トレーナーじゃない学生の話   作:白玉善哉

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レポート

 

キッチンのすぐ隣の部屋が母と弟が一緒に寝ている部屋だ。ドアフレームで詰まりそうなポリゴンを部屋の外で待たせ、弟の着替えを手伝う。

 

 

「パンツ、どれ履くよ?」

「きょうはリザードン!」

「いや、今日もだろ」

 

 

リザードンパンツとフシギバナパンツのどちらを履きたいか弟に選ばせる。俺が勝手に他のを選ぶと弟のやる気がどうにもダウンするのだ。

 

弟のタンスにはリザードン柄の下着や着替えが沢山詰まっている。ヘビロテのリザードン柄はともかくフシギバナやカメックス、ピカチュウパンツの出動率が悪い。お陰でリザードン以外はパッと見は新品と同じだ。

 

最近、衛生放送ではガラル地方の中継が特集されている。弟はチャンピオンのダンデが登場した試合を見てから、とにかくリザードンがお気に入りなのだ。そのため、チャンピオンがバトルの度に披露するリザードンポーズを弟が覚えて──ダンデが登場しようがしていなかろうが──とにかく俺や母親を観客に見立てて披露しまくる日々が続いている。お陰様でチャンピオンはリザードン使い程度の知識しかないのに俺までポーズを覚えてしまった。

 

パンツのターンが終了すると、怪獣マニアで有名なデザイナーが監修したお気に入りの着ぐるみパジャマを着せてベッドで寝かしつける。今日は絵本の読み聞かせや、催眠術なしでも弟はグッスリ眠りに落ちていった。

 

俺が帰ってきてからも随分とテンションが高かったし、きっと日中から昼寝もしないでずっとポケモンが来るのを待っていたのだろう。電気を消して、寝息の聞こえる部屋を後にする。自分の部屋に戻る途中、風呂場では母親が髪にドライヤーを掛けているらしくモーター音がした。扉を軽くノックし声を掛ける。

 

 

「弟寝かせたし、俺は部屋でレポートやってるから」

「了解。じゃあ、お母さんは髪乾かしたら弟と一緒に寝ちゃうけど…夜更かしは体壊すから駄目よ?」

「分かった。それじゃ、お休み」

 

 

 ※ ※ ※

 

さて、3LDKの我が家は4人で住むには手狭である。父は薄給ではない筈だが、学生時代の奨学金の支払いで我が家は金がないとぼやいてる。どうやら苦学生だったらしい。今は夢のマイホームに向けて倹約を心掛けているそうだ。

 

父の単身赴任で空いた部屋が今は俺の部屋となっている。とは言え、子供の頃から見慣れた父のコレクションやポスターに混じって、俺の好きなバンド、ホミカ率いる『ドガース』やシンガーソングライターで絶大な人気を誇るネズのポスターが貼られて統一感の無い部屋になっている。

 

部屋は、昨晩から付けっぱなしのパソコンの画面はぼんやりと青白く光っている。ほんのりと家具の輪郭を映し出している部屋を摺り足で進み腰を掛ける。

 

明日の提出は、ウツギ博士の講義で出された一件だけだ。

テーマは【今日の講義の感想と、捨てポケモンの抑止策についての提案か政令都市での捨てポケモンを減らす取り組み、施策について調べる】だったな。

 

ウツギ博士はジョウトのタマゴ研究の一任者だ。最近は育て屋と野良ポケモンが与える環境変化についての研究を行っているそうで、ホウエンのオダマキ博士と共同研究でフィールドリサーチを行っており、頻繁にカントーへと足を運んでいるのだ。俺の学校への講義は、後進の育成のためにと快く引き受けてくれたらしい。

 

ハナダに行く道すがらにある育て屋付近の草むらでは俺が幼い頃には見なかったポケモンを見るようになった辺り、影響は随分と出ているんじゃないだろうか。講義で取り上げられていたカロス地方では、野生のポケモンがトレーナー産の高個体のポケモンの台頭により生活を脅かされていると前回の講義で取り上げていた。傷付いた野生のホルビーの兄弟が怪我をした患部を寄り添って舐め合う姿や人を怯えた目で睨み付けるリオルが八卦掌のポーズで威嚇するスライドは随分と堪えるものがあった。

 

 

「さて、どうするかね…。感想はともかく色々と調べないとだな」

 

 

コンコン

 

 

ポリゴンが部屋の外から控えめに扉をつつく。さっき俺が着替えの時に待たせた事や、風呂場の戸をノックしていたのを見て学習したらしかった。

 

 

「邪魔しないなら入って良いけど…入れるか?」

「クエ」

 

 

体を浮かせ体を傾けたりしながら大分気を遣って部屋の中に入ってくる。少し発光しているポリゴンを微笑ましく見ていると、急に良いアイディアが沸いてきた。

 

 

「なぁ、ポリゴン。ちょっとだけ手伝ってくれるか?」

「クエ!」

 

 

上手くいけば、睡眠時間が大幅に確保出来る筈である。

ポリゴンには是非とも頑張って貰いたい。

 

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