スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

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最新巻、めっちゃ良かったですねぇ!

まだまだドキドキが続く展開……次巻が楽しみ!






幕間 堕ちた雛鳥の記憶③

 

 

 

 

 リタ殿()と過ごした半年間は拙者(・・)にとって奇跡のような時間でござった(・・・・)

 鼻腔をくすぐる朝食の匂いに釣られて目を覚まし、リビングへと向かえばリタ殿が笑顔で迎えてくれる。朝食を終え、不慣れな家事を頑張って手伝うとリタ殿が褒めてくれてご褒美にパフェを作ってくれる。これが拙者の大好物でござった。リタ殿の任務がない日は二人で外へと繰り出し、買い物をしたり、遊んだりした。リタ殿は拙者が欲しいと言ったものはなんでも買ってくれた。今思えば、だいぶ甘やかされていたのだと思う。夕飯もリタ殿がご飯を作ってくれた。『鴉羽』の暗殺者として活動していた時に齧り付いていた固まった握り飯とは比較にならないほど美味だった。毎日温かいお風呂に入り、拙者が眠る時はリタ殿が必ず手を握ってくれた。

 死とは無縁の穏やかな生活。この頃には武器の扱い方など忘れて、悪夢にうなされることもなくなっていた。

 口調も忍者の真似をしてリタ殿に大絶賛されて以降、こんな風に変わってござった。

 

「ねぇ、ハイド聞いて! さっきお兄ちゃんに偶然会ったの!」

 

 ある日の夕暮れ時でござった。

 任務から帰ってきたリタ殿が帰ってくるなり、興奮しながら教えてくれた。

 

「リタ殿の兄上……? 生きていたのでござるかっ?」

 

「そうなの! 任務の報告をしに本庁へ行った時に廊下ですれ違ってね! ガラの悪い目つきとか、癖っ毛なところとか全然変わってなくてすぐに分かったよ」

 

 そう心底嬉しそうに語る。兄上殿は次の任務があるためあまり話せなかったようだが、それでも十分だったのでござろう。

 普段はどこか大人びているように感じるリタ殿が兄上殿の話をする時だけは、甘えん坊な妹の姿に戻っていた。

 

「でね、今度の日曜日にお互いに休暇が取れそうだからって話になってお兄ちゃんが家に来るんだよ!」

 

「ほう、それは良かったでござるな」

 

「うん! ハイドの事もお兄ちゃんに紹介するね」

 

 リタ殿の言葉に一瞬だけ不安がよぎる。元『鴉羽』の暗殺者である自分を紹介なんてして大丈夫なものかと。その不安を察したリタ殿が「大丈夫だよ」と笑った。

 

「紹介と言っても、同居人ってことしか言わないから。『鴉羽』の事は言わないよ」

 

「そ、そうでござるか……ならば、心配いらぬでござるな」

 

 それが実際に通るのかと不安が消えたわけではないが、納得する。何よりもあのリタ殿がこんなにも楽しそうにしているのだ。水を差したくはなかった。

 

「日曜日が楽しみだなぁ……そうだ、久しぶりにハンバーグ作ろうかな。お兄ちゃん、ハンバーグが昔好きだったし!」

 

 そう言って、上機嫌なリタ殿がキッチンへと向かう。当日に料理を振る舞うために練習をしておきたいのだろう。その後ろ姿が微笑ましくもあり、羨ましく感じた。

 気付けば拙者もその日を待ち遠しく思ってござった。きっと素敵な日曜日になる。そう信じてござった。

 

 ──その日、奇跡のような日々は唐突に終わりを迎えた。

 

 兄上殿が来るはずだった日曜日の朝。玄関のドアをノックする音を聞き、予定より随分と早いなと呟いたリタ殿が訪れた客人を迎えようと玄関の扉を開けた。普段のリタ殿なら不審に思い、軽率に玄関のドアを開けることなどなかったでござろう。

 玄関の前に現れたのはスーツ姿の見知らぬ男性だった。男が唐突に短刀を突き出す。それをリタ殿は左腕で受け止め、次に男に蹴り飛ばされた。拙者の近くまでリタ殿はリビングを転がり、体勢を整える暇もなく接近した男が追撃の刃を振るう。狙うはその細い首筋。回避など間に合うはずもなく──。

 

「……ごめん、ハイド」

 

 そう呟いたリタ殿が懐から丸い何かを放り投げた。手榴弾だった。

 視認した男が目を見開く。リタ殿はそのまま飛び込むようにして手榴弾を背に拙者に抱きついた。次の瞬間、視界を覆わんばかりの光と衝撃に襲われ──拙者の記憶はそこで途切れた。(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

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