「うえっへっへ……。うえっへっへ……」
ある日の早朝。晴天の空の下、笹原邸の庭にて。
「うらめしや……。いつか刺してやる……。マジうらめしや……」
そこに、〈ドゴン! ドゴン!〉と轟音を立てつつ、ひたすらサンドバッグに拳を打ち込み続ける、三重の姿があった。
「鼻を潰し、目を抉り、歯を抜いてやる……。
はらわたを引きずり出し、遠州
この世で信奉すべきは、剛力のみ也。……暴力……暴力……暴力……!」
よく見れば、そのサンドバッグは人型。しかも顔にあたる部分に、なにやら“清玄”にそっくりな絵も描かれている。
虎眼流剣士は、丑の刻参りなんかしない。そんな陰険なマネはまっぴら御免だ。
ゆえにその代り、殺したいほど憎い相手を思い描きつつ、こうして鍛錬に励むのだ。
あたかも夜叉の如き表情で。ドロドロとどす黒い瘴気を発しながら。
三重の左腕が、ちょうど腰の辺りで構えられ、死神の鎌のようにブンブン左右に揺れる。
そこから放たれる、鞭のようにしなる拳。いわゆる“フリッカージャブ”というヤツで、標的を滅多打ちにしていく。ドゴンドゴン音が鳴る。
「流石は岩本家のご息女。見事な業前に御座る(震え声)」
「およ? これは笹原さま。お恥ずかしゅうございまする」
恐る恐るこの場にやってきた笹原が、震える身体を抑えつつ、オドオドと声をかけた。
三重の方は、キリッと武家の子女らしく、お淑やかな所作。今さらそんな事しても遅いと思う。
「いや見事。もし日ノ本に“拳闘”なる競技あらば、王者となるは三重どのに御座ろう。
ぶっちゃけた話……それどこで覚えなさったのです?」
「もったいのぅ。三重は未だ、極め尽くさぬ身なれば」
さりげなく訊いてみたが、やんわりと躱される。残念ッ!
この娘は一体どうなってるんだろう? そんな事はもう、ずいぶん前に考えるのを止めた。
「確か、藤木どのが晋吾と立ち合いし時も、決着は拳による物と。
虎眼流は剣のみならず、柔にも通じておるのですな」
「あれは……やりすぎです。
よぅ叱っておきましたゆえ、何卒お許しを」
「いやいや。確かに驚きはしたが、ただただ感服して御座る。
あれ程の
あの晋吾が惚れ込むのも、分かり申す」
笹原が腕を組み、機嫌良くウンウンと頷く。
その様を、三重はじっと見つめ……。
「……ホモですか?」
「何がぞ」
思わず真顔になり、素の声を出してしまう笹原さん。
「笹原さまは、たしか独り身と……。
それなるは、
拙者、男の蕾しか
「三重どの、いま朝っぱらぞ?
この胸がすくような清々しい朝を、何と心得る」
「お人柄も良く、男前でいらっしゃいますのに、おかしいと思ってました。
なんと無惨なのでしょう……。お労しゅうございまする。あわわわ」
「男には、決して敵わぬと分かっていても、戦わねばならぬ時がある。
この笹原の血が見たいと申されるか」
「血? 尻からにございまするか?」
「うむ、まったく話が通じぬ。この濃尾無双娘。
正直
「あっ!
「ぶっちゃけ拙者も、ちと怪しいな~とは存じとるが、信じてやってくだされ。
青少年の穢れなき憧れ也」
これ以上、話に付き合ってはいけない!
ようやく笹原はその結論に至り、別の話題に持っていく事とする。
「そういえば、藤木どのと伊良子清玄は、元々は同門と聞き申した。
かの者は、どのような門人でござった?」
「あぁ……。あの河童めは、隙あらばわたくしの茶に唐辛子を入れたり。
わたくしの草鞋を
肩をお揉みしましょうぞ~とか言いつつ、わたくしの背中に『
「さ、左様か……」
あやつ、意外と頑張っておったのだな。
しょーもない悪戯とはいえ、伊良子が結構復讐していたという事実にビックリする。
だがそりゃー恨まれるぞ、伊良子清玄どの。
「その度に指南と称し、木剣でボコボコにしてやりましたが……。
なれどいつも、
負けるは当然としても、我が剣から何かを盗まずにはおかぬ。ただでは起きぬと」
唇に指を当て「う~ん」と唸りながら、過去を回想する。
三重にとって伊良子とは、腹が立ちはするが、“妙な男”という印象だった。
「そのクセ、決して稽古熱心でなく、暇さえあればグータラと休む。
人と同じようにするのではなく、要領よく学び、己に必要な事のみを行う。
向上心というより、“野心”がある男。
類まれな剣才を持つ、かの者独特の所作にございました」
「ほう。そうで御座ったか」
関心したように、笹原が唸る。
同じ“天才”と呼ばれし
「なれば、藤木どのは如何か?
あの御方の業前は、まさに比類なき物と心得ておるが、どのように過ごされていた?」
「藤木さまですか? そうですねぇ~」
三重が再び口元に手をやり、「う~ん」と唸る。
「藤木さまは、
いつも部屋のすみっこで、じーっとしておりまする。落ち着くんですって」
「――――ハムスターか!!」
◆ ◆ ◆
何だかんだで、四月末日。
三重たちが駿府に移り、約半年ほどが経過した、とある日の事。
「ご無沙汰しておりまする、日向どの。
ご壮健のようで、何よりにございまする♪」
「あぁ、よう参ったな三重どの。
城ではよぅ会ぅておったが、こうして屋敷に招くは、随分と久しぶりかの?」
ここは、駿河藩武芸師範を務める、日向半兵衛
本日、藤木と三重の両名は、
現在は日向邸の公用の間にて、礼を尽くして挨拶を交わしている所だ。
といっても、三重の方に関しては、既に日向とは面識があったりする。
彼は駿府でも屈指の人格者であり、三重をとても大切にしてくれている御方の一人。また武芸の先達としても、三重は心から日向を尊敬しているのだ。
いわば、「大好きな優しいおじさん」的なお人である。
「重ねてになるが……此度は御殿忠長さまの願いを引き受けて頂き、まこと感謝に堪えぬ。
駿府の総力を挙げし、大きな催しゆえ、引き続き御助力を願い申す。
どうか忠長さまを、支えて差し上げてくれ」
「心得ておりまする。力を尽くしましょう。
どうかご案じ召されませぬよう」
企画、広報、参加者の選定や面接。直接赴いてのスカウトなどなど……。この半年ほど三重は、御前試合の総合プロデューサーとして、その手腕を振るっている。
駿府の武芸師範である日向とは、協力して事に当たっている仲間。すごく頼りにしている人物である。
「して……此度招きたるは、藤木源之助どのの件よ。
その方の容姿や人柄、そして業前など、殿の鑑賞に相応しきか否かを、
そう口にした途端、なぜか日向がモゴモゴと言葉を濁し、とても何かを言いたそうな感じで、三重の方を見た。
◆ ◆ ◆
「えっと……
「あの、石村
「拙者、
面通しを終えた三重たちは、屋敷の庭へと通された。
いま彼らの前には、藤木の業前を確かめるべく呼ばれて来た、新陰流の門弟達三名の姿がある。
皆、袖を襷で縛っており、いつでも仕合を行える恰好をしている。
しかしながら……。
「日向先生の御言い付けにより、馳せ参じ申したが……。
なにゆえ藤木どのは、
いま藤木は、その全身が包帯グルグル巻きであり、松葉杖をついてこの場に立っていた。
どれだけ目を凝らしてみても、その五体には一か所たりとも、無事な部分が見当たらない。
大きく膨れ上がった、絆創膏だらけの顔。ギブスに包まれている右足と左腕。
胸元、首、前腕といった肌が見えそうな箇所には、ことごとく包帯が巻かれており、「きっとミイラ男が和装をしたら、こんな感じなんだろうなぁ」といったような出で立ちである。
ぶっちゃけ、今も藤木の口からは「あああ……あああ……」という呻き声が漏れている。
まさにシグルイ! と言わんばかりに、バッチリ白目も剥いていた。御美事にございまする。
「あのぉ~、お主と立ち合えと、そう仰せつかったのだが……」
「傷だらけではないかっ! まともに立てておらぬっ!
もしやお主、いま全身の骨が、
「口から魂的なヤツが、出てしもうておる……。
まだ仕合うておらぬのに、満身創痍ではないか……」
えっ、関ケ原にでも行って来たの? タイムスリップした?
いまの藤木くんの身体は、まさにそんな感じの具合だ。落ち武者だってもう少しマシだろう。
「のう……三重どのよ?」
(ぷいっ!)
日向がギギギ……と首を動かして視線を向けるが、三重は顔を逸らすばかり。額に大量の汗を流している。
「何故こんな事になっとる……?
儂は見分役をすべく、御前試合に参加する剣士を呼んだのじゃ。
誰がミイラ男を連れて参れと」
「ちゃうねん、日向どの。
ちゃうねんにございまする」
未だ目も合わせようとしないまま、三重は必死に言い訳を探す。
その様は、とても武家の子女に似つかわしくない、お粗末な物。
「だ、だいじょうぶに御座る。なんのこここれしき。
痛くなければ覚っ……おぼぼぼ」
「黙っとれ藤木。今こっちで話しとるでな? 大人しゅうしとれ」
壊れたCDのようになった藤木を、とりあえずその場に座らせておき、引き続き三重に説明を求める。
「いやあの……このたび日向さまに、御目通りをするという事で。
わたくし共はこの日まで、張り切って藤木さまの鍛錬を、おこなって参ったのですが……」
しかし、
あまりにも張り切り過ぎたものだから、藤木様こんなんなっちゃった☆ ……と三重は語る。
「丁度、わたくし共が御厄介になっているお家には、もう数多くの猛者達がおりまして」
「ふむ……」
「その全ての者達と、特訓をおこなっていたら……いつの間にやらこんな事に。
藤木さまは平均して、
「――――やめさせよッ! 骨が無くなってしまうッ!」
星
中山筋肉の助と一緒に、ひたすら各種
人間ポンプも、
暇さえあれば馬鹿でかいカジキを背負い、もう駿府中の剣術道場に「こんにちはー」と挨拶(意味深)をしに行く日々……。
加えて千加や峻安といった仲間達や、晋吾くんを始めとした笹原門下の高弟達と、片時の休みなく丸一日中、乱取りをおこなってきた。
それに“天下一の槍使い”、ご存じ笹原修三朗さま。
かの“峰打ち不殺”でお馴染み、月岡雪之介さん。
ドMだけど意外と良い人だった、“被虐の受け太刀”の座波間左衛門さん、
今度の御前試合にも出場するらしい、薙刀使いの美しい女性、磯田きぬ殿。
失恋しちゃったし、最近ちょっと暇してたらしい“ガマ剣法”の頑之助くんなども、快く稽古相手を申し出てくれていた。もうズッ友なのである。
――――剣を向けられる度に5文もらってたら、今ごろ大金持ちだぜ。*1
ここ最近の藤木くんは、まさにそんな生活を送っていた、
「一度折れたる箇所は、更に丈夫になると、音に聞きまする。
ゆえに、こうしてバンバン骨折してゆけば、いつか全身の骨が
「 ならん! その前に死ぬぞッ! 考え直せ虎眼流ッ!! 」
そしてなにより……、藤木はあの「ヒテンミツルギスターイル!」の超強い剣豪とだって、もう何百何千と立ち合って来たのだ。
今では彼は、藤木にとって一番の稽古相手となっている。
フタエノキワミ vs
この必殺技同士が激突し、シャキーンとカッコ良く交差した瞬間、仲間たちから大きな歓声が上がった。
大変夢のある対決に、めちゃめちゃテンションが上がったし、ワクワク心が躍ったのだ。
なれど……、そんな事を繰り返していく内に、どんどん藤木くんの身体はボコボコになっていったのだった。
もう彼の五体には、無事な箇所なんてどこにも無い。とても“手負いの虎”なんてカッコいい物じゃない。
いくら虎眼流剣士とはいえ、人間には限界という物があるのだ!
「おいっ! こやつヘコぅ御座るぞ! 一発で倒れよったッ!」
「よっしゃあー! 者共かかれぃ! 虎眼流を討ち取れ~ぃ!」
「こんにゃろ! こんにゃろ! 往生いたせ! えいえい!」
いつの間にやら新陰流の三人に取り囲まれ、
辺りにボカスカ音が鳴り響き、漫画みたいな土煙が上がっている。
三重は釈明するのに気を取られて、あちらを見ていなかったのだが……
どうやら藤木くんは、満身創痍のままヨロヨロと前に出て、「ままま参られよ……」とか言っちゃったらしい。
ついでに、「え、マジでやるの!?」とオロオロ狼狽えていた三人に向かって、「一人づつに御座るか?」と挑発までかましたと言うのだから、この人達が怒るのも無理はない。
そして白目を剥いたまま、朦朧とした意識で前に出た挙句……、木剣と間違えて松葉杖を構えちゃった藤木くんは、平兵衛さんの上段斬り一発でKO!
そのまま「虎眼流討つべし!」とばかりに、三人がかりでポコポコ殴られるという始末。もうボロ雑巾になっていた。
「あのぉ……日向さま。また今度にいたしませぬか?
ほら、今日なんか雨降りそうですし。なにとぞ御容赦を……」
「う、うむ……」
武士道は死狂い也――――でもそこまでせんでもええんじゃ無かろうか?
剣の道は厳しく、人生はままならないなぁと思う、日向さんであった。
◆ ◆ ◆
「 よくもやったな柳生三剣士! 今度は貴殿らが泡吹く番ですっ! 」
後日、再び日向邸のお庭に、三重の元気な声が響き渡った。
「さぁさぁ! いざ尋常に立ち合いましょう!
今度こそ貴殿らを打ち倒し、虎眼流は更なる高みへと……」
「あのぉ~、三重どの……?」
先日のリベンジとばかりに、またやって来たらしい三重たち。
だがその対手を務める柳生三剣士の面々は、誰もが「……」と渋い顔をしている。
「いや、立ち合うは結構だが……、まだ先の件から、二日と経っておらぬぞ?」
「藤木どのは大事ないか? なんか興が乗り、おもいっきりボコってしもうたが……」
「もっと間を開けた方がよぅ御座らん? せめて一か月とかさ?
まだ時間はあり申すし……」
「 うるせぇちょんまげ! どうせお前らもホモなんでしょう! そんな顔してます!
あわとひえばっか食いよってからに! この一汁一菜野郎ッ!
この立ち合いに勝ってから、物を申しなさいっ! 」
めちゃめちゃ言いよんな、この娘……。せっかく気遣ってくれたのに。
三剣士は恐れおののくが、三重の勢いはとどまる事を知らぬ。虎みたいに「ガーッ!」と吠えているのだ。すごくコワイ。
「では参りますよ藤木さま? いまこそ復讐の時!
貴方は虎。貴方は虎。貴方は虎。
グッと藤木の肩を掴み、顔を突き合わせて、言い聞かせる。
あたかもセコンドのように、催眠術をかけるペテン師のように、
そんな虎眼流陣営の必死さに、傍で見ている日向さんは、もう涙が出そうだ。藤木が不憫でならない。
「さぁ戦いなさい! 虎眼流剣士よ!
いざ
「ほ~ら藤木さま、右足から行きますよ~? それいっちに、いっちに」
「おい三重どの? なんか藤木どのの背中が、
なんか藤木の身体が、明らかに“二人分の分厚さ”になっているのが分かる。
いま藤木くんの背中には、ピッタリと千加が張り付いており、こうして一緒に服の中に入り、二人羽織よろしく彼を操縦しているのだった。
満身創痍で動けない藤木を、無理やり戦わせる為に。
その動きはすんごく緩慢で、左右にヨタヨタしながら歩いている。
たまに千加の「右! 右!」という、必死な声も聴こえてくる。
「なんじゃあーお主はぁー! そんなモンやったるわぁーい!」
「往生せい虎眼流っ! 参ったを申せぃ!」
「こんにゃろ! なんで家で大人しくしとかんのだ! えいえい!」
「――――ダメです! まったく前が見えませんっ! ごめんなさい藤木さまぁ~っ!」
再び取り囲まれ、三人がかりでボコボコにされる。微塵の躊躇なく。
二人羽織の前にいるのは藤木なので、彼ばかりが棒で殴られており、見る見るうちにボロ雑巾と化していった。
◆ ◆ ◆
「 今度は負けぬぞ柳生三剣士! 覚悟なさいませっ! 」
「あっ、また参られたのですな、三重どの……」
再び後日。また日向邸の庭に、三重の勇ましい声が響いた。
「我が虎眼流剣士を、二度までも破りし事……まぁ褒めてやらぬでも無ぅございまする。
ですがっ! その幸運もここまでぞ! 仲良く六道輪廻を踏みなさいっ!」
「いや……最初から意識不明だったが、その御仁は」
「別にこちら側が強かったから~とか、そんなんちゃうじゃろ。ええ風に申すな?」
「なんで来たんじゃ三重どの。昨日やったばかりではないか。藤木どの可哀想じゃて」
三剣士たちは呆れ声だが、今も三重の目には、それはもう燃えるような闘志が宿っている。
だが残念なことに、戦うのは藤木なのだ。お前が気合を入れてもしょうがない。むしろ止めてあげて欲しい。
「貴方は虎。貴方は虎。貴方は虎。
また藤木の肩を掴み、言霊で洗脳していく三重さま。
なにが彼女をそうさせるのか、なんで藤木は彼女に従っとるのか。もう日向は不憫すぎて、涙で前が見えなくなっている。
「ではいってみましょう! これが真の決着でぃす☆
さぁ戦え藤木さまッ! いざつかまつれぇ~い!」
「では参るぞ藤木どの~? ほーら楽しいのぅ~。楽しいのぅ~」
「三重どの? その
いま峻安さんが梯子に乗り、まるで
藤木くんの方は、もう「ガックリ!」と項垂れてしまっており、今も白目を剥きながら、口から涎を垂れ流している。
その身体のどこにも力が入っておらず、まさにパペットその物! もしくは死体に見えなくも無い。宙づりにされた状態で、すんごくウネウネしている。
このような状態の藤木を戦わせる為に、峻安が頑張って操り人形の練習をしてくれたのだ。
「こんなん負けるかぁーー! やったるわボケェェーーッ!!」
「死ねッ! 今度こそ死ねぃ! そして楽になれっ!」
「もう戦わんでええようにしたる! これも武士の情けぞッ!」
「――――すまぬ! ぜんぜん戦えんで御座るっ!
ブラーンとさせとくので精一杯じゃ! 許せ藤木どのぉ~~っ!」
紐で宙づり状態のまま、あえなく三剣士に取り囲まれて、タコ殴りにされる。
そら無理やろ、からくりサーカスじゃあるまいし――――
ボカスカという打撃音を聞きながら、日向は思うのだった。
◆ ◆ ◆
「 ハロー新陰流! また会ったな柳生三剣士よっ! 」
「うわ、もう来たのですか三重どの。
ワシらもけっこう忙しいのじゃが……」
四日連続! ここ最近の日課となっている、日向邸での立ち合い。
今日も三重たちは、元気にここへやって来ていた。微塵も悪びれる事なく。
「いやもう……藤木どのの人となりは分かり申したから。頑張り屋さんなのは分かったから。
御前試合にも出てもらってええし……」
「なにを仰います日向さま! 剣士たるもの、敵に背中は見せられませぬっ!
あの三剣士を
藤木が心配なんじゃて。彼が死んでしまい申す。
日向はそう気遣っているのだが、三重はまったく聞き入れる様子が無い。意地になっているのだ。
「では参りましょう☆ いざ征かん藤木さまグレート! 敵を打ち倒しなさぁーい♪」
「――――I'm Fujiki! C'mon mother fucker!」(行くぞチンカス野郎!)
「ちと待たれよ。
おでこに大きく“藤木”と書いただけの、物凄い図体をした大男が、のしのしと前に進み出ていった。
「筋骨隆々やないか。めっちゃ褐色の肌やないか。
そのアフリカ系の御仁、どこから連れて参った?」
「えっ」
三重と黒人さんが、キョトンとした顔でこちらに振り返る。あたかも心外であるかのように。
「何を仰るのです。どこからどう見ても、藤木さまじゃないですか(震え声)」
「――――I'm Fujiki! From South Africa!」
「いや“南アフリカ”言うとるがな。其は藤木どのに非ずじゃ」
ちなみにであるが、いま藤木君は笹原邸にて、生死の境を彷徨っている。
絶対安静であり、とても動かすことが出来なかったので、代わりにこの人を連れて来たのだ。
とても屈強な御仁で、体重は130㎏もある。
「あの……いちおう勝負だけでも、して頂けませぬか?
せっかくこうして、お越しくださったのですし」
「――――ファイトでごじゃるマース! ナニトゾ!」
「そういう趣旨と違うて。
勝ったら何でもええとか、そんなんと違うて。なんじゃナニトゾて」
後日。三日ほど寝て元気になった藤木は、三剣士まとめてペガサス流星拳した。(おしまい)