「じゃあ、そろそろ来ると思うからどっかの部屋に隠れとけ」
「……はぁい」
その日、わたしは朝から機嫌が悪かった。
――
『あ、服は一緒に買いに行くけど、友達が来る当日は別の部屋で待機していてくれ』
『……何でですか?』
『まあ、色々だよ』
怪しい。わたしのご主人さまが怪しすぎる。
先ほど、強く蹴りすぎてしまった背中をさすりながらご主人さまは何かを考えていた。
『わたしがいてもよくないですかぁ? この格好は不味いかもしれませんけどぉ』
『お前、自覚あったのか』と、呟いた言葉が聞こえる。
わたしの今の学校は常にビキニで紐パンですよ? 流石に他人にこの格好を見せたら不味いですよ。
それに、わたしのご主人さま以外に自分の体を見せるつもりはないですし。
『あー、どうしてもだ。絶対に出てくるなよ? いいか絶対にだぞ?』
やっぱり怪しい。というよりも、そこまで言われるとフリなんじゃないかと疑いたくなった。
実は男友達を呼んでいるけど、わたしのことをからかいたいから噓を言っているとか。
わたしのことをそんなに好きじゃないご主人さまが、そんないたずらっ子みたいなことをするか?
「じゃあ、お邪魔しますよ」
そして、ご友人さまが来られる当日。チャイムが鳴って家の鍵が開いた。
「他の部屋で待機していろ」とは、言われたけどわたしはまだリビングにいる。
だって、気になるから。
それに、安心をしたかった。訪問してくるのが異性であってもご主人さまにとってただの友達だと。
――そう、思いたかった。
リビングに入ってきたのは腰まで伸びた長い金髪に、少しだけツリ気味の蒼目。そして、巨乳のわたしなんかと比べられないほどの絶世の美少女。
ズボンに半袖のシャツという、ラフで女性らしさが全くない格好なのに素のままで美しさがある。
――嫌でも、分かってしまう。目の前の人間はご主人さまの理想のタイプの人間だ。
「あれ、キミ一人暮らしじゃないの?」
金髪の美少女が後ろを振り返ってご主人さまに問いただす。
その一連の動作で髪が揺れて、ふんわりと花のいい香りがした。
「へっ、あっ。何でここにいるんだよ」
「……どうも」
「あははー、どうもどうも」
にこやかに人懐っこい笑顔を浮かべて、彼女はやってきた。
近くに近寄れば余計に分かる。まつげ一本一本にも、面倒くさがりやな神様が気合いを入れて彼女を作ったんじゃないかと思えるほどの、整った顔立ち。
「もしかして、キミの妹さんとか?」
「あー、そんな感じ?」
「何で疑問形なんだ?」
ご主人さまにとって、わたしは邪魔者なのだろうか?
そりゃそうか、好みのタイプの人間を家に招いたんだ。家に別の女がいたら勘違いされてしまう。
――くやしい。その虚しい感情だけが浮かび上がる。
ご主人さまにとってわたしの価値は、所詮そんなものだったのか。恋人や親類だとはわたしだって思っていない。そんなのは拾ってくださったのに厚かましすぎる。
それでも、何か大切な絆か何かで結ばれていたと思っていたのに。
この感情はわたしの一方通行だったの?
「どうする?」
「どうするって言ったって、どうせなら三人で遊ぼうよ」
「……そうだな、三人でも遊べるカセットは上にあるから持ってくるよ」
ご主人さまはリビングを出ると、階段を上がって行く微かな音がした。
半端な優しさは傷つける。頭の中が真っ白でわたしは何も考えられない。
手にも足にも力が入らない。きっと、これは天狗になっていたわたしへの罰だ。
「ねえねえ、ちょっといい?」
「……何ですか?」
ご友人さまはわたしの目の前に座る。自分でも分かるくらいにぶっきらぼうに。
「どうしてここにいるの?」
「いたら、悪いですか?」
わたしがいたらご主人さまとイチャイチャできないから?
「あー、そういう意味じゃなくて……日本語って難しいなぁ」
頭を抱えながら考えるポーズをしている。そんな、たわいもない姿にも魅力が詰まっていた。
「キミ、ズバリ彼のこと好きでしょ?」
「……何を言っているのですか?」
本当に声は出ているのだろうか。ただ、口をパクパクとさせて、声に何てなっていないのかもしれない。
「ふふっ、彼は格好いいもんね無理もないよ。ここだけの話、彼は結構学校でもモテるんだよ」
そんな話、わたしは一つも知らない。
わたしのご主人さまから聞いているのは、ぼっちで辛いとか、勉強が難しいとかそんな、当たり障りもない会話だけだ。
それに何で彼のことなのに自分のことのように自慢げに話すのだろうか彼女は。
「ふふっ、格好いいんだよ彼」
ご主人さまの好みの容姿で、はにかむ姿にむかつく。
「そうですか、それなら早めに狙ってみればよろしいじゃないでしょうか?」
「いいの、いいの。遠慮なんてしなくて。あんまり彼はタイプじゃないからね。それよりキミの方が彼には似合っているよ」
「……別に、遠慮なんて」
「してるでしょ?」
会って間もないのにわたしの心の中を見透すみたいな彼女の態度がむかつく。
「彼とわたしは、そんな彼氏彼女の関係でもないので」
「またまた、そうやって。悲しそうな感じが顔にばっちり出てるよー」
ご主人さまだけじゃなくてわたしにも、そうやって優しいのが――むかつく。
「……あなたに何が分かるんですか?」
わたしが欲しくて欲しくて、たまらない全部を持っている彼女に何が分かるというのか。
正反対じゃないか。彼女はキラキラと光っている髪の毛なのに、わたしはくすんだピンク色の髪。体だって栄養が行き届いていない貧相なちっちゃな体。
彼女に唯一勝てるかもしれないのは、誰にも伝わらない彼を好きだという気持ちだけ。
彼女に向けられる感情たちは八つ当たりで、羨ましさで、嫉妬でしなくて。それなのに狂いそうになる。
わたしは自分の魅力のなさを他人に押しつけている最低な人間でしかない。
こんな醜いわたしの内面を見たらご主人さまはどうするのだろうか。
嫌いになる?
嫌いならそれでもいい。
好かれるように努力すればいいから。
馬鹿にされる?
馬鹿にされてもいい。
ご主人さまは優しいから何だかんだわたしのことを相手にしてくれる。
見捨てられる?
――見捨てられるのだけは嫌だ。
「……ひどいです。わたしだってがんばってるのに」
がんばっている。努力をしている。
自分という時間を全部その誰かのために使っても、それでも最初から持っている人に敵うはずない。
「ほら、泣かないで」
「いらないですよ」
ハンカチを差し出された彼女の手を払いのけた。罪悪感はあるけど今はそれどころじゃない。
「使って、洗って彼経由で返してくれればいいからさ」
器用にウィンクをする笑顔の彼女。
そうやって、ご主人さまと会うための口実をわたしで作って、見せびらかすみたいで楽しいのだろうか。
「もう、ボクと彼はそんな関係じゃないのに、どうやったら信じてくれるの?」
「そんなの、わたしにも分かりません」
わたし自身、そんなこと分からない。
「初心だなぁ。キミは」
「あ? どんな状況だこれ?」
ゲームのソフトを無事に見つけたのか、ご主人さまがリビングの前に立っていた。
そして、見た景色が泣いているわたしと、その目の前にいるご友人さま。
彼から見たら、たった数分だけで思ってもいなかった状況になったんだ、その気持ちはまるで浦島太郎みたいな気分だろう。
「おっ、いいところに! ねぇ、ちょっといいかい?」
ご主人さまの袖を引っ張って上目遣いで色っぽく誘う。
別室でキスの一つをやってくるのか。けど、さっきはそんな関係じゃないって言っていたけどそれは彼女のご主人さまに対してだ。
ご主人さまが彼女に対しての感情は分からない。男の家に来るんだ少なからず好きな気持ちは欠片でもあったら、押し倒してお互いに了承をしまうかもしれない。
結局、ポツンとリビングに残ったわたしは彼らが帰ってくるまで一人で待つことにした。
「何だよ」
「キミの家にいる娘なんなの?! めっっっっっちゃかわいいじゃん! ボクと違ってちっちゃくてほっぺたとかぷるぷるしててさぁ。ピンク色の髪に黄色のワンピースなんて、本当に彼女はボクの理想だよ! というかさ、キミも先にいっておいてよね、あんなにかわいい女の子が家にいるって! そうしたら好かれるためにお土産だって沢山持ってきていたのにさ。前世でどんな徳を積んだの? ねえねえ、本当は妹じゃないんでしょ? どこで拾ってきたの? ボクも彼女と暮らしたいよ!」
「……だから会わせたくなかったのに」
「彼女の好きな食べ物とかなに? 来週またここに遊びに来てもいい? ゲームやりに来たのと、エロゲを借りたかっただけなのに天使がいるなんて。ボクはツイてるよ! あー、いいねぇ。キミは帰ってきたら毎日天使ちゃんにお帰りなさいとか言われるんだろ? はかどるねぇ、羨ましいよ本当に。いや、ボクの場合はお邪魔しますで、どうぞって言われるのか……まあ、それでもいいけどやっぱりお帰りなさいとか言われたいなぁ。ボイスを考えただけで脳がトロけそうになっちゃった。彼女には内緒にしておいてくれよ? 人間、第一印象が殆どだって言っても過言じゃないからさっきは慎重になりすぎちゃった。ボクは嫌われていなければいいけど。どうしようかなぁ、これで嫌われていたら。さっきも泣かせちゃったしね。あ、でも満面の笑みじゃなくて見下されるのもいいねぇ。ゾクゾクしちゃう。足蹴にされて、『家畜』とか『奴隷』とか『駄犬』とか、言われたら、ボク泣いて喜んじゃう! あ、キミは言うなよ? 気持ち悪いから。ああいう、ちっちゃな女の子が言うから価値があるんだ。へぇ? 分かってるって? 流石ボクの親友、分かっているじゃないか、やっぱりボクらは趣味が一緒みたいだしキミと友達になれてよかった。こうやって話しても引かれないしね! そうそう、やっぱり来週ってさっきは言ったけど毎日来てもいい? というかさ、泊まってもいい? 期限は彼女がこの家にいるまででいいから。彼女とベッドは別でね、あそうだ、キミと一緒に使ってもいいよ? 彼女とベッドが一緒だとボクが何をしでかすか分からないし。というかねぇ、ちゃんと話を聞いてる? それからさ――」
わたしはまだ、ご主人さまとご友人さまの会話の内容を知らない。
ご友人さまから見た、ご主人さまとメイド。
ご主人さま
好きな物が一緒の同士。同級生でいい友達。
一年生の頃にゲームショップでご主人さまがエロゲーを買っているところにたまたま遭遇。学校側には黙っててやるからそれを貸せと脅して友達になる。
メイド
天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使