俺が磨くとポリゴンが喜ぶ。磨けば磨くほど手掛けた面が光る。目指せ鏡面ボディ。コンパウンドを使ってみたら、もっと艶が出るかもしれない。
打ったら響くではないが磨いたら結果に繋がるのだから凝り性でなくとも没頭してしまうのは無理もない。
ポリゴンはとても気持ちよさそうにしている。
一方で俺は悪戦苦闘している。
「お前なあ…何したらこうなるんだよ?」
ポリゴンの背中がやたらベチャベチャしているのだ。推察だと、俺が映画に集中している間に物珍しさから台所で悪戯でもしたんだろうと睨んでいる。付着した液体からは変な臭いがするから…多分そうだろう。悪戯の対象が洗剤の線こそ消えたが完全にギルティである。
愛玩用ポケモンのしつけは、現行犯の現場を押さえて「いけない」と叱るのが一般的である。そう考えるとポリゴンの悪戯は既に時効として扱わなければならないだろう。次回、悪戯を発見した時にはしっかり注意をしなければいけない。
電気技を心配して風呂を避けてしまったが、洗っても平気なのだろうか。
人気のピカチュウやピッピ、トレーナー初心者に御用達の御三家達なんかは飼い方の本が山のように出ている。そして、名前を挙げたポケモン達はポケファインダーやポケッターといったSNSでバズっている写真をよく見る。つまりは飼育している分母の数が大きいのだ。
しかし、人工ポケモンともなると飼い方の紹介や本が極端に少ないのはヤマブキへの帰り道にスマホで確認済みだ。
ブリーダーが載せたものは皆無で、企業がデータの巡回で使用するポリゴンを何体所持していると備品として紹介するページが目立った。また、父の勤めるシルフカンパニーのポリゴンの販促ページの中に企業に向けての機能紹介やお手入れの仕方。バージョンアップとして、『バーチャルポケモン ポリゴン、アップグレードのお知らせ-ポリゴン2のご紹介-』が載っている。
センセーショナルな取り上げられ方をしていたのは、古い雑誌ページのPDFファイルでポケモンカメラマンのトオルなる人物が激写した写真だ。斜めに煽り文が付いて「不法投棄の末の野生化。自然適応してしまったポリゴン!」なるタイトルで、緑豊かな自然の中で呑気にテクスチャーをしているポリゴンの写真が画像サーチに引っかかる程度であった。
何とも世知辛い検索結果である。野生化してしまったと聞くとそんなに飼いにくいポケモンなのだろうかと衝動的に連れ帰ってしまった事が少し心配になる。今のところ、俺はこのポリゴンに不満はない。
「よし、綺麗になったぞ」
「クエ」
「ポリゴンただいまー!」
弟が素っ裸で戻ってきた。そしてそのまま綺麗にしたばかりのポリゴンに引っ付いて頬の肉が変形するほど頬ずりを繰り返している。風呂場から母の声がする。体は拭いたから弟にパジャマ着せて欲しいとの事で、仕上げはお兄ちゃん任せである。
「コラ、ぶらつかせてんじゃねぇよ。パジャマの時間だ」
「えー!!」
お兄ちゃんを遂行するしかない。そして、早く寝かしつけよう。
レポートもまとめないといけない。呑気に映画を見ている場合でもスロットで遊んでいる場合でもなかったのだ。
「弟を連れてきてくれるか?」
ポリゴンにそう声を掛けると背中に絡みつく弟を気遣いながら、ふよふよと浮かんだ。俺が先導する直ぐ後ろで名前を呼んだり甘えたような声でキャッキャと楽しげな黄色い声が聞こえてくる。
ご満足いただけたようで何よりである。