性格が反転したウマ娘たちと、過労死したり尊死したりするトレーナー達の話 作:室星奏
勢いに文字はいらないと思うんです(?)
その日から、私達トレーナーは突然変わった日常に翻弄される事となった。いや、原因はわかり切っている、というかこんな事が出来るのはアイツしかいない。
とりあえず、アグネスタキオンに関しては後でこってり絞るとして、今はこの状況をどうにかしないといけない。本人曰く『直し方が分からないから、暫くはこのまま』と言い切る為、打つ手は恐らくないに等しいのだろうけど。
レース等には余程の事がない限り支障は出ないのだが、日常生活においては大変な問題となる。というか私達の精神やツッコミ速度がもはや追いつかなくなる。猫の手も借りれるのなら借りたい気分だ。
……とまあ、何が起こっているかは、目の前の状況を見ればわかる筈だ。
「トレーナーさん、おはようございます」
「……ハル、ウララ……だよね?」
正直私は目を疑った。容姿だけは完成度の高いコスプレイヤーか何かだと思った。だが着ている制服は完全に我がトレセン学園の特注品だ。繊維を見ればすぐにわかった。
つまり、目の前の生真面目優等生感が漂う少女は、正真正銘のハルウララだった。……いや、そうはならんでしょ、おいっ!
「そうですが、何かありました? 顔に何かついてます?」
「あー……や、いいよ! 何でもない何でもない、毎日挨拶ありがとうねっ!」
「あ、はいっ」
性格が完全に真逆となっている。正直誰だお前って言いたくなる。
これは後に判明したことなのだが、トレセン学園にいるウマ娘ほぼ全員の性格がほぼ真逆になっていた(一部無影響となったウマ娘はいるのだが……)。普段の性格を見慣れた私からすれば、その光景は違和感の何物でもなく、話を続けていれば次第に鳥肌がたってくる。これではトレーナー業に支障をきたしてしまう。
慣れろ慣れろとは言うけれど、昨日まで天真爛漫だったハルウララがいきなり生真面目モードに突入したら、誰だって正気じゃいられなくなる筈である。私だって今こんな感じなんだ。
ハルウララでこれだ、他の皆は今どういう状況なんだろうか?
***
「あっ、トレーナー。朝早いな」
「あ、オグリンッ。そっちも早……いね?」
「? どうかした?」
明るいオグリンは可愛いので一先ず何とかなった。ちまたのウマ娘ファンが『可愛いは正義』という理由がよくわかる程に。もうずっとそのままでいいと思うよ、私は。うん。
だけどこれは明らかにおかしい。絶対におかしい。
「オグリンどうしたの!? 熱!? 体調不良なの!?」
「ど、どうしたどうした!?」
「だって……あのオグリンがパン1枚と卵焼き1枚とミルク1杯って……普段なら顔が見えなくなる程の山盛り食べてるのに!?」
「そう? 何時もこの量だけど……後私、小食だし……」
なんで人の食欲まで反転しちゃってるんですか!? ……食いしん坊は性格ステータスだったのだろうか?
「そ、そうだったっけ……?」
「忘れたの? もしかして、私にもう興味なくなった……?」
「いやいやそんなわけないそんなわけない! 泣くなあああああッ!!」
突然オグリンが泣きだした。健気だ、健気すぎる。大丈夫だよ? 私は決して見捨てたりなんてしないから……。
そっと抱きかかえ、背中をさすってあげると、彼女は感謝の言葉を述べながら、ぎゅっと抱き返してきた。ああ、もうずっとこうしていたい。永遠に、ここが
しかしその素晴らしき時間は、背後からやってきたチーム・スピカのトレーナーによって打ち消された。
「やべえぞおい大変だッ――ってなんだこれは、大惨事だな!?」
「お、沖野さんっ!? 何があったんですか?」
「お、おう、生徒会のルドルフたちもそうだが、俺の担当チームの方もなんか様子が変でな……」
あ、これは不味い。生徒会はまあ大体予想がつくとして、あの個性豊かなスピカのメンバーたちまでもが反転。何が起きているのか想像出来やしない。
特にゴルシだ、ゴルシ。アレが一番気になってしょうがない。
「と、とにかく来てくれ! 猫の手も借りたい気分なんだが!?」
「それこっちのセリフです!」
一先ず行くしかないだろう。行きたくないけれど。
半ば沖野トレーナーに無理やり引っ張られながら、私たちは勢いよくチーム・スピカ専用部屋の扉を開けた。