「わるいねえ。福屋さんは今日都合が悪いみたいでね、この手紙を渡されているんだ、はいどうぞ」
出来上がったプロジェクトのプロットを見せるために福屋さんに会おうとしたところ、別の人から彼がいないことを告げられてしまった。
「結城由愛菜殿。約束を破るような真似をしてすまない。こちらの仕事管理ミスだ。しかしながら君には類稀なる才能がある。君の作ったプロットはもうすでに十分な内容だろう。これ以上手を加えるる必要はない。この私が保証する」
手紙には、そう記されていた。
……思うところはたくさんある。でも、今はそれどころではない。
眠いのだ。今日は徹夜でプロジェクトのプロットを作成していたためほとんど寝ていない。さらに、今日はバッグ紛失事件が発生してしまった。……もう、心も体も疲れてしまったのだ。今は一刻も早く家に帰ってベッドで横になりたい。
ああ、でも体が本格的にだるい。ここで休憩したくなってしまう。
リンリンリンリン……
ノリのいい音楽が流れてきた。どうやら電話がかかってきたみたい。
「結城様、カレンなのです」
可愛らしい声がスマホから流れてくる。ゆるふわ妹から電話がかかって来たみたいだ。まさか、彼女から電話が来るなんて……ふむ、悪くないな。
「結城様に提案なのですよ」
提案? 一体何なのだろうか。
「結城様はお兄様とデートに行くべきなのです」
デート? 私と彼が? ……うん、いい。すごくいい。
「お兄様の指定により、私もついていくことになってしまったので、残念ながらお兄様と二人きりにはなれないのですが……」
ゆるふわ妹までついてくるなんて。……もう、最高!
「デートはいつにしますか? 私たちは放課後ならいつでもOKなのです。何なら今からでもいいのですよ」
「ああ、今からでお願いする」
「分かったのです。それでは、私たちは今から結城さんの家に向かうのですよ。楽しみにしていてくださいなのです」
「ああ、分かった」
早く家に帰らなくては。ああ、ワクワクする。ゆるふわ妹と、お兄ちゃん。二人と一緒にデート出来るなんて。
私はダッシュで帰宅し、二人の到着を楽しみに待つことにした。
「『若村頌平、いじめ映像拡散事件』について確認したいのだが……」
「はへ?」
俺の耳に届いたのは、俺の昇格の知らせではなく、良く分からない事件の確認だった。……え、俺の正規メンバー入りの話じゃないのか? というかなんだ『若村頌平、いじめ映像拡散事件』って。俺が知りたいくらいだよ。
「あの、『若村頌平、いじめ映像拡散事件』って何ですか? 俺全く知りませんよ」
「そうか、とりあえずこれを見てくれ」
東山さんは部屋のテレビをつけ、俺にとある映像を見せてくる。
……何なんだ、この映像は。なんで俺の学校での様子が晒されているんだ?
「これはお前なのか?」
東山さんからの問いかけに、俺は言葉が詰まってしまう。
「……お前は、このようなことをする人間なのか?」
真剣な顔で東山さんはこちらを見つめてくる。……そうか、そういう事か。
「いいえ、俺はそんなことをしていません」
「……そうか、それじゃ、この映像は捏造というわけだな」
きっと、東山さんは最初から俺を助けるつもりだったんだ。東山さんは『イケメンダンサ―』の責任者であるため、建前として俺に真実を聞いただけに過ぎないはずだ。俺を疑うようなことはしないだろう。
「はい、そうです」
「わかった。では、私たちが責任をもってお前の疑いを晴らしてやる」
「……ありがとうございます!」
はあ、あやうく俺が悪者にされて、グループから追い出されるところだった。だレがこんな真似をしたのかは分からないが、残念だったな。俺はアイドル関連の重要人物にしっかりとコネを作っている。当然東山さんにもだ。そんなやり方じゃ、俺に傷一つつけることすらできないぜ。
「『若村頌平、いじめ映像拡散事件』について。この度は皆様に誤解を招くようなことになってしまって申し訳ありません。しかし、あの映像は根拠のない悪質なデマであることが判明しました。若村さんも、あのようなことをした覚えがないと話しています。皆様、嘘の情報に気を付けるようにしましょう」
「本当に怖いね、最新の映像技術は。偽の映像を簡単に作り上げることが出来るなんて」
「若村くん、陰湿な人たちに負けないで頑張ってね」
「俺はいじめの専門家なのだが、実によくできているよあのデマ映像は。もしかしたらプロの犯行かもしれない」
「俺も昔はいじめられていたけれど、ここまで陰湿じゃなかったな。暴力とかカツアゲとかが基本だった。時代に従って、いじめも変化しているんだな」
ネットニュースを見ていたところ、『若村頌平、いじめ映像拡散事件』について書かれていたニュースを発見した。そこには『イケメンダンサ―』の正式な声明と、それに関するコメントが記されていた。
……僕の名前は須田義。常に刺激を求めているけど、自分から動くようなことのない平凡な男子高校生だ。今は事実を隠蔽する『イケメンダンサー』と若村頌平に怒りを感じていたところだ。
本当は若村頌平に直接怒りをぶつけたいところだが、反撃がこわい。怒りは感じるけど、直接かかわりたくない。それが、若村頌平なのだ。
ならば、コメントに事実を書いてあげよう。
「俺、若村頌平のクラスメートだけど、あの映像は正しいぜ。あいつは反撃してこなさそうなやつに、嫌な絡み方をして困らせるのが好きなんだ。おかげでクラスの雰囲気は台無しだよ」
コメントを書いたとたんに、コメントへのグッドとバッドが増えていく。この速さで評価されるなんて、みんなこの事件に興味津々なんだな。
グッド30 バッド170
三分ほどたった時、合計評価が200を超えた。あまりにも早い。……意外とグッドが多いな。若村頌平が黒だと思っている人も少なからずいるみたいだ。
「このコメントは権利者により削除されました」
あれ? 俺のコメントが消された。……『イケメンダンサ―』め、火消しをしやがったな。事実を隠蔽するなんて、最悪だ。
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