スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

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今回は前編と後編を続けて書いてたんですよ……

なぜかって言うと、前編で筆が止まって、後編の方が筆が進んだから!
(後編の後半部分はマジで書いてて楽しかった僕は、変態でしょうか?)


多分キャラ崩壊とかはしてない……はず。
してたら、ごめんなさい!


case1 蠢く悪意(後編)

 

 

 

『ーーハイド。敵が路地裏に入ったぞ。人混みに入られると厄介だ、メインストリートに出る前に捕まえろ』

 

 夕刻、ディン共和国の西部に位置する街中にて。通信機を片手に、建物の平らな屋根の上を駆ける黒髪の少女の姿があった。ハイドだ。無線機から聴こえる指示に「承知っ」と、元気よく答える。

 黒いマフラーを靡かせて、屋根から屋根へと飛び移る。目下には狭い路地を無駄のない動きで駆けるダークコートの男の姿がある。ガルガド帝国のスパイだ。数百メートル先には大勢の人が行き交う、メインストリートが見える。

 ハイドは脚により力を込めて、ダークコートの男目掛けて跳躍した。直線的に跳躍したハイドはそのまま構えた短刀でダークコートの男に向けて刃を振るう。

 

「ーーむ、逸れたでござる」

 

 ダークコートの男の前で着地したハイドがそうぼやく。振り向いてみれば、ダークコートの男の襟が切り裂かれている。首を狙ったつもりが、軌道が少し右にずれていたらしい。

 突然現れたもう一人の追跡者に、ダークコートの男はひどく驚いたようだった。しかし直ぐに冷静さを取り戻し、懐から出したサプレッサー付きの拳銃を構え、発砲する。

 

「遅すぎるでござるよ」

 

 至近距離で放たれた弾丸をハイドは短刀で弾く。そして短刀を斬り上げ、拳銃ごとダークコートの男の指を切り落とした。「ぎゃあっ」とダークコートの男が悲鳴を上げる。

 

「おっと。ここで騒がれては面倒でござるな」

 

 ハイドはダークコートの男の鳩尾にドロップキックを放つ。ダークコートの男は冗談のように吹き飛ばされ、ごろごろと転がり、路地裏の曲がり角で激しく背中を打ちつけた。苦しそうに口を開くが上手く呼吸ができないようだ。肋骨が数本、折れているかもしれない。

 ハイドが、見下ろすようにダークコートの男の前に立つ。

 ーーさて、これからどうしたものか。たしか、今回の任務はディン共和国に潜むガルガド帝国のスパイの捕縛だ。彼らが集めた情報を吐かせ、ついでに他にも潜伏しているであろう仲間のスパイの情報も吐かせるのだとか何とか。細かいことはよく覚えていないので、とりあえず何か喋らせればいいかと、ハイドは口を開いた。

 

「えーと、そこの黒い人。さっさと情報を吐くでござるよ」

 

「……誰が、吐くものか」

 

 苦しそうにハイドを睨みつけ、ダークコートの男が口内に忍ばせた毒薬で自決を図る。

 

「ーーさせないでござるよ?」

 

「ーーーーつ」

 

 目にも止まらぬ速さで、ハイドはダークコートの男の口内に短刀を差し込む。喉に刃が突き刺さる直前で止め、「ばっちぃでござるな」と顔を歪めながら、ハイドはダークコートの男の口内から錠剤を取り出す。

 

「これで自決はできないでござるよ……もう一度聞くでござる。情報を吐くでござるよ」

 

「………………」

 

 しかし、ダークコートの男が話そうとする気配はない。これでは情報を吐かせることは無理だろう。ハイドはため息をこぼす。

 

「口を割らぬのなら用は無しーー仕方ない、死んでもらうでござるよ」

 

 ハイドが短刀を握る手に力を込め、そのままダークコートの男の喉に刃を突き立てようとしたーーその時。

 

「ーードアホっ。殺すな馬鹿ハイド!」

 

「あいたっ!?」

 

 飛び降りてきた灰色髪の青年、ジキルの拳骨がハイドの頭に突き刺さった。ハイドが痛みのあまり握っていた短刀を取りこぼす。

 頭を両手で押さえたハイドが、非難めいた目をジキルに向ける。

 

「ちょっと、ジキル殿っ。いたいけな少女の頭に拳骨をかますとは何事でござるかっ?」

 

「うるせぇ。いたいけな少女は短刀を人の口の中に入れたりしないんだよ」

 

 そう言って、ジキルはダークコートの男の頭を拳銃の柄で殴りつける。ダークコートの男はそのまま昏倒した。

 

 

 

 ジキルとハイドが『灯』のメンバーと合流して五日目。二人は来たる『鴉羽』の掃討任務決行日までの間、『灯』が担っていた任務を手伝っていた。今回はディン共和国内における防諜任務だ。

 ダークコートの男を持ってきたアタッシュケースに詰め込み、合流した回収班に引き継いだジキルとハイドは路地裏を抜けて、多くの人が行き交うメインストリートへと出た。

 途中で雨が降り始めたので、ジキルは露店で傘を二本購入し、傘を一本ハイドに手渡す。さっそく傘を差した二人は並んで雨道を歩いて行く。

 追跡されている気配もないし、雨音が会話の音を消してくれるだろうと、ジキルが口を開いた。

 

「おい、ハイド。お前、さっきあの男を殺す気だったろ? どういうつもりだ?」

 

 そう問われて、ハイドが何事かと首を傾げる。

 

「どうもなにも。あの男は何も喋らなかったゆえ、新しい情報は見込めないから殺そうとしただけでござるよ」

 

「だからって殺そうとするな、馬鹿ハイド。大体、脅迫されたぐらいで情報を吐くスパイなんかいるか。ああいうのは大体、自白剤や拷問で吐かせるんだよ」

 

「え、そうなのでござるか?」

 

「そうだよ。そもそも、俺は任務前に言ったよな? 今回の俺達の任務は敵スパイの捕縛で、情報を吐かせるのは他の連中に任せるって」

 

「……忘れてたでござる」

 

「またか……お前なぁ、いい加減覚えておけよ」

 

 呆れてため息をこぼしたジキルが、片手で頭を抱える。ハイドのこの調子はいつものことだ。何とかして欲しいとは思うが、それよりもジキルには確認したい事があった。

 少し躊躇いながら、ジキルが問う。

 

「なぁ、ハイド……お前、最近人殺しに躊躇が無さすぎるんじゃないか?」

 

 これは、ジキルがここ最近ずっとハイドに感じていた事だった。ジキル達の任務は『鴉羽』の暗殺者達を追い、これを壊滅させる事だ。彼らは凄腕の暗殺者の集団であり、捕縛などほぼ不可能。捕らえても、彼らは迷わず自死を選ぶし、他の暗殺者が捕らえられた仲間を殺しに来る。そのため、『鴉羽』の暗殺者とは常に殺し合いの関係を強いられる。

 そんな環境下では、殺人という行為に躊躇いが無くなってきても仕方ないかもしれない。しかし、ハイドの場合は簡単に、人を殺しすぎるのだ。パンが食べたいから、朝食はパンにしようというように。パスタを食べるのにフォークがないから、仕方ないので箸を使って食べようというように。

 敵だから殺す。情報を吐かないから殺すーー「殺人」という行為を、息をするように選んでしまう。14、15歳の少女が、だ。

 

「そうでござるか? 別にいつも通りでござるよ」

 

 対するハイドは首を傾げるだけだ。自覚がないらしい。本人がそう言うのなら、自分が気にし過ぎなだけかと、ジキルは顔をしかめる。

 ハイドが「あ、でも」と言葉を続ける。

 

「最近はなんだか調子が良いでござるよ。たまに行き過ぎてしまう時もあるでござるが、身体は軽いし、武器を振るう速度も速いし、こう……全体的に動きにキレが増してきた感じがするでござるよ」

 

 そんな事を、屈託のない笑みを浮かべて答える。たしかにその通りだった。最近のハイドは動きが良い。攻撃を空ぶる事もしばしばあるが、以前にも増して身体能力が向上しているし、技のキレも増している。成長……もあるのだろうが、どちらかと言うと本来の感覚に戻りつつあるのでは、とジキルは思った。

 ハイドは元『鴉羽』の暗殺者だ。それもその実力は『目』の暗殺者にも匹敵するほどのものだ。しかし、過去にハイドは『鴉羽』の任務を失敗し、同胞に殺されかけたところを自分の妹に救われた。それからは半年間ほど、妹と、殺しとは程遠い生活を送ってきた。

 その半年間はハイドにとってよほど有意義で幸福なものだったのだろう。無機質で人を殺すだけの兵器だった彼女は、パフェが大好きで、能天気で楽観的で、ちょっと生意気なじゃじゃ馬娘になった。

 その性質はまだ損なわれていないし、戦闘技術の向上はスパイとしては喜ぶべき事だ。しかし、いつかハイドが任務から解放され、普通の人々の中で生きる日が来た時ーー彼女のそれは大きな枷になるかもしれない。

 

「ーーあ! あともう一つ大事な事があったでござるよっ」

 

 ハイドの大きな声に、驚いたジキルが我に返る。

 気付けば、ハイドが覗き込むようにジキルの顔を見上げている。その真剣な眼差しに、ジキルも真剣な面持ちで問う。

 

「……もう一つって何だよ?」

 

 その問いに、ハイドは大きく息を吸って堂々と応えた。

 

「ーー拙者、身長が伸びたでござるよ!」

 

「……はぁ?」

 

 あまりにも斜め上な内容に、ジキルから間の抜けた声が出た。

 

「なんか最近、目線が高くなったなぁとは思っていたのでござるが……今日確信したでござるっ。拙者、身長が伸びているでござるよ!」

 

 傘を差すのも忘れて、ジキルに詰め寄ってくるハイド。身長が伸びた事を誉めて欲しいのか、その瞳はきらきらと輝いている。しかし、ジキルは首を傾げた。

 ジキルとハイドが出会った時、ハイドの頭はジキルの鳩尾ぐらいの位置だった。その位置は今も変わっていない。

 

「気のせいじゃねぇの?」

 

「そんな事ないでござるよ! ほら、服のサイズもちょっとキツくなってきてるでござるし!」

 

 うーっ! と背中を反り、思いっきり胸を張るハイド。

 ……胸にかけた圧力で、シャツのボタンを飛ばす気なのだろうか。そんな事をしても服のサイズが小さくなった証明にはならないし、そもそもハイドの慎ましい胸では無理だ。

 

「ーーふっ」

 

 ジキルの口から思わず、笑いが漏れる。

 

「あっ! ジキル殿、今笑ったでござるな!? 本当に拙者、身長が伸びたんでござるよっ」

 

 不満そうに頬を膨らませるハイド。それがよりジキルには可笑しかった。

 こっちの心配が馬鹿らしく思うほどに。

 

「はいはい、そうだと良いな……その調子でこれからも頼むぞ? 相棒」

 

 そう言って、ハイドの頭を優しくポンポンと撫でてやる。

 ハイドが、鳩が豆鉄砲を食らったように目を丸くする。

 

「……急にどうしたでござるか、ジキル殿。ちょっと気持ち悪いでござるよ」

 

「気持ち悪いとか言うな、馬鹿ハイド」

 

 顔をしかめて、ハイドの額にデコピンする。小さな悲鳴を上げたハイドが「暴力反対でござるよっ」と文句を口にする。それをジキルは面倒そうに軽く流す。

 

(ーーまぁ、俺がハイドの側にいてやればいい話か)

 

 タクシー乗り場に着き、ジキルが手を挙げるとタクシーが停まる。

 ジキルはハイドと二人、そのタクシーに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 二時間後。

 ジキルとハイドが陽炎パレスに戻ると、ちょうど他の『灯』の少女達も任務から戻ってきたタイミングだった。雨で冷えた身体を温めるために少女達は先にお風呂に入る事に。その間にジキルが夕食の準備をする事になった。

 

「ーーふぅ。良い湯でござるなぁ」

 

 陽炎パレスの大浴場にて。大風呂に首まで浸かったハイドが、深く息をつく。

 冷えた体が芯から温まっていく。各国で活動するジキルとハイドはその任務の性質上、気が休まる時間がほとんどない。大体はシャワーで済ませてしまうため、こんな大浴場で大きな湯船に浸かれるなど、贅沢の極みと言える。

 

「そうですねぇ。雨で冷えた日には、その有難さが染み渡りますよねぇ」

 

 ハイドの隣で両手を上に突き出して、大きく背中を反る銀髪の少女は、リリィだ。彼女もハイドと同じ気持ちのようで、紅潮した頬が緩みきっている。

 

「まったくだな。これが、ごくらく、ごくらく〜ってやつだよな」

 

 同調するように、ハイドとリリィとは斜め左の位置で湯に浸かる白髪の少女、ジビアがそんな事を言う。彼女も機嫌が良さそうに頬を緩ませている。

 リリィがからかうように笑う。

 

「ごくらく、ごくらく〜って……ジビアちゃん、おばあちゃんみたいですね」

 

「な、誰がおばあちゃんだよっ? あたしはそこまで老いてねぇぞっ」

 

「あー、そうですよね。温泉に浸かる猿もいるって言うぐらいですし、白髪のオランウータンの間違いでしたね」

 

「だ れ が 白髪のオランウータンだ!? 間違いだらけだろうがっ」

 

「きゃあっ!? ちょっとジビアちゃんっ。逆ギレで私の胸を握るのやめてくれませんかっ」

 

「うるせぇ! このおっぱいオバケっ!」

 

「お、お、おっぱいオバケって……て、痛たたたっ!? だ、誰か助けてください! 白髪のオランウータンに殺されちゃいますっ」

 

 湯船の中で姦しく騒ぐ、二人の少女。

 

「ーー二人とも、お風呂の中で暴れないで。子供じゃないんだから」

 

 それを黒髪の妖艶な雰囲気を持つ少女、ティアがため息混じりに制止する。

 

「まったくですっ。リリィの姉貴とジビアの姉貴は大人の余裕っていうのがないですよね!」

 

「……の。恥ずかしいの」

 

「まぁ、まぁ。でも、お風呂で騒ぐのは怪我にも繋がるかもしれないっすから。気をつけた方がいいっすね」

 

 後から入ってきた灰桃色髪の少女、金髪の少女、茶髪の少女ーーアネット、エルナ、サラの三人の年下組にも注意される。それらの言葉に「「むっ」」と動きを止めるリリィとジビア。流石に大人気なかったかと思ったらしい。

 ハイドも「まったくでござるよ」とため息をこぼす。

 

「ジビア殿だけずるい……拙者にもそのおっぱい、触らせるでござるよ」

 

「何でそうなるんですかぁっ?」

 

 リリィに飛び掛かったハイドが、その豊満な胸を鷲掴みにする。初めて触らせてもらった(無理矢理に)時もそうだが、弾力とハリが凄い。加えて指が沈むのだ。自分の胸では絶対に体験できない感触だった。

 リリィが顔を真っ赤にさせて、ハイドを引き剥がそうと抵抗する。

 

「ちょ、ハイドちゃん! いい加減にしてくださいっ」

 

 本気で嫌がるリリィに、ハイドはにんまりと悪戯っ子の笑みを浮かべる。

 

「ふはは。よいではないか、よいではないか〜」

 

「全然よくないです! ていうか、誰ですかアナタ!?」

 

「いいぞー、ハイド。もっとやってやれ」

 

「白髪のオランウータンは黙っててくださいっ」

 

「ーーよし、ハイド。あたしも参加するわ、片方の胸を貸せ」

 

「承知」

 

「きゃー!? ごめんなさい、嘘ですっ。来ないでください! て、ティアちゃんっ。助けて下さい!」

 

「え、私っ?」

 

 突然話を振られて、ティアが戸惑う。

 ピタッと動きを止めたハイドが、ティアに向かってニンマリと悪戯っ子の笑みを浮かべた。

 

「ほう。拙者、ティア殿のおっぱいも久しぶりに堪能したいとーー」

 

「ごめんなさい、リリィ。そのまま犠牲になって」

 

「仲間に見捨てられましたっ?」

 

 ティアに顔を背けられ、リリィの顔が絶望で青くなる。

 

「な、ならサーー」

 

「あ、自分も無理っす」

 

「サラちゃんまで!?」

 

 困ったような笑みを浮かべて頭を振るサラ。それならばと、リリィがアネットとエルナに助けを請うべく視線を移す。

 

「ーー俺様、泳ぎの練習をしますっ」

 

「の、のぉ!? お湯がエルナの顔にぶっかかっているのっ。やめるのっ!」

 

「俺様、速度を上げますっ」

 

「のおぉっ! コイツ、絶対わざとやっているのっ」

 

 湯船の中でバタ足をするアネットと、それによって被害を受けるエルナ。とても助けてはもらえ無さそうだった。満面の笑みを浮かべたハイドとジビアが、リリィの肩をそれぞれ掴む。

 

「……さ、続きといこうぜ?」

 

「……今日は帰さないでござるよ?」

 

「ひぃいいっ!? だ、誰か助けてーーい、いやああぁぁぁぁぁああっ!?」

 

 そのままハイドとジビアに弄られるリリィ。標的が自分にならなくてよかったと、ティアが安堵の息を吐く。

 

「……そういえば、グレーテとモニカは?」

 

 二人の少女がこの場にいない事に気付いて、ティアが口を開く。

 

「ああ、お二人なら『ハイドがいるから絶対無理』だそうっす……まぁ、お二人とも元々一人でお風呂に入るタイプっすから。今はジキル先輩と一緒に夕飯の準備をしてくれているっす」

 

 サラが苦笑して答える。

 ジキルとハイドと共に『奈落人形』の奪還任務に当たっていた頃の話だ。一ヶ月にも満たない期間の付き合いだったが、ハイドは風呂場でモニカとグレーテ相手に事件を起こしている。

 

「……まぁ、当然ね。それにジキルだけに食事の準備をさせるのは申し訳なかったし、ちょうど良かったかしら」

 

 そう言って、ティアは左右で起きている出来事には目を背けつつ、束の間の憩いを過ごすのであった。

 

 

 

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