スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

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 前回から大分経ちましたが……久々に投稿です!
 あと最近、スパイものをよく目にするようになった気が……気のせい?





case4 罪(前編)

 

 

 

 クラウスは状況を確認し、少し悔しげに「遅かったか」と呟いた。

 クラウスが降り立った舞台を『鴉羽』の暗殺者、計44人が囲っている。

 舞台の上では抜け殻のようになってしまったハイドをジビアが組み伏せ、その側ではジキルが血が溢れ出る右肩を抑えて、苦しげに呼吸を整えていた。

 リリィとモニカは多少の傷を負っているようだが、無事そうだ。

 そして、観客席の上ではエルナが『鴉羽』の暗殺者の一人に拘束されていた。

 

「んん? キミは『燎火』くんだよね? 確か『アルカナ社』の支社ビルの方にいるはずじゃなかったっけ?」

 

 突然の侵入者に首を傾げながら、白髪赤目の男──今回の標的であるローウェルが口を開く。

 

「というか、何でそんなにずぶ濡れなの?」

 

 ローウェルの指摘通り、クラウスは全身水浸しの状態だった。「決まっているだろう」と応える。

 

「泳いでここまで来た」

 

 その言葉にローウェルだけでなく、周りの少女たちも「は?」と口を開けて、呆けた。

 

「ふ……あははははっ。凄いな、『燎火』くん! 波止場から船が出航して大分距離があるのに! 泳いできたって、無茶苦茶すぎでしょっ?」

 

 心底愉快そうに笑うローウェルを尻目に、クラウスは傷ついた教え子達を安心させるように優しい声音で話す。

 

「遅くなってすまなかった、お前たち。気になる事は多々あるが……先に奴らを倒してから聞くとしよう」

 

 その言葉を聞いて、力強く頷く『灯』の少女たち。なにせ、あの『世界最強のスパイ』を名乗るクラウスが来てくれたのだ。前回の『鴉羽』との戦いでも『指』の暗殺者たち数百人を相手に無傷で返り討ちにした実績もある。

 しかし、そんな確信を嘲笑うようにローウェルがくっくっと含み笑いをする。

 

「大した自信だ。なるほど、噂通りの人物らしい……ねぇ、ダンゾウくん。キミなら彼を倒せそうかな?」

 

 ローウェルに問いかけられたダンゾウから、クラウスへ鋭い視線が突き刺さる。ひと目見た瞬間、この男は『鴉羽』の中でも別格だとクラウスは感じていた。その纏う雰囲気はかつての『焔』の仲間、『炮烙』のゲルデを彷彿とさせる。

 

「……無理だな」

 

 小さく息を吐き、首を横に振るダンゾウ。

 その答えに少し驚いたローウェルが「え」と声を上げる。

 

「無理なの? ダンゾウくんでも?」

 

「無理だ。本気でやり合って5秒が限度だろうな」

 

 ダンゾウは決して冗談を言う人間ではない。半世紀にも及び殺し合いの世界を生き続けた彼が言うなら間違いないか、とローウェルは考えるように唸った。

 

「……でも、5秒あれば1人は確実に殺せるよね」

 

「そうだな」

 

「そうだよねぇ。よし、じゃあこうしよう!」

 

 パンっと手を打ち鳴らしたローウェルが声高に口を開く。

 

「折角、最強の助っ人がそちらについたんだ。ゲームを仕切り直そう」

 

「……なに?」

 

 僅かに目を細めるクラウス。

 

「ゲームは簡単。僕を含めた『鴉羽』の暗殺者達が客船の甲板に。僕の隣にいるダンゾウくん──『鴉羽』の頭領は一人で客船のボイラー室でキミたちを待つ。僕は乗客とキミ達の仲間を一人人質に。ダンゾウくんにはこの客船を人質に取ってもらう。そして、キミ達『灯』が僕らを倒すために船内を奔走する……実に楽しそうだろう?」

 

 上の階に行かなければ乗客やエルナが殺され、下の階に行かなければボイラー室を破壊され船が沈む惨事になりかねない。

 故にここにいるメンバーを二つのグループに分けて各自制圧しなければならない……そういう事になるのだが。

 

「くだらないな」

 

 クラウスがローウェルを睨みつける。

 

「お前達を全員、今この場で叩きのめせばいい。それだけの話だ」

 

「そうはいかないよ、『燎火』くん。確かにキミなら僕達を叩きのめす事なんて造作もない事だろうけど……そうすれば僕はキミの大事な仲間を殺す。キミがいくら強かろうが早かろうが関係ない。こちらにはダンゾウくんもいるんだ。キミがこの場で僕達を打ち倒すというのならその引き換えに仲間を確実に1人失う事になるよ」

 

「……彼女に手を出してみろ。僕は貴様達を絶対に許さない」

 

 背筋が凍るような、空気が突き刺さる。その正体はクラウスから放たれる殺気だった。

 流石のローウェルもその殺気に当てられて、冷や汗を流す。

 

「あぁ、そうだ。キミは人一倍仲間への愛情が深い。だからこそ、このゲームに参加するしかないんだよ」

 

 視線を交えるクラウスとローウェル。重苦しい空気が続く壇上で、その様子を緊張した面持ちで見守る『灯』の面々。

 最初に視線を外したのはクラウスだった。小さく息を吐く。

 やむを得ない判断だった。ローウェルの言う通り、クラウスと言えど既に人質に取られているエルナをこの状況から助け出すことはほぼ不可能。さらに乗客までも人質に囚われているときた。少しでも多くの命を救うのならば、ローウェルの言うゲームに従うしかない。

 ローウェルが満足そうに頷く。

 

「成立だね。では、楽しみに待ってるよ。『灯』の諸君」

 

 そう言ったローウェルが踵を返して、出入り口の奥へと消えていく。クラウスは連れていかれるエルナに向かって声をかけた。

 

「エルナ、すまない。必ずお前を助けに行く。それまでの間耐えてくれ」

 

「ん。大丈夫なの。エルナ、皆を信じて待ってるの」

 

 そう言って、今にも泣きそうな顔で、それでも力強く頷いたエルナも奥へと消えて行った。

 『鴉羽』の暗殺者達も姿を消していく。最後まで残っていたダンゾウと呼ばれていた暗殺者もじっとジキルとハイドの様子を見ていたが、ついぞ何も言うことなく奥へと消えて行った。

 一時の静寂が訪れる。

 これから人質に取られたエルナと乗客を救い、ローウェルと『鴉羽』の暗殺者達を打倒するため策を練らねばならない。

 そのためにもまず解決しなければいけない問題があった。

 

「さて、お前たち。ここで何があったのか──僕に教えてくれ」

 

 クラウスは静かに、そう問いかけた。

 

 

 

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