スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

1 / 28
スパイってかっこいいよね!
不定期ですが、よかったら読んだってください…




《狂風》のジキル
プロローグ


 

 

 

 とある真夜中。都市から少し離れた工場で爆発が起こった。

 そこはとある製薬会社が医療器具を製造するために所有する工場の一つなのだが、それは表向きで、裏では化学兵器を量産しまくっているという工場であった。

 爆発が爆発を呼び、広大な敷地に建てられた工場はもはや、火の海と化していた。時間も時間だったので、施設内に残っている人はいない。見張りのために監視棟に残っていた数人の警備員たちも異変に気付き、既に敷地内から脱出している。

 そんな誰もいるはずのない、炎上する工場内の中を必死に駆ける人影が二つ。

 

「ーーおいコラ、ハイド!? てめぇ、またなんか余計な事しやがったなっ」

 

 煙を吸わないように口元をハンカチで押さえつつ、灰色髪の青年が怒鳴った。

 

「言いがかりもいい加減にするでござるよ、ジキル殿! 拙者、今回こそは何もしてないでござる!」

 

 ハイドと呼ばれた少女が、マフラーで口元を覆いつつ、不満そうに抗議した。灰色髪の青年ーージキルが、「嘘つけ!」と即座に怒鳴る。

 

「本当に何もしてないでごさるよ! ただ、設置した爆弾からなんかヒモが垂れてたから、それを抜こうと引っ張っただけでござる」

 

「やっぱり、してんじゃねぇえかぁあああっ」

 

 青年はハンカチで口を覆うのも忘れて、盛大にツッコんだ。

 

「なんで? なんで抜いちゃうんだよっ。そのヒモは抜いちゃダメなやつなんだって! 俺、作戦前に何度も言ったよなっ?」

 

「……忘れてたでござる」

 

「またか! 忘れんなよ!」

 

 ハイドのすぐ忘れる癖に、ジキルはため息をこぼすしかない。当初の予定では、警備員の巡回がない十数分間を狙って爆弾を設置し、工場から外に出たタイミングで爆破。混乱に乗じて、敷地外へと脱出する予定だった。

 当然、もしもの時に備えて脱出経路はいくつか用意しているが……正直、それどころじゃなかった。「というか、」と、すぐ隣を駆けるハイドが呑気に口を開く。

 

「拙者思うのでござるが、引っ張りたくなるようなヒモが付いた爆弾を準備したジキル殿が悪いのでは? 次からは気をつけてほしいでござる」

 

「開き直ってんじゃねぇええ!? お前、覚えてろよ!? 後でぜってぇ……がっ、ごほっ、ごほっ!?」

 

 熱気と煙で喉がむせ、ジキルが激しく咳き込む。

 

「ジキル殿、早く口をハンカチで隠すでござるよ! 今は文句を垂れるより、脱出するのが先でござる」

 

「それ、お前にだけは言われたくなかったわ!」

 

 ひょいひょいと崩れ落ちる床や壁を避けながら廊下を駆け抜け、階段を登り、また廊下を駆け抜けーー

 

「よし、屋上だ!」

 

 階段を登り、ジキルが目的の屋上へと続く扉を蹴破ると、2人は屋上の鉄柵までそのまま駆け抜ける。その下、数十メートル先では小さな川が流れていた。

 普通に考えれば、死んでしまう高さだ。しかし、2人に迷いはなかった。「飛ぶぞ!」とジキルが叫び、「承知!」とハイドがその言葉に応えて、2人は同時に鉄柵を飛び越える。すぐさまハイドは手品のように特殊加工された大きな正方形の布を広げることで、空気抵抗を起こし、落下速度を格段に落としてゆっくりと飛行した(ムササビの術というらしい)。ジキルもその布の展開に合わせて、身を翻し、ハイドの腰にしがみついた。

 

「はぁ、なんとか助かったな……」

 

 ジキルはどっと疲れたようにため息をつく。ハイドが自慢げに鼻を鳴らす。

 

「ふ、拙者のおかげでござるな……あ、ジキル殿。お礼は『ラズベリーハウス』の特大スペシャルイチゴパフェでいいでござるよ」

 

「なに、ナチュラルにご褒美を貰おうとしてんだお前はっ。あるわけないだろっ」

 

「ええ、そんな!? ジキル殿、受けた恩はすぐに返すべきでござるよっ?」

 

「お前はその前に俺に謝罪しろ!?」

 

 ジキルが怒鳴るが、ハイドは自分が何をしたのかすでに忘れてしまったらしい……というよりも、もうパフェの事しか頭にないようで、不満そうに「パーフェ! パーフェ!」と抗議する。ジキルも意固地になって、「絶対に奢るか!」と言い返す。

 

「ジキル殿のケチ! 根暗! そんなんだからーー」

 

 そこまでハイドが言いかけて、ビリっと、布が切れるような音がした。「「あっ」」と2人揃って声を上げる。

 

「……忘れてたでござる。ジキル殿、ムササビの術用の布がツギハギだらけだからそろそろ新しい布を用意してーー」

 

「またか! 忘れんなよ!?」

 

 ビリビリビリーっ! と音を立てて真っ二つに布が裂け、ジキルとハイドは2人揃って川底へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 世界は痛みに満ちているーー。

 歴史上最大規模の戦争が世界に残したのは、理不尽な苦痛、そして、生々しい傷跡だった。世界大戦と呼ばれる戦争はガルガド帝国の降伏で終結したが、戦勝国側も死傷者が一千万人を超え、実質、勝者のいない戦争となった。

 死傷者の多くは民間人。それも世界大戦の特徴だった。

 戦争はもはや剣や弓の時代ではない。

 科学技術が進歩した時代。短機関銃、毒ガス、戦闘機、対人地雷などなどーーどれも大量殺戮に特化した兵器ばかりだ。特にお互いが理性を失う大戦終盤は、見境のない虐殺が各地で行われた。狙われたのは力のない女子供だった。

 終戦後、惨状を目の当たりにした世界中の政治家が認識する。

 戦争はコスパが悪いーーと。

 つまるところ、戦争は外交手段の一つに過ぎない。

 他に代替する手段があれば別にいい。

 金、人質、ハニートラップ、スキャンダル、交渉、暗殺などなどーー。

 かくして、「光の戦争」は終焉を迎える。

 現代で繰り広げられるのは、スパイたちの情報戦ーー「影の戦争」だった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。