outwardの世界に異世界転生   作:越波

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第3話 借金返済活動

 俺はそれからしばらく、灯台の寝室で[空腹]と[乾き]、それに序盤のイベントの話を噛み砕いて説明した。

 

「‥‥大体、わかった。ミカとおじさんは、これから借金を返して、ご飯とか飲み物とか集めて‥‥で、どっかのグループに入んだよね?」

 

「そだね」

 

 この“借金を返す“と言うのが序盤の強制イベントであり、難関なのだ。

 

 とは言え、救済措置も用意されているし経験者にとっては大したイベントではない。それより俺が悩んでいるのは、“ゴールは何処なのか?“という事だった。

 

「で、グループで起きるイベントをクリアしたら、ゲームクリア‥‥ここから、帰れる‥‥んだよね?」

 

「多分」

 

 曖昧な返事が気に入らなかったのか、彼女――ミカは俺を鋭い目つきで睨んだ。

 

「おいおい、俺もゲーム自体はクリアしてるけど、この世界からそれで帰れるかどうかまでは知らんぞ。ゲームでは、クリアしても旅は続けられたからな‥‥」

 

 とは言っても、それ以外に“区切り“が見当たらないのだ。試してみる価値はあるだろう。

 

「ま、[派閥]の事は先の事だし、まずは借金返してスッキリしちまおう」

 

 俺はミカにこれからの予定を説明し、灯台を出た。

 

 

 

 

 

 始まりの町[シェルツォ]は海辺に作られた風光明媚な漁村なのだが、それを堪能する間もなく桟橋をダッシュで通り過ぎて水辺の倉庫に入る。

 

「お、おじさん、暗いんだけど‥‥」

 

「ランタン持って来たろ? 灯りつけようぜ」

 

 一応明かりはあるのだが、密閉ざれたカビ臭い倉庫にミカが後込みする。俺は肌身に感じる感覚に若干戸惑いながらも、配置などが変わっていないことに安堵しつつ薄闇の中に足を踏み入れた。

 

「おぉ~、やっぱマジのチュートリアルと言われるだけはあるな」

 

 灯台に転がっていた[間に合わせのリュック]に、倉庫に転がっていた[ランタン]や[パン]、[火打ち石]に[間に合わせの寝袋]などの序盤必需品を詰め込んでいく。

 

 こんな場所に素のまま放り出されていたパンを手に取った事にミカが顔を強ばらせるが、思った通り虫食いもカビもない。このゲームの仕様通り、アイテムの耐久度が残っている限り店売り同然の新鮮なパンと代わりがないのだ。

 

 という事は、やはり厳密には人間に見えるキャラクターもモンスターも、“生き物“としての生命活動はしていないのだろう。その中でプレイヤーだけが空腹に苦しむのは理不尽な気もするが。

 

「耐久度がなくなったら自然消滅するんで、そこまでの間は“腐ってない“って事なんだよ」

 

 と言うか、食べようとしても食べられない。そもそも食べるモーションがないからだ。インベトリメニューから[使う]コマンドを選んだら消費されるだけである。経口摂取しないからこそ地べたに落ちていた物を使用する事に忌避感が少ないとも言える。

 

 これに対して水は“飲める“。飲むモーションが存在するのだ。ポーションなどの水薬もこの中に含まれる。ただ、水以外の水薬を飲んでも何故か[乾き]は満たされないのは謎なんだが。

 

 やがて倉庫の奥の靄がかかった場所を抜けると、海岸に繋がる洞窟エリアに入る。奥から何かの鳴き声が聞こえてきてなかなか不気味だ。

 

「お、お、オジサン‥‥今何か変な声聞こえなかった‥‥?」

 

「聞こえるね。ありゃ[トログロダイト]って奴だ」

 

「敵? ヤバくない?」

 

「大丈夫、ヤバくない」

 

 こっちもさっき落ちてた[マチェーテ]を拾ってある。クズみたいな武器だが、ないよりマシだ。本当は[板の盾]でも作れれば気分的に更にマシだったのだが、生憎布が足りない。

 

 ソロプレイなら最初の海辺で拾った[ボロボロの服]の上下を布に変えれば材料が足りるのだが、今はミカが着てるので剥ぐ訳にもいかない。マルチプレイならではのデメリットだが、それは仕方ない。

 

 しばらく靄を突っ切りながら洞窟を進むと、槍のような物を構えた宇宙人のような生き物が現れる。

 

 あれが[トログロダイト]だ。設定上はキノコ人間だった気がするが、どう見ても一昔前のSFの悪役宇宙人である。

 

 取りあえず初戦闘だ。二匹いるので手っ取り早く片付けないとミカが危ない。

 

「ギャッ!」

 

 トログロダイトが槍っぽいものを構えて突進して来るので横に回り込んで避けながらマチェーテで切りつける。

 

 恐ろしい事にこの“切りつける“モーションもゲーム通りにしか動かなかった。喧嘩も殆どした事がない身に取って有り難いが、思い通りに動けないもどかしさもある。

 

 適当に何回か切りつけている内にトログロダイトが転んで動かなくなるので、追い討ちでさらにラッシュをかける。

 

 そこで一匹が槍を取り落とし、動かなくなった。幸い生き物を殺した感じは全くしない。ゲーム通りの仕様で有り難い。

 

「お、おじさんこっちのも早くー!」

 

「おう、すぐ行く」

 

 今のラッシュで随分スタミナが減ってしまった。身体も動かしたせいか、息切れしている。

 

 しかしミカに戦闘を任せるのはまだ早いので、残りのトログロダイトのヘイトだけは取っておく必要がある。

 

 俺は一つ息を吐くと、残る敵に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 トログロダイトを始末すると、洞窟を抜けて海岸に出る。段差がある為、帰りは遠回りに[シェルツォ]まで帰る事になる。

 

 ゆっくり来たせいか、もう外は夜闇に包まれている。俺はランタンの灯を消した。

 

「ミカ、俺はこの先にいる奴に[包帯]渡してくるから、そっちの坂の上に登っといてくれ。ちょっとヤバい奴がいるから、絶対動くなよ」

 

 そう言うと、ミカはあからさまに身を強ばらせた。

 

「え、ヤだ怖いんだけど独りにしないでよ‥‥」

 

「だーいじょうぶだって。近付かなきゃ気付かれないし。気になるならそこの板の塀の裏に隠れてれば攻撃も当たらないし」

 

 一応安心させる為にミカの安全を説いてみせたのだが、怯えるような目はこっちを見つめている。

 

「でも、お、おじさん死んじゃったらあたし独りじゃ生きてけないよ‥‥」

 

 なるほど。見知らぬ他人よりは心を開いてもらえてるらしい。俺の服の裾を掴んでるのは何かに捕まってないと不安なんだろう。

 

 ふむ。俺はインベトリからメインウェポンである[マチェーテ]を外すと、地面に落とした。

 

「ミカ、それ拾ってくれるか?」

 

「え‥‥? うん‥‥」

 

 納得いかなさげながら、言われた通りにミカはマチェーテを拾う。

 

「預かっといて。これで武器もないし、包帯渡したらダッシュで戻ってくるから。これさえ終われば借金のイベントも終わったみたいなもんなんだよ」

 

「うん‥‥」

 

 まだ青い顔色のミカを宥めながら、板塀の影まで連れて行ってその場に屈ませる。

 

 ミカは服の裾の代わりのようにマチェーテを握り締め、ようやく俺は動けるようになる。

 

「さて、んじゃひとっ走り行ってくるわ」

 

 

 

 

 

 夜の海岸は暗いが、建物のなかではないので星明かりぐらいはうっすら存在する。その上このファンタジーなoutwardの世界ではネオンブルーに光る巨大な巻き貝やヒトデもあるので、ランタンを消してもある程度の夜目は効いた。

 

 足音は砂浜なので完全には消せないし、諦めた。このゲームだと音じゃなく視界判定だった気がするし大丈夫だろう。

 

 少し波間を走り抜けると、岩場に小舟の残骸が打ち上げられているのが見えてくる。あれが目的地だ。

 

 更に近寄ると一人の男が岩陰にうずくまっているのが確認出来た。素早く近寄って話しかけると、お決まりの英語音声とメッセージウィンドウが開いて日本語訳がズラズラ表示される。

 

「ほいほい、流し見流し見」

 

 ポチポチッと読み飛ばし、選択肢が出るのを待つ。やがて、[包帯]を渡す選択肢が出てくるのでそれを選ぶ。

 

 男は[包帯]を受け取り、感謝のしるしとして[部族恩]という巻物のようなアイテムを渡してくる。

 

 これが欲しかったのだ。序盤、灯台の前で大人数に詰め寄られた際に族長が借金返済の条件として提示するのが“5日以内に銀貨150枚集めるか、[部族恩]を手に入れる事“なのである。

 

 正直、このゲームの物価は辛くて期限内の稼ぎはかなりしんどい。そのぐらいなら、この人助けイベントをこなして[部族恩]を手に入れる方が断然楽だしコストもかからないのだ。

 

 ただ、一つだけ問題なのが――。

 

 ザッシュ、と砂浜を抉る足音。どうやらこっちに気付いたらしい。

 

 夜闇の中でも煌々と輝く黄色い瞳‥‥それは、巨大な[シャコ]だった。

 

「キョェエエエ!!」

 

「やべっ!」

 

 咄嗟に隠れた岩陰に派手な音を立てて黄色い光が弾ける。[シャコ]お得意の電撃弾だ。

 

 何故シャコが電撃を?という謎はoutwardでは考えてはいけない。そういうものなのだ。シャコも、倒しても肉は手に入らない。昔活き作り食ってしこたま鼻を尻尾でぶっ叩かれた記憶があるので食えなくて良かった気もするが。

 

 ともかく、この電撃弾が厄介で、シャコは難敵なのだ。マチェーテもない以上逃げる一手しかない。

 

 俺は更に電撃弾が岩陰に弾けた瞬間を狙って飛び出した。かなりの命中精度を誇る厄介ムーヴなので、ジグザグに進路を変えながらミカのいる丘に向かってひたすらダッシュする。

 

「ミカ、帰るぞ!」

 

「おじさーん! 後ろ、来てる来てる来てる!!」

 

 わかってる、と答えようとした時には遅かった。異常なホーミング性能を見せた電撃弾が俺の背中で派手に弾けた。

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