寫眞機の少女(しゃしんきのしょうじょ) 作:butai yukkuri
〜児玉七郎さん、お願いします!〜
凪と牡丹は日本戦車道連盟会館前に来ていた。なかなかにしっかりとした建物で、庭には第一次世界大戦時のイギリス陸軍戦車であったマークAホイペット中戦車が置かれている。二人には戦車の知識がほとんどないのでわからないが、きっと日本戦車道に大きな影響を与えたのだろう。だが、ここが戦車道連盟の本部なのだと思うと何か感慨深いものがあった。
戦車道連盟の組合長とは待ち時間も殆どなく、案外すんなり会うことができた。アポを取ったのだから当たり前なのだが、それでも凪にはとても長い時間に感じられた。
組合長室に入ると、白黒の和装をした男と軍服色の服、いや、軍服を着た女性がいた。日本戦車道連盟で組合長のを務める児玉七郎と、陸上自衛隊富士学校富士指導団戦車導隊に所属する女性自衛官の蝶野亜美一尉だ。彼女は日本戦車道プロリーグ強化委員なのでその話し合いにでもきていたのだろう。
連盟の組合長である児玉七郎は、正直にいうと太っていた。頼りなさそうだった。文科省と組合員との板挟みになっている為に腰が引けてしまっているのだろうか。交渉事をする相手としては少し心許ない。
「ええと。自校の戦車で使える武装についての相談をしたいということだったな。」
七郎が今日の話し合いについての確認をする。
「はい。私の学校にある戦車はクーゲルパンツァーという戦車でして、車体に武装が搭載されていないんです。」
凪を置いて牡丹が話を進める。
「そうですか。それでどのような武装を使いたいのかね。」
「対物ライフルなどの歩兵携行の対戦車兵器を使いたいんです。それで使える武装の範囲を相談したくて。」
ついに凪が発言した。しかし、今の言葉だけでは言葉足らずだ。
「範囲というと、どのような範囲なの。」
蝶野一尉がある程度察したような雰囲気で発言した。ある程度こちらの言いたいことがわかったようである。今回の一件では一見部外者に見える蝶野一尉にも無関係とは言えない。話し合いで決まるルールがプロリーグにも影響を与える可能性があるからである。もしかしたらこの話し合いを聞かせるために七郎が蝶野一尉を呼んでいたのかもしれない。なぎからすれば関係ないが、このフォローはありがたかった。
「はい。戦車道のレギュレーションだと、戦車は戦中に開発されていたものという条件ですが、それに搭載される予定だって部品ならどのようなものでも搭載可能というルールだったので。」
「つまり歩兵が自分で武装を持ち込んで撃つ戦車だから現代兵器を持ち込むのも搭載予定と言えなくもないのかということですね。」
流石蝶野一尉である。こちらの言いたいことを的確に当ててきた。
「はい。戦車道の補助金を受け取れても二セット武装を用意はできませんから。」
牡丹が答えた。凪には、二セット用意できない事より同好会の予算と補助金だけで武装を購入できるということに驚いた。かの大洗女子学園も、補助金と他の委員会などの予算をかき集めてやっと四号線車のシュルツェンとヘッツァー改造キットしか購入できていなかった。私立川跡学園高校にそれだけの財力があったのは本当に驚きである。
「難しいですねえ。携帯電話のような私物として扱うという手もありますが、文科省が許すかどうか。どう思います、組合長。」
突然判断を迫られて七郎が一瞬焦った顔をする。
「武装も私物だから問題ないと認めてしまって現代のものを認めると助っ人を呼んだ時、洗車も私物だからという言い訳をしにくくなりますからなあ。できれば戦中のものにしてくれるとありがたいんだが。」
頼りなく見えていた七郎も文科省への言い訳を用意していたようだ。確かにいざというときの手立てを日本戦車道連盟から奪うわけにはいかない。いざという時に文科省から助けてもらえる確率が下がる。私立川跡学園高校は私立のため統廃合の話から逃れることができていたがいつ文科省がちょっかい出してくるかわからない。世間は今の文科省にそれほど警戒をしている。
「そうですか。ならば戦中に作られた対戦車兵器ならば承認してくれるという事ですか。」
牡丹が確認する。
「いや、文科省がどう言うかわからないからねえ。私が言うのもなんだけど戦車道競技に参加するってことではダメなのかい。」
戦車道競技はタンカスロンと呼ばれ、10トン以下の戦車ならレギュレーションなどなく、何をしてもいいという非公式の競技である。そのため、スポンサーが付きでもしない限り自分で壊した街の修理代などを払わなくてはならない。戦車道が一同好会でしかない私立川跡学園高校には到底無理な話だ。
「残念ながら我々の予算では戦車道競技に参加することはできません。そもそも補助金の貰えない戦車道競技では戦車を動かして戦える状態にすらできません。」
補助金があれば武装一式揃えられても、無ければ整備すらできない状況だったらしい。予算が多いと思っていた凪は考えを改めた。
「そうなのか。なら文科省に掛け合ってみるしかないなあ。今からで問題ないかい。」
牡丹の週末にすると言う判断は間違っていなかったらしい。
「もちろん大丈夫です。念のために学園艦には明日一杯まで動かないよう命じてありますので。お願いします。」
聞いた七郎は静かに頷くと蝶野一尉に指示を出した。
「蝶野君、明日君も文科省までついてきてくれるかね。」
「はい。私からしても他人事ではありませんので、参加させていただきます。」
凪がそんな大きなところにすぐ行くのかと動揺している間に文科省に行くことが決まってしまった。だが日本戦車道連盟でも当日のアポを取るのは難しかったらしく、翌日の十時からということになったので、凪と牡丹は一度学園艦に帰り万全の状態で交渉に臨めるよう早く寝るようにした。
やっと第3話です。リアルの方で忙しくなってきましたが、ストックが3週間分あるので投稿が途絶えることはないのでご安心を。ではまた来週。