「さて。こっから先が敵地な訳だけど‥‥もっかい作戦の確認な」
俺は洞窟の先を指さした。ランタンで照らされた洞窟は、海岸の倉庫のように段差があり、一度降りると戻って来れないようになっている。
「正直、今の俺たちは弱い。今までも、遠距離から弓でチクチクやってるから勝って来たけど、殴り合いだとかなり厳しい」
この言には、ミカも迷いなく頷く。回復用の[包帯]も数少ないしな。
「で、もう今回は戦闘は止めて目的地まで走り抜ける。細かい道よく覚えてないんで迷うかもしれんが、足止めて戦おうとはするな。多分タコ殴りにあって死ぬ」
“迷う“とか“死ぬ“というネガティブなワードにミカが顔を青ざめさせるが、多分大丈夫だろう。何回も来てるダンジョンだし。
「ランタンは点けてるよな。よし‥‥こっから走るから、水とお茶飲んでスタミナ回復しとこう。お腹すいてる? なら食糧も」
空腹感があるのに食べた気にならないのはなかなか物足りない。その分、お茶に味がするのが‥‥いいような悪いような。
今2人で飲んでるのは[ビタースパイシーティー]という茶色の香ばしいお茶で、寒さへの耐性がついたり、スタミナの最大値が減ったのを回復したりとメリットだらけのお茶なのだが、原材料が[スパイスビートル]という虫なのはミカには黙っておこう。気に入ってるみたいだし。
補給が済んだのを確認して、俺たちは段差を飛び降りる。大した高さではないが、システム的に登れないのだから仕方ない。
入り口で突っ立っている案内人が言っていた通り、青色のタペストリーが掲げられた通路を進む。途中トログロダイトに遭遇するが、無視して押し通る。
「えーと、こっちの階段だったかあっちの階段だったか‥‥」
途中まではよく覚えているのだが、肝心の次のマップに入る扉のあるフロアに降りる階段がどっちだったか思い出せない。まあ、ここまで来るとタペストリーの目印もなくなるし、見た目がよく似た部屋も増えるので仕方ない。
一旦降りたものの、覚えのある外れ要素に慌てて引き返して、と行ったり来たりを繰り返す内に追いかけてきたトログロダイト達と鉢合わせになる。
「お、おじさん、追い付かれた!」
「ほいほい、どいたどいた!」
こういう時も主旨貫徹が肝心である。今更戦っても勝ち目が薄い。それぐらいなら多少傷を負っても逃げ切れば良いのだ。
最初からスキルスロットに収まっている[蹴り]を適当に打ち込んで怯ませると、空いた隙間に身体を突っ込んで階段を駆け上がり別の階段を続けて駆け下りる。
途中いかにもな宝箱が見えたが、これも無視だ。断腸の思いで先を急ぐ。
「ミカ! もうちょいだ頑張れ!」
「頑張ってる、頑張ってるよ! て言うかおじさんこそ案内頑張ってよ!?」
「ハッハッ、違いないな!」
なかなか余裕あるじゃないの。
ともかく、俺たちは山盛りのトログロダイトをトレインしながら[交わりの山]の中心部へと転がり込んだのだった。
「よし、無事マナ解放! 魔法使えるようになったな」
ややあって、
このイベントでは、HPとスタミナの最大値を捧げる代わりに0だったMP最大値が得られるようになっている。スタート時点ではHPもスタミナも100が最大値で、これを20区切りで捧げる事によって魔法系への傾倒具合が変えられる訳だ。
もちろん、俺は前衛をやる予定なので最小限の20ポイントしか割り振っていない。これだけでも簡単な能力上昇系魔法ぐらいなら使えるようになる。
ミカはと言えば、俺の相方のビルドを参考に40までMPを割り振っていた。
正直、これだけだとバンバン制限なく魔法を撃ちまくる、という所には至っていない。装備によって消費MPを軽減しないと完全な状態とは言えないが、MPに振りすぎるとスタミナが減りすぎてこれからの旅に支障が出る。
しかし、まだまだ先は長いのは確かだが、それにしてもミカの表情が暗い。
「‥‥何だ、えらく暗いじゃないか」
「‥‥おじさん、この魔法‥‥地味過ぎない?」
ミカは覚えたての[スパーク]を早速試してみて、その地味さに不満があるらしい。
「ああ、そりゃ仕方ない。[スパーク]だけじゃ[火打ち石]の代わりぐらいしか威力ないからな」
俺はさっきマナ解放後に傍らに立っていた案内人から教わった[火のシギル]の事を説明した。
[火のシギル]は、要は触媒を使って魔法陣を描くスキルである。これを使ってから[スパーク]を唱える事で、コンボが発動していわゆる[ファイアーボール]になるのだ。
そう言うと、ミカは明らかに嫌そうに表情を歪める。
「えぇ‥‥面倒くさくない? 普通にファイアーボールって魔法覚えるんじゃダメなの‥‥?」
うん、まあその面倒さを「リアルっぽい!」って楽しむ拗らせた人たちがoutwardのプレイヤーだからね。仕方ない。
とは言いながらも、試しに一度やらせてみると[ファイアーボール]のコンボはミカの琴線に触れる威力と派手さだったらしい。
(さっきまでブツクサ言ってた癖に‥‥)
現金だなあ、とは思いもするが、システムの「ここがなければなぁ」とか言い出すのはハマる一歩手前と某エイリアンの出て来る漫画でも出て来た至言だ。
「さて。それじゃそんなミカに活躍してもらう為にも、次はいよいよ[エンメルカルの森]に遠征だな!」
俺はそう言うと、[交わり小部屋]から外に通じる水路へ足を踏み出した。
ここからは小舟にインタラクトして[ケルネソス]地方の南西に移動する事になる。
次はこの地方の東の端から、次の[エンメルカルの森]地方へと地方マップごとエリアチェンジする大移動だ。
「‥‥どしたの? おじさん、何か嬉しそうだね」
そう見えるのか。
少し口元を触って、確かに口角が上がっているのに内心でも笑ってしまう。
確かに、[エンメルカルの森]には思い出が沢山ある。
それがどれだけ楽しめるか、今から楽しみで仕方ないのだ。