スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

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ついに終盤です。
今回の話ともう一話(たぶん今日中に上げます)で完結となります。

……二次創作はじめて書き切ったのこれがはじめてだな。


エピローグ

 

 

 

 豪華客船『ニュードラゴ』での戦いを終えた、その次の日の夜。

 

「──むぅ、ジキル殿。拙者思うのでござるが、そんなに急いで帰る必要はなかったのでは?」

 

 龍華民国からディン共和国行きの客船。その狭い客室内に設置されたシングルベッドに寝転がりながら、ハイドが不満そうに唇を尖らせる。

 任務完遂後、すぐに『灯』と別れたのが不服だったようだ。ハイドとしては、任務後の休暇で『灯』の少女達と交流したかったらしい。

 それは、『灯』の少女達も一緒で、別れを告げた時は惜しまれた。

 作業をしながら、ジキルが申し訳なさそうに「すまねぇな」と謝る。

 

「室長に急ぎで報告しないといけなかったんでな」

 

「……それなら仕方ないでござるな」

 

 不服そうなのに変わりはないが、一応納得はしてくれたようだ。

 ジキル達は豪華客船『ニュードラゴ』にて『鴉羽』を壊滅させた。『鴉羽』と取引をしていたローウェル=カーペンターはクラウス達『灯』に追い詰められ自殺した事になった。

 ローウェルが所属していた『アルカナ社』はローウェルが関わった案件に関しては完全に認知していないものと発表し、むしろ被害者だと主張した。社長がローウェルに射殺され、それが多くの人に目撃されていた事もあってか、その主張は認められたが、当分『アルカナ社』は事業の縮小を強いられる事だろう。

 また、龍華民国で起こったテロ行為を他国のスパイが制圧したというのは外聞が悪く、世界情勢に影響を与えかねないので表向きは事前に計画を察知した龍華民国の諜報機関が解決したことになった。

 ジキルの目的は『鴉羽』の壊滅であり、手柄などに興味はないので特に気にもしなかった。

 細かい調整は上の人間が行ってくれたらしい。龍華民国の諜報機関に半日ほど事情聴取と治療を受け、すぐに解放された。

 

「それにしても、ジキル殿。本当に体の調子は大丈夫でござるか?」

 

「ん?」

 

 ハイドが上半身だけ起こして、少し不安げにこちらを見上げる。

 

「いや、最後に拙者がダンゾウにとどめを刺す前にジキル殿、ダンゾウに刺されていたでござろう? 血もいっぱい出てたし……」

 

「ああ、それか。大丈夫だよ。ちゃんと刺されたところは縫ってもらったし、身体も動くしな」

 

 そう言って、ジキルはシャツをたくし上げた。縫合された痕は包帯で巻かれて見えないが、ジキルはそれを軽く叩いて見せた。ハイドに刺された右肩もぐるぐると回してみせる。

 

「ほら、この通りだ。若干痛みはあるが、問題はねぇよ」

 

「そ、そうでごさるか? ならいいのでござるが……」

 

 安心したような、それでも不安が消えないような……そんな、なんとも言えない顔をするハイド。そんなハイドの顔を見て、ジキルは苦笑した。

 

「心配し過ぎだ。それよりお前だって左腕の骨にヒビが入ってるだろ? 重傷とまではいかないにしても大分身体も辛いはずだ。ディン共和国に着くまで時間がかかるから、今日はもう大人しく寝てろ」

 

「えー……でも拙者、全然眠くないでござるし……」

 

「そんな事を言うと思ってな。ほら、ホットミルクを用意しておいたぞ」

 

 ジキルがミルクに砂糖と蜂蜜をたっぷり入れたマグカップをハイドの鼻先に突き出す。甘い香りに反応して鼻が小刻みに動き、ハイドの頬が思わず緩むが、すぐに唇を尖らせた。

 

「じ、ジキル殿。拙者がそんなお子様な飲み物に釣られると思ったら大間違いでござるよ」

 

 強がるハイドに、ジキルは目を細める。

 

「なんだ、要らないのか。じゃあ仕方ない、ハイドの分も俺が飲むか」

 

「う、嘘でござるっ。飲む、飲むでござるよ! ジキル殿の熱くて甘いミルク──」

 

「おいぃぃぃいっ!? 誤解を招くような言い方をするな、馬鹿野郎っ!?」

 

 両手がマグカップで塞がっているので、額でハイドに頭突きをお見舞いする。「い、痛いでござるぅ」と涙目で唸ったハイドにマグカップを手渡した。

 

「ふぅ。美味でござるなぁ」

 

 ホットミルクを飲んですぐに涙が引っ込んだハイドを見て、「単純なやつだなぁ」とジキルが笑う。ジキルもベッドの近くに椅子を引き寄せて、ホットミルクを口にした。ホットミルクを飲み終える頃には糖分が体に染み渡り、疲労もあったせいかハイドはすぐにうとうとと舟を漕ぎ出した。

 

「ほら、お前眠そうじゃんか。片付けはしとくから早く寝ろ」

 

「うぅ、拙者……別に眠くなんか……」

 

 そう堪えるハイドの額を人差し指で押すと、簡単にベッドに倒れ込む。そして「眠くない、眠くない……」とうわ言を呟きながら近くにあった枕を抱き込んだ。

 

「……まったく説得力がないんだが?」

 

 ため息をこぼしたジキルは空になったマグカップを回収し、片付けでもしようと立ち上がる。見れば、すでに寝息を立てながら幸せそうに頬を緩めたハイドの顔があった。

 

「…………ありがとな、ハイド」

 

 最後にそう告げて。ジキルはハイドが眠るベッドからそっと離れた。

 

 

 

 

 

 

「──あれ? 拙者、寝ちゃってたでござるか?」

 

 目を擦りながら、ハイドはおもむろに起き上がった。カーテンから差し込む陽の光に一瞬だけ目が眩む。

 どうやら自分はジキルとの話の途中で眠ってしまったらしい。

 

「……ジキル殿?」

 

 客室内にジキルが見当たらない事に気付いて、首を傾げた。

 船旅の場合は大抵、ジキルはハイドにベッドを譲って自身は床か椅子に腰掛けて眠っている場合が多いのだが。

 自分より早く起き、船内でも見て回っているのだろうか。まぁ、そのうち戻ってくるだろうとハイドは客室内でのんびり待つことにした。

 しかし、一時間経ってもジキルが戻ってくることはなかった。待ちきれず、ハイドは船内を探し回った。豪華客船『ニュードラゴ』に比べれば一回りも小さい旅船だ。すぐに見つかるだろうと踏んだ。

 しかし、見つからなかった。

 何時間も、すれ違いになったのかもと思って同じところ何十回も回った。

 結局、旅船がディン共和国に着くまでの間でハイドはジキルを見つけることができなかった。

 その後も、ハイドの前にジキルが現れることはなかった。

 

 ──ハイドがディン共和国に到着してから2日後。

 龍華民国の沖合で漁をしていた漁船が、身元不明の水死体を発見した。

 

 

 

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