聖なる剣を束ねる英雄〜女神アストレアに誓う、僕は僕の【正義】を貫く!〜 作:クロウド、
「フッ!」
『グギャ!』
「ふぅ、久しぶりだけどあんまり違和感はないな……これもユーリのお陰かな」
僕は燃える炎のような赤いエンブレムの付いた愛剣【火炎剣烈火】でゴブリンを斬り裂くと、体の感覚を思い出すように剣を握りなおす。やっぱり、
ただ、髪がちょっと邪魔だな……。アストレア様やアリーゼさんが手入れしてくれたって言ってたから切りづらいんだよな。僕は後ろに結んだ白い髪に触れる。
さて、と。これ以上潜ると輝夜さんから怒られるだろうし、今日はこのへんで帰ろうかな。まだ
そう考えて踵を返そうとすると、僕の耳に聞き覚えのあると遠吠えが聞こえてくる。
「ミノタウロス?なんでこんな上層にいるんだ?」
通路の奥から現れたのは僕の倍くらいの大きさの体を持つ牛人のモンスター、ミノタウロス。本来なら十五階層くらいにいるはずのモンスターがここにいることに疑問を持つ。
『ヴヴォオオオオオオオオオオオ!!』
ミノタウロスは僕を標的として見定めたのか、拳を振り上げてくる。流石に
『ヴヴォッ!?』
僕はその拳を火炎剣で正面から受け止めた。一歩も下がることなくそれを受け止めた僕にミノタウロスが驚愕の声を挙げる。正面から受けたから衝撃が体を突き抜けるが師匠の【大断断】に比べればどうということはない。
「【我が手に来たれ―――】」
【土豪剣激土!】
僕は詠唱を口ずさみ左手に灰色の巨大な大剣を召喚しそれをミノタウロスの胴体めがけて真一文字に振り抜く。
「シッ……!」
ブォンという巨大な剣が空を斬る凄まじい音とともにミノタウロスの体は上下に真っ二つに避け上半身はそのまま後ろに吹き飛び、下半身はこちらに倒れてきたので血がつかないように後ろに避ける。
「やっぱり土豪剣は重いな……。」
僕は大剣【土豪剣激土】を肩に担ぎ、体の感覚を思い出す。
その時、僕の頬をダンジョンの奥から流れてきた風が撫でる。そして、僕はこの風に覚えがある。師匠のような荒々しい風でもなく、リューさんのような静かな風とも違うこの風の感じはもしかして……。
視線を風を感じる方向に転じるとそこには僕を見て固まっている金髪の女性が立っていた。鎧を纏っている姿は昔とは違っていたが、この懐かしい風とあの綺麗な金色の髪を見間違うはずはない。
「えっと、お久しぶりです……アイズ、さん?」
「ベル、なの……?」
「はい、ベル・クラネルです」
僕が若干言いよどみながら挨拶をするとアイズさんは面を喰らったような表情になると、目尻に涙を浮かべ、そして、次の瞬間僕の体に軽い衝撃が走る。
―――どうやら、それは彼女に抱きつかれたということに脳が理解するのに一瞬の間が必要だった。
「えっ、えぇぇ!アイズさんッ!!?」
「良かった……本当に、良かった……!」
アイズさんは僕の頭と腰をしっかり掴んで抱きしめてくる。ど、どうしよう、逃げられない!?そういえばアイズさんってLv.5になったって
いくらこうして話すのが
「おい、アイズ!!クソ牛はどうし……って何してんだお前ッ!?」
「あ、ベートさん……。」
しかし、それは唐突に終わりを告げた。アイズさんと同じ方向からやってきた灰色髪の狼人が僕たちの姿を見せ怒声を上げる。その声に反応してアイズさんはホールドを解除する。アイズさんは少しムッとして振り返るだけだが、僕はあの姿を見られたと気づいてボフンと顔が熱くなる。
「じゃ、じゃあ、アイズさん……僕はこれでぇぇぇぇぇ!!!」
アイズさんの手が離れたすきに僕は二人が来たのとは反対方向へと駆け出す。ダッシュで!
「あっ、ベルッ!」
「テメッ!待ちやがれッ!」
「失礼しましたぁぁぁぁぁぁ!!!」
二人が呼び止めようとする声が聞こえるがそれを無視して僕はひたすらに走る。火炎剣と土豪剣を消すのも忘れて。
―――アイズさんこの五年で色々凄くなってたな……。
生暖かい目で見守っていただきたい