トレーナーじゃない学生の話   作:白玉善哉

14 / 23
アクアジェットさん

 

俺はウツギ博士の講義を休んだ。

 

と、言うより学校に行けなかったのだ。朝方にトイレに行くため起きた母親に俺は発見されレスキューに通報され、近所の個人病院に搬送されたのだ。弟は俺の失神騒ぎで母親が園に送りに行けず、今日は家でポリゴンと留守番をしている。

 

大袈裟だと思うのだが、開かぬ扉と呼び掛けへの返事がなかった事から慌ててしまったらしい。扉をこじ開けてみれば、息子が泡を吹いて気絶をしていた。動揺からの即通報も無理もないと納得である。

 

原因に心当たりがあるか、と医者に問われたが、ウォシュレットがアクアジェットで死にましたとは言える訳もない。噂好きな病院で食事を作るおばちゃんや美人なナース達に裏で『アクアジェットさん』と呼ばれたり、ネタの十八番として取り扱われるのだろう。心が死んでしまう。だって、俺ならウォシュレットで入院したと聞いたら笑ってしまう。自分の名誉を守るため──

 

 

「俺は…多分、疲れていたんだと思います」

 

 

──と、ドクターを始めとしたスタッフ達に告げた。カルテに書かれた診断は過労となった。

 

嘘をついてはいけない。これは世の中の真理である。今までコツコツと積み上げた信用を無くしてしまうからだ。

 

しかし、時に優しい嘘は人を救うこともあるのだ。

 

 

※ ※ ※

 

 

大事をとって、精密検査をしつつ経過を見る事を条件に明後日の退院となった。

ドクターは、人が居ないのを見計らって医療従事ポケモンのラッキーと共に俺に会いにきた。

 

 

「意識を失った原因は本当は違うんだろう?」

 

 

レスキュー隊から、尻の産毛が焦げていた事と臀部に雷撃痕があったと報告があった事やナース達を気にする素振りから本当の事を言い出せなかったのだろうと推測して、俺のカルテを手に問診のやり直しに来たと説明した。

 

ぶっちゃけ、そこまで分かっているなら看護師をどうにかしてくれと思う。

 

…気の弱そうな顔のドクターは、少し草臥れて見えて年齢不詳だ。だが、きっと尻に敷かれるタイプなのだろう。肉食か草食かと聞かれればポニータに食われる草タイプに見えて仕方がないのだ。物腰の穏やかさが少しだけウツギ博士に似てるような気がしなくもない。

 

 

「ウォシュレットを使っていたら、勢いが物凄く強くて…気付いたら病院のベッドに居たんです」

「…そうか、ウォシュレットか」

 

 

カリカリと音を立てて記入される。きっと、カロスの近くの芋とビールとヴルストでプロージットな地方の言語なのだろう。

他にも幾つかの質問をされた後、電気ショックによる感電と気絶だろうと診断された。

 

最近、ヤマブキシティでは電化製品による負傷事故が急増しているそうだ。

 

冷蔵庫に凍える風を打たれて凍傷になった人、炊飯器がオーバーヒートを起こし火傷をした人、急に倒れてきた自販機の下敷きになった人などだ。新しく尻にアクアジェットで気絶。改め、ウォシュレットで感電した俺が仲間に加わったのである。

 

 

そして、問題はウツギ博士の授業だ。

流石にこんな状態なので欠席だけは見逃して貰えるだろうが、板書メモが無いと流石にテストが辛い。ウツギ博士はオリエンテーションで「僕のテストは持ち込み式だから、授業の聞き逃しが無ければ落とす事はないよ」と笑顔で言っていたのだ。

 

ちなみに、博士の授業をハカセは取っていない…と、言うよりも取れなかったそうだ。有名な研究者の授業である。公開講座でもないのに聴講希望者が他の学科からも殺到し、抽選で受講者を決めた授業だったのだ。

 

取り敢えず、博士に連絡をしてからハカセにも連絡をしようと思う。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。