「さあ来い!」
俺は距離を詰めてくる[アルファ・コーラルホーン]に向けて更に一矢、二矢と続けざまにエイムモードで矢を放つ。
そして槍の間合いに入る前に武器をしまって全速力で逃げを打ったのだが、空気を裂いて鋭い角が背中を掠めた。危ねえ。
前にも述べた通り、[アルファ・コーラルホーン]は実に執念深く、脚も速いモンスターだ。特に角での突進時は更に加速するので背中からどつかれて転倒しやすい。
ゲーム時代は、ミカに渡した[パールバードの仮面]のような移動速度を上げる装備で固めて速度でぶっちぎるか、地形を利用して立体的に逃げるのが常套手段だった。
しかしここは城塞都市[ベルグ]に入る直前の湖畔で、登れるような坂も岩も少し遠い。
(となると、ここはアイツらを利用するしかない)
俺は突進を受けないようにジグザグに回避しつつ、元来た[ケルネソス]方面への出入り口側に向かって走る。
ややあって、湖畔から森の入り口へ向かう段差が見え始めた辺りで俺の目的である連中が視界に入った。
同時にガチャガチャと武器を抜き放つ音が森に響き渡る。
「おう、頼むぜ皆の衆! イイ感じに囮になってくれよな!」
俺が飛び込んだのは、行きしに撒いた野盗の三人組のただ中である。
折しも俺の背中を貫かんと加速した[アルファ・コーラルホーン]の角が、通り過ぎた野盗の胸元にバッチリ命中する。
これぞ俺の大好きななすりつけ。うまくいけば両者共倒れで二倍美味しい卑怯ムーヴである。
しかしこの戦法、プレイヤーが弱く敵が強いoutwardでは割とメジャーなものでもある。他にも遠距離から弓でチクチク削ったり罠を使うのも当たり前の手段に過ぎない。
マジでoutwardのプレイヤーは貧弱なのである。勝つ為、稼ぐ為に手段を選んではいられない。
幸い、最初の突進で[アルファ・コーラルホーン]へのヘイトがしっかり稼げた為、野盗たちは一心不乱に囲んで殴りかかっている。
しかし流石に鹿ハーレムの長、角を多段ヒットさせる内に装備のショボい奴から徐々に動かなくなり、やがて野盗は一匹残らずその場に倒れ伏してしまった。
「ま、順当なとこかね」
ターゲットロックして残HPを見る限り、まだまだ[アルファ・コーラルホーン]は倒れそうにない。欲をかいて戦闘再開すれば程なく俺も角の餌食になる事だろう。
(せめてもうちょい、トドメに使える火力がありゃな‥‥)
目の前の敵が全滅した事でニュートラルになった[アルファ・コーラルホーン]を後目に、俺は目立たないようしゃがみながらコソコソと[ベルグ]の町に向かって撤退を開始した。
「さあて、帰って来たぜ愛しのマイホーム!」
[ベルグ]である。
ミカと合流し、大扉にインタラクトして町中に移動すると、懐かしい[ベルグ]の町並みが俺を出迎えてくれた。
「マイホームって‥‥灯台みたいに家があるの?」
「あー、一応あるけど今は使えないかな」
ミカは怪訝な顔をしているが、プレイヤーが初期の[シェルツォ]にあるようなホームを購入するのは[派閥]に参加した後の話だ。しかも参加した[派閥]が拠点にしている町にしか最初はホームを購入出来ない。
俺が“マイホーム“と呼んでるのは、ここが今後の活動上非常に高頻度で立ち寄る利便性からの事だ。
outwardには[ケルネソス]地方、[エンメルカルの森]地方、[神聖なる沼地]地方、[アブラサ砂漠]地方と4つの地方マップがあるが、この中では[エンメルカルの森]が中央に位置し、他の全てのマップに繋がるハブのような役割を担っているのである。
その後DLCで地方が2つ追加されたが、その内の1つもやはり[エンメルカルの森]が入り口になるといえ徹底振りだ。[ベルグ]に愛着が湧くのも致し方ないだろう。
「さて、それじゃ早速拠点作りしようかね」
俺は町中の適当な樹木から[木]を6つばかり採取すると、インベトリの[クラフト]から[焚き火キット]を生成する。
それを出入り口付近にある水飲み場の横に2つセットし、持ち歩いていた[鍋]を火のついた焚き火の上に据える。これで、この[鍋]で[料理]が出来るようになった。
更にリュックから[間に合わせの寝袋]を取り出し、水飲み場の反対側に設置する。火のそばにあると寝ている間に炙られて熱中症になるからな‥‥。
「ちょ、ちょっと、おじさん‥‥?」
「ミカもその辺にテント建てとけ。結構歩いたし、今日はここらで一泊しよう」
「え‥‥ホテルとか宿屋とか泊まるんじゃ‥‥」
「そんな(無駄な)金はない」
「マジで」
信じられない、と言った顔でこちらを見つめるミカ。
しかし実際、宿に泊まろうが野宿しようが、outwardでそこまでの差はないのだ。[空腹]と[乾き]が時間分消耗するのが野宿のデメリットだが、[乾き]はそこの水飲み場が無限で使えるし、実質[空腹]の為だけならその辺で[ガベリー]や魚を取って食料にすればその手間だけで節約出来るのだ。
なら宿に泊まる必要性はそこまでないだろう。慣れれば宿まで移動する方が手間なぐらいだ。
「おじさん‥‥控え目に言ってさ、めっちゃ人目が気になるって言うか‥‥」
ミカは言葉を詰まらせ、恐る恐る行き交う人々と、寝袋の傍でひたすら[ガベリー]を煮込んで[ガベリージャム]を作る俺を交互に見やった。
「‥‥ホームレスにしか見えないんだけど」
「慣れれば快適だぞ?」
俺の返答はお気に召さなかったらしい。
仕方ない。俺は一つ咳払いをして、ホームレス‥‥野営のメリットを説き聞かせる事にした。
「ミカにはこの町で、[ルーン魔法]を覚えてもらおうと思ってる。これが覚えられれば、ボスにも十分通用する攻撃手段になるんだ」
事が自分の分野である魔法だとわかって、ミカの興味が向いたのが視線から手に取るようにわかる。
「ただ、スキルを覚えるのにはめちゃくちゃ金がかかる。銀貨で2000枚ぐらいは持っとかないと必要なスキルが解放できないんだよ」
誰でも覚えられる下位スキルは銀貨50枚ぐらいで覚えられるのだが、ブレイクスルーと呼ばれる専門スキルと、その上に位置する上位スキルは1スキル銀貨500-600枚ぐらいする。
しかもブレイクスルースキルは1人3つまでしか取得出来ない。専門スキルは3クラスまでしか選択出来ないので、それによって個人個人の方向性が変わってくるのだ。
やり直しは効かないのでブレイクスルースキルの選択は慎重に行う必要がある。下手すれば全く噛み合わない中途半端な構成の、“死にキャラ“が出来てしまう。outwardにはレベルがなく、バランスもシビアなのでそうなったら1からキャラクターを作ってやり直すしかなくなる。
しかし今はキャラクターの作り直しは出来そうにない。ブレイクスルースキルの取得は確実なものから取得すべきだ。
そういう意味で、魔法をメインにするミカの[ルーン魔法]は鉄板の選択だし間違いがない。逆に俺のスキルは目下検討中だ。ひとまずは取り返しのつく下位スキルを中心に購入を予定している。
「だから今は節約したい。一刻も早くミカに戦えるだけの力を身に付けて欲しいんだ」
そう締めくくると、ミカも納得がいったのかコクリと頷いてリュックから[簡易テント]を取り出し組み立て始める。
うむ、野営の意義を理解してもらえて何よりだ。俺も野営明けに向けて消耗品を次々とクラフトする。
しかし、再び顔を上げると、ミカはテントの中から首だけ出して落ち着かなさげに通行人を見上げているように見えた。
「ね、ねえおじさん‥‥何かこの人スッゴいこっち見てくるだけど‥‥」
「気のせいだろ」
outwardのNPCは基本的にプレイヤーの行動にリアクションするように作られてない。他のゲームだとぶつかったりした際に文句言ったり、近付くとこちらに視線向けるとか、抜刀すると悲鳴挙げて逃げていくとかあるんだけど。
俺は試しに立ち上がって通行人に向かって腰から[鉄の鎚鉾]を抜いて思い切り振り抜いてみた。
やはり無意味だ。当たり判定もなく完全に攻撃は空を切る。通行人もそれに対して何のリアクションもしない。
「ほら、何ともない」
「うぅ‥‥それはそれでどうかしてるけど‥‥」
わかるよ。何かたまに通行人がプレイヤーに引っかかるからそう感じるんだよな。でも引っかかってるだかで意味はないから。ミカを見てる訳じゃないから。
それでも慣れないのか、テントの中で悶絶するミカを傍目に、俺も寝袋に横たわる。
さて、明日から本格的にスキルの為に金策を再開しなければ‥‥。