寫眞機の少女(しゃしんきのしょうじょ) 作:butai yukkuri
〜戦車道がしたいです!〜
~プロローグ~
西住みほら大洗女子学園が優勝を飾った戦車道全国大会。大洗女子学園の栄光を目にし、友人を誘い外道に徹する武者もいれば、たった一人で戦車道に挑むものもいた。
◇ ◇ ◇
彼女たち、大洗女子学園は凄かった。
数々の強豪校を相手にギリギリではあったが勝利し続けていた。
サンダース、アンツィオ、プラウダに続き黒森峰まで彼女たちにはかなわなかった。
毎回戦術ドクトリンに囚われずに奇妙な戦術を使い、誰も予想できないような戦いをしていた。
西住みほとはどのような人物なのか、そんなことばかり考えながら少女、天馬凪は大洗女子学園戦車道全国大会優勝の表彰式をテレビ中継で見ていた。
隊長の西住みほに抱きついているのは誰だろうかなどとどうでもいいことを考えながら、夕日に照らされた少女たちの映るテレビ画面をパシャリと寫眞機で撮った。
◇ ◇ ◇
朝起きても、まだ昨日の感動が残っていた。
夕日に照らされる選手たちの涙。
風になびく優勝旗。
その旗に描かれた鷲と戦車。
どれをとっても全て網膜に焼き付いている。
凪は気付いていた。自分が既に戦車道というスポーツに魅了されているということ。
そして決意した。自分も戦車道をしようと。
さようなら昨日までの陰キャな自分、ようこそ今日からの充実した毎日。そう心の中で唱えて決心を固めた。
だが凪の通う学校、私立川跡学園高校には戦車道の授業はなかった。
ただし、学校で戦車のようなものを見たという噂もその学校にはあった。
もしかしたらその噂を知らなかった方が凪の為だったのかもしてない。そうならば、大洗女子学園のように下克上できるという希望を持って、無謀な戦いに挑むこともなかったのだから。
~戦車道をしたいです!~
「失礼します。」
凪は生徒会室に来ていた。戦車道を学校でできるようにしてもらう為だ。もし噂の戦車が見つからなくてもその時は自分で戦車を買ってでも戦車道をするつもりだった。
よほどのお金持ちでもない限り、こんな小さな学園艦内に個人で戦車を持てる人間なんていない。
それに学校の中で戦車を見かけたという噂なのだから、学校の備品であると考えるのが自然だろう。
生徒会室には生徒会長、鎌田牡丹がいた。普通、生徒会長がずっと生徒会室にいるなんていうことはないはずだが、お決まりというやつらしい。
牡丹は会長らしくなかった。なぜか脇を開いてガオー、と今にも言いそうなポーズでこちらを見ている。ちらちら見えている八重歯、左右で色の違う薄緑の髪とアホ毛もあいまって、とてもアホそうに見えてしまう。生徒会長という地位から想像していた姿とはかけ離れている牡丹を目にし、凪は少し戸惑いが隠せなかった。喋り出すこともできず、数秒間の沈黙が続いた。もしかしたら普段から会話を楽しむような人間ならばノリで返せたのかもしれないが、凪には到底無理な事だった。
先に動いたのは牡丹だった。
「それで、天馬さんはここに何をしに来たんですか。」
見た目とはまるで違い、とても真面目な口調だった。ギャップ萌えと言われるような牡丹のキャラに、小説や漫画で見るようなただただ真面目なの生徒会長なんてこの世に存在しないのかと思いながら凪は答えた。
「この学校で戦車を見たという噂を聞いたので、今は授業がないだけで昔の戦車があるのではないかと思い、会長に貸し出しの許可を頂けるならばお借りしたいなと思って。」
「まさか君が言い出してくるとはねぇ。君は思いついても行動なんてする人間じゃなかったのになぁ。で、その戦車で何がしたいんですか。」
当たり前の質問が返ってきた。昨日までの自分の評価も聞こえてはいたが、今日からは昨日までの自分じゃない。あえて話を長くするようなことはしたくなかったので、牡丹からのの評価を訂正させるような真似はせずに、質問に即答した。
「私、戦車道をやってみたいんです。それでこの学校には戦車道がないので個人でやりたいなと。」
凪には考えがあった。学校が戦車のような高価な物を貸し出してくれるわけがないし、そもそも戦車道は一人でできるわけがない。最低でも砲手と操縦手が必要だからだ。こうやって嘆願すれば何らかの形で学校が戦車道を始めてくれるだろうと思った。生徒会なら部活申請か、もしくは学校に掛け合って選択授業に取り入れてくれるかと思っていた。
牡丹の答えは凪の思惑通りだった。
「そういうことなら同好会にしてしまいまましょう。人数が足りないから部活のように多くの部費は出せないけれど、学校の備品の貸出くらいはできるでしょう。」
成功した。そう凪は思った。最低あと操縦手の一人集まれば戦車道ができるようになるのだ。そして凪は一番大切なことを聞いた。
「この学校の備品の戦車は何があるんですか。」
この質問の答えによって多くのことが変わってくる。戦車道にはレギュレーションが存在するからだ。終戦前に開発、もしくは試作されている戦車でないと出場できないルールだったはずだ。
「ちょっと待っていて下さいね。書類を探すので。」
そう言って牡丹は書類の沢山収まっている棚から書類を取り出した。こちらも牡丹の外見の印象と違ってしっかり整理されているようだった。
「これが学校の保有している戦車の一覧です。」
凪の前に差し出された書類は薄かった。この学校はあまり戦車を保有していないようだ。
だがまだ一人の彼女には多くの戦車なんて必要ない。一両あれば十分なのだ。
凪はぺらぺらと書類をめくっていった。その書類には一枚一枚戦車の写真と大まかなスペックが書かれていた。
ただ一つ問題があるとすれば、写真部分に売却済みというハンコが押されていたことだ。リストには四号戦車にチト、ブラックプリンスまであったが、まだ学校にある戦車はほぼなかった。そう、ほぼなかったのだ。一つを除いて。
唯一売却済みのハンコが押されていない戦車の名称はクーゲルパンツァーとなっていた。
凪はそんな名前の戦車を聞いたことがなかった。
だがそれは仕方のない事だった。そんな戦車を競技に出す学校なんて存在しなかったのだから。
しかもよりにもよってその戦車だけ写真の部分が擦れ、見れる状態ではなかった。凪は牡丹に聞いてみることにした。
「会長、このクーゲルパンツァーという戦車はどのような物なのですか。」
牡丹もこの学校の生徒だ、学校に何十年もいるわけじゃない。古い昔使っていた戦車のことなど知るはずもない。
一応凪もそれを理解していたが、聞いてみずにはいられなかった。
「私も細かいことは知らないんです。でも、保存場所はわかるので行きましょうか。ただし、同好会申請をしてからです。同好会でもなく個人に戦車を貸し出すわけにはいきませんでしょう?」
凪は一秒でも早く戦車を見たかったが、牡丹の言っていることも理解できるので仕方がなかった。
凪はさっさと同好会申請用紙を書いた。細かい活動内容については戦車の現物を見てから決めるということで双方の意見が一致したので特に問題にはならなかった。
◇ ◇ ◇
凪と牡丹は学校の物置区画に来ていた。
周りは学校の備品がぎっしり詰まった倉庫が埋め尽くしていた。倉庫街と言うのが一番適しているのだろうか。戦車はこの物置区画の端に、戦車の軒下を雨除けにする形で保存してあるらしい。
凪は今にも鼻歌を歌い始めそうだった。もしかすれば自覚していないだけで歌っていたのかもしれない。それほどまでに気分がよかった。これから自分の乗る戦車を見れるのだから。その戦車に乗って動かすことができるのだから。
「さあ、これですよ。」
牡丹に連れられた先にはしっかりあった。凪が憧れる戦車というものが。
そう、そこにはしっかりあったのだ。クーゲルパンツァーが。
この文章を書いていたDiscordの二次創作制作鯖が風化してしまったので自分のアカウントで書き直して投稿することにしました。もともと私が書いていたので書き直しやすかったんですが、同じ題名の作品が一つ投稿されているので気をつけて下さい。これからも最低でも1ヶ月に1話ずつは投稿すると思います。どの学校と戦わせるかとか全く決まってないのでストックの文章が尽きるまでに決めたいです。順番のリクエストや、こんな戦車でこんな学校作って欲しいとかあったらコメントお願いします投稿が早くなるかもしれません。