俺と暴走妹   作:Atlantis

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結城由愛菜の恥/カレンの安堵

 

 この間の事件は恐ろしいものだった。他人の顔写真をその辺にさらし、名前と顔を不特定多数にさらす……絶対に、あってはならないことだ。

 

 しかし、このようなことがまた発生しないとは言い切れない。今後、嫌いな奴に対して似たようなことをする輩が現れても不思議ではないのだ。この世の中、人を嫌うという事は珍しくはないからな。

 

 そこで私は、あるプロジェクトを立ち上げた。漫画、アニメ、ゲーム、三つの媒体を利用し、他人を晒すことを抑圧するプロジェクトだ。

 

 ……人間は、リスクある行動を避ける傾向にある。反撃してきそうな人を攻撃せず、反撃してこなさそうな人を攻撃する。他人を攻撃する気持ちよさと、自分が反撃されるリスクを天秤にかけているのだ。

 

 今回はその性質を利用させてもらう。つまり、他人を晒すリスクをこれでもかというほど主張するのだ。

 

 軽い気持ちで親友を晒し、絶縁される。他人晒しが警察にばれ、多額の賠償金を支払わされて家庭が崩壊する。集団でいじめられっ子を晒すが、反撃を食らってしまい逆に自分たちが晒されて将来が滅茶苦茶になってしまう。

 

 これらのエピソードを作品に詰め込むことにより、他人を晒すリスクを知らしめるのだ。

 

 言ったら悪いが、このような展開はエンターテインメント性が高い。悪いことをした人が痛い目を見る、この流れが多くの人の関心を引くだろう。このプロジェクトが成功した時のリターンは大きい。

 

 少年漫画家、シナリオライター、犯罪の専門家、心理学者などなど、様々な分野の人々と協力して作り上げたシナリオを今日、福屋さんに監修してもらうのだ。彼は様々なプロジェクトを監修してきたプロである。彼を突破することが出来れば、商業レベルに達したと言っていいだろう。

 

 

 ……ちょっと、長すぎたようだ。朝の会に間に合うといいのだけれど。

 

 私、結城由愛菜はトイレから出るところだ。出発前に済ませたつもりだったが、今日はお腹の調子が悪かったらしい。

 

 

 ……ない。

 

 ない、ない、ない、ない、ない、ないっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 バッグがないっっっっっ!!!

 

 

 ……落ち着け、私。目をゆっくりとじ、慌てずに深呼吸だ。ふっ、はぁ!

 

 目を開けてみる。…………やっぱりない!!!

 

 

 とにかく、急いで探さ……ダメだっ、時間がない。朝の会に遅れてしまう。私のような人間が遅刻するのは問題がありすぎる。

 

 それじゃ、急いでクラスに戻って先生にバッグをなくしたことを伝え……ダメだっ、恥過ぎる。超有名企業「パレード」の社長の娘であり、いくつものプロジェクトに携わる私、結城由愛菜が、ずさんな管理で重要な所有物を無くしたと伝わってしまえば、多くの信頼を失ってしまう。

 

 

「結城さんは、思ったよりもうっかり屋さんなようですね。……面白いと、思いますよ?」

「結城様には失望なのです。慕っていた自分がばからしいのですよ。これからは、お兄様の時代なのです」

「結城さん、尊敬していたんだけどなぁ。お兄ちゃんがこんなに素敵な人から好かれていたんだって、あの時はうれしかったのに……」

 

 

 あああああっ! 彼と彼の妹たちから、失望されちゃう! それだけは嫌だっ。

 

 

 

「あ、結城さん。下の階の休憩所にあなたのバッグがありましたよ」

 

 何という幸運か、一人の女子生徒が私のバッグの場所を教えてくれる。良かった、これで彼に失望されずに済む。急いで取りに行かなくては。

 

「ありがとう。感謝するぞ」

「……このことは内緒にしておきますから、次からは取られないようにしてくださいね」

 

 女子生徒は穏やかな笑顔でその場を去っていく。

 

  

 ……私としたことが、注意されてしまうとはな。まあそれも、トイレに行くときにバッグをトイレの近くに置いていった私のせいなのだが。

 

 まあいい、今はバッグだ。急いで取りに行こう。

 

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

 滑り込みセーフ! ……な訳ないか。私のような人間がチャイムと同時に教室に入るなんて。周囲の視線が、とても痛い。でも、致命傷だけは避けることが出来た。バッグを無くすような失態を犯すよりはだいぶましだ。

 

 黒板の前に立つのは国語教師の山田さん。幸いなことに彼の授業では基本的に副教材を使用しないので、ロッカーに副教材を取りに行く必要がなく、バッグの中に入っている教科書とノートだけあれば十分だ。

 

 私は恥ずかしさを感じながらも、バッグの中から教科書とノートを取り出す。……良かった、ちゃんとあった。

 

 バッグの中を見てみても、今日使用する教科書とノートはすべてそろっており、教科書が盗まれてないことが分かる。

 

 プロジェクトのシナリオが入ったディスクはどうだろうか。盗まれていたら最悪だ。私は、バッグの中のディスク入れを確認する。

 

 

 あった! ディスク入れの中に、きちんとディスクが入っていた。バッグの中には家の鍵も入っているし、財布もあり中身も減っていなかった。恐らく、何も盗まれずに済んだのだろう。

 

 ……良かった、本当に良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ない、ない、ない、ない、ないなのですっ!!!!!!!!!!」

「カレンちゃん、今は授業中だよ。静かにしようね」

 

 カレン特製のディスクが、バッグの中に入ってないのですよ!

 

「今はそれどころではないのです。カレンの大事なディスクがないのですよ……」

「鞄の中をよく見てみたら? ディスク入れからディスクが落ちちゃったのかもしれないし」

 

「それなのですよ! バッグの中をよーく見てみるのです」

「頑張ってね~」

 

 ヒマリちゃん、ナイスサポートなのです。早速、ディスクを見つけ出してやるのです!

 

 

「あ、カレンちゃん。机の中を見てみて」

「………あっ」

 

 机の中に、ディスクがあるのです。そういえば、今日ディスクを取り出した記憶があるのです。

 

「良かったね、カレンちゃん」

「はい! なのですよ」 

 

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