなしに走っていた」

「それでこっちにきたのか?」

「気がつけばこっちに向かっていた。脚は覚えているものだな」

ああ、考え事してるとそういうこともあるよな。

「それで、そっちは何をしていたんだ?」

「ん? ああ、特に意味はないよ。ただの気晴らし、気分転換みたいなものかな」

「そうか」

うなずき、オグリが俺の隣に腰かけた。2人分の体重を受け、柵が小さく軋む。

「正直、貴方が中央に来るのは意外だった」

「そうか?」

特に気にせずうなずいたものの、少し違和感を覚えた。オグリは俺も一緒に来ることを、中央入りの条件としたと聞いたが、よくよく考えたらそれもおかしい。一介の料理人にそこまでこだわるだろうか。

多分だが、たづなさんとの会話で俺の話題が出たのだろう。そこで深読みしたたづなさんが気を利かせて、手を回したのだと思われる。

「……どうした?」

急に黙りこくったものだから、オグリが怪訝げに問いかけてくる。

「いや、なんでもない。今さら確かめるようなことでもないしな」

「?」

オグリは疑問符を張り付けたような表情を浮かべたが、それ以上追求してくることはなかった。

「あまり引き留めるのもマズいか。明日は大事な日だものな」

「そうだな。ベルノが心配するかもしれない。そろそろ行くよ」

立ち上がったオグリに向かって、右こぶしを突き出す。一瞬ハッとしたものの、すぐにこちらの意図を悟ったのか、自分の右こぶしをぶつけてきた。

「勝てよ」

「ああ」

そう言い残し、彼女は去って行った。風に揺れる銀色の髪を見送りながら、やがてそれは夜の闇に溶けていく。

カサマツから来た灰被りの姫(シンデレラ)は、王子様を待つだけの気弱な少女ではなかった。自らの脚で栄光のロードを駆け上がり、今まさにその玉座に手をかけている。

その玉座に座す王子様(皇帝)を引きずり降ろさんとするところまで上り詰めたのだ。

果たして奇跡は起こるのか。

少なくない人たちがその期待に胸を躍らせている。

ならば俺は、その奇跡を追い続けよう。

 

 

 




というわけで完結です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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