俺と暴走妹   作:Atlantis

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因果応報

 

 

 

 俺の名前は若村頌平(わかむらしょうへい)。髪を金髪に染めてはいるが、まあ学校の中じゃ、ごく普通の学生だ。今は昼休みなのでまさふみと一緒に昼食を食べようとしていたところだ。

 

「おい、どうするんだ? あいつ、妹をクラスの中に呼び寄せてきたぞ。ここは、お前らしく抑圧したらどうなんだ?」

 

 まさふみの奴が俺に提案してくる。

 

「クラスの中に下級生を入れるなんて、凄い迷惑な行為なんじゃないのか? 俺とお前で、あいつらを笑えなくしてやろうぜ」

 

 まさふみの奴は凄く楽しそうに話している。……どうやら彼は勘違いをしているようだ。

 

「まさふみ。……これはチャンスではない、ピンチだ」

「ああ? どういうことだ、それ?」

 

 奴は首を傾げながら、こちらを睨んでくる。……はぁ、やれやれ。

 

「俺やお前だって似たようなことをよくしていただろう。……いや、俺たちだけじゃない。みんなそうしている。周りを見てみろ。教室にいる人の半分はほかのクラスの生徒だろう。今はいないが、他学年の生徒が来ることだってある。あいつだけを悪く言う事は出来ない」

「それがどうしたんだ? あいつ程度なら簡単に抑圧できるだろう」

 

 まさふみは、攻撃的な態度を崩さない。……はぁ、やれやれ。

 

「いいか、まさふみ。あいつは見たところ妹とかなり仲が良い。そして、妹は他学年の生徒。……つまり、このままだと他学年の間で俺の悪い噂が立ってしまうかもしれねぇ」

「お前は怯えすぎだよ。アイドルをやっているだけのことはあるな。……それなら、あいつと妹の中を裂けばいいんじゃねぇか? あいつには妹がお前に悪口を言っていたと嘘をついて、妹にはあいつが悪口を言ったと嘘をつく。そうすればあいつらの結束が崩れ、攻撃しやすくなるぞ」

 

 まさふみは策略を話す。……確かに筋は通っている、だが。

 

「以前のあいつだったらその作戦も有効だっただろう。だが、今のあいつは一味違う。嘘程度では全く動じない、強い意志を今のあいつから感じた」

「そういえば、あいつの雰囲気は今までと違ったな。以前のように甘い相手ではなくなったという事だな」

 

 まさふみの奴め、ようやく理解したようだ。周りの人と強いつながりを持つ人を貶めるのは得策ではない。そういうやつを攻撃するのはリスクが高いからな。

 

「ああ。……あいつのロッカーや机の中のお菓子、今から片付けてくる。まさふみ、手伝ってくれるか?」

「……分かった」

 

 あいつをいじめるのも、もう潮時だ。今はアイドル活動に集中しよう。もうそろそろ、もうそろそろのはずだ。もうすぐで俺はイケメンダンサ―の正規メンバーになれるはずなんだ。

 

 

 

 

 

「ななな、何という事でしょう、なのです。黒塗りの高級車なのです!」

 

 こちらにやって来た車に、カレンは大きな反応を示す。……学校が終わった後、俺たちはみんなで下校しようとしていた。そこへ突然豪華な車がやって来たのだ。

 

「ああ、驚かせてしまったようだな、すまない。これから少々遠い場所に行く予定があってな。ヒマリよ、家はどの辺にあるのか?」

「カレンちゃんの家のすぐ近くです」

「それは良かった。丁度目的地の途中にカレンの家がある。そこでみんなを下せるな。みんな、車に乗るといい」

「やったぁ、なのですよ!」

 

 黒い高級車にのって、学校から目的地に向かうなんて、さすがはお嬢様って感じだ。……まあでも、今日は楽に下校できそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあな、まさふみ」

「アイドル活動頑張れよ、若村」

 

 やっと家の近くまで帰ってこられた。これでようやく訓練所に行ける。……それにしても、学校から家までの道のりが長いな。家から訓練所までの距離もかなりあるし。俺に唯一イケてない部分があるとしたら、家から目的地までの距離が長すぎるところだな。

 

 まあ、今はそんな事どうでもいい。早く家に帰って準備を……!?

 

 小さな体、小さな手、イケてない面……クソガキだ! 目の前のクソガキが、俺の行く手を阻もうとしている。

 

「にへへへへへ……」

 

 クソ、こいつ俺の顔を見て笑いやがった。ちょっと注意してやらねえと……あっ、逃げやがった。

 

 ちっ、ちょっとイラつくが我慢するしかねぇ。餓鬼を追いかけているところなんか見られたらたまらないからな。さっさと帰って準備しねえと……!?

 

「おーい、るりちゃん。若村頌平みつけたぞ。一緒にからかおうぜ」

「ちょっとタケヒロ。急に腕を引っ張らないでよ」

 

 何だあのクソガキ。何考えてやがるんだよ。てか、何女なんて連れて来てんだ。不細工なお前にそのメスガキは相応しくねぇんだよ。

 

「るりちゃん。一緒にこいつをやっつけようよ」

「……そんなことしなくても、そのうち引っ越すわ。ほおっておくのが最善よ」

「それもそうだな。はははははっ」

 

 ……俺は、夢でも見てるのか? 何で俺はクソガキどもに馬鹿にされているんだ?

 

 くそ、なんだか嫌な予感がする。少しネットを見てみるか。

 

 

 ………!? なんだ、これは!

 

 

「『若村頌平、いじめ映像拡散事件』について。この度は皆様に謝らなければならないことがあります。前回私たちはいじめは悪質なデマであるかのように伝えてしまいましたが、調査を行ったところ、出回ったいじめの動画は本物であることが分かりましたこの度は……」

 

 

 ええええええ!? なんなんだよ、一体どうしちまったってんだよぉっ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東山さん、本日は時間を割いていただきありがとうございます」

「はっはっは。堅苦しい挨拶などいらないよ。プロジェクトの紹介をお願いしたい」

 

 私、結城由愛菜は東山さんと向かい合っている。プロジェクトを伝えるために私は彼の元までやって来たのだ。

 

 ……何という緊張感。これが、いくつもの巨大プロジェクトを作り出してきたお方なのか。顔を見ているだけで体に力が入ってしまう。

 

 だが、私もプロジェクトに携わるもの。東山さんほどの大物と関わる事はこれから何度思訪れるだろう。慣れていかなければならない。

 

「先日、他人晒しのポスターが近所に張られているのを目撃し、社会が他人を貶める方向に向かってきているのではないかと感じました。そこで、私は漫画、アニメ、ゲームの三つの媒体を利用して他人を貶める社会の恐ろしさを皆に伝えたいと思いました」

「ほう。社会の変化を読み、その変化した社会に向けた作品を作ろうというのか。予想が外れて失敗に終わってしまうリスクはあるが、当たったときの爆発力はすごそうだ。面白い、資料を見せてくれ」

 

 よし! 東山さんは笑顔になった。第一関門は突破だな。後はこのディスクの映像を見せるだけだ。

 

 ……様々な専門家に見せて、何度も何度も調整を重ねてきたこのディスク。これが負けるとは思えない。今の私にできることはこのプロジェクトの魅力を伝えるだけだ。

 

「はい、こちらがプロジェクトをまとめたディスクになります。今、流しますね」

「おお、映像にして持ってきてくれたか、これは期待が高まるな」

 

 よしよし、好感触だ。内容に関しても問題はないはず。……気合を入れて発表しよう。早速このディスクを挿入して、テレビをつけて……良し!

 

「まず最初に、1人の女の子が、だいすきな親友の顔を勝手にネットにさらして絶交されてしまう物語です。悪気のない少女が相手の事を考えられず嫌われてしまう様子を描いています」

 

 敢えて映像を見ずに解説を挟んで行く。こうした方が、作品に対する自信があると思われるだろう。

 

 ……だが、東山さんは予想もしなかったことを口にしてしまう。

 

「この子が女の子、ねぇ。男子用の学生服を着ているようだが、女の子、なのか。君の作品はジェンダーにも配慮しているのかな?」

 

 東山さんは何を言っているのだろうか? 私の作品に男子学生など登場しなかったはずだが。テレビの画面には女の子の画像が映っているはずだ。……念のため、確認してみよう。

 

 

 ……!?

 

 

「ねえ、いつも言っているけどさ、机の中に勝手にお菓子を入れないで。お前たちのせいで、こっちは何度も何度も先生に怒られてんだよ」

 

「ああ? 俺がお前ごときの言う事を聞くと思ってんのか? そういうことは先生に言えよ。『先生、あいつらが勝手に机の中にお菓子を入れてくるんだよぉ』ってな」

「ははっ、やめたれよ。先生だってこいつの言う事を無視しているんだからな。

 

 

 テレビには、私の学校の様子が映し出されていた。……なぜ、こんなものが。とにかく、このような不快なものを東山さんに見せるわけにはいかない。

 

「すみません。流す映像を間違えてしまったようです。今すぐ切りますね。万が一の時のために用意していた紙の資料がありますのでそちらを……」

「いいや、消すのはちょっと待ってくれ。いま、面白いものが見えたのだ」

 

 東山さんは熱心にテレビの映像を眺め、映像を止めることを許さない。面白いもの、だと? これのどこが面白いのか、私には分からない。

 

 

「いたっ、止めて……何で殴るの?」

「殴っても問題ねえからだよ。見てても止める奴はいねえからな。本当は顔面を変形させるほど殴ってやりたいところだが、万が一があったら怖えから痛めつけるだけにとどめている」

「……おま、えっ、人を傷つけておいてっ、何も、思わないの、かっ……」

「人を傷つけるのは怖ぇよ。自分に反撃がくる場合はな」

 

 んな!? 私がいない間に、若村はあんなことをしていたのかっ! 最初からクズだとは思っていたが、ここまでとはっ!

 

「映像に映っている金髪の子はウチのアイドルでしてね。……この映像は、本物で間違いないのかね?」

「はい、おそらく本物です。この風景は、間違いなく私のクラスです。若村さんも普段からあのような様子です」

「ほう、これですべてはつながったな。……いや、すまない。君には関係なかったな」

「???」

 

 真剣な表情で東山さんは呟く。……彼は一体、何を言っているのだろうか? 

 

 色々と考えていると東山さんの表情が緩み、優しそうな笑顔を生み出した。

 

「いやぁ、時間を取ってすまなかったね。映像はもう止めてもいい。……気を取り直して、紙の資料でのプロジェクト紹介を頼む」

「……はいっ!」

 

 ふぅ、危なかった。危うくプロジェクトが破綻してしまうところだった。念のために紙の資料を用意してきて大正解だったな。……良かった、本当に良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はあ、今日はいろいろあったな。カレンが堂々と俺のクラスの中に入ってきて、思いっきり目立ってしまった。それに、カレンと一緒にいた女の子。あの子にはあの後、何度もからかわれたな。でも、嫌な感じじゃなくて、なんだかポワポワした感じだった。

 

 理科室利用の許可を取れた時は驚いたな。カレンは何の苦もなく先生から理科室の許可をもらってきていた。滅茶苦茶な割に、色々な人たちから好かれてるんだよな、カレンは。

 

 それに、理科室から帰ってきた後は何故か金髪達のお菓子がロッカーと机の中から消えていたな。ひとまずは、喜んでいいのかな。でも、これは希望を持たせた後に、一気に絶望させようとする金髪の策略かもしれない。金髪の動きには注意を向けていた方が良さそうだ。

 

 金髪の動きを抑圧するためにも、カレンを中心とした下級生たちとの関係性を強化する必要がある。みんなで遊ぶときに、カレンがほかの子を呼んでくるようなことがあればその子とも積極的に仲良くしていこう。

 

 それにしても今日は疲れたな。普段はしないようなことをいっぱいして、遊び疲れたよ。こういう時は結城さんからもらったプリンを食べて……あっ、ない。冷やしておいたプリンがなくなってる!

 

「ぷりんが、ない……」

「んんっ、美味しい♪」

 

 冷蔵庫に入れておいたプリンは、テーブルの上に置かれていた。そして、そのプリンは妹のカリンの口の中へと運ばれている。

 

「ああっ、俺のプリンが……」

「えへへっ、頂いちゃった」

 

 カレンと違って普段悪さをしないカリンが、今回は俺のプリンを盗み食いしている。そんな、俺のプリンが……

 

「やっぱりこのプリンは美味しいよね。お兄ちゃんにも一口あげる」

「ありがとう。ん、甘くておいしい。本当にありがとうね、カリン……って、これ俺のプリンだから。ちゃんと場所別にして置いておいたでしょ」

 

 俺の話を聞きながら、ニタニタした顔でこちらを見てくるカリン。可愛いけれど、見ていると腹が立ってくる。

 

「大丈夫大丈夫。お兄ちゃんがそういうと思ってエクレラ買ってきたから。カレンは今日習い事でいないから、今から二人でこっそり食べようね」

「あ、ありがとう。でも、なんでわざわざこんな事を? プリンをたくさん食べたかったのなら、言ってくれればよかったのに」

 

 今日はなんだか彼女の様子がおかしい。学校で何かあったのかな?

 

 

「お兄ちゃん、カレンと結城さんと三人で遊びに行ったんだよね。どうして私を呼んでくれなかったの? 今日だってカレンとお兄ちゃんは私を誘わずに結城さんと一緒に遊んでいたし。……私を仲間外れにしないでよ」

「……それは、結城さんと二人きりだと心配だったからカレンも誘っただけで、別にお前を仲間外れにしたわけじゃないよ。今日みんなと一緒にいたのだって、あの時に約束したからだし」

 

 カリンはむっとした表情で自分抜きで結城さんと一緒に遊んだことをとがめてくる。こう見えて彼女はさみしがり屋なのだ。さみしい思いをすると、こうしてこちらに絡んでくる。

 

「んもう、今度からはちゃんと私を誘ってね。そうじゃないと、寂しくて死んじゃうんだから」

「……ああ」

 

 カレンとは、違っためんどくささがある。この状態になると、本当にめんどくさい。……まぁ、そこが彼女の可愛い所でもあるけど。

 

 

「お兄ちゃん、なんだか元気が出てきたね。やっぱり、お兄ちゃんは素敵な人なんだから自信をもっていないとダメだね」

「おいおい、冗談はよしてくれよ」

 

 さっきまでむっとしていたのに、突然ほめてくる。正直よくわからない。カレンやカリンの気持ちは、たまに読めない時がある。

 

「冗談じゃないよ。お兄ちゃん、いつも野菜や果物を上手に育ててるよね。様々なことを工夫して、凄く楽しそうに育てている。色々な知識を持っていて、それをうまく活用しようと頑張ってる。……私、熱心に作物を育ててるお兄ちゃんが好きだよ」

 

 両手を掴み、笑顔を向けてくるカリン。……突然、そんなことを言われても。

 

「私もお兄ちゃんを見習わないとな。お兄ちゃんみたいに好きなことに夢中な人になって、お兄ちゃんみたいにお母さんに叱られないようなしっかりした人にならなくちゃ」

 

 俺は見習われるほど優れた人じゃないんだけれど。むしろ、カレンやカリンの愛想の良さを見習いたいよ。

 

「誉め言葉は素直に受け取ったほうがいいよ、お兄ちゃん。自分の良い所を知って、自分を成長させるようにしなくちゃ♪」

 

 そう、なのかな。それじゃ、恥ずかしいけれど素直に受け取っておくことにするか。

 

 

 

 

 

 

 俺は、3~4か月の間、いじめを受けてきた。学生時代をずっといじめられて過ごしてきた人に比べたら大したことないかもしれない。逆に、いじめを全く受けずに学生時代を過ごしてきた人と比べたら、いじめで心をゆがめられた可哀そうな子供なのかもしれない。

 

 でも、今はそんなことどうだっていい。心がゆがめられていようが、ゆがめられてなかろうが、俺たちには『今』があるのだから。

 

 過去がどんなに汚れていたとしても、信じてくれる人たちがいてくれれば前に進んで行くことが出来る。

 

 今後も本能的に他人を貶める奴らと出会う事があるかもしれない。でも、もしそんな奴らと出会う事があれば、仲間たちの力を頼って共に乗り越えるようにしたい。

 

 

 

「あっ! お兄様、ずるいなのです。どうしてエクレアをお姉さまと二人で分け合っているのです? カレンの分はないなのですか?」

 

 俺たちが最後の一口のエクレアを口の中に放り込んだ時、習い事で家にいないはずのカレンの声が聞こえてしまった。……なんで、カレンがこんなところに。

 

「お兄様、不思議そうな顔をしていますね。カレンはただ、忘れ物を取りに来ただけなのです」

 

 ……どうして、こんな時に限って忘れものなんかするのだろうか。

 

「お兄様にはまだ闇が残っていたようなのですね。……いいでしょう、なのです。さぁ、お兄様。カレンのところに来るのです。お兄様は、カレンの手によって闇が取り除かれるのです。ふっふっふ。ふっふっフフフ。さぁ、来るのです、お兄様っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東山さん! 何なんですかあのニュースは。どうして急に私を裏切るようなことを……」

 

 東山さんにニュースの件を問い詰める。今までかばってくれた組織が、どうして急に手のひらを返してきたのか。

 

「まさか、直接私のところまで来るとは思わなかったよ……とりあえず、この映像を見てくれ」

 

 普段はにこやかな東山さんが、笑顔一つなくテレビの電源をつける。……どうやら、また盗撮されたらしい。

 

 でも、おかしい。前の時はフェイク動画だったとかばってくれたはず。どうして今回は俺を信じてくれないんだ?

 

 

 

「ねえ、いつも言っているけどさ、机の中に勝手にお菓子を入れないで。お前たちのせいで、こっちは何度も何度も先生に怒られてんだよ」

 

「ああ? 俺がお前ごときの言う事を聞くと思ってんのか? そういうことは先生に言えよ。『先生、あいつらが勝手に机の中にお菓子を入れてくるんだよぉ』ってな」

「ははっ、やめたれよ。先生だってこいつの言う事を無視しているんだからな。

 

「いたっ、止めて……何で殴るの?」

「殴っても問題ねえからだよ。見てても止める奴はいねえからな。本当は顔面を変形させるほど殴ってやりたいところだが、万が一があったら怖えから痛めつけるだけにとどめている」

「……おま、えっ、人を傷つけておいてっ、何も、思わないの、かっ……」

「人を傷つけるのは怖ぇよ。自分に反撃がくる場合はな」

 

 

 ……これは、前回の映像と比べて高画質になっていて、俺の顔がはっきりとしている。いや、顔だけではない。俺の声も完全に聞こえてくる。前回よりも盗撮カメラの性能が上がってやがるな。

 

 でも、それだけじゃ証拠は足りない。

 

「確かに、前よりも映像がきれいになってるのかもしれない。だけど、これももしかしたらフェイク動画の可能性があります。これが本物だと断言するのは早すぎると思います」

「その言い方と大量の汗、どうやら本物の映像のようだね」

 

 俺の様子がおかしい事に気付いた東山さんが、真実を言い当ててしまう。

 

 このままではこれが本物の映像だと確信される。何とかしてごまかさないと。……いや、よく考えたらもう遅いのかもしれない。ここは、この映像が本物だという事で話を進めたほうが良さそうだ。

 

「ええ、本物です。でも、まずいんじゃないですか? このままこの映像が本物だという事になったら、『イケメンダンサ―』のイメージが大幅にダウンしてしまいます。……ここは、映像が偽物であることを突き通した方がいいんじゃないですか? 今ならまだ間に合います。映像が本物だと伝えてしまったことに対してはSNSの不具合だと主張すればいいんです」

 

 不祥事は全力で隠蔽する。それが企業というものだ。もちろん、『イケメンダンサ―』の責任者である東山さんとしても、事実を隠蔽したいだろう。喜んで俺の提案に乗ってくれるだろう。

 

 ……ところが、東山さんは渋い表所で俺を見つめてくる。

 

「はぁ、やれやれ。君には失望したよ。いや、失望が確信に変わったというべきか」

「はい? どういう意味ですか、それ?」

 

 東山さんは良く分からないことを言ってくる。どうして俺に失望するんだ? というかどうして俺に失望していたんだ?

 

「これを見てみろ。キミに向けた、お客様やメンバーからのクレームだ。みんな、キミにはうんざりしているようだよ」

 

 東山さんは紙の束を取り出し、俺に見せてくる。……そんな、どうして。紙には俺に対する不満や怒りが書き込まれている。一枚めくっても俺へのクレーム、一枚めくっても俺へのクレーム。

 

「お客様に対してでかい態度をとり、陰湿な雰囲気を醸し出してグループの雰囲気を悪化させる。……お前、邪魔だよ」

 

 ああ、東山さんがマジ切れだ。このままではグループにいられなくなってしまう。後少し、あと少しで正規メンバーになれるところだったのに。……いや、まだだ。まだあきらめてはいけない。きっと、チャンスはあるはずだ。

 

「どうか、ご慈悲を。俺は、今の『イケメンダンサ―』が好きなんです。そこでずっとやっていきたいと思っていたんです。どうか、チャンスをくださいっ!」

「凄い根性だな。顔や踊り、歌も必要な水準に届いている。可能性は……まだ、少しだけ残っているな」

 

 良し! 東山さんは完全には俺を見放していないようだ。どうやら俺はまだイケメンダンサ―に居れるようだ。正規メンバー入りは少し遠のいたかもしれないが、俺の実力ならいつかきっとなれるはず。

 

「……一つ聞きたい。先ほど流れた映像に出てきた君の被害者、彼に対してどう思っている?」

 

 ん? 何だその質問は。何の意図があってそんな質問をしてくるんだ。……まあ、ここは無難な答えにしておこう。

 

「可哀そうだと思います」

「ほう、そうか」

 

 東山さんの口角が上がり、笑みが生み出される。どうやらここは乗り切れたようだ。後は、今回の件で下がった好感度を少しずつ上げて、正規メンバーへの道を進……

 

「……てめぇがイジメたんだろうがっ! 何が可哀そうだ、馬鹿にしてんのか、ゴミが。彼に対する反省の気持ちはないのかっ! てめぇがそんな態度だからクレームがいっぱい来るんだよ。こっちにも被害が及ぶんだよ」

 

 あれ? あれれ? 何か思ってたのと違うぞ?

 

「もう二度とこの場所には来るな。レッスンも受けるな、クズが。どうか、俺たちのことを汚さないでくれ」

 

 

 ああっ、東山さんから見放されてしまった。もうこれで俺のアイドル人生は終わりだ。あんなに努力したのに、全て無に帰してしまった。ああ、俺のアイドル人生。お前はここで消えてしまうのか……………………とでも、言うと思ったか馬鹿野郎っ! こんなクソジジイの管理するグループなど、俺の居場所ではない。合理的な管理者の管理がなされたグループで俺はやっていくべきなんだ。こんな有名なだけな所よりも、質が高い上に、層が薄くて正規メンバー入りがたやすい素晴らしいグループが俺を待っている。

 

 幸い俺は、あのクソジジイだけではなく、様々なジジイに媚びを売って来た。そう、アイドル運営者たちだ。すでに自分を売り込んでいるので、お願いすればグループに入れてくれるだろう。

 

 まずは、「JND2527」の事務所に行こう。あそこのジジイとはよく遊ぶ仲だ。あそこなら受け入れてくれるだろう。

 

 

 

 

「赤坂さん、おれを、『JND2527』に入れてください!」

「はっはっは。翔ちゃん、冗談はよしてくれ。君は『イケメンダンサー』の評判をどん底にしただろう。いくら仲が良いと言っても、グループに-になるような人物を入れるわけにはいかないよ」

「そんな……ゴルフだってたくさん付き合ってあげたでしょ」

「あの時は楽しかったぞ」

 

 

『JND2527』はダメだ。次は『KET6357』だ。

 

 

「岡山さん、俺を『KET6357』に……」

「じゃあオーディションを受けてくれ。君をえこひいきすることはできない。第一選考は写真と書類で、第二選考は実際に来てダンスを踊ってもらう。そして、それを通過したら詳しく過去を調べさせてもらい、何もやましい事がなかったのなら無事研究生になれるぞ」

 

『KET6357』もダメだ。……これって、もしかして。

 

 

 

 ……『KWF34633』もダメ、『IET356』もダメ、『KWE3840』もダメ。

 

 次の『JWOWJ』が最後だ。これに受からなければ、俺のアイドル人生は……

 

 

「俺を『JWOWJ』に……」

「ダメだね」

 

 ああ、断られてしまった。アイドル界に俺の悪名が知れ渡ってしまっていてどこにも居場所がないようだ。……え、ちょ、ええ? もしかして、もう俺ってお終い? ええ?

 

 ええ、ええ? ええ。えええっ! ええ。

 

 ええ。ええ。ええ。ええ……

 

 ……ポン!

 

 

 

 

「おい、どうしたお前。様子がおかしいぞ。アイドルになれないのがそんなにショックかね?」

「ええ……」

 

「確かにキミの悪名は知れ渡ってしまって、君が普通のグループに入るのは困難だろうね。……そんなきみに、うってつけのグループを紹介してあげるよ」

「ええっ?」

 

『「ベリーベリーアンダ~」というグループでね。メンバーの過去にはこだわらないグループなんだ。しかも研究生制度がなく、層が薄いから、お前ならいきなり正規メンバーになれるぞ』

「えっ!」

 

『まあその分快適とは言いずらい場所だけれどね。あそこは客の暴行からメンバーを守る力が無いうえに、そもそも客がめったに来ない。貰える給料だって、客の気まぐれで変わってしまう。……でも、君がどうしてもアイドルを続けたいというのなら、これ以上最適なところはない。私のコネで、お前を紹介してやろうか?

「……………………ええ』

 

 




今まで読んでくれた皆様、アンケートに答えてくれた皆様、どうも、ありがとうございました。皆様のおかげで無事に完結することが出来ました。

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