スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

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割と自分としては早いペースで描いてるなぁ……
あ、感想や気になるところなどがあったらぜひぜひ、言ってください!








case1 出会い(後編)

 

 

 不可能任務専門のスパイチーム、『灯』の一員、クラウスの運転する車に乗ってから数時間。ジキルとハイドは、とある港町まで来ていた。

 そこは、ディン共和国では三番目に人口の多い都市。首都から離れておらず、海外と繋がる玄関口として栄えた街だ。駅に車を停めたクラウスはジキルとハイドと一緒に下車し、待機していたタクシーの運転手と入れ替わった。

 街並みを見て、ハイドが「おぉっ」と感嘆の声をあげる。

 目の前には、煉瓦造りの建物がぎっしりと並び、中央都市にはない華やかさがあった。「行くぞ」とクラウスに促され、ジキルとハイドはそれについて行く。

 花や新聞の押し売りをかわし、美味しそうなクレープを並べた出店に寄ろうとするハイドを、ジキルが首根っこを捕まえて制止する。そうしてやっと、目的地へと辿り着いた。

 ホワイトカラーの都市労働者が行き交う通りに、時計屋と塗装屋に挟まれた二階建ての建物だ。看板には『ガーマス宗教学校』。来客口では受付らしき男がタバコをふかしていた。クラウスが、「彼らは新入生だ」と告げると、男は目を細め、「どうぞ奥に」と親指で後方を示した。

 ジキルとハイドは一応、この宗教学校の新入生という体で、この港町に訪れている。そのため、乗っていたタクシーの中で準備されていた制服に早着替えしていた。

 普段、スカートなど穿かないハイドは「ジキル殿、お股がスースーするでござる! スー、スー!」と、訳の分からないことを喚いていたので「やかましい」とゲンコツで黙らせた。

 奥に進むと、そこは物置だった。大量の木箱があり、それをずらすと、地下通路に繋がる階段がある。明かりに乏しい地下通路をしばらく歩くと、視界が開けた。

 そして、目の前に現れた建物を見て、ジキルとハイドは目を丸くした。

 隣で、今まで静かに歩いていたクラウスが口を開いた。

 

「あそこが、僕たちの活動拠点……『陽炎パレス』だ」

 

 巨大な洋館があった。宮殿、と言い換えてもいいぐらい豪華な造りだ。

 さすがは不可能任務専門のスパイチーム、と言ったところか。拠点の規模が違う。

 稼いでんだろうなぁ、とジキルはガラにもない事を考えてしまう。

 

「そういえば、クラウス……さん。他のメンバーはどうしてるんだ?」

 

 ジキルの言葉を受けて、クラウスは「クラウスでいい」と訂正する。ジキルも「了解した」と首肯する。

 

「あいつらは館の中にいるよ。すでに君達の事も伝えてある。リリィ……ああ、メンバーの1人なんだが、彼女が『歓迎会を開きましょう!』とか言ってはしゃいでいたな」

 

「歓迎会だって? ……スパイなのに?」

 

 ジキルが怪訝そうにクラウスを見る。スパイが歓迎会を開くなど、聞いたこともなかった。「僕も、どうかしてると思うよ」とクラウスが小さくため息をついた。

 不可能任務専門のスパイチームに所属してるだけあって、肝が座ってるのか。それともかなりの変人か。とにかくクラウスの様子を見る限り、残りのメンバーも曲者揃いなのだろう。苦労してるんだろうな、と少し同情した。

 ちなみに、ジキルの相方であるハイドは歓迎会と聞いて、「パフェはあるでござるか!?」と隣で騒いでいた。こいつもスパイの中ではかなり変人だった。

 

「まぁ、不安が残る連中ばかりだが、皆、スパイとしては極上の才能を秘めた奴らばかりだ。きっと、君達とも仲良くなれるさ」

 

 そう言って、クラウスが玄関の扉を開いた。中に入ると大きな広間があり、床は赤い絨毯で敷き詰められていた。奥の壁には、大きな振り子時計張り付けられている。周りの装飾も一つ一つが一級品で揃えられている。よく見れば、ちらほらと修繕の痕が見受けられるが、元々が古い建物のためだろう。それでも余りある華やかさがあった。

 

「ん? でもおかしいな」

 

 館内の豪華な装飾に感嘆していたジキルだが、ふと、異変に気づく。

 人の気配が全くしないのだ。この豪邸内ではクラウスを含め、9人の人間が住んでいると言っていた。それなのに、生活感がないと言うか、何かを隠すために片付けられているような感じがする。そういえば、クラウスからメンバーの1人が歓迎会を企画しているとか言っていた。サプライズという可能性も考えたが、あり得ないと経験が告げる。

 最初は気付かなかったが、今なら分かる。首の裏が冷えるような感覚……これは殺気だ。

 そう、ジキルが感じ取った瞬間、ちょうど3人が立っていた床が爆発した。

 

「んな!?」

 

 大きな爆発により、噴煙が舞う。

 他の2人も無事に回避した事を確認しつつ、爆発の寸前に真横に飛び退いたジキルは驚愕する。まさか、こんな仲間の拠点で敵の襲撃に遭うなんて!

 体勢を整えようとジキルが空中で身を翻し、地に足を付けた瞬間、足に違和感を感じた。「まさか、」とジキルが目を丸くする。瞬く間にジキルの片足をワイヤーが絡めとり、ジキルを逆さに吊るし上げた。

 ジキルが着地する事を想定して、予めセットされていた罠だったのだ。敵の計算高さにジキルは舌を巻いた。相手は、かなりの強敵だ。

 しかしそこで、「やりましたぁ!」と楽しそうな少女の声が聞こえた。

 

「天才、リリィちゃんの作戦『来客者と共にドッカーン!』、大成功です! さぁ、ジビアちゃんっ。早く先生を締め上げちゃってください!」

 

 ……何やら頭の悪い作戦名が聞こえたが、冗談だろうとジキルは耳を閉じた。まさか、こんなアホ相手に、一瞬でも「強敵だ!」と思ってしまうとは。しかも、相手は自分を標的と勘違いしているようだ。

 ここまで来て、ジキルはようやく事態を理解した。

 これは敵襲などではなくーーかなり実戦に近い、訓練だという事を。

 瞬間、「はいよ」という別の少女の返事と共に人影が噴煙の中から現れた。

 視界の悪い煙の中から鋭い右ストレートが飛んでくる。それをジキルは横へと受け流す。人影はそれが想定済みのようで身体を捻り左ストレート、ハイキック、高速ジャブなど、一つ一つが必殺の技を繰り出していく。ジキルはその格闘術の練度に感心した。

 人影の必殺の攻撃を、ジキルは身体を僅かに捻り、力の向きを外へ外へと受け流していく。その様子を見かねてか、煙の奥で潜んでいたであろう少女が口を開いた。

 

 「もう! 何してるんですか、ジビアちゃん! こうなったら私も参戦してーー」

 

 「なるほど、そこにいたか」

 

 少女の声を遮るようにして、ジキルが口を開いた。「「え?」」と2人の少女の声が重なった。想定外の人物の声を聞いて驚いたのだろう。

 一瞬だけ、2人の動きが止まる。しかし、ジキルにとって反撃するのに十分すぎる時間だった。「よっと、」とジキルが片足を捻り、絡み付いたワイヤーから脱出する。そのワイヤーを操作し、近くにいた少女を縛り上げ、そのままある方向に向かって投げ飛ばす。投げ飛ばした先にはもう1人の少女がおり、ワイヤーに絡め取られる。

 2人はそのまま仲良く、さらににその先にあった柱にワイヤーで縫いとめられた。

 噴煙がようやく晴れる。ジキルは柱に縛り挙げられた少女の前に出た。

 1人は、銀髪の麗しい顔をした少女。もう1人は、白髪の凛とした顔をした少女だ。

 2人の少女はジキルの顔を見るなり、気まずそうに目を逸らした。

 口を先に開いたのは、銀髪の少女だった。

 

「さ、サプラ〜イズ♪ ……な、なーんちゃって?」

 

 てへっ、と誤魔化すように舌を出す少女に、ジキルは満面の笑みを浮かべる。そして、

 

「ーー誤魔化すんじゃねぇよ!」

 

 そう怒鳴って、銀髪少女の頭にゲンコツを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 それからちょうど1時間後。破壊された床は修繕され、大方片付けられた大広間の真ん中で、ジキルとハイド、クラウス、そして8人の少女たちが集まっていた。

 

「ーーまさか、不可能任務専門のスパイチームの構成員が、1人を除いて全員が少女とはな」

 

 ジキルはコの形をしたソファに腰掛ける少女たちを見て、驚きを口にした。

 不可能任務専門のチームと言うぐらいだから、てっきり熟練のスパイばかりで構成されているものだとばかり思っていた。その中にクラウスのような若いスパイが数人いたとしても、不思議とは思わなかった。稀にそういう天才はいるからだ。

 しかし、まさかそのほとんどが、10代の少女たちばかりとは!

 

「何、驚くことはない。スパイに意外性は付きものだからな……さて、それでは簡単な挨拶でもはじめようか」

 

 まずはリリィ。お前からだ、と言われて銀髪の少女が、「了解しましたぁ!」元気よく応えた。

 

「はじめまして! 頼れる『灯』のリーダー、リリィちゃんです! 特技は毒です!」

 

 銀髪の少女ーーリリィが自己紹介をする。豊満なバストとその優れた容姿は、少女たちの中でも群を抜いていた。というか、この1番アホそうな娘がリーダーだったのかと、ジキルは目を丸くする。

 リリィに続き、次々と他の少女たちも自己紹介をしていく。

 

 「実行班担当、ジビアだ。特技は、窃盗だな」と、白髪の少女が凛然と告げる。

 「……情報班担当、グレーテと申します。特技は、変装、です」と、儚げな赤髪の少女がお淑やかな口調で名乗る。

 「同じく情報班担当、ティアよ。特技は交渉……と、夜の相手かしら?」と、黒髪の少女が艶かしくウインクする。

 「はいはい! 俺様は特殊班担当、アネットです! 特技は工作ですっ」と、灰桃髪の少女がソファの上でぴょんぴょんと跳ねる。

 「お、同じく特殊班担当、サラっす。と、特技は……調教っす!」と、茶髪の少女がオドオドしながら名乗る。

 「……同じく特殊班担当、エルナ、なの。特技は……事故なの」と、金髪の少女がぼそぼそと名乗った。

 

「…………」

 

 最後に、1人、青銀髪の少女がその流れを遮るかのように黙っていた。本を片手に読みながら、無関心を装っている。「ほら、モニカちゃんも!」とリリィに促され、面倒くさそうに本を閉じ、口を開いた。

 

「実行班担当、モニカ。特技は……特にないかな。ボクは何でもできるから」

 

 口の端を釣り上げて、青銀髪の少女は不遜な態度でそう名乗った。

 少女たち全員が名乗り終えると、「次はお前たちだな」とクラウスがあいさつを促した。

 

「はじめまして、俺はジキル。特技は……強いて言うなら爆弾かな。んでもってこいつがーー」

 

「はじめましてにござるな! 拙者はハイドと申すでござる。特技は、暗殺でござる!」

 

 ジキルの言葉尻を奪って、ハイドが元気よく自己紹介する。しかし、ハイドが口走った『暗殺』の二文字に少女たちがどよめく。その反応に、ハイドが不思議そうに首を傾げた。リリィが少女たちを代表して、口を開く。

 

「あ、あの、ハイドちゃん! 暗殺っていうのは、本当なんですか? だって私たちと全然歳が変わらなーー」

 

「ーー驚くようなことじゃねぇよ。俺たちはキミたちよりもずっと前からこの仕事をやってるってだけの話で。たまたまそういう機会が多かっただけさ」

 

 だから、これ以上は突っ込まないでくれ、と言外に訴えるジキル。それを察したリリィは「そういうことですね、分かりましたっ」と、引き下がった。アホそうに見えて、案外気遣いの出来る少女だったようだ。

 そのやりとりを横で見ていたハイドがしばらく首を傾げていたが、口を開いた。

 

「ふぅむ。何やら分からぬが、拙者に気遣いは無用でござる。拙者、おぬし達のような同世代のスパイと一緒になるのは、はじめてでござるからな。仲良くして欲しいでござる」

 

 だから、質問があったら何でも答えるでござるよと、ハイドは人懐っこい笑みを浮かべた。「仕事に支障のない程度の事だけな」と、ジキルが捕捉する。

 そう言うと、堰を切ったように、少女たちが姦しく質問を口にする。「じゃあ、はい! お二人はスパイになって何年ぐらい経つんですかぁ?」「アンタ、さっきは凄い動きしてたよな? どうやってやったんだ?」「ああ、それはボクも気になるな」「俺様は、ハイドさんの隠し持ってる武器が気になります!」「あ、あの、2人とも好きな食べ物とか、あるっすか?」「ふふ、アナタ。結構いい身体してるわよね? 夜伽の経験とかあるのかしら……?」などなど。

 まるで、学校の転入生にもなった気分だ。一部、とんでもない事を聞いてきている奴がいるが。

 

「……それよりも、私は2人の関係が気になります」

 

 そう、最後に口にしたのは赤髪の少女、グレーテだ。他の少女たちも激しく同意した。

 少し考えて、ジキルが口を開いた。

 

「俺たちの関係は、ただのコンビだよ。任務の都合上、一緒にいるのが多いだけでーー」

 

「ーージキル殿は拙者にとって、恩人でござるよ」

 

 ジキルの言葉尻を奪って、ハイドが答えた。いつものハイドにしては似つかわしくない、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「とある任務で、拙者はジキル殿に命を救われたでござる。だから、拙者はこの拾った命をジキル殿のために使うと決めているでござる」

 

 衝撃だった。まさか、あのハイドがそんな風に想っていてくれていたとは、夢にも思わなかった。

 それを神妙な面持ちで聞いていた銀髪の少女、リリィがうるうると瞳を潤ませた。

 

「うぅう〜。良い話ですねぇ……リリィちゃん、久しぶりに感動しちゃいましたっ」

 

 そう言ったリリィが、がしっとハイドの右手を両手で握りしめて、顔を近づけた。

 

「ハイドちゃん、とてもいい子じゃないですか! これからは同じ任務につく仲間です! 仲良くしましょう!」

 

 周りの少女たちも笑顔で首肯する。どうやら無事、歓迎してもらえたようだ。ハイドも少し照れ臭そうな笑い、口を開いた。

 

「もちろんでござるよ……ジビア殿!」

 

「「……ん?」」

 

 その時、ジキルとリリィの疑問が重なった。少女たちも少し困惑している。「やだなぁ」と、リリィが冗談っぽく笑う。

 

「ハイドちゃん、私は、リリィですよ? ジビアちゃんはあそこの白髪の女の子です」

 

「およ? そうだったのでござるか? これは失礼したでござる」

 

 髪色が近いから、きっと間違えちゃったんですね、とリリィがフォローする。しかし、これは自己紹介にはいい機会だな、とジキルは口を開いた。

 

「おい、ハイド。お前、あの子の名前分かるか?」

 

 ジキルは青銀髪の少女を指差す。「分かるでござるよ」とハイドが自信満々に答える。

 

「……アネット殿でござろう?」

 

「いや、ボクはモニカだけど」

 

 当然のように間違えて、場の空気がしん、と静まり返る。

 そのあとも、次々に少女たちの名前を当てさせた。同じ少女の名前を二度三度と間違え、挙げ句の果てに、誰それ? という感じのよく分からない名前が出てきたあたりから少女たちがようやくハイドのポンコツぶりを理解する。

 この少女、スパイとしては致命的なまでにーーすぐ忘れるのである。

 すべての名前当てクイズを外したハイドは少し、首を傾げて考え込む。そして、「というか、」と口を開いた。

 

「拙者思うのでござるが、スパイチームに少女が8人とか、姦しいにも程があるのでは? 名前を覚える立場としては鬱陶しいでござるよ。1人か、せめて2人とかに減らさないでござるか?」

 

「「「「「「「「身も蓋も無さすぎる!」」」」」」」」

 

 少女8人が思わず、ツッコむ。

 はぁあああ、とジキルは重いため息をついた。

 

「つまり、そういう事だ。この通り相方はポンコツでね……ま、任務に支障は出さないように俺もフォローするし。これからよろしく、『灯』の諸君」

 

 ーーこうして、ジキルとハイドは『灯』との顔合わせを終えたのだった。

 

 

 

 

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