第18話 そこはワンダーランド
「‥‥で、そこに置くんだ」
ミカのジト目が俺の横顔に突き刺さるのがヒシヒシとわかるが、無視する。
「仕方ないだろ。自分のリュックには限界があるんだから」
そう言うと、俺は[ベルグ]のキャンプ地横に置いた[間に合わせのリュック]から手を離した。中には[巨大な蜂の巣]で手に入れたこの先必要になりそうなキープ装備が入っている。
「‥‥そう言うのって家の宝箱に入れるのがホントなんでしょ?」
「家があればな」
ホントに家があればそうしたんだけどね。
しかし、[ベルグ]に家が買えるのは[派閥]クエストを全て終わらせた、言わばゲームクリア後のご褒美だ。そこまで何の備えも出来ないってのは流石に酷すぎるだろう。
誰も助けてくれないなら、自助努力するしかないだろう。使えるなら何でもするべきだ。
さて、キープ装備はさておき、[巨大な蜂の巣]で手に入った物を売った銀貨は再び600枚を越えた。
「軍資金としちゃ心細いが‥‥そろそろ頃合いかな。次は[神聖な沼地]に行こうか」
俺がミカにそう言うと、彼女は小首を傾げながら顔をしかめた。
「前から気になってたんだけど、“神聖“なのに“沼“なの?」
「まあ‥‥沼だな」
詳しくは、長旅になるし追々話す事にしようか。
「[神聖な沼地]には、前にも話したけど[派閥]が一つあって、[聖なる使命]って言うんだよ。そっちに因んでの名前なんじゃないかね」
“沼地“が清らかだったりはしない。むしろ毒があって浸かってるとスリップダメージ受ける悪地形だ。
余談だがこの毒沼に半分以上浸かった最悪なダンジョンがあり、俺も相方も大変不愉快な思いをした。回復アイテムが大量に必要だし、[華やかなチェスト]が手に入ると言っても全然割に合わない面倒なダンジョンだった。
その[神聖な沼地]への行き道は、ちょっと面倒な事に、[エンメルカルの森]から一旦西に移動して始めの[ケルネソス]に行き、北側の分岐路から[神聖な沼地]に入り直さなければならない。
実際には[エンメルカルの森]の北部から[神聖な沼地]に入れるのだが、離れ小島に行けるだけで、そこから出るにはダンジョンのギミックを動かして跳ね橋を下げなければならないのだ。
と言ってもそれなりに戦闘する事になるし、敵のレベルは[エンメルカルの森]より一段上になる。今の俺たちのスキルや装備だと、ちょっと心許ないのだ。
「でも、近道あるならいつかは解放したいねー」
ミカは歩き疲れた様子でボヤいた。相変わらず長く歩くのは苦手らしい。
「で、おじさん。今回はその沼地で何するの?」
「んー。欲しい物はいっぱいあるんだけどな」
ただ、[ベルグ]にたどり着いた時同様、最優先はまず新しいリュックだろう。今後の稼ぎに関わるからだ。
その次は少し悩ましい。と言うのも、ミカに覚えさせたい魔法使い用のブレイクスルースキルと、俺が覚えたい近接戦士用ブレイクスルースキルがそれぞれあるのだ。
「まあ、でも確実に楽になるのはミカ用のスキルかな」
「へー、新しい魔法?」
「いやいや。今使ってる魔法がより連発しやすくなるスキルだよ」
今、ミカはMPの消費を装備効果で軽減して、減ったMPを食料やポーションで回復しながら魔法を使っている。それが、その新スキルを覚えると自動的にMPが回復するようになるので物資に頼る度合いがグッと少なくなるのだ。
そう話すと、ミカは一瞬考えたが「地味だけど便利そうだね」と納得したらしい。
本当は敵をバッタバッタと薙ぎ倒す強力魔法とかを想像したんだろうが‥‥そうはいかないのがoutwardだ。諦めなさい。
でも継戦能力は格段に上がるんだよ。物資なくても休みさえすれば魔法打ち続けられるって、ダンジョンや長旅だとマジで頼りになるからね。
そうこうしている間に[ケルネソス]地方に入ったので、崖を時計回りに回り込んで、北東側の[神聖な沼地]への関所を潜り抜ける。
地方マップ切り替え時にガラッとBGMが変わるのが旅の醍醐味だ。フィールドBGMから戦闘まで一式変わるのはなかなか凝っていていい。それに、俺はoutwardの音楽はかなり情緒があって好みである。
特に沼地マップは、フィールド音楽のアレンジ版が戦闘音楽になっているので、全体で統一性が取れているのだ。
「うっわ‥‥何これ」
ミカは、初めて見る沼地の光景に絶句している。
それもそうだろう。“神聖な“と謳っているが、濁った黄土色のヘドロが溜まった沼に、立ち枯れた枝を垂らす木々。巨大な大蛇のように巨木の根が這い回り、彼方には目に毒なぐらい鮮やかに発光する蓮の花。
「沼には入らないように。即死はしないけどダメージはあるからね」
俺はミカにそう言うと、周囲を見渡して目的の物を見出した。
「あったあった」
俺が探していたのは、[聖なる使命]が打ち立てた巡礼碑だ。一見光輪付きの十字架のように見えるが、これが[聖なる使命]の巡礼路を示す石碑なのだ。どうやってか、昼夜を問わず煌々と白く光り輝いている。
「もし迷ったら、この石碑を探して。これをたどれば、街か[ケルネソス]に着くから」
何しろこの沼地マップ、高低差がやたらある上に沼で陸地が分断されているせいでやたらと迷うのである。
「後、敵も強いから町まではダッシュで行こうか」
「いつも通りね‥‥でも、確かに強そう」
彼女の視線の先には、四足歩行で沼の縁を闊歩する、鹿よりも一回りか二回り大きな身体の――恐竜がいた。
「あれは[フィトサウルス]。草食だが、鹿並にしつこく追いかけてくる」
そう。沼地は、主に野盗と恐竜が蔓延るワンダーランドなのだ。
沼地はホントよく行きました。一番稼げたんじゃないだろうか?
ただ、modなしのPS4版ではめっちゃ迷いましたし、足踏み外して沼に落ちた事も何度もありましたね‥‥思い出深いマップです。