性格が反転したウマ娘たちと、過労死したり尊死したりするトレーナー達の話 作:室星奏
「新人トレェ~ナァァア~~ッ!!」
「ぐはっ!?!?!」
扉を開けた瞬間に、銀色がかった髪色のウマ娘が私目掛けて突進してくる。ゴルシか!? ゴルシか!? いやでも、少しだけ髪に紫がかかっていたような……?
突然の出来事でまだ目を開けられない。紫の記憶が脳裏をよぎる度に、信じられない妄想が走り事実確認するのを阻みに阻む。おそるおそる沖野トレーナーに確認を取る。
「……あの、沖野さん」
「何だ」
「この子は?」
「……信じられないが、マックイーンだ」
「っすよね~~~~~」
――……誰!?
私の知っているマックイーンじゃないっ! どうしてだ!? 落ち着いた淑女的な物腰と気品で周囲を魅了する高嶺の花ともいえるべき存在のウマ娘な筈です! 私がトレーナーになる前からファンだったウマ娘でもあった。恐らく私じゃなくてもファンだったらば、この状況に目の当たりにして、失望しない筈がないだろう。
恐る恐る目を開くと、私の腹に座りながら、子供の様に微笑みながら顔をのぞき込む可愛らしいマックイーンがいた。普段クールな彼女を見慣れてしまった故に、戸惑いを隠しきれないがじっくり見ると、これはこれでアリだと思ってしまう。なんだか娘が出来たような気分だ。
「今日もお疲れ様~。何? トレーナー誘ったの?」
「何に!?」
「顔赤いですよ新人トレーナ――ぐえっ!?」
「わわっ?」
当時の面影無くじゃれつくマックイーンが、突然誰かに首元引っ張られて、撤収していく。沖野トレーナーが助けてくれたのかな? と思ったが、背後で顔に手を当てて『あちゃー』みたいな表情をしていたので違う。じゃあ一体誰が?
スピカにそのような事をする人がいる? あ、スズカさんかなーっ! それともテイオー!? 誰はともあれ、お礼はしなければならない。えっと、何者かな――……。
「こら、マックイーン! 困ってるからやめてやれって~の」
「ウ、ウオッカ~!?」
「……!?」
えっと、今何と行った? とても短い名前だったような気がするんですけれど……。
「ごめんな、トレーナー。この子、毎回こうでさ~」
「ウ、ウオ……え?」
「? 私、何か可笑しなこといった?」
私!? ウオッカが何時どこでそのような名乗りを覚えたんだ!? ヤンチャだった面影はすっかり消え去り、その言動や言葉遣いはすっかり常識人に変貌してしまっていた。ああ、これは予想外の助っ人だ。
まともなツッコミ役が反転していなくなった分、言い方悪いが前がまともじゃない子に至っては揃って真面目な子に反転しているようだ。元がヤンチャで常識が通じないウオッカは、ちゃんとした常識人になっているようだった。ずっとこのままだと楽っちゃ、楽なんでしょうけど、違和感があるのは確かだ。
……待った。常識が通じない相手と言えばもう一人いた。顔を上げると、奴はそこにいた。椅子に腰かけながら、そのマックイーン達の光景を哀れな物を見るかのような眼で眺めているウマ娘がいた。姿を見て察したが、行動は思っている物とは完全に違っていた。
「全く。子供じゃないんだから、もう少し言動を考えてほしいものだけど」
「ゴ……」
「?」
「ゴルシッ!?!?」
今世紀最大の驚きだった。
そのたなびく長い銀髪の高嶺の花は、紛れもなくあのトレセン学園でも屈指の問題児、ゴールドシップその人であった。何時もなら現在のマックイーンの立場がゴールドシップな筈なのに、今のゴールドシップの立場が、マックイーンと化している。
巷では『黙ってれば美少女』と形容されていた事もあったが、今のゴルシが正にそうだろう。そのままの貴方でレースに出れば、ファンも結構増えると思いますよ。
ツッコミ疲れた。スピカってまだいるんですよね、スペちゃんと、テイオーちゃんと、スズカさんにダスカちゃん。どうやら今は席を外しているとのことらしい。
「何というか、慣れない性格になっちまったからか、トレーニングが何時も以上にやりにくくなりそうだ。特にマックイーンとスズカ」
「え? スズカさん、そんなヤバイんですか?」
「ヤバイってレベルじゃねえな。あれは」
一体何があったというんだろうか?
とりあえず今は、探しに行く所から始めた方がいいだろう。その他のウマ娘たちの状況も確認してこなければならない、特に生徒会。何となくろくな事になってなさそうな予感がする。
「すみません、沖野トレーナー。私、他の皆の様子確認してきますッ」
「お、おうっ? 真面目だなぁ~お前」
「さすがに放っておけませんから。疲れましたけど、ははは」
そう言って私はスピカ部屋を後にし、生徒会室へと駆け抜ける。――が、その道中。
何かにぶつかった。
「ご、ごめんなさいっ!? 急いでて……」
「っ~たぁ。ちょっと! 走る時はちゃんと前見なさいよっ!」
聞きなれた声で、聞きなれない口調が飛んできた。