スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

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またどっかのタイミングで、『灯』のメンバーの誰かとジキルorハイドで書きたいですねぇ。

順番的にはハイドかな?
組み合わせるならハイド&エルナか、ハイド&ジビアか……
いや、クラウスもいいか?


幕間 堕ちた雛鳥の記憶②

 

 

「──ねぇ、ねぇ。ハイド! ちょっとこれ着てみて!」

 

 灰色髪の少女が、満面の笑みを浮かべて黒色の服を突き出す。

 暗殺に失敗し、『鴉羽』の暗殺者達から逃げたあの日の夜。ディン共和国のスパイである『狂風』──リタという少女に助けられた私は、そのまま彼女と共同生活を送っていた。

 

「う、うん。分かった」

 

 戸惑いつつ、灰色髪の少女──リタに突き出された服を受け取った。

 最初、朝食を食べ終えた途端リタに「脱いで」と言われた時は何事かと思ったが、私のために新しい服を用意していてくれたらしい。私としてはリタのお下がりだけで十分だったのが。

 しかし、彼女が自分のために考えて用意してくれたというのだ。私はそれが嬉しくて彼女の好意に甘えることにした。

 嬉々としながら袖を通す。まず最初に黒い網目のインナーとスパッツ。ぴっちりと体に密着して動きやすい。赤と黒を基調とした袖のない着物を羽織り、赤い帯を腰に結ぶ。黒のブーツを履き、口元を覆うほどのマフラーを首に巻く。

 

「──て、何かなこれはっ?」

 

 手渡された服を着た私は思わずツッコんだ。リタが不思議そうに首を傾げる。

 

「何って、くのいちの衣装だけど? あれ、知らない? くのいち。東方の女性の暗殺者をそう言うんだって聞いたんだけど」

 

「知ってるけどっ。なんでそんな服を用意してるの?」

 

 羞恥で顔を赤くして、着物の裾を下に引っ張る。よくよく見たらところどころ布面積が小さいし、体のラインが丸見えだ。女性としては貧相な体をしているという自覚がある分、恥ずかしい格好だった。

 

「そりゃあ、似合うと思ったからだよ」

 

 真顔で、そんなことを言われる。ちょっと嬉しいとも思ったが、やっぱり恥ずかしいので文句を口にする。

 

「え、いやでもこれちょっと体のラインとか……」

 

「いやいや。むしろそこがいいんだよ。すっごく可愛いとあたしは思うよ? ハイド」

 

「え? 可愛い? ……えへへ、そうかぁ。私、可愛いんだぁ」

 

 褒められて顔がニヤけてしまう。リタが食い気味に真剣な表情で口を開く。

 

「うん、超可愛いよっ! ほんと、エロ可愛いっ!」

 

「ん? え、エロ……?」

 

「あ、違うよ? 『偉くて可愛い』ね。いやぁ、ハイドは本当に可愛いし、偉いし。あたし、友達として鼻が高いなーっ!」

 

「え、えへへ……そんなリタ……褒めても何も出ないよ? えへへへ」

 

「あっはっは。さっすがハイド、ちょろいね。まぁ、そこも可愛いんだけどさ!」

 

 うりうりと、頬擦りをしてくるリタ。

 なんかちょっと馬鹿にされている気がしなくもないが、リタが嬉しそうなので良しとする。それに、リタにこうやって触れてもらえるのが私は何よりも嬉しかった。リタといるといつもふわふわして、夢心地で。触れてもらえると暖かくて、これは現実なんだと認識できる。

 『鴉羽』の暗殺者として人を殺し続けてきた自分がこんな日々を送れるなんて、思ってもみなかった。

 

「ねね、ハイド。ちょっとさ、くのいちっぽいことしてよ」

 

「え? くのいちっぽいこと……? こう、とか?」

 

 少し考えてから、思いついたポーズをとってみた。

 指二本を立てて口元に添え、おもちゃのプラスチック製の小刀を持った手を前に突き出す。

 

「お〜、ぽい、ぽい! なんか、セリフとかあるかなっ?」

 

「セリフもっ? うーん、そうだなぁ……」

 

 嬉しそうに手を叩くリタを見て、なんとかその期待に応えようとアイディアを絞り出す。

 

「そ、そこまででござるよ、悪党ども! これ以上の悪事は拙者が許さないでござるっ」

 

 フワッとバク転を決め、両足を広げ新たなポーズを決めてそんなセリフを吐く。

 

「おぉーーっ。いいねぇ、いいねぇ! 拙者とか、ござるとか、ハイドに似合ってるよ! 何より、あたしのために一生懸命やってくれているところがポイント高いっ。もう万点越えだよっ」

 

「一体何の採点してるのっ?」

 

 改めて口に出して言われると、恥ずかしい。リタが「気にしない、気にしない」と抱きつてくる。そのままリタは私の首筋に鼻をくっつける。

 

「ちょ、リタ……くすぐったいよ?」

 

 耳元ですんすんと、鼻息が聞こえる。それが首に当たって余計にくすぐったかった。引き剥がそうとするも、リタは中々離してくれない。

 

「うーん、血の匂いは完全に取れたね」

 

 リタにそう言われ、ドキリとする。まさか、そんなところを気にされているとは思わなかった。

 

「え……私、血の匂いしてた?」

 

「うん。ずっとね……来た時とか特に酷かったよ」

 

 そう言って、リタが困ったような笑みを浮かべる。私はしまった、と思って慌てて頭を下げた。

 

「ご、ごめんリタ! 私、全然気づかなくて──」

 

「仕方ないよ、自分の体臭って分かんないものだからさ。それに、あたしは責めてるわけじゃないんだよ?」

 

 リタはその細面に微笑をたたえて、嬉しそうに笑う。

 

「あたし、嬉しいんだ。ハイドがあたしと過ごす内にどんどん明るくなっていくのがさ。最初は地獄の底にいるような暗い目をしてたし、笑い方もすごく歪で不器用だったけど……でも今はこんなに綺麗な目をして、ちゃんと笑ってくれる。あたしはそれが見れて、すごく嬉しいんだよ」

 

 リタは語る。諜報員である自分は自国民の幸福のために日々任務に励んでいるけど、それでも孤独を感じずにはいられないと。自分がどれだけ傷つき、苦しみながら任務を達成してもそれを知っていてくれる人は誰もいない。幼い頃に生き別れた兄がいるけど、その後どうなったのか全く分からない。そんな自分が死んだ時、自分という人間がいた存在は限りなく消され、人知れず孤独に死ぬことになる。

 

「あたしはね、それがすごく怖いんだ」

 

 いつもの明るく能天気なリタには珍しく表情が暗く、その肩は少し震えていた。

 そんな姿に私は、リタも一緒だったんだとはじめて気づく。

 

 ──孤独を恐れるスパイの少女と、孤独になるしかなかった暗殺者の少女。

 

 あの出逢いは偶然だったかも知れないけど、私とリタはお互いの孤独を埋め合うために、惹かれ合うように、出逢うべくして出逢ったのではないか。

 そんな事をつい考えてしまう。

 

「……私も」

 

「ん?」

 

「私も、リタに会えてよかった。リタに会えなかったら私死んでたし……会ったのがリタじゃなかったら、私は自分は孤独のままだと思ってた。日常が、こんなにも優しいものだなんて知ることなんてなかった……だから、ありがとう。リタ。あの日、私を助けてくれて」

 

「────っ。あたしもだよ、ハイド!」

 

 お互いに感極まって、ボロボロと涙が溢れた。リタが「しょうがないなぁ」と笑いながら、ハンカチで私の涙を拭いてくれる。私も、「リタだって」と首に巻いたマフラーの端でリタの涙を拭う。

 その日、私たちは今までの孤独を埋め合うように泣いて、笑いあった。

 

 

 

 

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