性格が反転したウマ娘たちと、過労死したり尊死したりするトレーナー達の話 作:室星奏
スペスズはいいぞ
多分スペちゃんはそんな反転してないです。効力が薄かったのでしょう。
「ちょ、ちょっと何!? 何なんですか!?」
「スペちゃんっ! ちょっとそのままでお願いできる? こうしていると落ち着いてくるの!」
「何で私!? ちょっ、ちょっと!? あ! ど、どこ触っ……ッ!?」
「スペちゃんが一番の親友だからだよ? いや、もう好きなほどかもしれない!」
「えぇ~~~~~っ!?!?!??!?!」
扉を開いた刹那、耳に入った会話と、目に入った衝撃的な光景を感知して、そっと扉を閉じる。見てはいけない物を見てしまった気がする。
な、何だあれは? 何をやっていたんだ? スズカさんとスペちゃんの関係が逆になっている? 受け攻めから攻め受けですか!? アグネスデジタルが凄い喜びそうな光景だ。
成程成程、関係性の逆という事もあるのか。……いや、スズカさんはクールな子だったから……これもまた反転の一つか。スペちゃんの方は……人見知りさの倍増だろうか。
「ね? 見てられないでしょ……?」
「あれまだやってるの? ボクには到底信じられない光景だよぉ~……」
「うん、ごめん。アレはヤバイ」
これが俗にいう百合って奴だろうか。いや、一方的な行為だから少し違いはあるか。
「……でも、行かなきゃ行けないよね……。さすがに」
だがしかし、ここトレセン学園に勤めるトレーナーとして、このような異常事態は見過ごせない。
そして何より、この光景は見てられないし、なおかつ止めなければ永遠にこの状態になりかねない。そうしたならば、スペちゃんの精神状態が天元突破するかもしれない。
そしたらどうなる? 知らんのか、植物状態になってしまうだろう。……いや、それはそれで……いやいやダメだダメだ! ここは心を鬼にしなければ。
「ちょ、ちょっと二人とも!? 一体何をし、て……ッ!?!??!?!」
「と……トレーナー……助け……」
「何か用ですか? 私はただスペちゃんと遊んでただけで?」
扉を開けた先に現れた光景は、先ほどよりも更に酷い状態だった。相当スズカさんに攻められたのだろうか、スペちゃんが涙目になりながら、上半身の半分が露出した状態で横たわっていた。上にはイヌ乗りとなったスズカさんが。
何も知らない人が見たら、絶対に『事案発生』とか言い出して通報しかねない状態だ。でも何故だ……何故これが素敵な光景に見えてしまうのだ? マズイ、眩いぞ。
「ふゃぁ~!! スペちゃんが裸になりかけてるよ!!」
「テイオー、私達は見ちゃダメだよ。トレーナーに任せよ」
「あ、逃げんな!! スズカさんも、スペちゃん嫌がってるでしょ? 離してあげ――」
「私からスペちゃんを取り上げる気ですか!?」
「スズカさん!?」
「断じて違うし、そんな趣味はないッ!!!」
何故そうなった? 過激派すぎやしないか?
沖野トレーナーが、『特にスズカさんはヤバイ』と言った理由が今ようやく理解した。何というスペちゃん狂信者だろうか。クールな彼女は何処へ行ったんだ。
スペちゃん、御気の毒に……。私が絶対に何とかしてあげるから、今だけは我慢してください。
「ス、スズカさん……はぁ、お願いです、離してください……はぁ」
「ス、スペちゃん……」
「ほら、スズカさん? スペちゃんも疲れ切ってるし……さすがに、ね?」
「そんなスペちゃんも可愛いよッ!!!」
「く、苦しッ!!」
「こらぁ!!!」
こうなったら仕方ない。私もこの手は使いたくなかったが。
逃げようとするテイオーとスカーレットの二人を呼び止め、3人の力で無理やりスズカさんを引き離す。さすがはウマ娘、かなりの抵抗力だ。
「離してッ! スペちゃん!!」
「ち……強ッ!? 3人がかりだよ!?」
「うゃ~! 落ち着いて~!」
「何で私まで……」
「はぁ……つ、疲れた……」
「スズカさん! スペちゃんが疲れて走れなくなったらどうするの!」
「……っ」
私が無理やり引っ張り出してきたセリフを吐くと、ようやくスズカさんは落ち着いてくれた。というかここまでしないと、落ち着いてくれないのか。そりゃ無理だ。
一瞬小声で『それでも……』って声が聞こえたような気がしたが、さすがにヤバイのでスルーしておく。そこは沖野トレーナーの技倆に任せるしかない。一応あの人は私の先輩なのだ。何とかしてくれるだろう。
さて、これでスピカは一通り全員確認した事になる。となると次は……リギルか。
チーム・リギルは、東条ハナトレーナーが管理する凄腕のチームである。ルナちゃんやエアグルーヴさんが所属していると言えば、その力量が伺えるだろう。
あっちもあっちで大変な事になってるだろうな、と哀愁の想いを募らせる。私も確認に行った方が良さそうだ。
「二人とも、スズカさんとスペちゃん連れて沖野トレーナーの所にいって。監視は厳重に!」
「何でボクたちが!?」
「トレーナーがやってよ……今気が滅入ってるって言うのに……」
「ごめん。今度スイーツ奢ってあげるから!」
そういうと、二人は渋々承諾してくれた。スイーツ様様である。
四人を見送った後、私は勢いよく駆け出し、チーム・リギルのチーム専用部屋へと向かった。
イヌ乗り。という言葉がありましたが、この世界にウマはいないし、かつそのままウマ娘の意味でウマ乗りと言ってしまったら、明らかに騎〇位なので、ここでは四足歩行の代表としてイヌを登場させました。