ツインテールの小さな姉が出来た   作:とりなんこつ

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いつもの如く見切り発車です。


第1話 ファーストコンタクト

突然だが、名前は大事だ。

特に人の名前は大切だと思う。

 

ひと昔前には、キラキラネームとか言う、いわゆる当て字系? の一発で読めない名前が流行ったそうな。

 

さすがにそれは別にしても、色々と読み方がある名前ってのも考えものである。

かくいう俺の名前なんかいい例だろう。

 

由輝

 

かの室町幕府の剣豪将軍みたいなヨシテルとも読める。

ユキって女の子の名前みたいにも読める。

ユキテルっても読めるよなあ。

 

だが、生憎、俺の名前の正式な読み方は『ヨシキ』だ。

 

事あるごとにそう主張しているんだが、高校に入学してからこのかた、本名で呼ばれたことはない。

 

「おい、ヨシテル! 今度の美術の授業の課題なんだけどよ!」

 

「ユッキー、悪いけど消しゴム分けてちょーだい!」

 

「テルりん氏、吾輩の新作ボードゲームのテストプレイをお願いするでありますよ、デュフフ」

 

おまえらなあ…。

 

「頼むから、統一した呼び方か、せめて姓の天乃(アマノ)で呼んでくんないか?」

 

「あだ名は信頼のバロメーターだろ(でしょ)(でありますよ)?」

 

こういう時は満場一致の返事をくれる連中なので、本当に困る。

まあ、俺の友人を主張してくれるのは嬉しいけどさあ…。

 

ともあれ、授業も終わってせっかくの放課後だ。

俺はさっさと教科書やらをカバンに詰めて席を立つ。

 

「あれ? ユッキー、どこ行くの?」

 

訊いてくるのはショートカットに軽くメッシュを入れた橋爪。

 

「あん? 部活だよ、部活」

 

 

「ほう、どこぞの運動部の勧誘に乗ったんだ、ヨシテルは?」

 

そう言ってきたのは、実家が寺で、本人も少林寺拳法を嗜んでいるらしい実相寺。

 

「いや、俺は運動部は中学時代で懲りたわ」

 

 

「なるほど。ではさっそく吾輩とテーブルゲーム同好会へ参りましょうぞ、テルりん氏」

 

自信満々に、なんとも粘着性の高い喜びの声を上げたのは勅使河原。

 

「俺はそんな同好会に入ったつもりはねーよ」

 

 

三者三様の困惑した視線を受けて、俺は堂々と宣言する。

 

「俺が入ったのはオカルト研究部だ」

 

 

「え~、オカ研なの?」

 

「確かあそこは昨年の文化祭で霊酒(ソーマ)とかってどぶろく作って怒られてなかったか?」

 

「吾輩というものがありながら!! テルりん氏の裏切りもの! 非道! 非情! 抱いてッ!」 

 

 

三者三様の嘆き(?)を聞き流し、さっそうと俺は教室を後にする。

意気揚々と向かったのは、部室棟の一階の一番端っこの部屋だ。

 

「こんちゃーす」

 

「やあ、来たね」

 

白衣姿の富永部長が振り返って眼鏡を押し上げている。

正直、この人の格好は、俺の中のとある人物を連想させるので苦手なんだけど…。

 

「さっそく今日の研究を始めようか。そちらのホワイドボードを持ってきてくれたまえ、天乃くん!」

 

俺を苗字呼びしてくれるのが素直に嬉しい。

 

さっそくホワイドボードを押してくると、部長は意気揚々とマジックで大きな文字を書く。

 

「今日の議題は、ずばりこれだッ!」

 

「ノイズ…?」

 

俺はでかでかと書かれた文字を読む。

巷では自然発生する生物災害と言われているけれど、はっきりいってその正体は不明だ。

もっともその発生率は限りなく低いと中学の社会科で習った記憶が蘇る。

 

「ここ最近、都内での発生率は異常だからね」

 

部長が眼鏡を煌めかせながら言う。

 

そうなのだ。

部長が言う通り、近年の都内でのノイズの発生率は異常の一言に尽きる。

数年前の人気ユニット『ツヴァイ・ウィング』のライブ会場の惨劇が皮切りになった、との意見を聞いたことがあったが、それ以降、実に頻繁に都内でノイズの被害や目撃情報が報告されていた。

 

「でも、あれは、一種のホログラム技術じゃないかって話も…」

 

一昨年のマリア・カデンツァヴナ・イヴのライブにおいて、彼女がノイズを召喚した映像をリアルタイムで見た時はショッキングだったなあ。

もっともそのあと、彼女は実は国連直属のアンダーカーバー捜査員、リアル007みたいな人で、あのノイズはホログラムだったって正式発表されてたけど。

 

「歌姫マリアの会場に出現したノイズがホログラムであった可能性も、わたしは否定しないよ? だが、あれと他の件は同一視出来ないのは必然だ」

 

ノイズに襲われて次々と炭化していく人間。

テレビ番組で、ネット動画で、幾度となく目にした光景。

 

確かにノイズは存在し、被害者もまた存在する。

実害が生じている以上、ノイズがただの映像なわけはない。

 

「となると、某国が作った軍事用生物兵器とかって噂は本当ですかね? でも、そっちはどっちかといえば科学の分野になるのでは…?」

 

「科学であろうが魔術であろうが、見ている人間が(ほど)けないのであれば、それが神秘(オカルト)というものだよ、天乃くん」

 

清々しいほどに断言してくれる部長。

 

「まあもっとも、神秘を研究しようとしている時点で、わたしたち自身がアンチオカルトといえるのかも知れないが…」

 

苦笑する部長に、俺は挙手して質問。

 

「では、部長的には、ノイズはどんな神秘だと思うんですか?」

 

「うん、いい質問だ。わたしはね、ノイズは“幽霊”の一種ではないかと思っている」

 

「幽霊!?」

 

素っ頓狂な声を出す俺に、部長は我が意を得たりとでもいうような凄い笑顔。

 

「だってそうだろう? 話によれば連中は壁を透過し、銃器もまるで通用しないそうだし」

 

「…言われてみれば」

 

「これでノイズが人間の喉笛を掻っ切ったり、腸を引きずり出したりすれば、完全にスプラッター映画になるんだけどね」

 

ノイズに襲われた人間は炭になる。ノイズも人間と一緒に炭に還る。

なので、惨状が過ぎ去ったあとに残るのは、散らばる血肉とかいったおぞましさではなく、ただひたすらの荒涼感だとか。

物の本で読んだことがある。

 

「それにね、ノイズは有史以来、様々な場所で目撃されているのだ。これは幽霊に置き換えてもしっくりくるだろう?」

 

「そうですね、確かに」

 

「ノイズも人を害して炭に変えるあたり、被害者には悪いが非常にエコロジーだと思う。ゆえに、超常現象と呼ばれるこれら自体が自然現象であり、そもそもの大元の意思は、おそらく地球の――ガイアの意思というかね…!」

 

ますます熱を帯びる部長の論説に、俺もワクワクしながら耳を傾むける。

すると、突然の電子音。

 

「なんだね、無粋な」

 

ノリに乗った長広舌を邪魔されて、じゃっかんプンスカな部長。

 

「あ、すいません、俺のスマホのアラームです」

 

謝りながら、俺は急いで帰り支度。

 

「続けてすいません。ちょっと俺、これから大事な用があるんすよ」

 

「ふむ、デートかね?」

 

「いえ、家族でレストランで食事っす」

 

「ブルジョワだね。せいぜい楽しんできたまえ」

 

「お疲れっした」

 

部室を出て、足早に昇降口へと向かう。

実は、内心ではかなり焦っていた。

 

やっべ、なんでタイマーの時間を30分ずらしてんの俺?

 

単純な操作ミスなんだろうけど、そのツケで家に帰って着替えている暇はない。

今からまっすぐ目的のホテルまで行かなければ間に合わん。

 

まあ、学生服ってことでホテルのドレスコードには引っかからないだろう。

おふくろから盛大にドヤされるのは覚悟しておかなきゃならんけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発端は一週間ほど前になる。

 

俺に多様な読み方をする名前を授けてくれた両親の、父親の方が夕食の席で言った。

 

「実は、親戚の娘を引き取ろうかと思うんだが…」

 

寝耳に水だったのは、俺だけでなくおふくろもそうだったらしい。

 

「はあッ!? 何言ってんのよ?」

 

おふくろの剣幕に、

 

「ま、まあ待て待て。詠花先輩がらみの件なんだ、これはッ!」

 

親父が慌てたように手を振る。

 

「詠花先輩?」

 

と、これは俺。

親父とおふくろの会話にたびたび登場するキーマンらしいが、詳細は俺も知らない。

 

「ああ、由輝。詠花先輩は、実は僕の遠縁に当たる人物でもあってね…」

 

親父が細々と語るところを要約すると、親父も詠花先輩も、とある山奥の村の出身らしい。

なんで思い切り歴史のある家系で、詠花先輩とやらはその本家筋で、親父はその分家というか傍流も傍流。

その詠花先輩は、ある日突然村を出奔した。

跡取りがいなくなった本家は大騒ぎになり、連れ戻そうとドタバタがあったそうだが、結局は勘当というカタチになったらしい。

遅れて村を出て都会の学校に通うようになった親父だったけれど、そこで詠花先輩とばったり再会。

以来、偉く世話になったそうな。

 

「うふ、お母さんがお父さんと付き合うようになったのも、詠花先輩が骨を折ってくれたからなのよ?」

 

先ほどの不機嫌もどこへやら。恥じらうように言ってくるおふくろに、コメントに困る。

 

「つーか、親父の田舎の話とかも初耳なんですけどね?」

 

考えてみりゃ、母方の爺ちゃん婆ちゃんにめっさ可愛がられた記憶はあるけれど、親父の方の両親とはあったこともない。

 

「そりゃ仕方ないよ。もう、村には誰も住んでないしね。元いた住民もどこにいったのか所在不明だし」

 

さらっとオカルト染みたことを口にして、親父は話題を軌道修正。

 

「とにかく、その詠花先輩は、子供を産んでいたらしいんだ。けれど、出産直後に事故でなくなったそうだ。もう、十数年くらいの前の話らしいんだけど…」

 

「うそッ! 詠花先輩は亡くなったの?」

 

「ああ、僕も驚いている…」

 

見合わせた顔を青ざめさせる両親に、いかに詠花先輩が重要な人物だったのか伺える。

 

「…それで、その子供は施設とかをタライ回しにされたらしくて…」

 

そんな彼女の状況の報告と保護の打診が、つい先日に親父の携帯電話にかかってきたのだという。

 

「今は立派な学生になって都内の学校に通っているらしいけれど…」

 

「私は構わないわよ? ちょうど那由多の部屋も空いているし」

 

あっさりとおふくろは了承するように声を上げた。

ちなみに那由多ってのは俺の5つ上の非常に悪魔的な姉である。

 

「詠花先輩には返しきれない借りがあるわ。その子の面倒を見るくらい、バッチ来いよ」

 

「僕もそうしたい。なにせ、この仕事につけたのはあの人のおかげだ。…君と結婚できたこともね」

 

「あなた…」

 

 

「………おーい、帰ってこーい」

 

見つめ合う両親に、さすがに俺も声を掛けざるを得ない。

四十路同士のラブロマンスなんて、実のムスコとしても見たくもないもんだよ、いやマジで。

 

「ゴホンッ! …で、由輝はどうなんだい?」

 

親父に水を向けられて、俺は考え込む。

 

「いや、さすがに年頃の子が、男子と一緒に住むってのは嫌がるんじゃね?」

 

口にしたのは現実的な一般論というやつだ。血の繋がらないきょうだいなんてシチュ、アニメやゲームじゃあるまいしよ。

 

「まあ、そりゃそうよね」

 

溜息をつきながらおふくろも同意。

 

「それでも一度、顔を合わせて話をする場を設けたいんだが、どうだろう?」

 

世話になった詠花先輩とやらに義理を通し、遠縁とはいえ親戚としての筋も通す。

それでも本人が断ってくるようなら仕方ない。

 

親父の主張に、俺もおふくろも賛同。

 

とにかく、会ってみなけりゃ分からない。

実際に本人を見て話をしなけりゃ始まらない。

 

あくまでこの時の俺は他人事だと思っていた。実際に他人だしな。

まあ、仮に一緒に暮らすことになっても、あの姉貴より最悪な展開なんてあり得ないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

と、時間は戻って今日。

ホテルへたどり着き、荷物をクロークへと預けた俺はレストランを目指す。

やべえ、約束の時間ギリギリだ。

 

入口の受付らしき人に「天乃ですが」と名前を告げたら、四人掛けの席へと案内される。

相変わらず気弱そうな笑みを浮かべている親父。

にこやかな表情そのままに目だけで睨んでくるおふくろ。

そんな二人の対面に、ちょこんと小柄な人影が座っている。

 

黒い艶やかな髪と清楚な佇まいに、俺は少し感動してしまう。

しかもツインテールだ。

 

「ああ、紹介するよ。長男の由輝だ」

 

親父が立ち上がって俺を指し示す。

黒髪の少女がこちらを見てきた。じーっと見てくる眼差しに、なぜか少々プレッシャーを感じる。

 

「あ、ども由輝です。都内の聖ジェイナス学園に通ってます」

 

「それで、こちらが月読調ちゃんよ」

 

おふくろから紹介された彼女も、すくっと椅子から立ち上がる。

 

「月読調です。私立リディアン音楽院に通っています」

 

ペコリとツインテールが下げられる。

すらっとした体型に紫色のワンピースが良く似合っていた。

 

「こ、これはご丁寧に…」

 

へどもどしながら俺もウエイターが引いてくれた椅子に腰を下ろす。

向かって正面が親父、左手がおふくろ。右手がツインテールの彼女だ。

 

「と、とりあえず食事を始めようか」

 

親父はそういってフォークを持ち前菜に手を付ける。

すかさず俺も倣う。腹はペコペコだったし。

 

む、このスモークサーモンのマリネ、美味ぇ。

 

久しぶりの高級そうな料理を堪能しつつ、俺はそっと右隣りの調ちゃんとやらの様子を伺う。

切り揃えられた前髪に、小さい顔。まるで日本人形みたいな横顔だ。

なんていうか、可愛いっちゃ可愛いんだけど、保護欲をそそってくる小動物系みたいな?

 

「ねえねえ! 調ちゃんってよく可愛いって言われない?」

 

ダイレクトに口火を切ったおふくろは、なんかもう目がメロメロだ。

動物番組の猫特集とか大好きだからなー。

 

対して、スプーンを持ったまま軽く小首を傾げる調ちゃん。

 

「…よくわかりません」

 

「それじゃ、男の子にモテモテじゃないの?」

 

「それもよくわからないです…」

 

謙遜するでもない風で、本当に分かっていない感じがする。

 

「あら、そうなの? 世の中の男の子も見る目がないのね」

 

「そこはそれ母さん。リディアンは女子校だよ?」

 

親父のツッコミに、おふくろもHAHAHAという感じで笑い合っている。

見ているこっちが鳥肌が立ちそうなほどのベタな会話にげんなりだ。

 

対して調ちゃんは愛想笑いをするでもなし。

黙々と料理を口に運ぶ姿は、決してこっちを拒絶しているわけじゃなさそう。

だからといって楽しんでいる感じでもなくて、なんとも内面が読めない子だなあ。

 

「…ゴホン。聞いていると思うが、君のお母さんと僕は遠い親戚みたいなものでね」

 

メインのステーキをやっつけて、親父は本題へと切り込む。

 

「そして、血縁関係を抜きにしても、僕らは君のお母さんにとてもお世話になったんだ。

 そのお返しというわけじゃないけれど、もし良かったら、僕らの家で一緒に暮らさないか?」

 

見た目通りの小食なのか、ステーキを2/3ほど残した皿にフォークとナイフを置いて、調ちゃんは顔を上げた。

 

「お気持ちはとてもありがたいんですけれど…」

 

まあ、そりゃそうだろうな。

ステーキの最後の一切れを口に放り込みながら、俺にとっては想定内の反応だ。

ところがどっこい、食い下がったのは他ならぬおふくろ。

 

「そうね、いきなりウチの子にならないかなんて言われたら困るわよね。だから、返事は今すぐでなくてもいいからッ!」

 

「…え?」

 

「でもね、ちょっとだけ、お試しでもいいから、一度泊りに来てみたらどうかしら?」

 

「…はい?」

 

「それこそ軽い気持ちで遊びにくるみたいな感じで! ね? いいでしょ? 一回だけ! 一回だけでいいからッ!」

 

「え? あ、はい?」

 

おふくろの非常にナチュラルなドアインザフェイスが炸裂している。

加えておばちゃん特有のマシンガントークの前に、調ちゃんは完全にオーバーキルだ。言質を取られてしまっていることに気づいてるのかな?

気づいても、ご満悦の表情で鼻息も荒いおふくろを前に、「やっぱり嫌です」って言いづらいよなあ。

 

「そうか。良かった。僕もそうしてくれると嬉しいよ」

 

虫も殺せないような顔で、ニコニコと親父も追撃。

我が父ながら、無自覚の外堀の埋め方がえげつないわ。

 

ともあれ、どうやらなし崩しで調ちゃんの我が家へのショートスティが確定したらしい。

 

「あ、あの…?」

 

さすがに状況を把握したらしい調ちゃんが戸惑いの声を上げるも、ちょうどそこに運ばれてくるデザート。

小さな皿にちょこんとしか乗っていなかったけれど、偉く手の込んだインスタ映えするようなケーキだったもんだから、おふくろがさっそく喝采を上げている。

 

「うわ~、綺麗! 美味しそう~! 調ちゃん、食べよ食べよ?」

 

「あ、え。はい…」

 

これまた勢いに押され促され、調ちゃんはフォークでケーキを一口。

すると、さっきまで反応が乏しかったお人形さんの顔がぱああっと華やぐ。

 

「…美味しい」

 

小さな手で口元を覆う調ちゃんに、

 

「本当、美味しいわよね~」

 

おふくろもホクホク顔で、鋭い横目で俺にアイコンタクト。

つまりは、俺もオフェンスに参加しろってことか。

 

はあ。

 

溜息をつきつつ、俺は自分のぶんのケーキの皿を、そっと調ちゃんの前に置く。

 

「良かったら、食べてくれないか?」

 

「……」

 

「俺、甘いのは苦手でさ」

 

嘘っす。

本当は甘いの大好きで、涎が出るほどこのケーキも食べてみたい。

けれど今日は遅刻ギリギリだった後ろめたさとおふくろの圧力に屈した格好。

 

「残すと勿体ないし」

 

「…そういうことなら、頂きます」

 

拍子抜けするほど素直に、調ちゃんは俺の好意を受け入れてくれた。

まあ、女の子は甘いものが好きってことなんだろうけど。

 

そっとおふくろの方を伺えば、テーブルの下で右手がサムズアップサイン。

続いて、人差し指と中指を揃えて、手首を縦に振っている。

これは追撃しろってことか。

 

「ところで、君は何年生なの?」

 

俺が訊ねると、もぐもぐごくんとケーキを飲み込んでから調ちゃんは答えてくれる。

 

「一回生です…」

 

一回生。確か私立校とかでは、そういう呼び方をするらしいよな。

ってことは、なるほど、一年生ってことね。

 

「リディアンって、中高一貫なんだよね、確か」

 

確認するように言っては見たけれど、私立リディアン音楽院の情報は把握済み。

人を選びまくるあの制服は都内でも有名だし。

 

「はい、そうですよ」

 

答えてくれる調ちゃんに、俺は笑いかける。

 

「そっかー。まあ、おふくろが言ったからじゃないけれど、良かったらこんど家に遊びにおいでよ」

 

「はあ…」

 

「もちろんいきなり家族になんて抵抗はあるだろうけどさ。

でも、仮に、あくまで仮にそうなったらだよ? 俺も調ちゃんみたいな妹が出来たら嬉しかったり…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――空気が凍った。

 

 

 

 

 

 

…あれ?

 

テーブルを見回せば、唖然として口を開けた両親がいる。

 

「あ、あの、由輝? 調ちゃんは、あんたより誕生日早いのよ? お姉さんなのよ?」

 

「そ、そうだぞ? リディアン音楽院の一回生で…」

 

「え? だから中等部の一回生なんだろ?」

 

 

答えつつ、調ちゃんの方を見れば、ツインテールがプルプルと震えている。

顔は伏せられて表情が見えないのがちょっと怖い。

 

いや、見た目はどう見ても中学生でしょ?

特に体型とか体型とか体型とか。

 

…いかんいかん。ここは謝罪の一択だろ。

 

「ご、ごめん、調ちゃ…」

 

椅子から立ち上がった瞬間だった。

脛に強烈な痛みが走る。

 

蹴られた!?

 

思わず腰を屈めてしまう俺の頬に、盛大な平手打ちが炸裂した。

 

 

 

 

 

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