スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

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更新が遅れてしまって申し訳ない
なかなかリアルが忙しくて、手がつかず……

しかし、ちゃんと完結はさせますとも。ええ、はい!(多分……)


あとはスパイ教室の二次創作増えないかなーっ!
読みたいなーっ!



case2 舞踏(前編)

 

 

 

 龍華民国の南端に位置する波止場にて。

 目の前には豪華絢爛な豪華客船がある。豪華客船の名前は、『ニュードラゴ』。

 方形、切妻屋根の建物に、龍、鷹、虎といった多くの猛獣が刻まれている。金、赤、黒、緑、青など多彩な色で彩られた豪華客船は、龍華の町並みをそのまま表しているかのようだった。

 船内は四層構造になっており、上から一層と二層は客室。四層は従業員用。三層は一際広い空間となっており、レストランや浴場、さらにはダンスホール、劇場、ダーツやビリヤードなどが楽しめる娯楽施設まで備わっている。

 『鴉羽』との決戦に備えて、陽炎パレスを出たジキル達はそれぞれ分かれて準備を整え、ここに集合した。

 今回の任務は二組に分かれる。一つは豪華客船に潜入する班。メンバーはジキル、ハイド、モニカ、ジビア、リリィ、エルナの6人。もう一つは、波止場から3キロほど離れた郊外。終戦後も武器の流通業で財を成した大企業の1つ──『アルカナ社』。その龍華民国支部のあるビルへ潜入する班。メンバーは、クラウス、ティア、グレーテ、アネット、サラの5人。

 各班に分かれて、龍華民国に終結した『鴉羽』の暗殺者達を殲滅し、さらに裏で繋がる『アルカナ社』の武器商人・ローウェル=カーペンターを捕らえるのだ。

 目的地に着いたジキルは遠目から、船内へと乗船する人々を眺める。

 何人か見覚えのある顔がちらほら見えた。どれも各国の大企業の社長や重役ばかり。中にはムザイア合衆国やフェンド連邦、龍華民国の政治家や軍人達の顔も見える。その中には女性や子供の姿もあった。どうやら家族を連れてきている者もいるようだ。

 

 ──『鴉羽』の暗殺者はいねぇな、とジキルが乗船する人々を注意深く眺めていると、後ろから無遠慮な笑い声が聞こえた。

 

「ぶっはっはっは!? じ、ジキル殿。それが正装でござるか? オールバックにタキシード……似合わねぇーっ」

 

 ジキルに対して失礼な物言いと、「ござる」という口調。ジキルの相棒、ハイドだ。

 今回ジキルとハイドは新聞記者とその妹として乗船する。もちろん服装は乗船する他の客に合わせてフォーマルな格好。普段は着る機会のないタキシードに袖を通し、髪をワックスでまとめてきたのだが……慣れない格好とはいえ、そこまで言われる筋合いはなかった。

 

「……笑い過ぎだ、馬鹿ハイド。つーか、そういうお前は──」

 

 苛立ちを隠さず、振り向き文句を口にしかけて、思わず止まる。

 目の前には、黒髪短髪の可愛らしい少女がいた。黒を基調とした、フィット&フレアーのパーティードレス。艶やかな黒髪に三つ編みが組み込まれ、赤色のリボンがより少女らしさを引き立たせている。顔の肌と唇も、色合いと艶がいつもと若干違う。『灯』の誰かがハイドにナチュラルメイクをしたのだろう。

 少しメイクを施しただけで、人の印象はここまで変わるものなのか。

 

「ん?」

 

 ハイドが小首を傾げる。

 ジキルは一つ咳払いして、口を開いた。

 

「……意外に似合ってんな、ハイドのくせに」

 

「うーわ、一言余計でござるよ……まぁ? その反応に免じて許してあげるでござる」

 

 勝ち誇ったように胸を張るハイド。

 悔しいが、この姿のハイドを批判する要素がない。というか、絶対こいつをドレスアップしたの『灯』の誰かだろ。人にやってもらっといて勝ち誇ってんじゃねよ、ちくしょう。

 

「ふぅん……にしても、あのハイドがなぁ……馬子にも衣装ってやつか。いや、恐れ入ったわ」

 

「なんか微妙に失礼な物言いでござるが、この際流すでござるよ……ふふん。ともかく、今日の拙者はドレスの似合う淑女でござるからな。大人の女性の魅力で、『鴉羽』を悩殺してやるでござるよ」

 

 などと言って腰を突き出し、うふんと、セクシーポーズを決めるハイド。

 悩殺できる要素が微塵も感じられない。

 

「あー、はい、はい。そうだな、悩殺できるといいな……ところでお前、スカートの下どうなってんの? 毎回『スー、スーする』って嫌がってたじゃん」

 

「ん? ああ、それなら下に短パンを穿いているでござるよ」

 

 唐突にスカートをたくし上げるハイド。

 フリルのついたスカートの下でハイドの四肢にピッタリと張り付いたパンツと、健康的な白い太ももが露わになる。

 

「これならスー、スーしなくて──」

 

「馬鹿野郎、それよりも早くスカートを戻せ!」

 

 思わず、ハイドの頭に拳骨を落とす。「いてっ」とハイドが小さな悲鳴をあげ、衝撃でスカートから手を離す。

 羞恥心のかけらもない、淑女らしからぬ行動だった。

 

「まったく……どんだけ着飾っても、じゃじゃ馬娘はそのまんまだな……」

 

 ジキルが思わずため息をこぼす。そこでザザッと耳にはめた通信機から機会音が鳴る。

 

『おーい、キミたち。いつまでそんな漫才してるの?』

 

 呆れたような声の主は、モニカだ。ため息が聞こえる。

 

 

『まったく、もう任務は始まってるっていうのに……ちょっと緊張感なさすぎじゃない?』

 

 冷ややかに、そう告げられる。

 正論に返す言葉がない。

 

「ぐ、おっしゃる通り……すまん」

 

『本当に頼むよ? 今回の任務のキーマンは君たちなんだからさ』

 

 最後にそう告げられて、通信が切られた。

 

 

 

 

 

 乗船してから1時間ほどして、船が出港する。

 今回は『アルカナ社』の新製品、新事業の発表ということで、この豪華客船『ニュードラゴ』で船上パーティーが開かれる。そのため客船は数キロメートルほど海へ出ると、停船した。

 『ニュードラゴ』の内装は外見とは異なり、西洋文化色の強いものだった。色合いは白と淡い黄色で統一され、天井には巨大なシャンデリア、床は高級感のある絨毯が敷き詰められている。

 船員も男性スタッフは西洋式の制服に身を包み、女性スタッフはメイド服だ。

 

「ここまで外装と内装の印象が違う船も珍しいな……」

 

 壁に背をつけ、遠目からそれらを見ていたジキルはグラスに入ったワインを一口飲む。

 三層目にあるダンスホール。そこでは多くの乗船客が集まり、並べられた豪勢な食事をバイキング方式で摂り、パーティーを楽しんでいた。ライラット王国で有名な奏者たちが音楽を奏でる。会場には贅沢な時間が穏やかに、流れていた。

 

「ジ──兄さん、み──て下さいっ。このご飯、凄いでご──ざるよっ」

 

 人の間を通り抜けて、目を輝かせたハイドが駆け寄ってくる。手に持ったお皿には山のように様々な料理が盛られていた。

 そのハイドの様子に、ジキルは呆れてため息をこぼす。

 

「おい、口調。明らかに不自然すぎるぞ。あと最後、ござるになってたんだけど」

 

 なるべく声をひそめて、そう叱責する。もし周りにいるかもしれない『鴉羽』の暗殺者に聞かれたら、どうするつもりなのか。そんな事は微塵も考えていないのだろう。ハイドの能天気ぶりにため息をこぼすしかない。

 そう指摘されたことが不服だったのか、ハイドが唇を尖らせる。

 

「む。ちょっと気が抜けてただけでござるよ。拙者だって普通に喋れるでござるよ」

 

 気が抜けている時点で問題なのだが。

 ジキルはため息をこぼしながら、ハイドの偽名を口にする。

 

「だから、口調……本当に大丈夫か? リタ」

 

「心配し過ぎでござるよっ。拙者は大丈──」

 

 ハイドが不機嫌そうにジキルから離れようとした時、ちょうど男性客の影から少年が現れ、ハイドとぶつかってしまう。

 少年がぶつかった衝撃で尻餅をつく。ハイドは持ち前の身体能力で皿に持った料理をこぼす事はなかったが、少年は持っていた料理を床にひっくり返してしまった。

 

「あ……ごめんなさい! 僕、よく見てなくて……」

 

 少年が青ざめた表情で、ハイドに頭を下げる。

 幸いお互いの服は汚れていない。それに今回はどちらかというとハイドの方に非がある。

 ハイドではいつもの口調で話し出すかもしれないと、ジキルが先に口を開こうとする。

 

「──いえ、私こそ失礼しました。こんなところで立ち話をしてしまって……私の不注意です。お怪我はありませんか?」

 

 しかし、それよりも先にハイドが片膝をつき、ぶつかった少年に話しかけていた。

 いつものじゃじゃ馬娘はない。そこにあったのは礼節を弁えたレディの姿だった。少し遅れて、少年の母親らしきドレスを着た女性が駆け寄ってくる。

 

「すみません! この子が走っていたせいで……」

 

「いえいえ、私も不注意でした。その子に怪我がなくて良かったです」

 

 頭を下げる女性にハイドもお淑やかに、軽く頭を下げる。

 そして、持っていたお皿の料理を少年の前に差し出す。

 

「ごめんなさい、折角取ってきたご飯を台無しにしてしまいましたね。もし良ければ、私が取ってきたお皿を上げますので……これで、許してくれませんか?」

 

 眉根を下げて、少年の顔を覗き込むように笑いかけるハイド。

 耳まで顔を赤らめた少年がこくり、と頷く。

 

「ありがとうございます。あ、あと船内を走るのはやめた方がいいですよ? 危ないですからね」

 

 そう言ってハイドが最後に人差し指を口に当てて、ウィンクする。

 あとは清掃道具を持ってきた従業員が汚れてしまった絨毯を綺麗にする。女性はハイドに再びお礼を告げ、少年の手を引いてその場を去ってゆく。

 

「……と、このように。拙者、やればこのぐらいは当然でござるよ」

 

 その後ろ姿を笑顔で見送っていたハイドが振り返り、胸を張る。

 対するその様子を見ていたジキルは終始、驚きで目を丸くしていた。まさか、あのハイドにこんな演技ができたとは。

 

「はいはい、そうかい……じゃあ終始その調子で頼むよ」

 

 ため息をこぼしつつ、見事なドヤ顔を決めるハイドの頭をポンポンと撫でてやった。

 

 

 

 

 

 時間が経ち、パーティーはダンスタイムに入る。

 会場の中央では十数組の男女がペアを組み、優美な曲調に合わせて社交ダンスを踊っている。それを他の乗船客達が食事を片手に観て楽しんでいる。

 

(今のところ、特別な動きはなしってところか……)

 

 会場に注意深く目を配りつつ、会場の近くに併設されたバーカウンターに腰掛け、グラスを仰ぐ。標的たるローウェルや『鴉羽』の暗殺者らしい人物は未だ見当たらない。もしかしたら、クラウス達が向かったビルの方にいるのかもしれない。それでも、油断はできないのだが。

 

(そういや他のメンバーは……と)

 

 周囲を見回す。まず見つけたのはリリィだ。黒を基調としたワンピースのドレスに身を包んだ彼女は、食事が置かれたテーブルに張り付いていた休む事なく並べられた食事を食べ続けている。胸が大きく、愛らしい相貌をした彼女は男性客の目を一際集めていたが、皆、食事を食べ続ける彼女に声を掛けづらそうだった。その近くでは、同じくお皿に山のようにスイーツだけを積んだハイドがいた。彼女もドン引きした周囲の客から注目を集めていた。

 先ほどの慎み深い女性の演技はどこにいったのか。というか、二人は任務のことを忘れているんじゃなかろうか。

 次に見つけたのジビアだ。同じく赤を基調としたパーティードレスに身を包み、男性客とダンスを踊っていた。青と黒を基調としたパーティードレスに身を包んだモニカも、談笑するグループの中に混じっている。

 一部、心配なメンバーもいるが皆上手く溶け込んでいるようだ。

 

(ん? エルナのやつ……)

 会場の片隅で、オドオドと挙動が不審な金髪の少女を見つけた。エルナだ。人形のような儚さと美しさのある彼女に黒のドレスがよく似合っていた。そんな彼女は男性客の目を惹き、声をかけられる。誘う男性客は皆、お人好しそうな人物ばかり。もしかしたら迷子と勘違いされているかもしれない。でも話しかけてみてそうでないと分かると、今度はダンスに誘われているようだった。多分、気を遣ってくれているのだろう。

 しかし、人見知りなエルナは反応ができず、体を震わせるだけ。その反応が気まずくて、皆離れていく。

 結果、一人の迷子かもしれない少女を遠巻きに見つめる乗船客達──という構図が会場の片隅で出来上がっていた。

 

(ちょっと悪目立ちしちゃってるな……俺もそろそろ一曲ぐらいダンスしないといけないし……さて)

 

 立ち上がったジキルはそのままエルナのもとへ歩いて行き、彼女の前で腰を低くしてから片手を差し出した。

 

「──レディ。一曲、私といかがですか?」

 

「……ん。踊るの」

 

 オドオドと目を回していたエルナが安心したように、頬を緩めジキルの手をとる。二人はそのまま中央へと移動する。その様子を見た周りの客達も安心したような表情をしていた。

 

(……ジキル。ありがとうなの。正直エルナ、とても困っていたの)

 

 小声で話しかけられ、ジキルも苦笑しつつ、小声で返す。

 

(だろうね。遠巻きにめちゃめちゃ見られてたもんな)

 

(うっ……思い出すと恥ずかしいの)

 

 顔を赤らめるエルナ。お互いに向き合い、手を取り合う。右手はエルナの背中の中ぐらいに添える。ゆったりとした優美な曲が流れ始めた。ダンスの種類はワルツ。曲調に合わせて、お互いにステップを踏む。

 ジキルとエルナでは30センチ以上の身長差があるが、問題なく踊れている。くるりとターンを決めるたびに、エルナの鮮やかな金髪が舞い上がり、ドレスのスカートがふわりと揺れる。近くで見ていた観客達から思わず歓声がもれた。

 

(エルナ……ダンス上手じゃん。流石だな)

 

(当然なの。エルナ、これでも裕福な家の生まれなの)

 

 感心したジキルが小声でそう褒めると、エルナが自慢げに答えた。普段のエルナの立ち振る舞いから良家の出であることはなんとなく察しがついていた。

 

(あはは、それは見てたらなんとなく分かるよ)

 

(それに、このぐらいスパイとして当然なの)

 

(そっか、それは頼もしいな。この後もその調子で頼むよ)

 

(任せるのっ)

 

 そして、三分の曲が終わる。お互いに離れて、お辞儀をする。

 ジキルとダンスを踊ったことで、エルナの緊張もほぐれたようだ。これなら問題ないだろうと別れ、ジキルは再びバーのカウンターへと戻る。

 

(さて、今のところは問題なし……か。しかしここまで何もないと不気味だな)

 

 一応、一層から三層まではあらかた船内を確認したが、『鴉羽』の暗殺者らしき人物は見ていない。ローウェルも同様だ。いるとしたらおそらく、船員が行き来する四層だろう。

 一旦、四層も見て回るべきか? と次の行動を思案しかけていた時、ザザッと耳にはめた通信機が鳴った。聞こえてきたのは、モニカの声だった。

 

『──ジキル、ローウェルが現れたよ。今ダンスホールに入って……いや、マジか。ジキル、ローウェルが来るよ、キミのところに』

 

 思わず、目を丸くする。状況を理解するよりも早く、その人物は目の前に現れた。

 

「──失礼。隣、空いているかな?」

 

 着ている黒いタキシードとは対照的な、病的なまでに白い肌。白髪赤眼の端正な顔をした男が、口の端を歪めて笑いかけてきた。

 ぞわり、と背中に怖気が走る。その笑みは一瞬だけ悪魔と見紛うほど美しく、不気味だった。

 そこには、今回の標的たる『アルカナ社』の武器商人──ローウェル=カーペンターが立っていた。

 

 

 

 

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