オリオペ短編集   作:神仙神楽

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独自設定、独自解釈あります。

【個人経歴】
エリートオペレーター。
対怪物・対兵器等「ロドスが本来管轄しえない感染者戦以外の作戦」を含む全単独戦闘にのみ適応している。



海咲きの勿忘草(スカジ)

 ケルシー先生からの診察を終え、ぼんやりと壁を見る。

 歪んで3層に生えた爪と地面に着くまで伸びきった髪。ケルシー先生曰く"アーツの暴走*1で鉱石病が進行し続けているから仕方ない"とのこと。

 

 …もう一度、我の制御下に存在しないアーツの特性を反芻する。

 

 我が鋭利化、ケルシー先生が刃化と呼ぶそれは有効範囲が[接触した物質から半径1m付近]となる。これはあくまで[平時]であり、一度感情に任せて暴発した時は目も当てられない事となった。

 効能は「範囲内に存在する無機物/源石の鋭角を刃とし、切れ味を向上させる」「前述した対象を()()()()()()に変質させる」といういたってシンプルな物。後者の性質のお蔭で体力が少なくとも物理的な強度が高くなっている。

 切れ味の向上においては引き摺った髪の毛1本1本が地面に突き刺さり抉る程度。鉄であれば火花を上げながら不快な金属音と鉄の灼ける匂いが漂った程。最大の特徴として[アーツを付与された無機物/源石は他のアーツからの干渉を受けない]事。

 これについてはメリット/デメリットが大きい。先ずはメリットとして「術師の攻撃を無効化できる」事。但しアーツそのものをエネルギー体としてぶつける場合のみであり、アーツの福産的効果*2は無効化できない。

 そしてデメリットは「治療オペレーターの回復を受けられない」事。一般的な治療であれば受ける事ができるが、アーツによる治療は無効化の対象となってしまう。

 

 この性質が髪と爪に付与されるという事は、身だしなみですら結構大変で。だからこそ

 

「こんばんは、カーナ。えらく伸びたわね…」

 

「こんばんは。早速ですまないが、頼んでもいいか?」

 

―――それをぶつ切りに出来る程の武器と怪力を持つ女性、スカジを頼っていた。

 

「えぇ。前と同じぐらいの長さね?」

 

 頷き、髪の毛を剣で斬りやすいように横になる。直後、複数の鉄糸を斬ったような音。床には新しく1本の跡が刻まれるが―――今に始まった事ではない。

 

「…次は反対側ね」

 

 頷き、反対に向く。再度響く音。

 

「助かった」

 

「また()()と戦う時に返してくれればいいわ。貴方なら私の傍で戦えるから、ね」

 

「その時は必ず」

 

 …何か他用でもあるのだろうか?普段ならこれで彼女は宿舎に帰るのだが…首を傾げながらも、彼女と目を合わせ続ける。

 

 普段被っている黒のハットは着けておらず、薄暗いランタンの中でも輝く白髪。ローズマリーと比べると健康的な白い肌と、垂れ目の内にある火の灯に近い赤い瞳。整った顔立ちは、口調に反して幼く可愛らしいと思う。

 

 暫くすると白い肌が赤みを帯び、小さくそっぽを向かれた。

 

「…その、見つめられると…恥ずかしい、のだけど…」

 

「すまない。普段はこれで別れていた故、残っているのが不思議でな。他に何かあるのか?」

 

「…そう言えばそうね…今日は此処間借りするからよろしくね」

 

 …その時我は間抜けな顔をしたと思う。彼女が面白そうに、笑っていたから。

 


 

 寝転がったまま珍しい表情をした彼―――カーナとは、2年ほど前から付き合いがある。私と同じように、自身のせいで傷つく事を恐れている彼とは恐ろしいほどに波長が合った。

 

「…初めて聞いたんだが」

 

「そうね、初めて言ったもの」

 

 とはいう物の、これには事情がある。

 

「単独任務が予定より早く終わったのだけど、それが災いして宿舎が空いてなかったのよ。だから間借りしようと思ったのだけど…」

 

 彼の反応はあまり芳しくない。

 

「…一つの屋根の下というのはな。少しばかり、気恥ずかしい」

 

「あら、そう?」

 

 初めて知った。ロスモンティスと一緒に居る様子からは思えない言葉に小さく目を見開く。

 

「事実、初めてだしな。だが、スカジなら問題はないか」

 

「…それはどういう意味かしら?」

 

「スカジが我を傍に置いて戦えるというように、我もスカジであれば安心できる。我のアーツの暴走を気にせず傍にいてくれる、唯一のオペレーター故」

 

 …何処か、落ち着いたような口調の彼の言葉に小さく歯噛みする。…2年しかたってない、なんて私は思えない。2年()経ったというのに未だ、私がいない時は彼独りだけが前に出て戦っている。部外者である私でさえ隊に所属しているにも拘らず、だ。

 

「カーナは…逃げたいと思わないの?」

 

「思ったところで、逃げる先が無い。此処が初めで、最後。―――駄目だったら。誰かを傷つけて、悲しませる位なら―――」

 

「カーナッ」

 

 それ以上、言わせない。

 

 小さくカーナへ声を荒げると、「…すまない、忘れてくれ」と呟かれた。

 

 彼と私は自身のせいで傷つく事を恐れている。

 

 けれど、優先するものが違った。

 私が優先するのは、あくまで私自身。私に降りかかるべき厄災が大切な誰かを巻き込み、奪われる事を恐れた。だから、私は大切な人を作らない為に逃げた。大切な人を巻き込まない為に、距離を取った。

 彼が優先するのは―――大切な人。大切な人の為なら、彼は捨てるのだろうとあっさり瞬きした瞼の裏に浮かんだ。

 

「…間借りする、という事は寝る場所が必要だな…なら、ベッドを使ってくれ」

 

 話を変えるように、彼がベッドを指し示す。一度も使われていないベッドは、誰かが掃除しているのか埃をかぶった様子が無い。―――彼が使えば、1日で寝具が駄目になる。その代わりに傷だらけの壁が寝具の反対側に存在している事から、普段寝ている場所がそこなのだろう。立ち上がり、向かおうとする彼よりも先にその隣を陣取ると、困惑したようにカーナがつぶやいた。

 

「…何故自ら寝心地の悪い所に?」

 

「…それは私の勝手よ。それとも、安心できないのかしら?」

 

 溜息。

 そのまま何時もの場所へ背を預け―――寝息が聞こえた。

 

「…おやすみ、カーナ」

*1
アーツの制御ができない症状。アーツを限界以上に駆使し続け、鉱石病のステージが非常に速く上がり死に至る。本来なら此処まで源石を含有していると死亡しているらしい。

*2
アーツの炎で倒壊してくる瓦礫等




【健康診断】
造影検査の結果、臓器の輪郭は明瞭で異常陰影も認められない。循環器系源石顆粒検査においても、同じく鉱石病の兆候は認められない。
然し髪の毛、爪から源石の成分と同様の物が判別されることから、鉱石病感染者と判定。

【源石融合率】--%
髪の毛や爪においてはほぼ完全に源石化している。
その証拠に暴走したアーツに反応する形で髪の毛と爪はひと月で惨事と呼べる状態となる。爪においては痛みも明確に感じるらしい。

【血液中源石密度】0u/L
ふざけている!
テラにおいて源石に触れあわない等という事はない!
だというのに血液中に源石が()()()()()()()ときた!
ケルシー先生、これは器材の故障です!

言いたい気持ちはわかる。
だが10回やって全て同じ結果なんだ、認めるしかないだろう?

―――一般職員とケルシーの会話

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