朝
僕の名前は須田義。常に刺激を求めているけど、自分から動くようなことのない平凡な男子高校生だ。……僕は今、イライラしている。暑いのだ。まるで、教室の中がサウナのようだ。全く、真夏の朝の暑さには参るよ。
そんなわけで、僕はイライラを鎮めるため、結城さんが学校に来るのを待っている。結城さんの美しい顔を見れば、イライラが収まり、暑さも忘れることが出来るだろう。
本当は結城さんに直接好意を伝えたいところだが、振られるがこわい。癒しを感じるけど、直接かかわるのは恥ずかしい。それが、結城さんなのだ。
お、教室のドアが開いた。
長く美しい髪、凛々しい顔、堂々とした態度。出てきたのは結城さんだ。心なしかいつもよりも明るい表情である。何かいいことがあったのか……えっ?
結城さんの隣には、例の彼がいた。この前、シャーペンを貸してくれた子で、俺がひそかに尊敬している子だ。
「うわ、結構見られてる。予想はしていたけど、やはり恥ずかしいな」
「気にするな。みんな、いつもと違う光景を珍しがっているだけだろう」
「きっと、カレンの愛くるしさにみんなメロメロなのですよ」
えええっ。さらに結城さんの後ろから、物凄く可愛い子が出てきたんだけど。独特な口調だけど、見た目が可愛すぎて、全く違和感を感じないよ。
……彼女の顔、どこかで見たような。
あっ、そうか。どこかで見たことある顔だと思ったら、彼にそっくりなんだ。……もしかして、兄弟なのかな?
「それではお兄様、結城様。カレンはこれから自分のクラスへと向かうのです。昼休みにまた来るのですよ」
「ああ、それじゃ」
「また会おう」
やっぱり、彼と彼女は兄と妹の関係のようだ。……あんなに可愛い妹がいるのなら、教えてくれてもよかったのに。
「えっ、何あの子? 可愛くない」
「彼に向かって、お兄様とか言っていたけれど」
「また来る、って言っていたけどほんとに来るのかな? ちょっと楽しみかも」
クラス中で凄く話題になってるし。
結城さんから好かれている上に、あんなに可愛い妹がいるなんて、彼が羨ましいよ。……でも、意外とお似合いかもしれない。三人とも性格は全然違うけれど、何となく雰囲気が似ている。良い組み合わせだ。
キン~コン~カン~コ~ンキン~コン~カン~コ~ン
やっと授業が終わった。これで、昼休みだ。
確か、今日はカレンと結城さんと一緒にどこか行くことになってるはず。うう、民田で一緒のところを見られるのは恥ずかしいな。……でも、慣れないとだめだよね。これから楽しく生きていくために。
「お兄様、カレンが来たのです」
授業の終わりと同時にカレンが教室のドアを開け、片手を精一杯上げながらこっちに来たことを教えてくれる。クラスのみんなの注目を独り占めだ。
カレンに魅力を感じたのか、周囲には黄色い声が上がる。そして、歓迎ムードの中、にこやか笑顔のカレンは、授業を終えた先生が教室を去るよりも早く俺の近くまでやって来た。
「お兄様、合いたかったのですよ。……もっと早く、こうして合うようにしていればよかったのです」
「あ、あの。お邪魔してます。か、カレンちゃんのお兄様ですよね!」
……あれ? カレンの隣に知らない女の子がいる。カレンに目を取られすぎて、来ていることに気づかなかった。いつの間にかクラスの中に入り込んでいた彼女は、俺について語り始める。
「映像で見た通りです。ちょっぴり頼りなさそうだけれど、どこか大物感がありますね! しかも、近くで見るとカレンちゃんと雰囲気がそっくりです!」
え?!?!? 褒めているの? ディスってるの? てか映像って何? いつ取られてたの?
「ああ、私もそう思う。彼は本当に大物感が強くてな。一緒にいると落ち着くんだ。だが、それだけじゃない彼は他にも……」
少女が俺について語り始めた時には既に結城さんが近くにいて、少女の話に捕捉をつけ足していく。
……こんな沢山の人がいるところで。そんなことを言われてしまうなんて、周囲の視線が厳し……くないんだけど! なぜかみんな目を輝かせてるし。
「あ、結城先輩。カレンちゃんから話は聞いています。一度合いたいと思ってました!」
女の子は結城さんの事をカレンから聞いていたみたいだ。……ということは、もしかして彼女はカレンのクラスメイトかな?
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はヒマリです。カレンちゃんの親友です」
「おお、そうか。……すでに知っていたとはいえ、名乗られたからには名乗り返さなければ礼儀に反するな。カレン、頼む。私の頭を……」
「触らせませんよ! ……失礼、カレンの兄です。破天荒なカレンといつも仲良くしてくれて、ありがとう」
「ヒマリちゃんはカレンの自慢のお友達なのです!」
……今まではいろいろなことを一人でやろうとしていた。いじめを自分一人の力でやめさせようとして、友達だって自分ひとりの力で作ろうとしていた。けど、それは間違いだった。どんなに頑張っても一人ではいじめから完全に自分を守れない。一人でいたら、相手にとって友達になるメリットがない。
自分を大切にしてくれる人たちとの関係を大切にするべきだったんだ。大切な人たちと一緒に過ごして、様々な経験をして、みんなと仲良くなって、更に交友関係を広げる。俺にはそれが必要だったんだ。
……今度みんなで遊ぶとき、須田さんも誘ってみようかな。彼、結城さんの事好きみたいだし。
「それでは今回は……みんなで理科室デートなのです! 理科室で、あんなことやこんなことをするのですよ!」
「……カレンちゃん、デートの意味、知ってる?」
「細かいことは気にしない! なのですよ。お兄様、どうですか、理科室は?」
「……何をするのか、正直分からない。べっこう飴でも作るのかな?」
「おお、それはいいな。昼休みに生徒だけでお菓子作りとは。普通では体験できない」
「確か、砂糖水をアルコールランプの日で温めるとべっこう飴になるんだよね。途中で重曹を加えるとカルメ焼きになったりもしたはずです」
「それだけではないのです。ジュースを冷やして、アイスキャンディも作るのですよ!」
なんか、小学生に戻った気がするな。これが、ノスタルジーってやつかも。
……学校の許可とか取れるのかな?
次回、最終回(おそらく)
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カレン
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