BIOHAZARD VILLAGE【EvelineRemnants】 作:放仮ごdz
今回は私邸を支配する蜘蛛との対決。楽しんでいただけたら幸いです。
その少女は、生まれつき眼が見えなかった。そのため、聴覚が否応なく発達して、地獄を見た。とにかく、周りの人間が煩わしかった。四六時中、顔もわからない誰かが飽きることなくピーチクパーチク喚き散らす。母だろうが父だろうが兄だろうが関係ない。どんな小さな声だろうが、彼女の耳には大音量で聞こえる。聞こえてしまう。悪意に満ちた「声」すら聞こえてしまう。ただ眠るだけでも優れた聴覚が声を拾ってしまうため安眠もできず、キャパシティーを超えて意識を失い気絶することで何も聞こえない状態になることだけが救いだった。暗闇の中、延々と声を聴き続けた少女は、発狂した。ただ、普通に生きたいだけなのに。
狂い果てた少女は、元々お荷物としか思っていなかった心ない家族に見捨てられ、その聴覚を欲しがったH.C.F.に売られ、買い取られた。どんな形でもアンブレラに勝とうという節操なしなスタンスから少女を買い取ったH.C.F.は、その聴覚を利用した生物兵器、言うなればリッカーの強化個体を作ろうとしたものの、失敗。T-ウイルスに適合したものの発狂し、凶暴に暴れ回った少女をH.C.F.は鎮圧し廃棄処分とした。
命が尽き掛け、ああ、これでようやく解放される……そう安堵した少女だが、悪魔がその手をとってしまう。少女は目覚めて、驚愕した。明るい。眩しい。文字通り目が覚めた。自分に、目があるのだ。目の前に立つ不気味な少女はアトラナートと名乗った。これでようやく自分も普通の生活が送れる、そう希望を抱いて感謝を声に出そうとして、それはすぐ打ち砕かれる。慣れない視界に倒れそうになった自分の体から生えた、蜘蛛の脚が支えるのを見てしまった。着せられた手術衣を突き破って自分の背と腹から二本ずつ伸びた蜘蛛の脚の関節にも眼がついており、客観的に自分の今の姿を見てしまう。
ストレスの影響か色素を失った灰色の長髪。目つきの悪い眼。その眼孔の中に元々の眼なのだろう灰色の眼の横に新たな真っ赤な眼球が形成され、計四つの眼球がギョロギョロと動き、こちらを見て驚愕に目を見開いている。そして、自分の身体を支えるように生えた前と後ろ二本ずつの四つの蜘蛛の脚に、口の端から飛び出した鋏角がカチカチと音を鳴らす、異形のなにか。うえっ、と。腹の中からなにかがこみ上げ、吐き出す。吐き出された胃液は、瞬く間に地面をドロドロに融解させる溶解液で。焼き付く喉が再生していくのを感じて、少女は理解した。人でなくなったのだと。
望んでもないのに異形に変えられた怒りのままに、アトラナートを蜘蛛脚の先端の爪で貫こうとして。悪魔が手を揺らすだけで、拘束された。慣れない身体で身動きが取れない自分の眼前に怪しく輝く眼を合わせて、悪魔は嘲笑う。「
この身体を見つけた場所、私邸跡地の庭まで戻ってきた。奴から離れた今なら、と力を込めてみるもやっぱり、抜け出すことができない。両手を見る。鋭い鉤爪のついた赤紫色の鱗に覆われた大きな右手と、肘辺りまで蟲の外骨格を思わせる蜘蛛の脚の様な指の異形と化した左手。そして背中から生えた赤紫色の毛に包まれたタランチュラの物を思わせる蜘蛛の足。………ああ、擬態で何とかなるにしても完全に化け物な見た目になっちゃった……。人間と蜥蜴と蜘蛛のキメラだあ。
「…でも使えないことはないしひとまずは残しとこ……」
「エヴリン。セルケトは……悪い奴じゃない、そうだろ?」
「クリスにとってはそうかもしれないけど、私とクイーンとアリサはセルケトに襲われてるからなあ……」
クリスが縋るように聞いてくるが、正直セルケトとは洋館事件とヨーロッパに旅立つ前の間までしか交流がない。自意識過剰でプライドが高く、嫌なものは嫌と言えるさばさばとした性格。それでいて執念深い、蠍のイメージそのままな人格だ。なによりもウェスカーとバーキンの事を尊敬していて、彼らを喜ばせるために、自らが傑作だと証明するために命令に従って、そして用済みになれば裏切られ殺されかけた。ハンクとかいう人間に命を救われたあとはウェスカーとバーキンを殺すためだけに生きている。……いい奴な要素が一つもないよね、うん。
「セルケトの目的はウェスカーの殺害だ。でも、洋館事件では勝つことができなかった。それは、知ってるよね?」
「ああ。アンブレラを潰しウェスカーも見つける、利害が一致したから共にいた。あいつは、仲間を裏切るような奴じゃない」
「でもね、クリス。B.O.W.は心が弱いんだ。………
これは持論だけど、これまでたくさんのB.O.W.に出会ってきて、感じたことはそれだった。世界を巻き込んだ復讐を選んだ挙句に仲間を斬り捨てたマスターリーチ。支配することしかできなかったイブリース。シェリーを案じていたことも忘れて究極の生物に至ろうとしていたアネット。喰らい続けることしかできずに肥大化し続けたグレイブディガー・ヒュドラ。みんな、みんな。自分の在り方に悩んでいた。そして、楽な方に逃げたんだ。
「…すまない。俺も、アイツに裏切られて気が動転していたんだ……言いたくもないことを言わせて、悪かった」
「気にしなくていいよ。とりあえず身を隠そう。あいつらが追ってこないとも限らないし」
蜘蛛の脚で半壊した入り口を乗り越えて、かつては美しかったであろうエントランスに入る。あの洋館に似てるな。とりあえず、身を隠せそうな部屋……いつもなら、すり抜けて探せるのに。
「こっちは破壊の跡が少ない。爆発の被害が少なそうだ」
「うん、そうみたいだね」
なんか、瓦礫を片付けられたかのように小さな石ころなどは散乱しているけど綺麗な廊下に出て、奥の部屋に入る。どうやら小洒落たBARだったらしいそこのソファに、二人揃って腰かける。生身の体ってなんでこんなに重いんだろう……ああもう、蜘蛛の脚、邪魔だな!
「とりあえず作戦を考えよう。まずオメガちゃんとグラと合流して」
「いや、それより前に武器がいる。俺はハンドガンだけじゃ心もとない」
「クリス、元S.T.A.R.S.でしょ!?武器ぐらい持ってきてよ!?」
「急いできたんだ、それにセルケトもいた!必要最低限の武装で事足りるとおもっていた!」
「私もあんなのがいるなんて思わなかったけどさ!」
ちょっとした口論になり始めた。精神的に限界なのは目に見えて居て。私達は、部屋に入った時から視界に入っていたそれに気づいてもいなかった。
「………うるっっさいなああああ!」
「「!」」
BARカウンターの向こう側で、布団にくるまっていた何かがもぞもぞと動き出す。カウンターの向こう側から飛び出してきたのは、関節に単眼がついた黒い蜘蛛の脚だった。単眼がギョロギョロと動いて私とクリスを視界にとらえると、その脚を支点にしてカウンターの上に乗り上げたそれは、黒いフード付きパーカー、黒いショートパンツとタイツを身につけた目を瞑った女性の様な姿をしていた。しかしその背中とお腹から突き出てカウンターに乗っている蜘蛛の脚と、口から覗く鋏角が、彼女もアトラナートの眷属だと示していて。
「ピーチクパーチクうるせえんだよっ!!人の安眠を邪魔しやがって、永久に眠りてえのか!?」
灰色の長髪に隠れた、切れ長の眼が開いて、四つの眼球がこちらを睨んだ。クリスが、目の前の机を蹴り飛ばしてそいつに叩きつけ、サムライエッジを構えて立とうとするが、次の瞬間机が壁に激突して砕け散る音が聞こえた。見れば、奴は既にそこにいなかった。
「は…?」
「欠伸が出るぜ」
声が聞こえて振り返ると、壁を這っていつの間にか接近していた怪物の脚に蹴り飛ばされ、私は壁を突き破ってエントランスに転がる。痛くはない、けど。こいつ、速い……!
「ああ、お前も同じか!あいつの、アトラナートの…!それは同情する。俺はお前の先輩の……名前は忘れた。今はポリポッドと呼ばれてる。だけど、だけどな?寝させてくれよ……せっかく誰もいない場所にこれたんだ、ゆっくり寝させてくれよォオオオオっ!?」
「それについてはごめんなさい!?」
エントランスの壁を目にも留まらぬ高速で動きまわるポリポッド相手に、身構える。……今の私にできることを。イーサンなら、そうする。私はもう、逃げない…!
B.O.W.ってなんでいつも悪役なんだろうな、6の彼みたいに最後まで正義を貫いた男もいるのにな、と常々考えていることの僕なりの答え。楽な道に逃げたかどうか、その違いなんだと思います。
そして登場、ポリポッド。アトラナートに心酔はしてないけど逃げ道を失った少女のなれの果て。四貴族モチーフは普段は温厚だけど怒ると怖いドミトレスク夫人。彼女もミランダに改造されて逃げ道を失った一人だと思います。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
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