古戦場の岩穿つ青 ~グラスワンダー、歴史を駆ける~ 作:室星奏
1章:1話 プロローグ
『今1着でゴールイン! GⅠレース皐月賞! 1着はグラスワンダー!!』
昨日のレースをラジオで流しながら、舞い散る桜の木の下で一人、お茶を飲みながらのんびりと過ごす。古本屋で購入した歴史書を読み、退屈な休みの日が過ぎ去っていくのを待つ。
GⅠに勝利した私は、トレセン学園から直々に、休息という名目の休みを数日間提示してきた。勿論何をしても自由なのだが、無理に身体を動かす事は許可されていない。あくまで疲れをしっかりとる事を目的とした期間なのだから。
私はそれが嫌でたまらなかった。こうしている間にも、皆は練習して脚を磨き上げている。先ほどこっそり練習に紛れ込もうとしたが、案の定バレて注意を受けてしまった。何故なのでしょうか。
「……ふぅ」
だがしかし、3時間も過ごせば案外こういうのも悪くないと思ってしまう。退屈なのには変わりないが、静かにお茶を飲めるという事に関しては、悪い気などしない。寧ろありがたい位だろう。
そしてこの大きな桜の木は私のお気に入りであり、半分私の秘密の場所と化している。後々察したのだが、トレセン学園の端の方にあるからなのか、この桜の木を知っている人はこの学園にあまりいない様であった。
木を触って調べたのだが、相当の年季が入った大木だろう。今の今まで伐採されずに残っているのは、相当運のいい木なのでしょう。初めて見た時から、何かご利益が出そうな雰囲気が漂っているのを感じ、今となってはすっかりお気に入りの物と化していた。マチカネフクキタルが聞いたら、どう思うのでしょうか。
「春ももうじき終わる……ふふっ、風情があっていいですね。ふあぁ」
そよ風に吹かれ、桜を眺めながらお茶を飲む。これだけ喉かな環境に身を置かれていた故なのか、強い眠気に襲われる。練習やレース中は常に体を動かす為気にすること等なかったので、そういう時間帯であることをすっかり忘れてしまったようだ。
茶飲みを仕舞い、歴史書を閉じて、背後の桜の木にもたれかかる。ちょうどいい昼寝場所にいるのだから、利用しない手はないでしょう。
(たまにはこういうのも、良いかもしれませんね……)
そっと静かに目を閉じる。遠くから響く練習を頑張っているウマ娘たちの声が、良い効果音となって深き眠りへと誘ってくれる。それはだんだんと遠のき、遠のき、やがて完全に聞こえなくなっていった。
だけど、この時の私は知らなかったのです。この眠りについてしまった事こそが、私をさらに成長させた理由となる、"歴史の旅路"の始まりであるという事を……。
***
「……ん」
どれだけ長い事眠っていたのだろう。ようやく意識が身体に帰還し、静かに目を開く。眩い光と共に、視界一面が綺麗な夕空で覆われる。これもまた、日本の風情ある光景の一つだろう。
だがしかし、この時点で疑問に思う事がある。何やら地面が硬い。確か私が眠っていたのは、桜の木がある草木生い茂る庭の上だった筈なのに、この地面の感覚はまさにダートコースのように硬く、じめじめとしていた。
『……すな、追えーッ!』
「え?」
ふと、遠くから女の子の声で、とても女の子が発しているとは思えない言葉が響き渡る。それと同時に、何かと何かがぶつかり合う鈍い不快音も重なり合う。
日本の文化に興味がある私は、時折薙刀を振るったりしていた為に、その音がどういう物なのか直ぐに察しがついた。これは紛れもなく、鉄と鉄がぶつかり合う音、正に侍同士が戦っているような……そんな、感じの。
ガバッと起き上がり、急いで周囲を確認する。案の定、そこは私の知るトレセン学園ではなかった、というより建物らしきものが全然見当たらない。
唯一そう呼べる場所があるとするのなら、今私のいる山の下あたりに、何やらテントのような物と共に、縦長の旗が幾つも刺さっている奇妙な場所が一つありました。まるで歴史書にあった戦国時代の拠点の様です、というかほぼそれだと思います。
「こ、ここは……?」
空気の味も、風の感覚も、どこか私のいた場所とは少し違うような感じです。ウマ娘だからこそ分かる感覚というべきでしょうか?
そしてよく目を凝らすと、その拠点のような場所の付近には、明らかに私と同じウマ娘と思われる少女たちが数人見受けられました。しかし、何故槍とか刀っぽい物を持っているのでしょうか? 明らかに異常です。
「よ、よくわかりませんが、一先ずあそこに行ってみた方が良さそうですね」
制服の姿だと動きにくいため、湯飲みを仕舞っていた鞄の中から勝負服を取り出し、さっと着替える。常時持っていてよかったと、今心の底から思いました。
そして岩を穿つが如き速さで、一気にその山を駆けおりるのでした――。
グラスワンダーの性格と薙刀を見て『あ、これだ』ってなりました。
ウマ娘の設定とか調べるの凄い苦労しました。