スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

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ジキルがどんどんツッコミ要員として染まっていく…






case2 共同戦線の前に(後編)

 

 

 

 

 翌日。

 『アースチェンジ』と『鴉羽』の動向を探るため、クラウスとジキルは陽炎パレスを後にした。『奈落人形』の量産予定の工場の関係者を見つけ出し、専用の社員IDを盗み出すのが目的だ。

 不可能任務を達成するための足掛かりという事もあって、確実に任務を達成するため、『灯』の少女たちやハイドは不参加にーーと思っていたのだが。

 

「こっそり2人で抜け出すとか、お天道様が許しても、拙者が許さないでござるよ!」

 

 隣を歩くハイドが、自信満々に胸を張る。

 どうやら、少女たちがまだ寝ている時間帯にこっそり出ていくところを見られたらしい。目的の市街地に着き、適当なところで車を停めたところ、車の下から這い出てきたのだ。

 ーー車で片道2時間はかかる距離だったのに。その間ずっと車の下にいたとか、どんな神経してんだよ、とジキルが呆れる。

 

「さぁ、2人とも。今から今季限定のスペシャルパフェを食べに行くんでござろう? 早くそこへ案内するでござるよ」

 

 しかも、大分事実と異なった勘違いをぶら下げてついて来たようで、ジキルは頭痛薬を持ってくるべきだったな、と頭を抱えた。

 

「なんの話してんだ、お前は……俺たちはそんなもののために来たんじゃねぇぞ」

 

「ええっ!? そうなのでござるか? じゃあなんで拙者を連れてきたでござるかっ」

 

「知るかっ、お前が勝手について来たんだろ!」

 

「……静かにしないか、お前たち。目立っているぞ」

 

 喧しく言い争う2人を尻目に、クラウスが静かに叱る。「やーい。叱られたでござるな、ジキル殿」と嗤うハイド。イラッとしたので、ジキルは一発ゲンコツをかました。

 そんなやりとりがあって、数時間後。

 

「ここが、噂の開発区か……」

 

 目の前では、未完成のビルや工場が広がっている。他にも鉄骨や、木材、重機がそこら中に置いてあり、スーツ姿の社員や作業服を着た技術者たちが、忙しなく駆け回っている。

 ここは、開発区。『アースチェンジ』が新たに、工場と都市を合体させた巨大都市を作ろうと、開発を進めているところである。

 

「しかし、この中から専用の社員IDを持っているやつを探すのは、一苦労だぞ……」

 

 今のジキルはスーツ姿だ。変装のため、3人とも市街地で服を新調していた。

 

「なに、焦る事はない。どれだけ人がいようとも、必ず社員IDを持つやつを見つけられるさ」

 

 同じスーツ姿のクラウスが瞳をすっと細める。言葉には虚勢も何もない。ただ、純然たる事実を告げているだけ。そんな雰囲気を醸し出すクラウスにジキルは心の中で苦笑する。「まぁ、それはそれとしてーー」と、ジキルは隣で手を繋いでいるハイドを見る。

 

「ーーこれは流石に、無理があるんじゃねぇか?」

 

 ハイドの服装は、白いブラウスに胸元に赤いリボン、赤を基調としたチェック柄のスカート、白のソックス、黒のトートバッグーーと、ザ・少女ですという感じのものだった。馴染みのマフラーはこの格好には合わないので、外してトートバッグの中に入れてある。

 

「むぅ、やっぱり拙者、スカートは嫌いでござる。お股がスー、スーするでござるよ……」

 

 慣れないスカートと普段だったら絶対にしない格好に、ハイドも落ち着かない様子だった。ジキルはため息混じりに、口を開く。

 

「なぁ、クラウス。予定外の増員だったとはいえ、もうちょいマシな設定に出来なかったのか? 工事現場に子連れの社員ってのはちょっと場違いだと思うぞ?」

 

「それは問題ないーー見ろ」

 

 そう言って、クラウスは目線を右へとスライドさせる。その先に視線をずらすと白いテントがあり、その下に並べられたいくつもの長机とパイプ椅子に腰掛けたスーツ姿の社員とその家族、数組がいた。

 

「おそらく、彼らはこの開発区に移住予定の人達だろう。だから、お前のような子連れがいても不思議じゃない」

 

 ついでに、その家族連れの中に専用の社員IDを持っているやつ、あるいは関係者がいるかもしれないからな。調査しやすいだろう、とクラウスは告げる。

 まさか、そこまで読んでの行動だったとは。ジキルは驚くしかない。

 

「それに、この僕がチョイスした変装コーデだ。似合っているに決まっているだろう」

 

 最後にそう付け足すクラウス。

 本当は、ジキルが「無理がある」と指摘した事を否定するための方便じゃないのかと思ったが、口には出さなかった。

 そうして、クラウス、ジキルとハイドに分かれて調査を開始するーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調査を始めてから、4日が経った。

 

「ーーさて。だいぶ対象は絞れてきたな」

 

 缶コーヒーを啜りながら、ジキルは開発現場を見渡す。

 今のところ、『鴉羽』に関する情報は何も得られていない。しかし、社員IDに関しては、千数百といる社員の中からたった4日間で、対象を3人になるまで絞る事ができた。

 ここまでは順調といってもいい。あと問題なのが、

 

「専用の社員IDが何なのか、だよな…」

 

 ジキルはため息をこぼす。ここまで来たのに、肝心の社員IDが何なのか分からない。普通に考えれば社員証であったりするのだが、彼らから社員証を盗んだところ、それらしい部分は見つけられなかった。そうなると、他のものである可能性が高いのだが……。

 

「悩んでも仕方ないだろう。今日はそれぞれ対象に張り付くぞ」

 

 そう言って、スーツ姿のクラウスが現れる。隣には同じくスーツ姿で男装したハイドが現れる。元々起伏に乏しい体型だったので、男装しても低身長の新入社員にしか見えなかった。

 

「ふうっ! やっぱりこちらの方が落ち着くでござるな!」

 

 スカートじゃないのが、よほど嬉しいらしい。ハイドは晴れやかな笑みを浮かべていた。「張り切りすぎて、怪しまれるなよ」とジキルはため息混じりに釘を刺す。

 

「よし、じゃあ今日もお仕事頑張りますかね」

 

 ジキルがそう言って、缶コーヒーをゴミ箱に投げ捨てる。

 それを合図に3人がそれぞれの行動に移り始めたーーその時。

 ドォオオオンっと建設途中のビルの方で爆発が起きた。それに続いて、連鎖的に計3回の爆発があちこちで起きた。

 

「ーーなんだと?」

 

 唐突に訪れた混乱に、3人は逃げ惑う人々を演じながら一旦散開し、追跡者がいないか警戒しつつ、人気のない機材が積まれている倉庫の裏に集まった。

 努めて、落ち着いた声で、ジキルが口を開く。

 

「おい、どうなってるっ? 今朝まで爆発物なんて置いてなかったはずだろ」

 

 ジキルの言葉を受けて、クラウスが考えるように押し黙る。

 最初は確認漏れを疑ったが、行ったのはクラウスとジキルだ。それはあり得ない。だとすれば可能性として挙げられるのはーー。

 

「敵の妨害……いや、撹乱工作……? しまった!」

 

 ジキルが、ある最悪の可能性に思い当たる。

 『鴉羽』による、敵を炙り出すための自演自作。もうすでに『鴉羽』の暗殺者たちはこの開発区に潜んでおり、ここ一帯に潜むスパイたちを混乱に乗じて暗殺するつもりなのだろう。

 たとえそれが雇用主に損害を与えたり、関係のない一般人を巻き込むことになったとしても……彼らなら、絶対にやる。

 彼らにとって重要なのは、「一人必殺」なのだから。

 急いでここから離れなければ、とジキルが口を開きかけた時、ふっとクラウスが笑みを浮かべた。

 

「ーー極上だ」

 

 その言葉を聞いて、ジキルが一瞬、ポカンと口を開ける。

 この男は、何を笑っているんだ?

 

「安心しろ、ジキル。これは『鴉羽』の仕業じゃない。だが、ここから早く離れた方がいいな……いや、もう遅いか」

 

 クラウスがふと、空を見上げる。ジキルもそれに続いて空を見上げると、鳩が一羽、真上を旋回していた。

 ーーまるで、居場所を知らせるかのように。

 そう思った時には遅かった。鳩と入れ替わるようにして、こちらに向かって吸い込まれるように落ちてくる弾頭が見えた。

 

「ハイドっ」

 

「承知!」

 

 ジキルの言葉に応えて、ハイドが隠し持っていたナイフを3本放つ。ナイフが突き刺さった瞬間、弾頭は上空で爆発した。

 爆風が巻き起こり、土煙が舞う。それに乗じて、3人とも倉庫から飛び出した。

 

「ーージキル。お前に話しておく事がある」

 

 すぐに近くの建設途中のビルの中に逃げ込み、隣で駆けるクラウスが口を開いた。

 

「陽炎パレスの一室に、黒板があるのは知っているな?」

 

「何だよ、こんな時に……あの生活のルールが書いてあるやつの事か?」

 

「そうだ。その中に『僕を倒せ』という文言があるんだが、あれは僕と灯のメンバーがいつもやっている訓練の内容を明文化したものなんだ」

 

「なるほど、馬鹿らしいな! それで? それと今の状況に何の関係がーーまさか」

 

 その馬鹿馬鹿しい可能性に気付いて、ジキルは絶句する。

 

「そうだ、これはいつも僕と彼女たちがしている訓練だ」

 

「ーーふっざけんなぁああああ!?」

 

 怒髪天を突く勢いで、ジキルが叫んだ。

 大切な任務中に、訓練だと? 任務の成功の可否が、いずれは世界を左右するかもしれない時に、その仲間から訓練で殺されそうになっているだと?

 冗談にも程がある!

 

「ていうか、まさかこの任務自体が訓練とかいうオチじゃないだろうな!?」

 

「それはない。正真正銘、Cから落ちている任務の一つだ」

 

「なら尚更、なんでアイツらがこんなとこまで訓練しにくるんだ!」

 

「仕方ないだろう。アイツらはこの任務の内容を知らないからな」

 

 クラウスの指摘に、ジキルがハッとする。しかし、だとしても陽炎パレスからここまで来るのにざっと十時間は掛かる。そもそも、彼女たちは任務の内容を知らないのだから、ジキルたちがいる場所だって知らないはずである。

 なのにここまで来て、ジキル達を襲撃したという事は、情報も何も無いところから独自に調べ上げ、ここまで辿り着いたという事になる。

 

「……優秀かもしれないけど、やっぱりやってる事は馬鹿すぎるだろ」

 

 ジキルは呆れたように息を吐いた。

 ふっとクラウスが笑みを溢す。

 

「そうかもな……だが、あいつらだって一応スパイとしてその辺はちゃんと弁えているよ。この場所まで自力で辿り着いたんだ。ならば当然、僕たちの任務の内容にも勘づいているはすだ。なのに、訓練を始めた。それはつまりーー目標を彼女たちが達成したということだろう」

 

 クラウスの言葉を受けて、そんなバカな、とジキルが口を開きかけた時、足に何かが引っかかるような感触がした。瞳の端に映ったのは、極細い糸。

 その瞬間、横を走り抜けようとした柱が爆発した。すんでのところで、爆風から逃れように横へと飛び跳ねる。そして、一瞬の滞空時間の中で聞こえるーー発砲音。

 ジキルに向かって迫る弾丸。しかしそれは横から放たれたナイフによって弾かれた。ハイドだ。

 クラウスも、自分に放たれた弾丸をナイフで弾き返している。

 

「……なるほど、今回は突貫せずに遠距離から狙う事にしたわけだ」

 

 ジキルの言葉を受けて、土煙から姿を表したジビアが「まぁな」、と笑う。隣には青銀髪の少女、モニカまでいる。

 ジキルが苦虫を潰したような顔で口を開く。

 

「ちょっとキミたち、俺らが何してるか分かっていてやってる? もしそうでないならーー」

 

「ーーもちろんだよ。ほら、クラウスさん達が探してた専用の社員IDってコレでしょ?」

 

 パッと手品のようにそれを出すモニカ。

 それはどこにでもあるようなーーメガネだった。

 

「爆発を起こした時に、わざわざ立ち止まって鞄の中のメガネを確認しいる奴がいてさぁ? すぐに分かったよ。コレが専用の社員IDなんだってね」

 

 まぁ、そいつはメガネを何故か3つも所持してたから、元々怪しいとは思ってたんだけどね、とモニカが不遜な態度で告げる。

 

「……マジかよ」

 

 本当に、既に任務を達成していたとは。予想外の結果にジキルも驚きを隠せなかった。しかし、これで任務は達成された。勝手におっ始められている訓練なんかも、ジキルとハイドには関係のない事だ。モノだけ預かってジキルたちは帰り、クラウスたちはそのまま訓練でも何でも続ければいい。

 しかし、そこで一つ疑問が残る。

 

「なんで、俺やハイドまで狙われていたんだ? キミらの訓練には関係ないだろ?」

 

「それは、僕から教えよう」

 

 そう言って、隣のクラウスがしれっと口を開いた。

 

「出かける前に、黒板に新たなルールを追加しておいた。『ジキルとハイドの両方を倒せば、僕が何でも言う事を一つ聞く』とね」

 

「何してくれてんだ、お前ぇええええっ!?」

 

 クラウスの告白に、ジキルがツッコむ。

 1番の元凶が、ここにいた。

 

「むむっ。何やら分からぬが、とりあえずモナカ殿たちを此処で返り討ちにすればよいのでござるな?」

 

 何故か話に乗ってくるハイド。さらっと名前を間違えて、「ボクはモニカなんだけどっ?」と、モニカにツッコまれる。

 

「いや、ハイド。これはクラウスが勝手に俺らを巻き込んだだけで話に乗ってやる必要は……」

 

「なに、安心するでござるよ、ジキル殿! 拙者がしかとお守りするゆえ!」

 

「……いや、ハイド? まずは俺の話を聞け?」

 

 何やらやる気になってしまっているハイドに、ジキルの言葉はまったく届いていない。「さぁ、いくでござるよっ」とハイドが短刀を構えた、その時。

 

「ちょっと、待ってもらえないかしら? ハイドちゃん?」

 

 柱の影から2人の少女が現れる。赤髪の少女、グレーテと黒髪の少女、ティアだ。

 

「む、一応仲間でござるからな。仕方ないでござる。聞くだけ聞いてあげるでござるよ、ビッチ殿」

 

「私はティアよっ」

 

 まぁ、いいわと、咳払いするティア。

 一呼吸置いて、ティアはジキルにまるで母親が子供を諭すような口調で語りかける。

 

「ねぇ、ハイドちゃん。貴女が守りたいものは、本当にジキル君なの? それよりも大事なものが、貴女にはあったはずよ?」

 

「拙者の、本当に大切なもの……?」

 

 ティアの不思議と引き込まれる声音は、ハイドの心を見事に捉えた。

 ティアが優艶な笑みを浮かべる。

 

「そうよ、本当に貴女が大切だと思っているものーーそれはコレでしょう?」

 

 パチンとティアが指を鳴らすと、「出番が来るのを待ってましたぁ!」と元気一杯に扉を開いて、出てきた銀髪の少女、リリィ。

 その両手には、様々なフルーツでトッピングされた巨大なパフェがあった。

 

「私たちの味方をしてくれたら、このパフェをあげるわよ?」

 

「拙者、ティア殿たちに味方するでござる!」

 

「待てやコラァっ!? 裏切るの早すぎだろっ!」

 

 ハイドの変わり身の早さに、ジキルは呆れるしかない。

 クラウスが小さく息をつく。

 

「まぁ、ここまでは予想通りだな。安心しろ、ジキル。僕と組めば負ける事はない。心配するな」

 

「いや、そもそも俺はこの勝負を了承した覚えがないんだがな!」

 

 ボケに挟まれて、ジキルはあっちこっちと忙しなくツッコミを入れていく。

 本格的に頭痛がしてきて、もう帰りたくてしょうがない。ジキルがやってられるかと投げやりに口を開いた。

 

「俺は知らないからな! さっさと帰らせてもらーー」

 

「おやぁ? 逃げるのでござるか、ジキル殿? まぁ仕方ないでござるな。ジキル殿は拙者がいなければ何にもできないでござるからな」

 

「ーーやっぱ、やめだ。俺も参加してやる。その代わり、ハイドてめえ、絶対泣かしてやるから覚悟しろよ……?」

 

 ジキルの額に、ぴきぴきと青筋を立つ。

 ハイドの扇動(無意識)に見事にハマってしまうジキル。

 

((((((ちょろいなっ!))))))

 

 この時、ジキルとハイドを除いた者たちの感情は見事に一致した。

 ーー数分後、この勝負は専用の社員IDを奪ったクラウスとジキルの勝利に終わる。

 

 

 

 

 




うーん、クラウスがちょっとボケに寄りがちになってしまった気がするけど……大丈夫かな?
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