「凄く大きいのです。まるで、物語に出てくるお屋敷みたいなのです。さすがは結城様なのです」
「確かにおおきいね。維持費がすごくかかりそう」
カレンと二人で結城さんの家の前にやって来た。あまりの家の大きさに驚きを隠せない。
「早速ピンポンを押すのです。えりゃ、えりゃ、なのです」
「チャイムは一回まで。家の人たちが驚いちゃうよ」
楽しそうにチャイムを連打するカレンに、軽く注意する。……彼女はどんな時でも明るい。俺なんか、結城さんと会うだけでも緊張してしまうのに。いつも学校で会ているはずなのに、どうしてこんなにドキドキするのだろうか。
「お兄様、顔が赤いですよ。緊張してしまったら結城様とうまく話せなくなっちゃうのです。……はい、なのですよ」
カレンが、手をつないできた。……あったかい、心が落ち着いてくる。
「お兄様、落ち着いたようなのです。……誰か、来るのです」
結城さんが、やって来た。
ピンポーン!
チャイムの音が、部屋に響いた。……やっと来てくれた。彼とゆるふわ妹が待っている。この時を、どれだけ待ったことか。早速外に顔を出さねば。
ドアを開けると暖かい風が顔に当たり、私の髪を撫でた。目の前には、可愛らしい姿が見える。
「結城様なのです。会いたかったのですよ」
「結城さん、こんにちは」
ああ、いい。ゆるふわ妹と彼が、私が来るのを待っててくれていた。しかも、二人とも手をつないでいて、とてもほのぼのとしている。
「あ、すみません。恥ずかしいところを見せてしまったようですね」
彼は妹との手つなぎをみられたことに気づき、顔を赤くしながら手を放す。可愛らしいので、もっと繋いでくれていてもよかったのに。……いつもと違う様子の彼。いつもよりも魅力的に見える。
「気を取り直して……はい、結城さん。これをどうぞ」
彼に差し出されたものを見て、私の心は高まる。メロンだ。果物の、王様!
「家で作ったものです。何度も試行錯誤して、ようやく甘いメロンを作れるようになったんです」
メロンは私の好物だ。早速冷蔵庫に入れて冷やさなければ。
「ありがとう。メロンは私の大好物だ。今からこれを冷やしに行くので、少し待っててもらえると助かる」
……家庭菜園のフルーツを甘くするためには、かなりの努力と知識が必要なはずだ。きっと、彼はすごい頑張り屋さんなのだろう。
「ねえカレン。今日の結城さん、なんだかいつもより話しやすかったね」
率直な疑問をカレンにぶつけてみる。いつもは硬い表情の結城さんが、今日は緩やかな表情になっていた。
「……お兄様は、まだまだなのです。これは、分からせてあげる必要があるのですよ」
カレンはなぜか腕を組み、呆れた表情になりこちらを煽ってくる。……可愛いけれど、少しだけ腹が立ってくる。
「分からせるって、何を?」
「お兄様には、しばらく考えてもらうのです。そっちの方が、印象に残るのです。
答えを教えてくれないカレン。……うーん、分からない。結城さんの雰囲気はなぜ、柔らかくなったんだ?
「あ、お兄様。結城様が来たのです」
結城さんがこちらに戻ってきたことを、カレンは教えてくれた。結城さんは、晴れやかな笑顔でこちらにやってきて声をかける。
「待たせてすまない。それでは、行こうか」
「……行くって、どこになのですか?」
晴れやかな笑顔の結城さんに対して、カレンはとぼけた表情で首を傾げる。
「え? デートの場所は決まっていたのではないのか?」
「そんなことは一言も言ってないのです」
「あ、ああ。確かにそうだったな……」
突然のことに困惑を隠せない結城さん。全く、カレンったら。どこに行くのか決めもせずに結城さんをデートに誘うだなんて。計画性がないんだから…………ってこれ、悪いの俺じゃん!
こういうのは普通、男性が前もって女性を楽しませる計画を立てなければならないものだ。それなのに、俺はカレンに準備任せっぱなしにしてしまった。
その挙句、責任をカレンに押し付けようとして……最悪だ。それに、せっかく結城さんに時間を作ってもらったのに、満足に楽しませることが出来ないなんて。
「本当に、ごめんなさい」
素直に結城さんに謝った。だが、結城さんからは予想外の言葉が返ってくる。
「…………私も、こういったことには疎くてな。曖昧な知識しかないし、それをうまく使う自信もない」
結城さんはこちらに近づきながら、落ち着いた表情で言葉を続ける。その姿は、とても凛々しい。
「……だが、何度も繰り返し経験することで、自然とうまくなっていくものだ」
結城さんはどんどんこちらへ近づいてくる。そして、肌がくっついてしまうほどの距離で止まる。
「キミも、私も、経験を得て成長していく。次のデートでは、もう少しスムーズに出かけることが出来るだろう。そして、その次のデートではさらにスムーズに進むはずだ」
結城さんが、近い。思わず体が熱くなってしまう。けど、嫌な感じはしない。何というか、安心できるような……
「私としたことが、語りすぎてしまったな。それに、近づきすぎてしまった。ふふっ、どうしてだろうな。……だが、これだけは言わせてほしい。これからも、私とキミとで成長していこう」
「は、はい!」
結城さんは、まっすぐな瞳をこちらに向けてから微笑む。……どんな表情でも、結城さんは素敵だな。
「お兄様、ずるいなのです! カレン様の愛情を独り占めするなんてっ。私も、お兄様と結城様と一緒に成長していくのですよ~」
「おお、それは頼もしいな」
今まで大人しくしていたカレンが、俺と結城さんの間に入ってくっついてくる。そして、そんなカレンの頭を結城さんは優しくなでる。……なんだか、ちょっとだけ寂しく感じる。
「むっ、すまない。妹だけ贔屓するような真似をして。……ふふっ。こうしてみると、あの時の夜を思い出すな。今と同じように外は真っ暗で、キミではなく私が撫でられていた……あっ、もう真っ暗になってしまっている。外で遊ぶような時間ではなくなってしまったな」
結城さんは俺の考えを読み取ったのか、カレンにするのと同じようにこちらの頭を撫でてくる。……そうだ、やっとわかった。
カレンが何を考えていたのか、結城さんの態度はなぜ、柔らかくなっていたのか。
「むむ~、もっと結城様と一緒にいたかったのです」
「すまない。さすがの私にも、時間を操る力はない。家族が心配しているだろうし、そろそろお別れだな」
今でこそ結城さんの事は好きだけれど、最初はあまり好ましく思っていなかった。俺から穏やかな日常を奪い去ってしまうかもしれない、恐ろしい存在だったからだ。
でも、結城さんは俺に話しかけてくれた。そして、好きだという事を伝えてくれた。理由は良く分からないけれど。その時からだったかな。結城さんが自分の中で嫌な存在じゃなくなったのは。
カレンの言葉で、結城さんが好きなことに気づいた。そして、その時から結城さんの態度は柔らかくなっていた。……結城さんが好きだってことが、態度でばれちゃってたんだ。
「それじゃ、デートはお預けってことなのですか?」
「ああ、すまない。そうなるな」
一部の邪悪を除けば、自分のことを好きな人を雑に扱おうとはしないだろう。
「それじゃ、明日デートなのです」
「明日はちょっと用事があってな……」
相手に好かれるためには、まず相手を好きになる。それが大切だったんだ。
「では、校内デートはいかかですか、なのです。お兄様とカレン、そして結城様で学校を遊びつくすのです」
「ふふ、考えたこともなかったな。面白そうだ、是非とも参加してみたい」
学校の中で、他人を嫌ってばかりいた。だから、誰からも守られなかった。
「お兄様も、それでいいのですね、なのです」
「キミが来てくれると、すごく嬉しい。ぜひ、来てくれないか?」
これから、変わっていかなくちゃ。明るい未来のため、そして、楽しんで生きるため。他人を好きになれるように頑張らなくちゃ。
「お兄様、聞いているのですか?」
「どうやら、もう疲れてしまったようだな」
あ、色々と考えすぎていて、二人の言葉が耳に入っていなかった。せっかくのデートなのに、失礼なことしちゃったかも。
「……もういいのです。カレンからは、何も言わないのです。結城様の家で、結城様にじっくりと教えてもらうのがいいのです」
「いいのか、彼を預かっても?」
「お母様たちには、お兄様はお友達の家に泊まっているって伝えるのです。二人で、仲良くするのがいいのですよ」
「ありがたい、感謝する」
…………え、二人は、何を話し合っているの? 何だかとんでもないことを言っているような気がするのだけれど。
「あ、あの、それは一体どういう事で……というか、カレン。いつもの『お兄様、ずるい』の精神はどうしたんだ?」
「……私は、女なのです。いくらお互いのことが好きでも、結城様とは結ばれない運命にあるのです」
カレンの顔は儚さを感じさせるものに変わり、彼女は悲しそうに嘆く。……カレンには、一体何が見えているのだろうか。
「お兄様、結城様と一緒にいたくないのですか?」
カレンは可愛らしい困り顔になり、痛い所をついてくる。その隣では、結城さんが必死な表情でこちらを見つめている。……こうなったら、正直に白状するしかない。
「……一緒に、居たいです」
両手をあげ、花が咲いたかのような笑顔を浮かべる結城さん。その隣で、喜んでいるような、悲しんでいるような、微妙な表情のカレンがいた。
その後、カレンは家へと帰り、残った俺と結城さんは、彼女の家で二人で仲良く過ごすことになった。
好きなキャラは?
-
カレン
-
結城さん
-
金髪
-
主人公