乙女心もシグルイ   作:hasegawa

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第十八景 SHOWKON!

 

 

 

・藤木源之助は無明逆流れの前に敗れ、左腕を失う。

 

・牛鬼と化した権左衛門さえも破れ去り、敵味方を問わず、多くの者が死ぬ。

 

・それのみならず、見分役を務めた掛川藩の孕石すらも、此度の不手際の責任を一身に背負い、腹を切るという前代未聞の事態。

 

・虎眼流は地に堕ち、岩本家はお取り潰し同然の沙汰を受けて、閉鎖に追い込まれる。

 

・そして全ての門下生、全ての使用人たちが、岩本家から去って行く。

 

 共に汗を流した門弟達も、全て死に絶えた今……。

 ついに虎眼流は、岩本三重と藤木源之助、二人だけとなってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 とまぁ……そんな未来も、あったのかもしれないけど。

 

「――――我が世の春! 虎眼流の時代来たれり!」

 

 あれから数日ばかりの時が経ち、いま岩本のお家に、三重の機嫌良さげな高笑いが響いていた。

 

「――――金! 金にございまするッ!

 ほんに三重は幸せです! あぁ快なりッ!!」カッ!

 

 原作の岩本三重ならば絶対に言わんようなセリフを、恥ずかし気もなく口にする。いま彼女は最高に輝いていた。ウケケケケ!

 だがそれも、さもありなん。いま岩本家は、先日おこなった仇討ち仕合(ふんどし運動会)の褒賞金で、もうウッハウハなのだ。

 

「人は皆、金の傀儡(くぐつ)にございますればッ!

 ついに掴んだぞビッグマネー☆ 我は人生の勝者也!」

 

 やめとけ――――生々しいわ。

 この場にはちびっ子も居るというのに、大人の汚い部分を見せないで欲しかった。

 

 というか、三重の場合はちょっとその気になれば、どこぞの城へ仕官でも出来そうなものであるが……、それとこれとは話が別。

 虎眼流のみんなで勝ち取った賞金。その喜びはひとしお(・・・・)である。ひゃっほい。

 

「ということで、このたび岩本道場は、大規模な改装を行いましてございまする。

 稽古場の拡張、欧米的な“シャワールーム”の完備、そして各種鍛錬器具(トレーニンングマシン)の導入などなど……、他に類を見ないほど近代的な剣術道場へと、生まれ変わったのです」

 

 三重が\ジャジャーン!/とばかりに、自分の後ろを指す。

 そこには威風堂々とそびえ立つ、新生・岩本道場の姿。

 もちろんこれは、先の報奨金を使って建てた物である。あの薄暗くてカビ臭かった道場が、今は見違えんばかりにピッカピカだ。

 

 清潔で、広々とした、近代的でお洒落な稽古場。

 良質な赤樫を使用し、最上級の職人に作らせた木剣が、壁にズラッと並ぶ。

 雨の日でも、屋内で体力づくりが行える優れ物。各種トレーニングマシン。

 みんな大好き大胸筋! 上腕二頭筋! 各種バーベル&ダンベルなど、充実した鍛錬器具。

 そして庭の池を拡張して作った、ちびっ子達にも大好評の、水練用プール施設などなど……。

 

「様々な器具を導入するついでに、かの“ぶら下がり健康器”も購入してみましたが……。

 でもなにやら、最初から物干し竿をひっかける用のフック(・・・・・・・・・・・・・・・)、が付属していました。

 これなるは、『たとえ三日坊主で終わっても、洗濯物を干すのに使えるよ! だから安心して買ってね♪』という、販売元のお心遣いなのでしょうか……?

 すごいアプローチですね。げに業が深ぅございまする」

 

 そして、初心者の方でも安心して鍛錬が出来るよう、豊富な知識を持つ専属トレーナー(茂助)も在中。

 午前午後の一日二回おこなわれる予定の、短期集中型ダイエット・プログラム【MOSUKEブートキャンプ】で、この夏本気で痩せたいというマダム達を取り込む! 掛川にブームを巻き起こすのだ!

 

「いま茂助は、ここ掛川で有名にございまする。

 先の辞退せし膨大な報奨金は、いま各地での医療支援、介護支援、食料支援など……様々な福祉のために使われておりますれば。

 最近は町を歩いていても、『茂助さんありがとう!』の声を、よく聞くんですよ♪」

 

 そう三重が誇らしげに微笑み、門弟の皆もウンウンと頷く。とても嬉しそうに。

 岩本家の中間として、いつもお世話になっている茂助さん。彼は我らの誇りであると。

 

「そして、此度の儀にて好感度が爆上がりした事により、多くの入門者が虎眼流に参りました!

 近年は苦境に立たされがちだった岩本道場ですが……、これにて復権にございまするっ☆」

 

 そうなのだ。此度の改装工事中も、数多くの入門希望者が、岩本家の門を叩いてくれた。

 これにはお父上こと岩本虎眼も大喜び。流石は三重じゃとメッチャ褒めてくれた。

 近年は曖昧な状態にある事も多く、すっかり剣を振るう事が少なくなっていた虎眼であるが、これを機に再び情熱を取り戻したように見える。とても張り切っておられるのだ。

 また近々、元気に弟子たちを指南する姿が見られる事だろう。大変楽しみである。

 

「でもなにやら、ホモや腐女子(・・・・・・)といった者達が、やたらと多いような……?

 これは一体、どういう儀にございましょう?

 わたくし、なんぞ舵取りを間違うてしまった感が……」

 

「「「……」」」

 

 門弟たちが黙り込む中、三重がうむむと首を傾げる。

 いま虎眼流の門を叩いて来る者は、怪しい瞳でハァハァ言いながら、涼之介を見つめる腐女子。そして満面の笑みでフンドシ一丁(・・・・・・)という恰好でやって来るホモ野郎ばかりだ。

 彼らは剣術をなんだと思っているのだろうか。いったい何をしにやって来たのだろうか。

 

「一応、ほんにガチっぽい衆道家の方々には、虎眼流・筋肉最高コース(ボディビルディング)や、ホモの総本山でお馴染み、提携先である船木道場の方をご紹介しておきました。

 剣には何の興味も無さそうなお姉さん方には、涼を講師として行う“おさわりOK! ショタっ子と学ぼう♪ 胸キュン護身術コース☆”をお勧めしておりまする」

 

 え、虎眼流って衆道家ばかりなんでしょ? ホモがやる剣法なんでしょ?

 そんな皆様の声に、ちょっと冷や汗をかきつつも、三重は彼ら専用のコースを用意し、それに対応したらしい。

 

「お客様の様々なニーズにお応えし、更なる虎眼流の発展を!

 ピンチはチャンス☆ 世の中ゼニやで~! にございまするっ!」

 

 なんだかんだ言って、三重も商魂たくましかった。

 藤木の妻として道場を支えるのだから、意外と心強いのかもしれないと思う。

 

 その他、虎眼流ではメインとなる、“剣術指南コース”を始めとし……。

 お洒落な剣が女性に人気! 夕雲くんの、“アミーゴ! イスパニア剣術コース”。

 虎眼流の裏特技であり、千加の十八番である、“撲殺☆ 徒手空拳コース”。

 その他にも、携刀の許されない身分の方や、一揆を目論む農民の方に最適な、“やっぱりオラは竹槍コース”。

 命知らずな殿方にオススメ、藤木先生が情け容赦なく鍛えてくれる、“死狂い(シグルイ)コース”なんて物もあったりする。

 

 新しい物、斬新な物、思わず興味を惹かれる物――――

 そんな多種多様なアイディアを実践し、新しいライフスタイルを提案していく所存だ。

 

 

「――――さぁ皆の衆! 今日から忙しくなりますよぉ!

 日ノ本いちの道場を目指し、邁進して参りましょーう!」

 

 

 三重の号令と共に、門弟達が「おー!」と拳を突き上げる。

 元気いっぱいな千加。使命感に燃える涼之介。覇気に満ちた声の牛股たち古株。嬉しそうな夕雲くん。ちょっと照れながら腕を上げてる藤木などなど。

 その様子はそれぞれだが、みんな希望に目を輝かせ、生き生きとした顔だ。

 

 虎眼流にとっての天王山とも言える、先の仇討ち仕合を(一応は)乗り越え、今日からまた新しい日々が始まる。

 

 このたび勇退した虎眼に代わり、正式に新たな道場主となった、藤木源之助。

 道場の最高師範として、それを影から表から支える妻、岩本三重。

 

 新生虎眼流・岩本道場――――スタートだ。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「おかしい……何かがおかしゅう御座る」

 

 その一方……、先の仕合を経て、このたび正式に駿府城に仕官する運びとなった、伊良子清玄。

 

「なにゆえ(おれ)、こんな粗末な飯を食わされておる?

 こんな狭い部屋に押し込められておるのだ……」

 

 だが彼は、ぶっちゃけいく殿のついで(・・・・・・・)、であった。

 先日いく殿は、なんと当日も会場にいた忠長に気に入られ、召し抱えられる事となったのである。

 いくの連れ合いである伊良子は、「まぁそれだったら、君もくれば?」とばかりに、捨て扶持同然の禄を与えられ、形だけは仕官できたのだった。

 

 というか……この冷や飯は何だ? これが曲がりなりにも、徳川の副将軍に仕える者の飯か?

 こんな4畳一間の子汚い部屋、よぅ見つけて来たな。逆にようあったなと関心するレベルだ。

 

「ひもじゅう御座る! あったかいご飯が食べとう御座るっ!

 なして己がこんな目にぃ~!!」

 

 それもこれも、全て三重のせいだ(・・・・・・)

 かの仇討ち仕合の前、きゃつのゲイザーを喰らって、腕だの何だのを骨折し、立ち合いが出来なかったせいなのだ。

 未だに清玄は、その秘剣を忠長にお見せする機会に恵まれず、どっこも何にも気に入られてなかったりする。

 

 いま虎眼流はフィーバータイムに突入し、正にウッハウハ状態にあるというのに、伊良子との対比がすごい事になっている。

 こんなんだったら、大人しく真面目に鍛錬して、ずっと岩本道場にいた方が良かったまである。

 

「あら清玄さま、ご機嫌よろしゅう御座いまするか?」

 

「い……いく!? お前っ!」

 

 恐らくは、美味しい物でも食べて来たのか。

 綺麗な着物に身を包んだいくが、爪楊枝で前歯をシーシーしつつ、「失礼……ゲップ♪」とか言いながら部屋にやって来た。冷や飯を食ってる自分との格差がすげぇ。

 しかもこの部屋、2人も入るとメッチャ狭い。めっちゃ息苦しい。

 

「お主……大事ないか?! なんぞ忠長公にされてはおらぬか!? 怪我は?!」

 

「あらま、ご心配かたじけのぅ。

 なれど心配はございませぬ伊良子さま♪ 忠長さまには、大変よぅして頂いておりますゆえ♪」

 

 そう。実はいくは、愛妾などといった扱いでは無く、純粋に“使用人”のような形で召し抱えられたのである。

 身体を求められる事も、過度な労働を課せられる事も無い。ときおり暇つぶしのように三味線を弾かせる以外、忠長は何も彼女に求めなかった。

 ただ、ここに居ろ――――それはまるで、忠長がいくを守っている(・・・・・)かのようだった。

 

『先の喧嘩、誠に大義であった。

 また気が向けば、三重と遊んでやれ――――』

 

 静かな労い。そして頼み事(・・・)

 まるで大切な妹を想い、兄がするような……そんなほのかに優し気な顔で、忠長はそう求めたのだった。

 

(もう御免ですよ、忠長さま。

 だってあの子、その実怪我ひとつ無かった(・・・・・・・・・)んですもの。

 ……こちらは五日も、顔の腫れが引かなかったというのに――――)

 

 勝てるワケが無い。あんな鉄で出来たような子に。

 あの後、ようやく意識を取り戻した時……、自分は三重に膝枕をされており、そしてニッコリと微笑まれたのだ。

 

 しかも三重は、あの喧嘩の中、決してこちらを過剰に傷つけぬよう、気遣いまでしていたのだから。

 あんなにも沢山、日が暮れるまで殴り合ったというのに……。その見た目こそ派手に殴っていたが、いくは今どこにも怪我をしておらず、骨すら折っていなかった。何の後遺症も出ていない。

 

 仮に三重がその気であったなら、最初に自分が殴りかかって行った時に、七丁念仏で真っ二つにされていただろう。確かにあの時、彼女は刀を握ったまま(・・・・・・・)だったのだから。

 そして、いくら胸倉を掴んだとはいえ、こちらの拳をもらう必要など、無かったハズだ。

 いくは、これまで一度も喧嘩をした事がなかったし、たいして腕力も無ければ、身体の動かし方もロクに知らないのだ。

 

 けれど三重は、全てを受け止めてくれた――――いくの想いを汲み、全て吐き出させてくれた。

 

 力の限り、思いの丈をぶつけ合った。心にあったモヤモヤが、全て消し飛んで行ってしまった。

 いま思えば、あの日の出来事は、全て夢だったんじゃないかとすら思える――――

 それほどまでに熱く、非現実的で、楽しい時間だった。

 

 けれど、もう御免だ。あんな事をするのは。

 忠長さまには悪いけれど……私は女に御座いますれば。あのような野蛮な振舞い、一生に一度でよぅ御座います。

 そして、一度で十二分に満足できるほど、スッキリいたしました故――――

 そういくは、静かに瞳を閉じ、あの子から貰った大切な思い出を、そっと心の宝石箱に仕舞い込む。

 

 

「ほら伊良子さま、台所より饅頭をくすねて参りましたよ♪

 これを召し上がって、また元気にがんばりましょう!

 目指せ出世! 目指せ一国一城! 無明逆流れは無敵に御座いまする♪」

 

「お……おうとも! 己は必ず成り上がってみせるぞ! 見ておれよ、いく!

 まぁすでに三重には破られとるし、未だ忠長公にもお見せ出来ておらぬが……諦めるものか!」

 

 

 小汚なくて、死ぬほど狭い部屋の中……いくと伊良子が元気に腕を突き上げ、二人で「えいえいおー!」と微笑む。

 貧乏でも、立場はしょぼくても、そんなこと関係無しに、二人の目は希望に満ちている。楽しそうに笑う。

 

 まだまだ出世は遠いけれど、なんだかんだと幸せな、いくと伊良子であった。

 

 

 

 

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