BIOHAZARD VILLAGE【EvelineRemnants】 作:放仮ごdz
今回はエピローグ。楽しんでいただけると幸いです。
ルイジアナでの死闘から三年後。買い物から自宅に帰ったミア・ウィンターズは、出迎えてくれた夫に笑顔を向けた。
「今帰ったわ、イーサン。愛しのローズマリーはどうしてるかしら?」
「ああ、ミア。お帰り。ローズは今眠ったところだ。エヴリンもスクールからもうすぐ帰ってくるはずだ」
「そう。なら早めに夕飯を作っておかないとね。今日は故郷の伝統料理よ」
一人の逆行者の奮闘により歴史は変わった。クリスの部下たちによる監視付きではあるが、細胞活性修復薬で元の少女の姿に戻ったエヴリンを養子として迎え、クリスの知り合いの化学や薬品の精製・調合に長けた大学教授の協力のもと作成した安定化化合物を定期的に摂取して普通の人間と同じ年の取り方ができるようになったエヴリンと共に、イーサンは平和に過ごしていた。ジョーとゾイも引っ越し、新生活を始めたと絵葉書をもらった。今度直接会いに行こう、イーサンはそう思った。
「ただいまー」
「おかえりエヴリン」
すると近くのスクールに行っていたエヴリンが鞄を斜めにかけた指定の制服姿で笑顔で帰ってきた。出迎えたイーサンに飛び付いて抱き着くエヴリン。
「ねえ、やっぱり勉強つまんないよー」
「それでも友達できるのは嬉しいだろ?」
「うん!家族もいいけど友達もいいものだね!」
コネクションによる教育を受けたエヴリンに勉強の必要はないのだが、真っ当な道徳を学ばせるためにスクールに通わせているイーサン。友達ができたことを喜んでいるエヴリンに顔を綻ばせる。
「ところで私の愛しいローズは何処!?」
「二階だ。手洗いうがいしてから行けよ、近頃は怖いんだから」
「いつも思うけどカビの塊の私に意味なくない?」
「ローズに触らせないぞ」
「行ってきます!」
走って洗面所に向かうエヴリンの背中を見て、イーサンは三年前のあの日を思い出した。
『お別れだね、イーサン』
弱っていた真エヴリンに細胞活性修復薬を投与し容体が落ち着き、クリスたちの部隊が事後処理に走り回り、イーサンがジョーやゾイ、ミアと共に一息ついていたところでいきなりそんなことを言いだすエヴリンに目を見開くイーサンとジョー。
「なんでだ。お前、俺にこれからもついてくるって……」
「エヴリン、その身体どうした?」
「なんで、お前……」
ジョーが言った通り、体が透けて消え始めているエヴリンに青ざめた表情を浮かべるイーサンとジョー。そんな姿を見て困った笑みを浮かべて頬を掻くエヴリン。
『なんでって、イーサンがこの時代の私を完全に救ったから「残留思念」の私は存在しないことになったからかな。死んでもないのに残留思念がいるのもおかしい話じゃん?』
「お前、それならそうと…!」
『言ったら私を救うことに迷ったはずだよ。そうなるのは私も望まない。大丈夫、元の時間軸に戻るだけだよ。同時に私は消滅するだろうけどね』
「なんで……未来に戻るだけなんだろ?」
『私、爆弾を起動して自爆する直前だからね』
「「!?」」
さらっと語られた衝撃の事実に絶句するイーサンとジョー。会話が聞けないミアとゾイ、真エヴリンも二人の鬼気迫る表情から何かを察したらしく神妙な顔をしている。
『未来のイーサンを逃がして自爆する直前、菌根のネットワークに接続することで過去に遡れるんじゃと思いついて一か八かで実行したんだよね。菌根を辿って過去の菌根に接続しているのが今の私ってこと。簡単に言うとコンピューターウイルスかバグみたいなものだね』
今頃未来のあの場所には抜け殻になったギガント・モールデッドがあるのかな?と聞いてもないのに今の自分たちには理解できないことをペラペラと喋るエヴリン。それはまるで何かを誤魔化すようで。
『私も、イーサンやミアやローズとこの手で触れ合えて笑顔でいられる未来を手に入れたから満足。うん、自爆する前の心残りが消えたよ』
「まて、待て待て待て!」
光の粒子となって消えて行くエヴリンに、イーサンは手を伸ばすが虚しく擦り抜けてしまう。
「俺はお前がいたから、頑張れた!お前がいないと駄目だった!お前がいなくなったら、俺はどうすればいい!?」
『もう。イーサンはウィンターズ家の大黒柱なんだからね。私がいなくても戦うの。戦って、家族を守るんだ。いい?私の妹を泣かせたらぜっっっっったいに、許さないんだからね!』
そうビシッと指を突き付け、もう顔だけになったエヴリンはイーサンの顔を見ない様にか振り返って空を仰ぐ。
『本当にありがとう、イーサン。私を救ってくれて。あ、ひとつだけ。ルーマニア料理には気を付けてね?』
「エヴリン…!」
その言葉を最後にエヴリンは完全に消滅。残った粒子は風に散って消えて行った。
『いやー、よく考えたら物理効かないから爆発させたらすぐに戻ってきたんだ。ごめんね?心配かけて』
なんか幻聴が聞こえた気がした。するとキッチンの方からドンガラガッシャンという轟音が轟いて慌てて向かうイーサン。
「どうしたんだ、ミ…ア…?」
そこに広がっていたのは、作っていたであろうスープがぶちまけられ、モールデッドの形状にして巨大化させた右腕でミアの胴体を掴んで壁に磔にしている、見たことのないほど憤怒に満ちたエヴリンの姿。ミアの苦しむ姿を見て慌てて止めに入る。
「くっ、あっ…助けて、イーサン!」
「待て、エヴリン!一体どうしたって言うんだ、ミアに何を……」
「騙されないでイーサン。こいつはママじゃない。お前は誰だ?」
エヴリンのドスの効いた声を聞いてはっとなってぶちまけられたスープを見る。赤い、赤い、恐らくはルーマニアの伝統料理。未来のエヴリンが言っていたのはこのことかと、エヴリンを憎悪に満ちた表情で睨みつける信じられないミアの姿に確信する。
「なにを言ってるの?私はミア・ウィンターズ…貴方の………母親よ?」
「黙れ。母親と言うのにも口ごもるお前がママなわけがあるか。ママをどこにやった?!」
締め上げるエヴリン。するとミアの姿が崩れて、ローブ姿の女性……このイーサンとエヴリンはその名を知らないがマザー・ミランダへと変貌。憤怒に顔を歪ませて喚き散らす。
「くそっ、くそっ!なぜだ、完璧な擬態だったはずだ!」
「ママはね、帰ってきたら私に「おかえりエヴリン。パンケーキにする?それともクッキー?」って聞いて来るんだよ!!ただおかえりだけ言ってママなわけがあるかあああ!」
「思ったより分かりやすい理由だったな!?」
少なくとも俺は完全に騙されていたんだが。面目ない。
「くそっ…できそこないの分際で……!」
「できそこないじゃない。私はエヴリン、エヴリン・ウィンターズ!イーサンとミアの長女でローズマリー・ウィンターズの姉だ!覚えて置け!」
「っ…があ!?」
さらに壁にミランダを叩き付け、壁を粉砕して外に出るエヴリンに溜め息を吐くイーサン。もう何度目の引っ越しになるんだろうか、数えるのは随分前にやめた。引っ越しを手配してくれるクリスをまた怒らせることになるなあという溜め息だった。
「くそっ…赤子を、ローズをよこせええええ!」
「あんだとこの野郎」
異形の魔女の様な姿となり突進してくるミランダの叫びを聞くなり玄関に飾ってあるダブルバレルショットガンを手に取り容赦なくぶっぱなすイーサン。「ぷぎゃっ」と短い悲鳴を上げてエヴリンの手を離れてゴロゴロと小高い丘を転がり落ちて行くミランダ。人気のない場所を選んでよかったとイーサンは弾を込めながらエヴリンと共に歩み寄る。
「ローズに手を出そうとはいい度胸だ」
「ボコボコにしてママの居場所を吐かせてからクリスに突き出してやる」
未来から来たエヴリンが歴史を変えた結果、訪れた未来。壮大も何も始まらない。
BIOHAZARD7【feat.EvelineRemnants】、意味合いとしては「未来のエヴリンの残滓」です。
未来エヴリンの正確な正体は「自爆直前で菌根を伝って過去にやってきて、心残りだったイーサンが無事にローズと余生を過ごせる世界を創るために奮闘していた本編エヴリン」となります。このあと爆発して普通に戻ってきた模様。一瞬の間にとんだ大冒険をしたものです。魂であることを利用して過去の菌根へと移動してたので、コンティニューするたびに三年前の寒村上空へ飛び出して、海上を飛んで向かっていたってのがカラクリです。正確には魂を過去へ転送してた感じ。
爆誕、エヴリン・ウィンターズ。本編エヴリンと違ってミアが偽物だと見抜いて即攻撃する頼もしい子ですが、何度も引っ越す理由を作ってる問題児でもあります。
次回からはシャドウオブローズ編をやりたいところ。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。