タロットカードは未来を導く   作:かりん

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三人の覚悟(覚悟したとは言っていない)

★サクラ視点

 

「無理です。無理です。無理です」

 

 私は這いつくばって泣きじゃくる。

 

「そなたならば出来る。30人を超す弟子を持つ大占い師ではないか」

「魔王とウォーボード(この世界のチェスのようなもの)する奴じゃないですか! 駒は国とか人で! 勇者導きし占い師ってそういう事でしょ!? 魔王を倒すためなら眉一つ動かさず国を時間稼ぎとか囮とかですり潰すやつでしょ? 私知ってるんだから! 命がいくらあっても足りませんよ!」

 

 捨て石としてぽいっとするんだろう? 私は詳しいんだ!

 

「それだ。そのそなたの知ってることを教えてほしいのだ。恥ずかしながら、占い師というジョブすら知らなくてな。剣も習ったが、何か違うという意識が拭えなかった。短剣が少しはまともに使えるが、とても得意とは言えぬ。だが、このカード。これは手に馴染む。まるで幼い頃から慣れ親しんだかのように」

「私の腕では、二流占い師を育てるまでがせいぜいですが。そもそも私も二流です。超一流の占い師が持つべき諦念を持っていません」

「諦念?」

「誰も救えはしないという諦念です。目の前の5人を見捨てて、未来の遠くの、見たこともない100人の起こるかもわからない悲劇に備える。そのような事を星の数ほど繰り返すのに必要なのは、正義感ではありません。占いにも悪影響を与えてしまう。真の占い師に必要なのは、覚悟や正義感、義務感などの能動的な心持ちではなく、未来など変えられぬ、救う事など出来ぬというありのままをただ受け入れる受動的な諦念なのです。そのうえで強き意志を持ってより良い未来を引き寄せるのは、駒の仕事」

 

 というのが、公式の勇者導きし占い師の言だったはずだ。

 

「ふむ。諦念。諦念か。占い師とは過酷なジョブなのだな。二流占い師でいい。そなたの知る全てを私に刻んで欲しい。悪いが、世界の命運が掛かっているがゆえに、拒否権は与えられぬ。身の安全は保証しよう。私の葬式の準備もしなくてはな」

「へ?」

「占い師というのは、敵に狙われるのであろう。勇者を導くとなれば、尚更だ。私もそれなりの覚悟を持ってここにいる」

 

 ……ずるい。そこまで言われたら、逆らえないではないか。それに、隠れるなら、まあ。

 

「……一ヶ月で、占い師の基礎を。そして半年以内に、占い返しや隠蔽の術を覚えてもらいます。それが出来たら、弟子として認めます。魔王側にも、その手の魔物はいるのです。身を守る気もない者と行動をともには出来ません。葬式は、半年後に行いましょう」

「了解した」

「サクラ様。我らもどうか、引き続きご指導願います」

「悪いけど、全員に隠蔽の術は教えられません。表で動く人材も必要でしょうし。それは王子様が選んでくれるんでしょ?」

「うむ。私が負うべき責任ということだな」

 

 事も無げに頷かれて、私は再度言葉に詰まった。乱暴に涙を拭う。

 

「では、早速今から特訓を始めます。殿下と言えども、錬金と裁縫は最低限修めてもらいます。戦闘も同じく。武器としてカードと水晶玉をお渡しします。早速ダンジョンに向かいましょう。この街のダンジョンではありません。私の指定する魔物の生息するダンジョンです。殿下ならすぐわかるはず。出立の準備を。準備は最低限で構いません。ある程度は1人で旅を出来なくては」

「今からか!?」

「わかった行こう」

「殿下は記憶力に自信は?」

「もちろんあるぞ」

「よろしい。殿下には武器のカードの他に、私の魔物カードコレクションをお渡しします。ダンジョンでの手応えと威力を、一度で覚えて下さい」

「わかった。手紙だけ書かせてくれ」

 

 聞き分けの良さが、恐ろしい。こ、これが至高の占い師だというのか……!

 さっさと育てて離脱しよっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★マスル視点

 

 ハズレ加護というのは、正しくない。

 正しくは、判明していない加護だ。第二王子もその加護の内容が判明していなかった。

 幼い頃から文武両道性格良しと、何ら問題のない、優秀な第一王子をなお追い落としそうなほどに優秀な王子。それが判明していない加護だったのだから、国は揺れた。

 それでもたゆまぬ努力を続けたのは、第2王子の崇高な性格ゆえだろう。

 

 マスルがその噂を聞いたのは、とある商団からだった。

 何でも、授かった加護の名を正しく告げてくれる占い師がいるという。

 その者が弓を取れと言えば弓が上達し、剣を取れと言えば剣が上達するという。

 中にはお盆を取れと言われることもあり、困惑しているとお盆をくれたというのだが、これが使い勝手がよく、魔物を軽く叩きのめせてしまうのだという。

 

 これはと思い、その街へ行った。

 少額の占い料と引き換えに、マスルは自身の加護の名を知った。

 占い師。第六感が鋭かっただろうと言われ、どきりとする。勘に頼って生き延びた事は両手で数えてもとても足りない。

 カードを渡され、基礎を教えられた。

 占いに、戦い方に、カードの作り方。

 そして、語られるのは占い師の物語。それを聞いて、ふとおとぎ話で知っている名前に気づき、はるか昔の伝説の詳細が語られているのだと気づいた。

 師匠から伝わった口伝だというそれは、歴史学者垂涎のものだった。

 早速報告を送るが、喜ばしいことだけではない。

 もしも、第二王子が占い師だったなら。

 

 権力者の子、優秀なる占い師は災いの予兆。それはまるで第二王子そのものではないか!

 

 口伝では、まるで吐いて捨てるように占い師達が死んでいた。

 それはまるで、神の隠密。坑道のカナリア。

 占い師は簡単に、情報を対価に死んでいく。

 

 それでも、悲観しながらもサクラ殿は楽観視していた。

 神が乗り越えられぬ試練を用意するはずがなく、準備の時間があるはずだと。

 まともな占いが出来るようになるまで、手遅れにはならぬだろうと。

 

 しかし、ルーン殿は事故で街の真実を暴いてしまった。

 舞踏会で唐突に正体をさらされた魔物に、女子供を含む多くの客が殺された。

 

 占い師達は惨状を知らない。

 

 正体を暴かれた魔物達は、一斉に占い師の寺子屋を襲った。

 王家の隠密であるキースが正体を表し、狼煙を上げ、騎士に援軍を頼み、衛兵達を防衛に呼んでこなければ皆殺しにされていたであろう。

 街は既に多くの魔物に侵食されており、多くの血が流れ、衛兵たちの五分の一は亡くなった。第二王子が近衛を連れて街の近くまで来ていたことは誠に僥倖だった。

 なんとか意識を保った私だけが、その激しい戦いを見ていた。

 全て片付けるまで目覚めなかった占い師達は、その惨状を知らない。知っていたら尻込みしていただろう。

 とはいえ、知った顔が大分減ったことでその苛烈さは感じ取っているはずだ。

 魔王復活。そしてはじまる英雄譚。太古の冒険譚に幼き頃、身を焦がしたマスルは、武者震いにブルリとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

★ロードス王子

 全てに恵まれて産まれてきた。そんな私だから、加護もきっと素晴らしいものだと、まだわからないだけだと心のどこかで確信していた。

 マスルの手紙、占い師という加護、それでなくとも加護を言い当てることが出来るとの言葉に、私は喜び勇んで近衛を引き連れて出立していた。

 加護が判明したらお祝いをするのだと、見栄を張って近衛を多めに用意してもらったのが幸いした。

 街に近づいた時、不穏な狼煙が上がる。

 そして、魔物が街中で暴れていた。

 その時、私は即座にマスルの手紙を思い出していた。

 占い師が生まれるのは、不吉の予兆。なぜなら、占い師とは災いを祓うために生まれるのだから。

 その言葉が胸をよぎる。

 

 すぐさま街に救援をよこし、私もまた戦いに加わった。

 魔物と衛兵の死体の中心で、魔法陣の上、折り重なり、死んだように見える若者たちが占い師と聞いた時、ぞっとした。

 占い師とは、輝かしいものではないのではないか。

 むしろ最前線で戦う隠密なのではないか。

 キースから詳細を聞き、まず胸によぎったのは父上や兄上の安否だ。

 即座にキースに、父上を、ついで兄上を占わせてホッとする。

 2人は人間で、生きていて、健康であるという判定だった。

 

「しっかり手遅れではないか!!」

 

 神からすればセーフでも、そこに住まう人間としてはアウトである。

 なにせ当主が成り代わられて、街の住人の多数が偽物だったと言うではないか。

 

 それでも平静を装えたのは、私の誰より優れた幼少時代を送ったがゆえの天より高きプライドゆえである。

 内心、占い師でなくとも構わぬぞ、と思いながらもキースに占わせたらやっぱり占い師だった。占い師達の師であるサクラは平民であるので、それでも部下を集めて小規模な式典の準備をして、直弟子であるルーンに占わせたところ、ルーンは私に這いつくばった。

 

「勇者導く占い師様……!! ああ、貴方様が助けに来てくださったのは偶然ではなかった!! ありがとうございます、勇者導く占い師様!」

 

 即座に箝口令を敷いた。

 勇者とはなんぞ。いや、おとぎ話では聞いた。魔王とセットで。

 それは台本になかったぞ、ルーン!!

 

 心は垂直に飛び立つかのような、落ちるかのような、不思議な心地である。

 自尊心は満たされている。それはもう満たされている。

 誰がどう言おうと、「勇者導く占い師」は特別な加護だ。勇者の次に特別である。

 ある意味特別感は勇者より上かもしれない。カードに触れた時も、岩に単なる紙であるカードを付き立たせた時も、たしかに心は躍った。

 

 でもでも。溢れ出る危険な香りがする。それでも勇者よりは安全だと思いたいが。

 しかして襲撃されて灰となった占い師の寺子屋の事を忘れされるほど私の頭は鳥ではない。拷問されて殺される未来しか見えず、突き落とされるかのような不安が覆う。

 

 かつてこれほど期待と不安に揺れたことはない。15の加護の儀式を遥かに超す揺れ幅である。

 

 とにもかくにも、偉大ではあるのだろうが生粋の平民に舐められるわけには行かないと私は胸を張って名乗った。

 街一つの陰謀を暴きし偉大なる占い師は、気絶した後這いつくばって泣きじゃくった。

 

「無理です。無理です。無理です」

 

 これは権力に気後れしたとかではありえない。もっと深い絶望で悲しみで恐怖だ。

 私は内心焦った。だが、私の鉄面皮は自信満々を維持する。私は必死でサクラを力づけた。

 

「そなたならば出来る。30人を超す弟子を持つ大占い師ではないか」

「魔王とウォーボード(この世界のチェスのようなもの)する奴じゃないですか! 駒は国とか人で! 勇者導きし占い師ってそういう事でしょ!? 魔王を倒すためなら眉一つ動かさず国を時間稼ぎとか囮とかですり潰すやつでしょ? 私知ってるんだから! 命がいくらあっても足りませんよ! 捨て石としてぽいっとするんだろう? 私は詳しいんだ!」

 

 えっ そうなん?

 えぐえぐと泣くのは、神の使いとかではなさそうだが、占い師事情や歴史についてはかなり詳しそうだった。

 こっちは占い師という言葉すら知らなかったんだから、知ってる前提で話されるのは困る。凄く困る。むしろ洗いざらい知っていることを教えて欲しい。

 一国の王ですら、国の興亡にはそうそう関わらない。それを、国をたった一つの駒とするというのか? 大げさで言っているのだと思いたい。

 だが、街一つ壊滅仕掛けた現実がある。この調子でやりたい放題やられたら、簡単に世界は滅ぶだろう。なにせ、一般的には占い師なんて知られてない。

 専門武器、それもカードの作成なんて、教えられずに誰が気づくか。

 しかも、それがないと占えない上、占いには知識がいるという。

 確かに、私は王位を望んでいた。でもそれは、国をもり立てるためであって、世界の趨勢を決める指し手に立候補した覚えは断じてない。

 自分の命も心配だが、自分の責任で世界が滅ぶの滅ばないのは辞めて欲しい。

 私は、今まで人一倍努力してきたつもりだ。誰より優れていたつもりだ。どんな加護を得てもいいよう、頑張ってきたつもりだ。その努力が、才能が、今、ひたすら薄っぺらく物足りなく感じた。

 

「それだ。そのそなたの知ってることを教えてほしいのだ。恥ずかしながら、占い師というジョブすら知らなくてな。剣も習ったが、何か違うという意識が拭えなかった。短剣が少しはまともに使えるが、とても得意とは言えぬ。だが、このカード。これは手に馴染む。まるで幼い頃から慣れ親しんだかのように」

「私の腕では、二流占い師を育てるまでがせいぜいですが。そもそも私も二流です。超一流の占い師が持つべき諦念を持っていません」

「諦念?」

「誰も救えはしないという諦念です。目の前の5人を見捨てて、未来の遠くの、見たこともない100人の起こるかもわからない悲劇に備える。そのような事を星の数ほど繰り返すのに必要なのは、正義感ではありません。占いにも悪影響を与えてしまう。真の占い師に必要なのは、覚悟や正義感、義務感などの能動的な心持ちではなく、未来など変えられぬ、救う事など出来ぬというありのままをただ受け入れる受動的な諦念なのです。そのうえで強き意志を持ってより良い未来を引き寄せるのは、駒の仕事」

 

 諦めきれなくてここまで来て、欲しい物を得たら諦めろと言われるこの理不尽。

 それでも私は頑張った。見栄を張った。

 

「ふむ。諦念。諦念か。占い師とは過酷なジョブなのだな。二流占い師でいい。そなたの知る全てを私に刻んで欲しい。悪いが、世界の命運が掛かっているがゆえに、拒否権は与えられぬ。身の安全は保証しよう。私の葬式の準備もしなくてはな」

「へ?」

「占い師というのは、敵に狙われるのであろう。勇者を導くとなれば、尚更だ。私もそれなりの覚悟を持ってここにいる」

 

 皆が尊敬の眼差しで見つめてくる。

 嘘だ。覚悟なんてない。ないから隠れるのだ。私は死んだことにする!!

 箝口令を敷いたとは言え、もう勇者を導くのはバレてしまっているのだ。

 

「……一ヶ月で、占い師の基礎を。そして半年以内に、占い返しや隠蔽の術を覚えてもらいます。それが出来たら、弟子として認めます。魔王側にも、その手の魔物はいるのです。身を守る気もない者と行動をともには出来ません。葬式は、半年後に行いましょう」

「了解した」

「サクラ様。我らもどうか、引き続きご指導願います」

「悪いけど、全員に隠蔽の術は教えられません。表で動く人材も必要でしょうし。それは王子様が選んでくれるんでしょ?」

「うむ。私が負うべき責任ということだな」

 

 いきなりのスパルタに涙目になりそう。ようは死ねと言えということだな。やってやろうではないか、半年後に! 半年後に! 見栄とプライドさえなければ、私も師のように泣いていた。お家帰りたい。

 

「では、早速今から特訓を始めます。殿下と言えども、錬金と裁縫は最低限修めてもらいます。戦闘も同じく。武器としてカードと水晶玉をお渡しします。早速ダンジョンに向かいましょう。この街のダンジョンではありません。私の指定する魔物の生息するダンジョンです。殿下ならすぐわかるはず。出立の準備を。準備は最低限で構いません。ある程度は1人で旅を出来なくては」

「今からか!?」

「わかった行こう」

「殿下は記憶力に自信は?」

「もちろんあるぞ」

「よろしい。殿下には武器のカードの他に、私の魔物カードコレクションをお渡しします。ダンジョンでの手応えと威力を、一度で覚えて下さい」

「わかった。手紙だけ書かせてくれ」

 

 スパルタなだけでなく、もはや、家族との再会も諦めろと言外に師は言う。

 お家に帰るのは無理ですね、むしろ故郷を失うやものですね、わかりたくありません。

 言う事言う事、過酷すぎるのだが、現実はこの大げさなほどに悲観的な師匠の予想の更に斜め上だった事を忘れてはいけない。

 

 即断即決のこの私も、手紙を前にして一瞬、なんと書いたらいいかわからず、思考が飛んだ。ふと、兄(捨て石勇者)が思い浮かぶ。

 !?

 

 するりと滑り込んだ確信。勇者だ。兄上勇者じゃん!!! 捨て石勇者とはなんぞ。

 いやいい、知りたくない。兄上を覚醒させねばとか、この国は時間稼ぎに使うとか、私は何も知らない。弟はいっちゃなんだが甘やかされてて戦乱の国を守るなんて無理だぞ。そもそも国をつぐことを想定されてないし。でも彼が次の王だ。

 

 あ”あ”あ”あ”あ”!!!

 

 ぐしゃぐしゃっと手紙を丸めると、初めての行為にお付きの秘書がビクッとなった。

 




王子様とサクラでチキンレースみたくなってしまった。
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