スパイ教室 二人のスパイ(後ほど削除予定)   作:眼鏡鏡眼

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戦闘描写書くのって、難しいですよねぇ。
書き方とかで参考になるもの知っている人って、いませんか……?







case4 襲撃(後編)

 

 

 

「ーー無線が繋がらない?」

 

『ええ、そうなのよ』

 

 六つ目の爆弾の設置を終えたジキルは、突然告げられたティアからの報告に、怪訝そうに眉根を寄せた。無線越しにティアが心配そうな声を上げる。

 

『リリィ達に何度も現状報告をするよう無線を飛ばしているんだけど……まったく応答がないのよ』

 

「……あいつらが無線を誤って壊したっていう可能性は?」

 

『……それは、あり得るわね』

 

 あの3人なら、十分にあり得る話だった。リリィはドジを踏む事が多いし、ハイドはバカだし、エルナは持ち前の不幸体質で度々トラブルに見舞われる。

 

「もしくは、鴉羽の暗殺者に襲われて窮地に陥っているか、だな」

 

 もう一つの可能性をジキルが口にする。

 実際、ジキル達が担当する北棟や、モニカ達が担当する西棟でも数回ほど、鴉羽の暗殺者の襲撃に遭っている。

 

『私もその可能性は考えたわ。だから、今サラに頼んで、動物を使ってリリィ達の確認に向かわせているわ』

 

「そうか、流石だな。対応が早くて助かる」

 

『これくらい当然よ。状況が分かり次第、報告するわ……場合によってはリリィ達のフォローに向かってもらうかもしれないから、そのつもりでいて』

 

「了解だ」

 

 そう言って、無線を切る。

 横で話を聞いていた白髪の少女、ジビアが少し心配そうに口を開く。

 

「リリィ達、大丈夫か?」

 

「分からない。一応、ハイドがいるから『指』程度の暗殺者達ならやられることは無いと思うけどな……」

 

 そう答えて、ジキルは顎を撫で、少し思案に耽る。

 

「……なぁ、ジビア。一つ、提案があるんだが……いいか?」

 

「ん?」

 

 そう言って、ジキルは口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 工場東棟3階の廊下にて。目にも止まらぬ速さで刃が宙を舞い、2人の暗殺者が殺し合っていた。一見、互角に見えるその斬り合いは、黒髪の小柄な少女、ハイドの防戦一方だった。

 ハイドが放った斬撃をすり抜けるように、鴉羽の暗殺者が放った刺突がハイドの細い首を捉える。

 

「危ないの!」

 

 しかし、金髪の少女、エルナが放った弾丸に暗殺者は舌打ちし、後方へと跳んでそれを回避する。

 ハイドも後方へとステップを踏み、暗殺者と距離を取る。

 

「助かったでござる、エルナ殿」

 

「どういたしまして、なの」

 

 2人は目の前の暗殺者から目を離す事なく、口を開く。

 細い線を綱渡りするような、危険な状況だった。現メンバーの中ではクラウスに次ぐ戦闘能力を持つハイドが前衛を張り、後方のリリィとエルナの拳銃による威嚇発砲とエルナの危険察知能力によって辛うじて保たれている戦況下だった。

 本来なら、すぐにでも助けを呼びたいところなのだが……

 

「リリィ殿、無線の調子はどうでござるか?」

 

「……ダメです。繋がりません」

 

 リリィは持っている無線機に視線を落とし、力なく首を横に振る。

 持って行く前に無線機の点検はしっかりと行っていた。それでも繋がらないというのは、何らかの方法で、敵に電波を阻害されている可能性があった。

 

「……承知。これは、ティア殿達が異変に気付いて助けに来てくれる事を祈るしかないでござるな」

 

 そう言って、ハイドは苦笑いを浮かべる。エルナは今にも泣き出しそうに顔を歪めた。

 

「諦めろ、小娘ども。お前達では私には勝てん。抵抗をやめ、さっさと首を差し出すべきだ」

 

 暗殺者が、そう告げる。ハイドはその言葉を鼻で笑った。

 

「お断りでござる……そもそも、おぬしも余裕がないのでござろう? 鴉羽の『目』ともあろう暗殺者が、その小娘相手に殺しきれずにいる。ぷぷ、恥ずかしいにも程があるでござるよ」

 

 そう言って、ハイドは暗殺者を扇動するかのような発言をする。「そんな事言って大丈夫ですかぁっ」と、リリィが戦々恐々とするが、対する暗殺者はそれを鼻で笑った。

 

「強がるなよ、小娘。体が震えているぞ?」

 

 そう指摘されて、ぐっ、とハイドが奥歯を噛み締める。見れば、ハイドの脚がふるふると震えている。その細い首を伝って、いくつも汗が流れている。

 リリィはそこではじめて、ハイドがこの暗殺者に対して恐怖を押し殺しながら闘っていた事に気付いた。

 暗殺者がすっと目を細める。

 

「所詮は小娘の戯言……だが、不愉快だ」

 

 そう言って、暗殺者は壁、天井と足を掛けてハイド達に向かって跳躍した。

 リリィとエルナが暗殺者に向かって発砲するが、それを暗殺者は空中で身を捻り、弾丸をすり抜けていく。その光景を目にして「化け物ですか!」とリリィが悲鳴を上げる。

 

「お前達の中で一番厄介なのは、お前だ」

 

「……の?」

 

 そう言って暗殺者はエルナを狙って、短刀を振るった。

 目にも止まらぬ速さの斬撃にエルナは反応できなかった。少し遅れて鮮血が舞う。

 

「ぐ……」

 

 斬られたのは、咄嗟にエルナの前に躍り出たハイドだった。

 持っていた短刀を落とし、だらりとぶら下がる右腕から血が流れる。「このぉっ!」とリリィが近距離から発砲し、暗殺者はそれを避けるようにしてハイド達から距離をとった。

 

「脇下の肉を切らせてもらった。当分、右腕は使えないだろうな」

 

 最初から、暗殺者の狙いはコレだったようだ。

 見事に罠に嵌り、ハイドが悔しそうに顔を歪める。リリィは顔を真っ青にし、エルナも敵前である事を忘れてハイドにしがみ付いた。

 

「は、ハイド! ごめんなさいなのっ、エルナを庇ったばっかりに……!」

 

「気にする必要ないでござるよ。右腕が使えなくても、まだ左腕が使えるでござる」

 

 そう言って、ハイドは落とした短刀を左手で拾い上げ、構える。

 その様子を見て、暗殺者は呆れたように口を開いた。

 

「無駄な事を、お前達は終わりだ。仲間は戦意喪失。お前は片腕が使えない……そんな状態で闘いになるはずがないだろう」

 

「それは、やってみないと分からないでござるよ!」

 

 そう言って、ハイドは駆け出し、短刀を縦横無尽に振るう。速く、的確に暗殺者の急所を狙った斬撃が繰り出される。

 しかし、

 

「全然ダメだな、先程よりも1秒ほど遅い……ほら、見ろ。簡単に首が取れる」

 

 そう言って、暗殺者はハイドの斬撃を一重に躱す。暗殺者が持つ短刀を振るい、その刃がハイドの首に触れようとした。

 リリィが悲鳴を上げて、拳銃で牽制しようとするが、間に合う距離じゃなかった。

 死んだーー。そう、ハイドが思った瞬間。ハイドと暗殺者が立つ真下の床が、突然爆発した。

 

「なーーっ!?」

 

 突然の爆発に、暗殺者が驚愕の声を上げた。暗殺者はそのまま二階、一階へと落ち、瓦礫に飲み込まれていく。

 誰が、爆弾を仕掛けたのか? 少女達が戸惑っていると、その爆発を引き起こした張本人の声が廊下に響いた。

 

「ーー何とか間に合ったみたいだな? よく耐えた、お前ら」

 

 そう言って、破壊された床下から現れたのは灰色髪の少年、ジキルだった。

 仲間の登場に、リリィとエルナが歓喜の声を上げた。

 

「ジキルくん、ナイスタイミングですっ。仲間のピンチに駆け付けるヒーローって感じで、カッコいいですよ!」

 

「そりゃ、どうも」

 

「個人的には、何かカッコいい台詞を吐きつつ、窓ガラスを蹴破って、敵を蹴り飛ばして登場! の方が好みなんですが……」

 

「いや、登場シーンにケチ付けられても困るんだけど?」

 

 大体、カッコいい台詞って何だよ、ジキルがツッコむ。

 そんなやりとりをしていると、爆風から逃れたハイドがものすごい速度でジキルに駆け寄ってきた。

 

「ちょっと、何してくれるでござるか、ジキル殿ぉ! 拙者、危うく死にかけたでござるよ!?」

 

「そんなに怒るなよ、助かったんだから別にいいだろ」

 

 ハイドが肩を怒らせてジキルに詰め寄るが、ジキルはそれを面倒くさそうにあしらった。

 

「そもそも、助けに来るのが遅いでござる! あと、助け方! 床を爆発させるとか、雑過ぎるにも程があるでござるよ! それから、それからーー」

 

 ハイドが延々と文句を垂れようとするが、それを見ていたジキルが「えい」と、ハイドの右脇下を突いた。

 

「いったぁぁぁあっ!? ちょ、ジキル殿、怪我人の傷口を突くとか人として最低ーー」

 

「ーーすまねぇな」

 

 そう言って、ジキルがポンポンとハイドの頭を撫でた。

 ハイドの動きがピタリと、止まる。

 

「お前にとって、『目』は恐怖の対象だもんな……怖かったろ。助けに来るのが遅くなって、悪かった」

 

「……別に? 拙者は平気でござるよ」

 

 ハイドがぷいっと、そっぽを向く。その時、宙を舞った雫を見て、ジキルは苦笑する。ハイドはごしごしと左腕で目を擦る。

 

「さて、と……お前達。ここは俺に任せて、工場から脱出しろ。東棟の爆弾設置は俺がやる」

 

 ジキルのそんな言葉に、リリィ達は戸惑いの声を上げた。

 

「何を言っているでござるか!? ジキル殿っ」

 

「そうですよ! ジキルくんだけ残すなんて、出来ませんよ。まだ鴉羽の暗殺者達はいるでしょうし、それにもしまだあの『目』の暗殺者が生きていたら……」

 

「心配するな、奴らのことは俺がよく知っている。やばくなったら逃げるさ」

 

「な、ならせめて拙者も一緒に」

 

「アホか、この中で一番の怪我人はお前だろうが。お前のために他2人も一緒に脱出してもらうんだよ」

 

 そう指摘されて、ハイドは悔しそうに顔を歪める。

 そんなハイドの様子に苦笑しつつ、ジキルは口を開く。

 

「分かったな? お前達は脱出。俺が東棟の爆弾設置を引き継ぐ。いいな?」

 

 ジキルの言葉にリリィとエルナは神妙に頷く。ハイドだけ納得し切れていないようだったが、渋々承知し、別れた。

 リリィ達が離れていくのを見届けると、「さて、」とジキルは床に空いた大穴に目を向ける。

 

「……行くかな」

 

 そう言って、ジキルは大穴に向かって飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1時間ほど前の事だった。

 嫌な予感がしたジキルはジビアに西棟のモニカ達と合流するように伝え、ジキルは東棟のリリィ達がいるポイントに向かった駆けていた。

 その途中で、見事に予感は的中し、ティアからリリィ達が鴉羽の『目』と接敵してる事を告げられた。

 

「ーーと、まぁ。そんな感じで悪い予感ってのは、よく当たるもんだよなぁ」

 

 東棟の一階まで降りてきたジキルが、積まれた瓦礫に向かってそんな風に口を開く。

 

「どーせ、生きてるんだろ? 出てこいよ、『目』の暗殺者」

 

 そう問いかけると、瓦礫の山がガラガラと音を立てて、崩れていく。

 その中から1人の男が現れる。黒い外套を纏ったーー『目』の暗殺者。

 

「貴様、正気か? あの小娘どもと逃げればよかったものを……なぜ私の前に現れた?」

 

 貴様は私よりも、弱いーー言外に、暗殺者はそう言っていた。

 確かにその通りだった。近接戦闘の技量において、ジキルはハイドの足下にも及ばない。そのハイドが本気でやっても勝てなかった相手だ。まともにやり合って、ジキルが単身で勝てるような相手ではなかった。

 そんな実力差を承知しつつも、ジキルは飄々と口を開いた。

 

「いや、ちょっと確認したい事があってな……この工場内に、お前以外にも『目』の暗殺者がいるんじゃないのか?」

 

 ジキルのその発言に、暗殺者の眼光が鋭くなる。

 その反応を見て、ジキルが口の端を歪める。

 

「なるほど、やっぱりもう1人いるのか……まったく、予想外にも程があるぞ? お前達、『目』は一緒に行動する事は無いはずだと思っていたんだがな?」

 

 まぁ、いいや、とジキルはナイフと拳銃を取り出し、構える。

 それを見て、暗殺者も二本の短刀を取り出して構えた。

 

「貴様達の目的は、この工場の爆破だと思っていたが……貴様の目的は、私達『目』の暗殺者だな?」

 

「まぁ、そんなところだ。ぶっちゃけ、『奈落人形』の奪取と工場の破壊は俺にとって二の次でね……スパイにあるまじき事だけど、俺は任務よりも自分の感情を優先させてもらった」

 

 そう言って、ジキルは嗤った。

 

「ーーだから、さっさと死んでくれ。鴉羽の暗殺者」

 

 ジキルがそう告げて、2人はほぼ同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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