『ぷはあ、今日もあちーなー』
「……ああ、もう夏だからな。……それにしてもこれはちと熱すぎる。イライラするほどにな」
俺の名前は若村頌平(わかむらしょうへい)。髪を金髪に染めてはいるが、まあ学校の中じゃ、ごく普通の学生だ。
そして、俺のつぶやきに答えた男の名は片島征史(かたしままさふみ)。良く俺たちは一緒にいるんだぜ。
『それにしても、クラスのやつらはしけた奴が多いな』
「……ああ、いまいちピンとこない奴らばっかりだ。……ピンとこない奴と言えば、あいつの姿が見えねえな」
まさふみの奴が、一人の男子生徒のことを話題にする。言われてみれば確かにあいつはいないな。まあ、そんなことはどうでもいいや。
『学校に来るのがつらくでもなったんじゃないか? 俺にとってはどうでもいいんだけど。まったく、つらいからって授業をさぼるなんて悪いやつだな』
「……おいおい、お前がそうなるように仕向けたんだろうが。まったく、他人事だと思って」
『俺のせいにしてもらっちゃ困るぜ。これはよ、自然の成り行きなんだからな』
「……まあ、そうとも言えるな」
まさふみの奴も、俺の発言に納得したようだ。
「……でもま、いい気晴らしにはなったな。あいつが居れば俺たちは楽しめるんだ。あいつには感謝しないとな」
『ああ、そうだぜ。俺たちが話しかけると、あいつはおびえたような表情になって面白いしな。基本的にあいつは情緒不安定なんだよな』
「……お前が怖い顔で話しかけるからだろ。もうちょい優しい顔で話しかけてあげろよ」
『それもそうだな。ハハハハハッ』
はぁ。思い出したら笑えてきたぜ。あいつの怯えた顔、そしてやたらと強気な発言。そんな顔しながら強気な発言するなよ、面白すぎるんだよ。ああ、本当に面白い。
あいつのロッカーはいまだに俺たちのお菓子入れとなっている。いや、ロッカーだけではない。あいつの机の中も俺たちの私物で埋まっている。あいつのロッカーを勝手に使っても平気だと知った俺たちは、あいつの様々なものを利用させてもらうようになったのだ。
本当に面白いんだよな、あいつは。俺たちが勝手にあいつの物を使っても、怒られるのは俺たちではなくあいつになるんだ。本当にひどい教師たちだよ。いや、教師だけじゃない、クラスメイト達もだ。みんな俺たちではなくあいつに文句を言うんだ。その様子がとても面白いんだよな。
「……そういえばお前、今日声おかしいぞ。歌いすぎたんだろ」
『ああ、ちょっとな。あいつが練習しろってうるさいからな。俺の歌唱力なら本来練習なんていらないのに……』
まさふみは俺の声について言及する。……さすがにばれちゃったか。
「……お前は見た目もいいし、ダンスも出来るし、女の子への対応もばっちり。かなり格上のアイドルとしてやっていけると思う」
『まあな。俺は小さいころからアイドルの知識を学んできて、それを目指すことだけを考えて生きてきたからな。もうすでに、あちこちにコネを作っておいた。俺の成功は保証されたようなものだぜ』
……俺のような優れた人間は、スターとして生きていくのがふさわしい。
「あの、クズどもめっ! 人を苦しめて笑っていられるなんて、どんな精神をしているんだ」
学校からの帰り道。周りに人がいないことをいいことに、私、結城由愛菜は思いを口に出してしまう。……思い出しただけでも腹立たしい。
彼の家に見舞いに行った方がいいのかもしれない。度重なる嫌がらせで心が壊れかけてしまっている可能性もある。私が心を癒してあげなければ。そのためにもいろいろ準備しておこう。
「私が来たぞ!」
彼の家のドアを勢い良く開ける。
「ゆ、結城さん!?!?!?!?」
「ああ!」
彼は驚いたように私を見つめ続ける。
「喜べ! 宿題を持ってきてやったぞ。これで成績を落とさずに済むな」
「え、あ、そう。ありがとう……」
彼は困惑しながら私から宿題を受け取る。……うーん、反応があまりよくないな。でもまあいいや。今の私にはこれがある。
「キミのために駅前の美味しいプリンを買ってきたんだ。部屋で一緒に食べないか?」
「プリン!? ……う~ん、でも今妹たちが部屋にいるしなぁ、う~ん……」
「妹たちがいるのか。それじゃ、キミはお兄さんだな。プリンは多めに買っておいたから、妹さんたちと一緒に食べることにしよう」
「そういう問題じゃ、ないと思うんだけれど……」
ふむふむ、彼には妹がいるのか。それならば、今後のためにも仲良くなる必要があるな。なんたって彼の家族だもの。
「まあいいや。部屋の掃除もきちんとされているし、お茶だってすぐ出せるし。結城さん、中へどうぞ」
「ああ、感謝する」
よし、許可は貰った。後はこのドアを開けるだけ……!?
天使だ! 扉を開けると、私の前に天使たちが現れたのだ。
甘い表情が愛しいゆるふわ少女、そしてゆるふわ少女よりも大人びているけれど、どこか愛くるしさを感じるふわふわ少女。二人の少女たちが四人掛けのテーブルについていた。彼女たちを見ていると、あのときの怒りが収まっていく。
「結城様なのです! 本物なのですよ」
「凄く、上品な雰囲気がしますね」
声もかわいらしい。……まてよ、彼と結婚すればこの可愛らしい子たちとも強い関係で結ばれることが出来るかもしれない。狙ってみるのも面白そうだ。
でもその前に、彼女達とも仲良くなっておきたい。
「あ、あの、お願いなんだが……」
「ん? なんですか?」
私は小声で彼にお願いする。
「……私を、撫でてほしい」
「撫でませんよ」
彼は呆れたような表情で私のお願いを断る。うう、撫でられないと自己紹介できないのに。
「ん~、撫でてほしいのですね。はい、良いのですよ。良い子、良い子なのです」
「あ、ちょっと……」
うおぉぉぉぉぉ! 私の、頭がぁぁぁぁぁぁっ、ゆるふわ妹にぃぃぃ! ああん、あああああん!
「あれ? 結城さんの様子がおかしいですよ?」
「ああ、ゾーンに入ってしまったかぁ……」
「結城様、嬉しそうなのですよ♪」
「ワタフィのぉ、名前はぁぁっ……結城ぃ、由愛菜ぁぁっ。『パレード』のぉぉ、社長のぉぉぉ、娘なのぉ」
「あははははははぁぁあぁあ、おねえひゃん、おねええぇぇひゃん!!!! ぼっとぅぅ……ぼっとぉぉぉぅぅぅ! そぉぉ、そおおだよおねえひゃゃん!!! うひひへぇへへへぇえぇえぇ!!!!!!」
あへははははひょはははは。ぱぱぱららひょらろろろ。ぺらぺりらほらりらららら。
「おにいちゃん、個性的なお友達を持っているんだね……」
「と、友達なんて俺にはまだいねえよっ。彼女は俺の友達じゃなくて…………なんだろう?」
「分からないのに家に入れたのぉ?」
「勢いとプリンにつられてな」
「お兄ちゃんの、考えなし!」
「ああ、すまねえ」
「おねえひゃんのおひいちゃんはふほいのぉぉぉぉぉぉぉ!!! おひいひゃんはぁねぇぇ、へつほうてきな状況でもぉ、強気になってぇぇぇ、何とかビブンの現状をよくしようとがんばってぃてぇぇえぇえぇっ。……ワタフィはぁぁ、おひいひゃんにふくわれたんだよ。おひいひゃんのゆうひあるほうほうがぁぁ、わたふぃにっ、ビブンをかえるけついをくれだんだよぉおおぉぉぉぉ!!!!!!!!」