Qどうしてそんなに速く走れるの? A呼吸の仕方があるんだよ 作:競輪
走るのが好きだ。物心ついた頃からそうだった。
それは、ウマ娘からすれば当然の本能。殆どのウマ娘が走ることを望み、競走バにならないウマ娘も他のウマ娘が走る姿に憧れを抱く。
自分は、そんなウマ娘の中でもその本能が強いほうだと思っている。誰もいない景色だけを見て、走るのが好きだ。足の速さも抜きん出ていてから、それを叶え続けることが出来た。なのに、最近は違う。
「…………っ!」
トレーナーに言われたメニューをこなしても、タイムが伸びない。負けが増えた。走りを『逃げ』から『先行』………スタートから一位を維持するのではなく余力を残して走り終盤で抜くという走りに変えてから、抜くどころか抜かされるようになった。
負けが続く度に、足が重くなる。見えない鎖に雁字搦めにされたかのように、一歩一歩進むのが苦痛になる。
もう一度あの景色が、先頭を走るウマ娘だけに見れる景色が見たくて練習を繰り返しても、残していたはずの足が上がらない。
「お前、随分苦しそうに走るな」
「………え?」
一人残りターフを走り、上がらないタイムに俯いていた自分にかけられる声。地面を見ていた顔を上げれば作業服を着た男性が柵にもたれかかっていた。
「え、っと………」
誰だろう? 服装からして用務員だろうが、見たことが無い顔だ。
若い………青年と言うには幼さの残る年齢。自分より少し年上……高等部ぐらいだろう。炎のような痣が目を引く、顔立ちの整った少年。
「誰、ですか?」
「俺? 俺は新しい用務員。おま………君は?」
「………サイレンススズカです」
よろしく、と軽く手を降ってくるので振り返す。
「あの、さっきのはどう言う………」
苦しそうに走る、彼はそう言った。確かに疲れていれば苦しそうに見えるだろうが、なんとなく、彼が言いたいのはそういう意味ではないような気がした。
「君、その走り方嫌いだろ? 足がどんどん重くなる」
「それは…………」
その通りだが、口をつぐむ。これは自身のトレーナーが今後の試合でも勝つために考えてくれた策なのだ。彼女は確かに成果をくれた………故にスズカは新しい取り組みも、未だ成果が出ず、どころか遅くなっていても素直に聞いているのだ。きっと、まだ新しい走り方に慣れていないだけ。他のウマ娘達は彼女の指導で確かに速くなっている。
「だから、速く走れないのはきっと私に原因が」
「そもそも本気で走ってないだろ」
「…………え」
「前の奴に合わせるなんて、それこそ相手がよっぽど速くなきゃ苦痛だ。俺だったら『ナニちんたら走ってんださっさとどけクソが!』って思うね」
なんとも楽しそうに下品な言葉遣いをする用務員の目には、どこか同類を求めるような親しさを感じる。
「わ、私は別にそんな事……」
「本当に?」
見透かすように、笑う。
思い出した、確か年の近い新しい用務員が入ると聞いた。昼頃、放送で生徒会室に呼び出されていたが結局その時は他のトレーナーとそのウマ娘の付添で病院に行っていたらしいが、用事を済ませた帰りだろうか?
「まあ、一々言葉にするより実際走ってみた方が早いかもな」
と、柵を越えターフに降りる用務員。
芝の感触を確かめるかのように、グッ、グッと爪先を地面に押し付ける。
「………………」
「あ、あの………」
何故コースの上に来るのか……真後ろから見たいということだろうかと困惑していると、用務員が走り出す。
「…………え?」
思わず声を漏らすスズカ。それ程までに予想外の光景。走り出すこと、ではない。わざわざ足場の確認をしたりするのだ、そう言うこともするだろう。問題は、その速度。
ウマ娘にも匹敵する、人の域を超えた速度。暫く進むとUターンし、ザッザッと足音を立て戻ってくる。
「だいたい感触は掴めた。んじゃ、走ろうぜ」
「………
自分でそう言いつつも、彼がウマ娘に匹敵する身体能力を持つのは今見たばかり。この時間、どうしても一人で練習するしかない彼女にとってその提案は、正直ありがたい。一人で走っていると、どうしてもペース配分を間違えてしまいそうになる。慌てて速度を落としたら、今度は上がらないなんて日常になってきた。
「ああ……ただし、やるからには全力で勝ちに来てくれ」
「…………わかりました」
タイマーを操作し、十秒に設定する。0になれば音がなり、自動で時間を数えてくれる。
ガシャン、ガシャンと特徴的な音がなり、数字が減っていく。3になり、構える。2になり、力を込め1の時点で準備完了。0と同時に走り出した。
「───っ!!」
やはり、速い。トレセンのウマ娘達と比べても遜色ない速度。けど、リギルのウマ娘達に比べれば………
「……?」
と、そこで違和感。リギルの面々を思い出し、彼の走りに既視感を覚える。この走りを、何処かで?
(………けど、それより遅い? それどころか……)
明らかに、さっき見せた走りに比べて速度が落ちている。
やはり人間だから、あの速度を維持できないのだろうか? それにしては足並みに乱れが無い。
(足をためてる?)
先頭を走る……つまりは『逃げ』のスタイルで?
それとも、彼の中では『先行』………今の自分の同じ走りなのだろうか?
(………今抜いたら、私が一番前)
だけど、もし本当に足をためているなら、体力を温存していたなら、自分も余力を残しておくべきだろう。
(……もっと速く走れるくせに)
──俺だったら『ナニちんたら走ってんださっさとどけクソが!』って思うね
先程の会話が蘇る。走っているのは自分を合わせてたった二人、今抜かせば、一番前。
抜かせそうだけど……けど、まだ第2コーナーを回ったところ。直線が、長い。もう行くべきか? それとも第3コーナーまで待つべきか? だとしたら、遠く感じる。
「…………!」
足が、重い。鎖でも絡みついたかのような不快感と重量感。抜かしたい………もっと、速く走りたい。
第3コーナーに、入る。
「───っ!?」
用務員が加速する。先程よりもずっと速く。追いかけようとスズカも足に力を入れ…………なのに、持ち上がらない。距離は、どんどん開きていく。
「………駄目、待って………」
一位と二位、そこに差が大きく開くことは稀だ。ましてや2位も取れなくなってきたスズカにとって、ゴールする時前のウマ娘との距離は殆ど無い。
だけどたった二人のこのレース、それが嫌でも浮き上がる。自分の前を走る誰かの背中が、頭から足まで……後ろ姿が全て見えるほど距離が開く。
違う! こんな光景が見たいんじゃない……自分が見たいのは!
「………………ハァ………ッハァ」
結局抜くこと叶わずゴールした。タイムは、結局伸びない。肩で息をするスズカに用務員は飲み物を差し出して来る。
「…………やっぱ、ストレスが溜まる」
「え?」
「前半余力を残す………のはまあ、長距離なら当たり前だがそれにしたって残しすぎた」
うぎぎ、と唸る用務員は、やはり『先行』のつもりで速度を調整していたのだろう。
「我ながら、後半良く伸ばせたものだ。足が重くなるしコースは長く感じるし窮屈で苦痛この上ない」
「なら、なんで最後あんなに」
「お前は一番前を走りたい……俺もそうだけどな、どうしても勝てない奴がいる。そいつが前に走ってるつもりで走った。それだけで、足の重さなんて消える」
尤もこれは俺だけのやり方だけどな、と付け足す用務員。
「んじゃ、もっかいやろうぜ」
「………え」
負けたばかりなのに、またやるの? と俯向いていた顔を上げるスズカは、しかし言葉に詰まる。
楽しそうに笑っていた。走るのが楽しいと言わんばかりに………。
「次も俺が勝つ」
「……………」
「今度は私が勝ちますぐらい言わないのか?」
「………負けたばかりですから」
「だから?」
「……え?」
「負けるのは挑まない理由にはならねえだろ」
そう言うと呼吸を整え終えた用務員はスタート位置につく。
スズカもその隣に立つ。
「次は本気で行く………」
「………」
ニィ、と歯を見せ笑う用務員。タイマーがゼロに近づき、スズカは視線を前に戻す。
「「──っ!!」」
ゼロと同時に走り出す。用務員の速度は、宣言通り先ほどのレースよりも速い。
「くっ!」
故に、スズカも距離を離されないために速度を上げる。後半に備えて温存こそしてはいるが、それでも残るか解らない速度で走る。完全な『逃げ』のスタイル。
(………なのに!)
それでも、追い付けない!
これが彼の本当の走り。リギルに比べても遜色ないどころから、やもすればリギルの中でもトップクラスの……!
第2コーナーに差し掛かり、遠心力で広がりながらも食らいつくスズカは、ここであれ? と気付く。
(………足が、軽い………なんで……)
ここ最近、カーブともなれば一歩一歩やたら足に来ていた気がする。遠心力という別の力が加わる以上、足には当然前に進む力以外もかけるのだから直線よりは重いがそれでも………。
(行ける、かも………)
また足が重くなるかも知れないなら、いっそ今のうちに!
「………!」
スズカが速度を上げたのに気づいた用務員もまた、速度を上げる。
脚が軽い、嘗ての調子を取り戻せたかのように……!
それでも、差が縮まらない! けど、まだ引き離されない!
「っ! あああああ!!」
大声疾呼。
叫び声を上げ、地を蹴る。もっと前へ、もっと速く!
それは向こうも同じなのか、僅かに縮み始めた差が、また固定される。なら、もっと速く!
「───っ!?」
「───!」
唐突に、用務員の体が傾く。慌ててバランスを取っているが、速度は落ちた。
「こ……こぉ!」
出し切れる速度を完全に出し切り、余力も無視して駆け出すスズカ。
さっきまで、たった一人に向けられていた、一人しか映らなかった視界が開ける。
「……あ………」
自分以外、誰もいない景色。先頭のウマ娘だけが見れる、一位だけが手にする光景。
これだ………これが見たかった!
疲れが一気に吹き飛ぶ。足の重みが、完全に消えた。もう、絶対に抜かせない!
「お、い………おーい! ゴール、過ぎ……ゴール過ぎてんぞ!」
「…………あ」
はっ、と正気に戻るスズカ。ゴールを通り過ぎていた。というか、ゴールの事忘れてた。
「やっぱ、速いじゃんお前」
そういえば何時のまにか呼び方が君からお前に……こっちが素なのだろうか。
「まあ、俺だって靴が壊れなきゃ負けなかったつもりだけど」
「え? あ………」
彼の言うとおり、彼の靴は見事に壊れていた。人間用に作られた靴ではウマ娘並みの速度で走る彼について行けなかったのだろう。彼が急にバランスを崩したのは、これが原因か。
「…………でも、それが無くたって負けるつもりはありません」
「………いいね」
スズカの言葉に嬉しそうに笑う用務員はスズカに手を差し出す。
「俺は中澤美好。トレセンの用務員、宜しく」
「………サイレンススズカです。よろしくおねがいします………」
「ウンウン、いい友情だ。そしてこの脚の筋肉も良い」
「へ? ひ、いやぁ!!」
「ぐへ!」
そこに第三者の声が加わり、スズカの脚がその第三者に思っきり触られる。スズカは顔を赤くして反射的に蹴り飛ばした。
「な、な、なんですか貴方は!?」
「………不審者か? 警察呼んだほうが良いのか?」
「待て待て待て! 違う、俺はこの学園所属のトレーナーだ!」
そう言って教員免許を見せてくる男に用務員……美好はそうか、と手を引っ込める。
「というか、お前今日入った用務員だよな? 生徒会室に呼ばれてたけど行ったのか?」
「…………………あ」
「4階の窓から校舎に入ったな」
「壁を駆け上がってましたね」
ミヨシの秘密
実は手作の巨大な狼のぬいぐるみをベッドにしてる(ジブリ好き)
感想待ってます
幼馴染ヒロインは誰にしよう。名前短縮により候補増加
-
スペ(正統派)
-
ライス(妹)
-
スズカ(しっかり)
-
マルゼン(姉)
-
ゴルシ(理解不能)
-
タキオン(研究者)
-
ウララ(後輩)
-
オグリ(大食い)
-
ルナ(ライバル)
-
マック(お嬢様)