[幽霊の通路]は、要塞のような地上の建物部分と、地下に潜った洞窟部分で出来ているが、要所要所でレバーを操作して鉄格子を開けなければ道が開かない構造になっている。
「何か似たような所ばっか回ってる気がする‥‥」
「そうか? ここはまだマシだと思うけど‥‥」
俺もよくダンジョン迷子になるんでミカの気持ちはわかる。2人とも迷子気質だとすると、俺が自信のないダンジョンはマッピングした方がいいかもしれない。
元は砦の地下牢だったと思われる場所で[ゴースト]を掃討し、俺は適当にキノコや[マナの石]を掘削する。
[マナの石]は、錬金術クラフトで使う高級素材だ。外れでも銀貨6枚。当たりだと[ハックマナイト]という塊になり、一気に銀貨50枚に化ける。
「お、当たりだ」
幸先が良い。
牢屋エリアを抜けると、再びレバーで鉄格子を開ける。その奥に[ゴースト]と異なる赤紫の光が廊下を照らす。
「ミカ、次の奴は強いんで援護頼む」
俺がそう言うと、ミカはコクリと唇を引き結んで頷いた。
赤い[ゴースト]は、名前こそ[ゴースト]だが、タフさも攻撃モーションも全然違う。武器も貧相な剣と盾ではなく恐らく[残忍な大戦鎚]っぽい物に変わっており、範囲魔法のような攻撃まで行ってくる。
出し惜しみしている場合ではないので、入り口で拾った[霊魂のニス]を使う。[火の布]と同じ系統の武器に属性ダメージを付加するアイテムだが、ニスの方がずっと効果が強い。
属性付与の効果はそんなに長くない。俺は角から勢いよく格子戸を潜り、赤い[ゴースト]に襲いかかった。
「食らえ!」
初撃で[キック]を入れて、続けざまに斧を振るう。
「[シム]、[ファル]で[ルーントラップ]!」
一歩引いた俺に[ゴースト]の注意が向いたのを見て、すかさずミカが背後から[ルーントラップ]を仕掛ける。トラップは即座に発動し、紫の爆発が[ゴースト]を吹っ飛ばした。
「よし、今だ!」
outwardでは各キャラクターに[衝撃耐久力]があって、これがなくなると転倒する。一度転ぶと大きな隙になるので、攻撃する際はHPを削るための攻撃力と、体勢を崩す為の[衝撃力]で武器やスキルを選ぶ訳だ。
俺がダメージの低い[キック]を使うのも、出が早く頻繁・低コストで打てる割に結構な[衝撃力]を持っているからだった。
金があれば更に盾のスキル[シールドバッシュ]も非常に有用なのだが、この先盾を使い続けるとも言い切れなかったので選ばなかった。
「[ファル]、[シム]で[電撃弾]! もっかい[シム]、[ファル]で[ルーントラップ]!」
ミカも魔法の大盤振る舞いだ。残るMPを振り絞ってガンガン攻める。
[ゴースト]は起き上がってこちらに向かおうとした所で、派手な光を放ちながら昇天していった。ミカの[ルーントラップ]がトドメを刺したらしい。
死体の代わりに熾火のような瞬く残滓を置いて、戦闘は終了した。
「あー、心臓バクバクする。おじさん、一応ポーション飲んどくけど、全開でやるのは次が最後かも」
「ああ、わかってる。さっきのはミカがMVPだな、やっぱ[ルーン魔法]はすげーよ」
俺が褒めると、ミカははにかみながらミルク色のポーションを煽る。即座にMPを回復する[星気のポーション]だ。[ベンダベル要塞]で材料の[星のキノコ]が手に入ったので2本程錬金クラフトで作って置いた奴だ。
MPの回復手段は、今のように即時回復するポーションを飲んだり、徐々に回復する料理を食べるか、寝るしかない。
他にも
「さて、ここまで来れば出口はもうすぐそこなんだが‥‥宝箱があるから、もう一戦赤ゴーストやって行こう」
俺たちはレバー式の昇降機を使って地上階に戻ると、更に幾つかレバーで鉄格子を操作し、待ち構えていた赤い[ゴースト]を危なげなく倒した。
「‥‥うーん、[電撃弾]より[ルーントラップ]の方が効いてるみたい」
「あー、そうかもな。幽霊系のモンスターは確か、[エーテル属性]が弱点だから」
[エーテル属性]の攻撃手段は少ないが、[ルーントラップ]や[霊魂のニス]は手軽に調達出来る有用な手段だ。
[ゴースト]に守られていた豪勢な装飾の宝箱からは、それなりに高く売れそうな[半板金の鎧]と[半板金の兜]が手に入った。
「おじさん、こういうの使わないの?」
「んー‥‥足が遅くなるから旅に向いてないんだよ。リュックがもう一つデカく出来れば考えてもいいんだけどな」
最後に、入り口脇で最初に俺が[ゴースト]を倒した部屋の隠し扉をレバーで解放して、俺たちは意気揚々と[幽霊の通路]を抜け出したのだった。
「‥‥あー、やっぱいるよなー」
再び[ケルネソス]のフィールドである。
[幽霊の通路]を抜け、廃墟を越えると目的地である[風の陰謀団の塔]はすぐそこなのだが、ここにはヤバいモンスターが生息している。
「えっ、おじさんアレ‥‥前に浜辺でやられた奴だよね‥‥?」
やられてないやられてない。[電撃弾]当てられただけ。
そう、懐かしの[シャコ]である。だが、俺が気にしてるのはそいつではなく、今まさにその[シャコ]を圧倒してぶちのめしている巨体のクリーチャーだ。
「あー‥‥紹介しよう。[ケルネソス]で敵に回しちゃダメなクリーチャーNo.1‥‥[シェルホラー]さんだ」
何と言えばいいのか、どう考えても宇宙から飛来した謎の生物としか言えない外見である。
ゴリラのように両腕を付きながら歩き、濁ったピンク色の筋肉質な肉体の上に背中一面と腕を亀のような甲羅を纏っている。顔はクワガタのような四本のハサミと二本の光る触手がまとまっているあの辺りが顔なんだろうか‥‥?
[シャコ]も人間と同サイズぐらいでなかなか不気味なのだが、この[シェルホラー]に至っては起き上がると3mぐらいあるんじゃないだろうか。
ゲームでも威圧感のあるモンスターだったが、生身で見ると猶の事である。
[シャコ]も頑張っちゃいるが、あの太っとい腕でワンツー食らっただけで転倒、されるがままだ。勝負になってない。
「[シャコ]が生きてる間に走り抜けるぞ。鳥頭忘れないでな」
いつもは嫌がる[パールバードの仮面]にも即座に付け替えた。ミカも上には上がいるって事を痛感したに違いない‥‥。
俺たちは[シャコ]の尊い犠牲を経て、何とか隠者の住む[陰謀団の塔]に転がり込んだのだった。