スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

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言い忘れてましたが、こちらオリ展開になります!
だから原作にない組織や名称とか出てくるのでご容赦を…





case1 出会い(前編)

 

 

 

 ディン共和国は、世界大戦の被害国だった。

 本来戦争に無関係の田舎国。産業革命時にも工業化の波に取り残されて、上質な作物を生産し続けた。植民地支配を広げる国力もなく、侵略されるほど資源もない。しかし、当時、世界支配を進めるガルガド帝国と隣接していたため、一方的な侵略を受けて多数の死者を出した。

 大戦終結後、それまでの平和主義から国策は逸れなかったが、「影の戦争」を勝ち抜くために諜報機関を設立し、スパイ育成に力を入れているーー。

 そんなディン共和国の内閣府、対外情報室にて。

 

「ーー報告は以上になります、室長」

 

 国外での活動の成果を一通り報告し終えた灰色髪の青年、ジキルは一息つく。目の前のロマンスグレーの男が、「ご苦労」と賛美の声をかけてきた。

 枯れ枝のように細い体躯をした男だ。しかし、その目は猛禽類のように爛々と鋭く光っている。男に名前はない。Cという記号だけを持つ。彼こそがこのディン共和国の対外情報室の室長であり、所属するスパイ達の元締めである。

 立場上、ジキルはこの男が苦手だった。「それで、」と面倒そうに口を開く。

 

「早速ですが、急に帰還命令を出された理由をお聞きしても? 定期的な報告は仲介役で事足りているでしょう」

 

「はっはっは、そう急がなくてもいいだろう。半年ぶりの帰還だ。一休みといこうじゃないか……コーヒーでもどうかね?」

 

 聞くだけ聞いておいて、ジキルの同意を得ることもなく、室長はミネラルウォーターを電気ポッドに入れ、電源を入れて湯を沸かし、コーヒー豆を挽き始めた。

 反抗するだけ無駄か、と諦めたジキルは前にあるソファに腰掛けた。待つこと数分後、コーヒーが入ったカップをジキルの前に置き、室長が向かい側のソファに腰掛けた。そして一口、コーヒーを飲んでから口を開いた。

 

「キミがあの子と組んで、ちょうど一年になるな……どうかね? 彼女とは上手くやれているかね?」

 

「いや、まったく。相性で言えば、最悪です。素が優秀なんで何とかなっていますが、あいつとの任務はトラブルの連続ですよ……近いうちに、俺が過労死するか、事故死しますね」

 

 その声音には不思議と現実感のある重みがあった。はあぁぁぁあ、とジキルが重いため息をつく。ちなみに、その件の相方ーーハイドは、内閣府から少し離れたカフェで待機させている。一緒に連れて行くと何かと面倒だからだ。一応、財布を持たせているので、今頃大好物のパフェでも食い漁っている頃だろう。

 そんな様子を見て、室長が楽しそうに笑った。

 

「だが、現に結果を出している。私は名コンビだと思うがね?」

 

「現場を知らないから言えるんですよ。俺がどれだけフォローしてるのか……」

 

 まず、作戦を覚えない。兵器の使い方を覚えない。直感で動く。敵が仕掛けた罠は自分から触りに行く、などなどーー例を挙げれば、キリがない。そしてハイドが作戦を聞かない、やらかす事を前提でジキルは作戦を立て、行動するという、頭がパンクしそうな事をこの一年間、続けていた。

 

「……あぁ、もういいでしょ。俺らの話は。それより早く本題に入りましょうよ」

 

「む、私としてはもう少しキミたちの冒険譚を聞きたかったのだがね」

 

 「残念だ」と笑い、室長はコーヒーの入ったカップを口に近づけ、傾ける。

 ジキルもそれに倣ってコーヒーを一口飲む。泥水に等しい、ひどい味だったが、顔には出さないようにした。

 

「今回呼び出したのは他でもない。新しい任務だ。キミたちにはある生物兵器を破壊してきてもらいたい」

 

 室長が懐から一枚の写真を取り出す。そこに写っていたのは一軒の家の壁と、表現できないほど凄惨な遺体だった。「これは……」とジキルの目が厳しくなる。

 

「名を『奈落人形』。言ってしまえば、殺人ウイルスだ。潜伏期間が一週間と長く、その間飛沫感染し、発症したら12時間で死ぬ。悪意の塊みたいな兵器だな」

 

 その効果を聞いて、ジキルが一瞬青ざめる。

 そんな恐ろしい生物兵器が世に放たれれば、世界規模のパンデミックが起き、死者は世界大戦の比ではないだろう。

 

「元々、コレは我が国の軍が開発したものなのだが、過去にガルガド帝国のスパイに奪われてしまってな。一度、そこから取り返したのだが」

 

 その説明を聞き、「は?」とジキルが目を丸くした。奪われて、一度取り返している? そして次は破壊する、という事は……

 

「まさか、また奪われたっていうんですか?」

 

「正確には、廃棄した研究成果の残りカスを盗まれたってところだがな。しかし、盗んだ連中が中々優秀でな。どうやら『奈落人形』の模倣に成功したようだ。近々、とある工場で量産される予定らしい」

 

「絶望的じゃないですか。何してるんです、他のスパイに行かせなかったんですか?」

 

「すぐに向かわせたさ。だが、失敗に終わった」

 

 室長は懐からもう一枚の写真を取り出し、それをジキルに見せた。

 ジキルの目が今度は驚愕と共に見開かれた。その写真に写っていたのは、額に墨で大きくバツ印を付けられた無数の生首だった。それは、とある暗殺者たちが好んで行う、見せしめだった。

 

「まさか、コレは……」

 

「そうだ、コレがキミたちを呼んだ理由だ。キミたちに今ついてもらっている任務の標的……『鴉羽』の暗殺者が関与している可能性がある」

 

 『鴉羽』。それは世界大戦の頃から世界規模で活動していた暗殺集団である。元は極東のいずれかの国で発足した部隊らしいが、起源は謎のままだ。

 分かっているのは国籍、性別、年齢を問わず、「一人必殺」を信条に、「帰不」の誓いを立てた凄腕の黒衣の暗殺者で構成されているという事だけ。

 そして、ジキルは彼らに実の妹を殺されている。

 一瞬燻っていた黒い感情が、再び燃え上がるのを感じた。

 

「……昂る気持ちは分かるが、冷静にな。この任務は一度失敗している。つまり、これは不可能任務だ。失敗は許されない」

 

 不可能任務。それはスパイや軍人が失敗した任務、あるいは、その難易度から達成不可能と判断された任務の事を指す。その任務の成功率は一流のスパイでも一割。死亡率は九割だ。

 

「……分かってますよ。俺だって一流のスパイです。感情のコントロールくらいできます」

 

 室長に諭されて、落ち着けるように息を吐く。燃え上がった感情はすでに収まっていた。

 その様子を確認して、室長は満足そうに頷いた。そして手品のように袖から出した封筒をジキルに差し出す。

 受け取ると、点字で印字された書類が十数枚。任務に関する情報がこと細やかに書いてあった。

 

「なら、いい。改めて言うが、この件に関しては『鴉羽』が関与している可能性がある。なので、一年間ずっと彼らを追って世界各地を転々としていたキミたちこそ適任だろう」

 

「ええ、任せてください。今度こそ、奴らに引導を渡してやりますよ」

 

 そう言って、ジキルは立ち上がる。任務は更新された。

 まず、すべきはハイドと合流。それから情報の精査、作戦の立案と武器の点検をーー。

 

「待った。まだ話は終わってないぞ?」

 

 ジキルが熟慮に入りかけた瞬間、室長に呼び止められる。何事かとジキルが訝しんだ瞳で室長を見る。

 

「今回の任務は不可能任務。それにあの『鴉羽』関与の疑いがある。適任とは言ったが、キミたちだけに任せるとは言っていない」

 

 意味が分からず、「どういう事です?」とジキルが問う。室長はまるで子供がとっておきのオモチャを見せびらかすような笑顔で言った。

 

「知らないかね? 最近、ディン共和国で不可能任務専門のスパイチームができたことを」

 

 そこでジキルに告げられたのはーー不可能任務専門のスパイチーム『灯』との共同戦線だった。

 

 

 

 

 

 

 室長との話を終えたジキルは内閣府を後にし、中央区から少し外れた道に出て歩くこと十数分。目の前のカフェの出口から、艶やかな黒髪と季節外れの黒いマフラーを靡かせて、小柄な少女が出てきた。

 

「あ、ジキル殿! ちょうどよい時間でござったな。お話はもう終わったでござるか?」

 

 そんな事を言いながら、満面の笑みを浮かべてひょこひょこと少女ーーハイドが近づいてきた。口の周りにはべったり生クリームが付いている。

 ジキルはため息を零しつつ、「汚ねぇな、さっさと拭け」と持っていたハンカチでハイドの口周りを綺麗に拭いてやる。「これは、かたじけない」と、ハイドがお礼を言う。

 

「まったく……あ、お前に持たせていた財布があったろ。それ、返せよな」

 

 「了解でござる」と、ハイドがポケットから財布をジキルに手渡す。受け取ったジキルは「ん?」と不思議そうに財布の中を開いた。

 

「おい、ハイド……財布に入っていた金が空っぽなんだが?」

 

「ん? 当然でござろう。拙者が全部使い切ったでござるからな」

 

「はぁあああっ? お前嘘だろ!? あの財布の中には俺の昼飯代と、夜食2人分も含まれてたんだぞ!?」

 

「そうだったのでござるか? 道理で額が大きいと……拙者、てっきりジキル殿が日頃の感謝を込めて大盤振る舞いしてくれたのかと」

 

「むしろ、恨みしかないがな! というか、俺お前に財布渡す時に言ったよなっ? 『パフェ2個分までなら食べてもいいけど、それ以上使うなよ』って!」

 

「……忘れてたでござる」

 

「またか! 忘れんなよ!?」

 

 ハイドのお決まり文句にジキルはため息を零すしかない。「というか、」と隣を歩くハイドが呑気に口を開く。

 

「拙者思うのでござるが、このやりとりもう何回もしているでござるよな? 拙者はどうせ忘れてしまうのでござるから、今度からは必要最低限のお金だけ持たせれば良いのでは?」

 

「開き直ってんじゃねぇよ!? というか、前にそうしたらお前、金が無くても注文しまくってたじゃん!」

 

 ジキルにそう怒鳴られて、ハイドは頭を傾げる。数秒間考え込んで、何か納得したように大きく頷いた。

 

「もうこれはどうしようもないでござるな! ジキル殿、時には諦めが肝心でござるよ」

 

「だから、開き直ってんじゃねぇえええっ」

 

「ふ、ふぃいいい〜っ!? ジキル殿、痛い、痛いでござるっ」

 

 どこまでも能天気なハイドの頬をジキルが力一杯つねあげる。流石のハイドも涙目になって、「拙者が悪かったでござるっ」と、ジキルに謝った。

 そんな感じで、話しながら歩くこと数十分。ジキルが路肩に停まっていたタクシーのドアを叩く。出てきたタクシーの運転手が後ろの席のドアを開き、ジキルとハイドが順番に乗り込む。

 

「……ところで、ジキル殿。これからどこに向かうでござるか?」

 

 助手席に乗ったハイドが、赤く膨れ上がった頬を押さえながら、ジキルに問う。

 

「ん? あぁ、それはなーー」

 

「ーーそれは、僕たちの秘密基地だ」

 

 ジキルの代わりに、タクシーの運転手が口を開いた。「およ?」と、ハイドが不思議そうに首を傾げる。

 運転手が振り向き、目深く被った帽子を取った。

 肩近くまで伸びた黒髪と色白の肌。一瞬女性のようにも見えたが、その骨格の作りは間違いなく男性のものだ。

 そこには、美しい男性の顔があった。

 

「ーーはじめまして、だな。僕はクラウス。不可能任務専門のスパイチーム、『灯』の一員であり、8人のスパイの指導をしている者だ」

 

 

 




次回、「灯」のメンバーも登場します!
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