スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

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ここいらで次の話に進みます……一応、途中でサイドストーリーも挟んでいく予定です。
駄文・不定期更新になりますが、楽しんでもらえると嬉しいです!






《黒子》のハイド
プロローグ


 

 

 

 ーー世界大戦の時代。

 「極東」と呼ばれるこの地は、発展が遅れた未開の地であった。

 「極東」にあった大半の国が、先進国であるムザイア合衆国やライラット王国を始めとする西欧諸国の軍事力になす術がなく、支配下に置かれていった。

 龍沖という小国も、その一つであった。

 中世時代に繁栄を極めた龍華民国に隣接するこの小国は、現在、フェンド連邦の植民地になっている。

 龍沖では極東支配の拡大を目指すフェンド連邦によって大金と技術が注ぎ込まれ、同時に西欧式の哲学を導入した教育現場で資本主義が普及した事で、一気に近代化が進んだ。

 そのため、龍沖は西欧式文化と龍華文化が混ざる、奇怪な地となった。

 このような急発展を遂げた場所には、多種多様な人が集まる。

 フェンド連邦の人間はもちろんのこと、その他西欧諸国の人々に、未だ西欧諸国の支配が続く極東の人々。

 支配を進めたい者、先進国の制度を学びたい者、支配を打ち破りたい者、支配から逃れたい者。

 政治家、記者、学生、商人、亡命者、軍人、革命家などなどーー挙げていけばキリがない。

 あらゆるものが混ざり合い、境界があやふやで、表と裏の区別がつかない場所はーー得てして、影の世界を生きる者たちの住処であり、戦場となる。

 ーー龍沖島の波止場。

 大陸側の本土から様々な貨物が運び込まれるこの場所で、静寂な闇夜の中、爆発音が轟いた。

 一つのコンテナから、激しく炎が上がっている。波止場に警報が鳴り響き、巡回していた警備員たちが集まってくる。

 警備員たちが燃え上がるコンテナに注目する中、波止場から人知れず、灯りも付けずに一隻の船が飛び出した。

 

「ーーおいコラ、ハイドぉおおおおっ!? テメェ、また余計な事しやがったなぁあああっ?」

 

 船を運転する灰色髪の青年が、怒髪天を突く勢いで叫んだ。対して、船の中で青年と背中合わせに立つ黒髪の小柄な少女ーーハイドが口を開く。

 

「何でもかんでも拙者のせいにしないでほしいでござるよ、ジキル殿! 今回こそは拙者、何もしていないでござるっ」

 

 不満そうに抗議するハイドに、灰色髪の青年ーージキルは「嘘つけっ」と怒鳴る。

 

「本当に何もしていないでござるよ! ーーただ、木箱に入っていた時計がくっ付いた爆弾を弄ってたら、勝手に時計が動き始めただけで」

 

「やっっぱり、やってんじゃねぇかぁあああああっ!」

 

 ジキルはたまらず、振り上げた拳をハンドルに叩きつけた。

 

「それ、どう見ても時限爆弾だよなっ? なんで弄るんだよ! 密輸された武器の調査は俺だけがやるからお前は何も触るなって言ったよなっ?」

 

「……忘れてたでござる」

 

「またそれかっ! お前、その手の言いわけ何度目だよ? いい加減改めろっ!」

 

「改めろと言われても……無理でござろう。もはやこの忘れ癖は、拙者のチャームポイントみたいなものでござるし?」

 

「開き直るなっ。てか、自覚があったのかよ。お前、ほんと成長する気ないなっ!」

 

 怒鳴り続けるジキル。そんなジキルにハイドが不服そうに唇を尖らせ、「というか、」と口を開く。

 

「拙者思うのでござるが、もうこのやりとり続けて、一年半以上経つでござるよな? ジキル殿こそ、いい加減学習するべきでは? ……拙者、作戦とかそういう難しい話、大体聞き流しているでござるよ」

 

「よくそれ言えたな、お前!? この仕事を何だと思ってんだっ?」

 

「……? ジキル殿にお世話される仕事?」

 

「そんな仕事あってたまるかぁあああああああっ!」

 

 一年半以上も生死を共にしてきた相棒のふざけた回答に、ジキルは叫ばずにはいられなかった。「こんな仕事、さっさと辞めてやるっ」と恨めしそうに愚痴をこぼす。

 

「そんな事言ってる場合じゃないでござるよ、ジキル殿! ……後ろから二隻。来たでござる」

 

 ハイドの言葉に、ジキルが「あぁっ?」と首だけ振り返る。

 視線の先には二隻の小型船。そしてジキルが振り向いた瞬間、二隻の小型船からそれぞれ一つの影が跳躍したのが視えた。

 ーーキィイイイイイイイインッ!

 鋼と鋼がぶつかり合うような、甲高い金属音が響いた。見れば、ハイドが両手にそれぞれ持った短刀と刀で、自身の首筋に迫る刃と、船を運転するジキルの首筋へと迫る刃を止めていた。

 この暗い視界では相手の刀の動きなど、ほとんど見えないだろう。相対する敵が卓越した技術を持つ暗殺者ならなおさらだ。

 そして、その二つの凶刃を一人で止められたのは、ハイドの人並外れた戦闘能力と直感があればこそ、できる芸当だった。

 舌打ちしたジキルが、ホルスターから抜いた拳銃で、肩越しに暗殺者二人に向かって数発、発砲した。身体を撃ち抜かれた暗殺者二人がジキル達に離れるように後方へとステップを踏む。そこへすかさずハイドが追撃に入りーー暗殺者二人の左胸を両手に持つ刀と短刀で穿つ。

 そのまま崩れるように船から落ちる暗殺者。それを確認してジキルが一息つくも、すぐにハイドの悲鳴が聞こえる。

 

「ジキル殿! 避けるでござるっ」

 

 顔を上げたジキルが驚愕に目を見開くーー碇が、ジキル目掛けて飛んできた。「嘘だろっ!?」と、慌てたジキルが舵を右に切って何とか回避する。船に直撃するギリギリだった。

 ようやく暗闇にも目が慣れてきて、ある程度の事は視えるようになってきた。ジキル達を追う小型船の中に、一際大きな人影が視える。おそらく、先程の碇はあの人物が投げたものだろう。

 

「ーーっ、本当に規格外の連中だな。『鴉羽』ってのは」

 

 『鴉羽』ーーそれは世界大戦の頃から世界規模で活動していた暗殺集団である。元は極東のとある国で発足した部隊らしいが、起源は謎のままだ。構成員の国籍、性別、年齢は不明。「指」と呼ばれる末端と、「目」と呼ばれる統率者に分かれる。全員が「一人必殺」を信条に、「帰不」の誓いを立てた凄腕の暗殺者ばかりだ。

 

「ジキル殿、奴らの船の方が速いみたいでござる……このままだと追いつかれるでござるよ」

 

 ハイドの言葉に、ジキルは舌打ちする。肩越しに見れば、二つの小型船がどんどん近づいて来るのが分かる。ジキル達が乗り込んだ船は漁船で、これ以上の速度はでない。対して、『鴉羽』の暗殺者達が乗る船は小型船で、漁船に比べて小さいので風の抵抗も少なく、軽量なため、速度をどんどん上げてきている。追いつかれるのは時間の問題だろう。

 

「……今度はこっちから仕掛けるしかねえか」

 

 そう呟いたジキルが、片手で舵を持ちながら、もう片方の手で足元に置いたバッグを弄り始める。そうしている内に、小型船がすぐそこまで迫ってきた。速度を落とす気配はない。このまま突っ込む気なのだろう。

 

「ジキル殿っ!」

 

「あぁ、分かってるよっ」

 

 小型船が船に衝突する瞬間、ハイドの言葉を合図にジキルが急に大きく舵を右に切ったーーかと思えば、左へと切り返した。

本来想定されない運転に船体が軋むような悲鳴を上げる。一度右に傾いた船が振り子のように左へと大きく傾くーー船体が持ち上がり、小型船を覆うように漁船が反転した。

 その様子に慌てた『鴉羽』の暗殺者が避けるように舵を切る。しかし、大男の暗殺者が乗った小型船だけは避け切ることが出来なかった。そのまま迫り来る船体を大男はなんと、両腕で受け止めた。

 

「……化け物にも程があるだろ」

 

 反転した船体の船底側に避難していたジキルが、その様子を見て呆れる。「……ま、それもここまでだけどな」と口を開き、ジキルは跳躍する。

 

「コードネーム『狂風』ーー壊し、狂わせる時間だ」

 

 ジキルがそう告げた瞬間、カチッと反転した船体の中で機械音が鳴るーー漁船が、大男が乗る小型船を巻き込んで爆発した。

 

「いくつか武器を押収しておいて正解だったな……まぁ、さっきの爆発で全部飛んじまったけど」

 

 近くの小型船に着地したジキルがそうぼやく。小型船が船に迫る前ーージキルは小型船が追いつくタイミングを計算し、バッグの中の押収していた時限爆弾のタイマーをセットしていたのだ。

 

「ジキル殿、こっちも片付いたでござるよ」

 

 振り向くと、短刀を持ったハイドが倒した暗殺者の骸を海へと蹴落としていた。反転した船から逃れたもう一方の小型船に乗っていた暗殺者を二人、あの一瞬で血祭りに上げたらしい。相変わらずの戦闘能力の高さに、ジキルは苦笑する。

 

「まったく……あとは作戦とか任務内容さえ忘れなければ、頼れる相棒なんだけどな」

 

 そう溜息を漏らすジキルに、ハイドははてと、首を捻る。

 

「難しい話は、ジキル殿がいれば問題ないでござろう? それに拙者は近接戦闘クソ雑魚なジキル殿の代わりに前線に出てあげてるでござるし……もう十分、頼れる相棒では?」

 

「サラッと暴言を混ぜるな。喧嘩売ってんのか、テメェ……そうじゃなくてだな」

 

 溜息混じりにジキルが言葉を続ける。

 

「俺だって、ずっとお前とバディを組んでる保証はねぇんだぞ? 一人で任務する事だってあるかもしれねぇし……その時が来たら、どうすんだよ」

 

「スパイ、辞めるでござる」と、答えるハイド。「それで一般人になって、ジキル殿について行くでござる」

 

 そうすれば、任務やら使命とかのしがらみなく、ジキル殿について行けるでござろうと、ハイドが笑う。

 そんなハイドの回答に「ダメに決まってんだろっ」とジキルがツッコむ。

 

「じゃあ、ジキル殿も辞めるでござるよ」

 

「アホかっ。スパイをそんな簡単に辞められるわけないだろ? たとえ辞めれたとしても、その辺の一般人と同じような生活は出来ないぞ?」

 

「じゃあ、スパイを続けるしかないでござるなぁ。あ、もちろんジキル殿と一緒でござるよ? 拙者、作戦とか任務内容とか覚えないでござるからなっ」

 

「だからそういう事じゃ……あぁ。もう、いいや。俺もお前とは一生こんな感じでいきそうな気がするよ」

 

 自慢げに胸を張って答えるハイドにジキルは溜息をこぼすしかない。小型船のエンジンをつけ、運転席へとジキルが移動する。そして、ハイドに一声かけようと振り向いて、「ん?」と首を傾げた。

 

「おい? どうした、ハイド」

 

 見れば、ハイドがある一点……灯台が立つ丘をじっと見つめている。

 

「ん? あぁ、いや。何でもないでござるよ」

 

「そうか……なら、早く座れ。このまま長居するのもまずいからな。飛ばすぞ」

 

「了解でござるっ」

 

 笑顔でそう答えたハイドは小型船の上に座り込む。それを確認したジキルは舵を切り、小型船を走らせた。

 

 

 

 

 

 

「ーーやはり、生きていたのか」

 

 灯台の立つ丘で、黒い外套に身を包んだ男がぽつりと呟く。男の目下では一隻の小型船が走っている。男はそれをしばらく眺めていたがーー身を翻し、その場を後にした。

 

 

 

 

 

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