聖なる剣を束ねる英雄〜女神アストレアに誓う、僕は僕の【正義】を貫く!〜 作:クロウド、
「それで、貴女は諦めたのか……?」
「なに?」
幼き炎の剣士はかつての英雄【静寂】のアルフィアの言葉に瀕死の身体にムチを打ちながらそう答えた。
「黒竜の力に絶望して、全てを今の冒険者に押し付けて、自分達は諦めて逃げるのかって聞いてるんだよ!!」
少年は決して倒れないように火炎剣を杖のようにして持ち、絶対に倒れないという意志のこもった瞳をアルフィアに向ける。
【アストレア・ファミリア】や他の面々は絶対的な力の差を見せつけられてなお決して折れないベルを唖然として見つめる。
「……確かに人は絶望する、だけど、そのたびに立ち上がる強さが人にはある」
「そんなものはただの詭弁だ。黒竜の力を知らない子供の戯言だ」
師の言葉を借りたベルの主張はアルフィアの一言で切り捨てられる。まるで彼女が嫌う雑音だと言い切るように。しかし、ベルはなおも食ってかかる。
「違う!僕は確かに見てきた、人間の強さを!貴女はそれを見ようとせずに勝手に諦めて、自分の運命に、未来に立ち向かわずにただずっと逃げていただけだ!」
彼の胸には彼が憧れ、慕う十人の剣士の姿があった。
ーーー炎の剣士はすべてを救うため。
ーーー水の剣士は家族を守るため。
ーーー雷の剣士は友を守るため。
ーーー土の剣士は未来を担う子供達のため。
ーーー風の剣士は正義をなすための強さのため。
ーーー音の剣士は一族の伝承を信じ見届けるため。
ーーー闇の剣士は大切な息子の未来を守るため。
ーーー光の剣士は世界を形作る人を守るため。
ーーー煙と時の剣士は世界を守る剣士の誇りを守るため。
彼らは聖剣を振るい巨悪を打ち破った、千年の絶望に囚われていた【不死身の剣士】の心すらも救ってみせた。
その背を見せられてこの程度の絶望で諦めるなど、彼にできようはずがあるだろうか?
いや、ないッ!!
「黙れッ、そんなものは黒竜がもたらす絶望の前にはなんの意味も持たない。私の言葉を否定したいのであれば力を示せ、黒竜すらも打ち倒す力を!」
アルフィアの言葉に徐々に感情がこもり始めた。
「だったら……僕が、僕達が!貴女達が望んだ未来の、その先を創ってみせる!」
そう言って小さな炎の剣士が火炎剣を構えると、火炎剣の刀身と彼の胸がひかり、そこから二体の竜が空に飛び立ち彼の掌で二冊のライドブックとなる。
【エレメンタルドラゴン!】
【プリミティブドラゴン!】
「これは……!」
少年がその光景に驚愕しているとその視界が切り替わる。
見覚えのあるその場所は嘗て暴走したときに彼の意識が迷い込んだ空間。そして、そこにいたのは二人の人物。
「師匠、それに、君は……。」
一人は彼が誰よりも憧れる師匠の一人、そしてもう一人は、本の化身たる太古の竜がベルと同じ年頃の少年の見た目となった姿。
「力を、貸してくれるんですか?」
ベルが二人にそう尋ねると彼らは笑顔を浮かべ頷き返す。その表情はまるで戦いに行く我が子を見守る親のようで、あるいは大切な友へ向けるものにも見えた。
そして、視界が元に戻り再び彼の目の前には義母が立ちふさがる。ベルは彼女を真っ直ぐと見据えて赤いライドブックのページを開く。
【そして、太古の力と手を結びすべてを救う神獣となる……。】
荘厳なライドスペルが鳴り響き、その力を開放する。
【プリミティブドラゴン!】
【エレメンタルドラゴン!】【ゲット!】
続いてもう片方のライドブックを展開し、忘却の果に失われてしまった伝承の空域【ゲットシェルフ】に彼の師が新たに綴った物語の続編たる【エレメンタルドラゴンワンダーライドブック】をセットする。
一つとなったライドブックを頭上に構え、そのまま勢いよく振り下ろしソードライバーに装填する。
「女神アストレアに誓う……僕は僕の、正義を貫く!!」
誓いの言葉を口にし、火炎剣烈火を抜刀する。
【烈火抜刀!】
背後に合体したライドブックが降りてきて、いつものセイバーとは違い炎の十字を描くのではなく、炎を纏う刃を両手で地面に突き刺すように持つ。
「ウオォォォ!!変身ッ!!!ハァッ!」
【バキボキボーン!メラメラバーン!シェイクハンズ!エレメンタルドラゴン!】
【エレメントマシマシ!キズナカタメ!】
右手に持ち直した烈火を振り抜くとライドブックが開き、ニ体の竜がその姿を現す。
ーーー太古の力を秘めた禁忌の骨竜【プリミティブドラゴン】。
ーーー超自然の力を司る炎の元素竜【エレメンタルドラゴン】。
二体の竜はベルの周囲を飛び交い、やがて互いの手を握りその力がベルに宿り、彼を新たなるセイバーへと変身させた。
両手両足の先は青い骨竜の力を、それ以外は赤とオレンジの炎を模した元素竜の力を宿し、その両肩から胸部にかけて固く握られた竜の手。
その名を【仮面ライダーセイバー・エレメンタルプリミティブドラゴン】。
「あの力を御しきったのか……?」
「ベル、やったのね……!」
アルフィアと【アストレア・ファミリア】はあの荒れ狂う骨竜の力を使いながら、暴走した様子のないセイバーに驚愕する。
「違うよ。御したんじゃない、力を合わせたんだ。僕は……この力で、全てを救う!!」
セイバーは静かな口調で答えながら剣を構える。
「いいだろう、かかってこい。炎の剣士!」
「いくぞ、【静寂】のアルフィア!」
そこから繰り広げられるのは正しく英雄の戦い。
目まぐるしく行われる攻防、戦うたびに衰えることなく、いや、それどころかさらに早くなっていく剣速。そして、強くなる想い。
「【福音】!」
彼女の魔法をセイバーが風と水の力で無効化し、火炎剣を振るうと彼女はそれを間一髪で交わし手刀を見舞う。
【エレメンタルドラゴン!】
だが、その攻撃がセイバーの命を刈り取ることはなく元素竜【エレメンタルドラゴン】の力によってその姿は炎となってあたりに飛び散り再びセイバーの姿へと戻る。
「ちっ!またか……!」
その能力に忌々しげに舌打ちを吐くアルフィア。
「す、凄い……。」
「あの暴走した力を完璧に制御している……。」
「あれが本来のプリミティブドラゴンの力」
【アストレア・ファミリア】の面々、アリーゼ、輝夜、リューはその力に驚愕し、目を見開いてその光景を見ていた。
「それにしてもあいつ、一体何があったんだ?この間と別人じゃねぇか」
ライラの言うとおり、以前の家族と敵として対峙したショックで自分を見失っていた彼とは明らかに違う。
「魔王様に背中押されたって言ってたわよ」
「団長、その魔王というのは誰だ?」
「知らないわ!」
「「なんで胸を張るんだ、馬鹿団長!?」」
目の前で行われている激闘を脇目にコントじみたことをする正義の眷属達。
「ベル一人にあそこまで頑張らせて、お姉ちゃんがこんなところで寝てるわけには行かないわよね!」
「ああ、そうだな」
「勿論です!」
彼の正義の剣士に掻き立てられ、自ら立ち上がり神獣の触手へと立ち向かう。
そんな会話の中、セイバーが振り下ろした剣を避け手首を掴みアルフィアはセイバーに肉薄する。
「なぜ、お前なんだ……。」
「?」
アルフィアが再び手刀振り下ろす瞬間、耳に響いた愛しい声にセイバーは一瞬疑問符を浮かべるが再びその身を水の元素に変えて回避する。
「なぜ最後に私達の前に立ちふさがる英雄がお前なんだ……ベル!!」
「……お義母さん」
あの戦い以来初めて彼女を母と呼んだ。かつて村で一緒に暮らした恐ろしくも優しい母の姿をセイバーは、ベルは見た。
「……僕だって絶望した」
「なに?」
「何度も、何度も何度も絶望の未来を見た。だけど、そのたびに皆に支えられた。未来への希望を見た!なにより、」
仮面の下で顔をほころばせ愛しい家族へと笑顔を向ける。
「貴女達を救いたい、その想いが僕をここまで強くした!!」
ベルの思いに呼応し、炎の聖剣【火炎剣烈火】は強い輝きを放つ、それはかつての神山飛羽真にも負けない輝きだった。
「想いの強さが力になるんだ!」
【必殺読破マシマシ!】
火炎剣をソードライバーに納刀し、ライドブックのページをタップすると、エネルギーの増幅音が鳴り響く。この戦いを終えるための必殺の一撃を放つために。
しかし、本来鳴り響くはずの刺々しい音は流れず流れるのはゴォン!ゴォン!という鐘の音。その音は少しずつ音を高めていく。
「【祝福の禍根、生誕の呪い。半身喰らいし我が身の原罪】」
そして、その鐘の音に答えるようにアルフィアは詠唱を始める。向こうが鐘の音ならそれは正しく歌の音。
「【禊はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪】」
これより放たれるのはこれまでの短文詠唱とは比べ物にならない極大魔法。
「【神々の喇叭、精霊の竪琴。光の旋律、すなわち罪過の烙印】」
凄まじい魔力を放つアルフィア。彼女の戦闘技術なら並列詠唱など簡単、寧ろセイバーが剣を収めた時点で勝敗はついていた。
「【箱庭に愛されし我が運命よ――砕け散れ。私は貴様を憎んでいる】!」
だが、彼女には……それができなかった。
見違えるほどに強くなった愛しい息子に最後にできる自分なりの手向けを与えたかった。
「【代償はここに。罪の証をもって万物を滅す】」
そして、ついに時は訪れる。
「【哭け、聖鐘楼】!」
【烈火抜刀!】
詠唱は終わりを告げる、これより放たれるはかつて海の覇王、リヴァイアサンすらも打ち倒す咆哮。
そして、それに合わせて聖剣をドライバーから抜刀する。彼の刃には炎、水、風、土の四大元素の力が宿っている。
「【ジェノス・アンジェラス】!」
「物語の結末は、僕が決める……!!」
【エレメンタル合冊斬り!】
「【森羅万象斬】!!はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
優しい母の声から放たれる滅界の咆哮、そして、太古と元素竜の力を合わせた必殺の斬撃が衝突する。
階層全体を震わせる二つの力の衝突。そして、視界を埋め尽くす極光。
「うっ、うぐぅぅぅぅぅ!!!」
拮抗していた力はやがてセイバーを押し始める。苦悶の声を漏らしながら必死に立ち向かう。そして、師から託され、魔法の詠唱となったあの言葉を口にする。
「【覚悟を超えた先にーーー希望はある】!!」
その詠唱で【火炎剣烈火】の刀身の輝きは最大に達し、その力を開放した。
ーーー大鐘楼の音が彼女の咆哮を相殺した。
「「くっ……!」」
互いに最大の力を放ち膝をつく二人の戦士、セイバーのソードローブはパラパラと解除され、アルフィアも倒れる。
「ごふっ……!」
しかも、アルフィアは咳き込み口から血を流す。彼女の体を蝕む病魔が彼女が戦う力がなくなるのと同時に活性化したのだ。
「はぁ……はぁ……。」
ベルは火炎剣を片手に持ちながらアルフィアに近づく。
「お義……母さん……。」
「私に、そう呼ばれる資格はもう、ないだろう?」
「ッ!」
辛そうに苦しそうにそう答えるアルフィアの目の前に火炎剣を付きたて、そのまま彼女を強く抱きしめる。
「そんなこと言わないでよ……。」
「……ベル、お前は私にとって唯一の希望だった……メーテリアを失った私にとっての唯一の」
アルフィアは完全に砕けてしまった『絶対悪』の仮面を剥がし、愛しい息子の顔を撫でる。
「本当に強くなった……。」
「……ユーリ」
「ああ、任せろ」
ベルが倒れていたユーリに声をかけると、光の剣の力でアルフィアに治癒の光を放つ。
「やめろ。そいつの力がどれほどのものかは知らないが、もう手遅れだ……。」
「お義母さん、僕いったよね?『想いの強さが力になるんだ』って」
ベルは自ら突き刺した火炎剣を抜き、今も戦う仲間達の背中を見る。
「見てて、僕の戦いを……そして、想ってほしいこの先を見届けたい、と。」
【烈火抜刀!】
【ブレイブドラゴン!】
再びセイバーに変身したベルは最後の戦いに見を投じた。
今回のエレメンタルドラゴンは特別、飛羽真とプリミティブが力を貸したお陰で使えたものです。